【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第100回「ピヨる」
現在公演中の「けむりの軍団」は東京・福岡公演を無事に終え、この10月は大阪公演です。長かった公演もコレで終わりですからお見逃しのないように。ドンッミスイッ!
そんな東京公演の打ち上げで、ある大道具部スタッフに声を掛けられました。まだ美術製作会社に入社したばかりの若い女性だったのですが、なにやら感謝したいことがあるとのコト。入社前の一時期、まだスタッフワークがよく判らない頃に、この連載を読んで舞台用語を勉強していたんですって! 他の舞台解説サイトよりも分かり易かったんですって! そりゃこの連載も今回で100回目ですからね。そんな風にお役に立てるなら本望です。プロも勉強する舞台用語解説連載。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
しかし100回なんですね。凄いよねえ。月一連載ですから年12回。100回ってことは8年以上続いているんですよ。ていうか100個も演劇専門用語があるってコトなんですが、とはいえ演劇専門用語ではない用語もたくさんあったのですが、まあそれだけ解説してきたってのは、我ながら驚いてしまいます。こんなに続くとは思っていなかったからさ。まだまだ解説したい専門用語はあるのですが、正直辛くなってきたのも事実です。いつまで続くか判りませんが、どうぞ応援して下さいませ。
そんな100回記念として、ちょっと違った用語を解説してみたいと思います。今回ご説明したい用語は「ピヨる」。これは実はゲーム用語です。ゲーム・アニメ用語なのですが、今では一般的にも使われているんじゃないでしょうか。
「けむりの軍団」の中で、池田成志さん演じる美山輝親が大人数の乱闘の最中、争いに巻き込まれて気絶してしまうのです。その時の効果音が「ピヨピヨピヨッ」なんですよ。楽屋でモニターを聞きながら、私は普通に「あ、輝親さんはピヨってしまったんだな」と思いました。それが今回ご紹介したい「ピヨった」状態です
日常生活でも言いませんか? なにやら意識を失ったような状況でふらふらしていることを「ピヨる」って。私はそのように感じるのですが、これは私が「ストリートファイターII」という格闘ゲームをプレイしていたからなのかもしれません。
CAPCOMさんが開発して格闘ゲームの火付け役となった大人気ゲーム「ストリートファイターII」(以下ストツー)では、ダメージを受け続けたキャラクターが数秒間操作不能となり、頭の周りにヒヨコが飛び回るグラフィックが表示されます。その時の効果音が「ピヨピヨピヨッ」なのです。
この状態になると操作不能ですから完全に無防備です。対戦相手にとってはラッキータイム。無防備な相手に対して連続技(コンボ)をたたき込むチャンスです。対してピヨってしまった側は、ジョイスティックレバーをガチャガチャと操作するコト(レバガチャ)でちょっとだけピヨりタイムを短くすることができます。一方は慎重にコンボを準備し一方は一心不乱にレバガチャする。双方ともにアドレナリンが出る瞬間。つまり、どちらかがピヨッた時には対戦が盛り上がる瞬間なのです。
実はこのヒヨコが飛ぶ演出はストツーと同じCAPCOMさんのベルトスクロールアクション「ファイナルファイト」で既に使われていましたし、なんなら名作アニメ「トムとジェリー」で頭の周りを星が飛ぶという演出で使われています。つまり起源としてはおそらく「トムとジェリー」なんですが、「ピヨる」という用語まで発生させるほどに一般化させたのはストツーなのではないでしょうか。ないでしょうかと言われてもプレイしたことの無い方にはピンとこないかもしれませんが、まあそれほどに有名な用語なんだなあとだけ思って頂ければ幸いです。
もはや演劇用語ではありませんが、今公演中に私が「ピヨッたな」と感じてしまったんだからしょうがない。是非とも成志さんがピヨる瞬間を大阪で体験して頂きたいと思います。
福岡市地下鉄では各駅にアイコンが設定されていて、その駅近辺の特徴を表しているのですが、祇園駅のアイコンが超カワイイ! 祇園山笠を表しているんですって。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
【出演情報】
2019年 劇団☆新感線 39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』
作◇倉持 裕
演出◇いのうえひでのり
出演◇古田新太/早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子 粟根まこと/池田成志 ほか
10/8~21◎フェスティバルホール(大阪)
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ10月号」は全国書店で発売中!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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