【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第114回「ミステリー舞台の難しさ」
感染拡大防止と経済回復の両立の難しさを実感するこの秋。皆様いかがお過ごしでしょうか。舞台人としては演劇公演が行えることはとても嬉しいのですが、可能な限りの対策は最大限に取っていても、だからといって完全とはいえません。それは日常でも同じです。皆様におかれましてもどうぞお気を付けて日々の生活をお送り下さいませ。
そんな私は現在、この12月に上演される「オリエント急行殺人事件」の稽古終盤です。言わずと知れたアガサ・クリスティの名作ミステリーの舞台版です。実は昨年も上演されておりまして、キャストをほぼ刷新しての再演となります。
アガサ・クリスティといえば、昨年私も参加致しました「+GOLDFISH」はアガサ・クリスティの謎の失踪事件をモチーフとした、クリスティ風の謎解きも含まれた作品でした。ていうか、主役が実はクリスティだったという話です。二年続けてクリスティに関係した作品に出演しているワケですね。
これまで、あまりクリスティ作品に触れてこなかった私ですが、この二年で何作も読むことになりました。いやあ、やっぱり面白いですね。プロットの面白さももちろんですが、人気の秘密はその読みやすさにあるのではないかと思います。長い作品が多いのですが、スルスルと読めてしまいます。
知ってしまえばシンプルなトリックなのに、複雑な人間模様と緻密な描写、そこに描かれる人間ドラマなど、読み物としての面白さがあるからこその人気なのだと思います。
さて、そのような面白いミステリーを舞台でやる場合、様々な制約が発生します。舞台だけでなく映画やドラマでも同様だと思うのですが、ミステリーに不可欠な「謎解き」とか「伏線」などを効果的に見せるのが難しいのですね。
そこここに散りばめられる謎解きや伏線が分かり難すぎてもダメだし、かといってバレバレなのはもっとダメです。その塩梅が難しいんですよね。
小説ならば事細かに言葉で説明できますし、叙述トリックも含めていくつもの仕掛け方があります。映像作品でも思わせぶりなアップとかイメージシーンなどで仕掛けることが出来ます。そもそもちょっと戻って読み直したり見直したりも出来ますし。
しかし、ミステリー舞台の場合、見返すコトは出来ませんから一回でお客様を満足させなければなりません。演出家が頭を悩ませるところです。しかも細かなニュアンスは役者の演技に委ねられるコトになりますから、これがまた難しい。誰が犯人なのか、動機は何か、トリックは何か。お客様を惑わせながら、しかも面白くしなくてはなりません。やり過ぎも、やらな過ぎも、ダメなんです。ああ、まったく難しい。
しかも今作「オリエント急行殺人事件」は原作も有名だし、何度も映画やドラマになっておりますから、ストーリーや犯人を知っている方が多いんです。私も先に映画を見た口です。1974年版の方。シドニー・ルメットが監督のヤツ。いや、2017年版も見ましたけど。ケネス・ブラナーが監督・主演のヤツ。
まあとにかく、ミステリーの舞台は難しいって話ですよ。今回は演出の河原雅彦さんが様々な手練手管を使い、俳優陣が頑張って面白くしようとしております。針に糸を通すように細かく心を配りながら稽古しております。12/8からシアターコクーンですよ!
先日初めて行った東京メトロ銀座線の新しい渋谷駅。こんなふうになったんですね。工事を間近で見ていた私としては感慨もひとしおです。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
【出演予定】
「オリエント急行殺人事件」12/8(火)〜27(日)
Bunkamuraシアターコクーン
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ12月号」は11/9全国書店で発売中!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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