歌舞伎座「十月大歌舞伎」開幕!
歌舞伎座10月公演「十月大歌舞伎(じゅうがつおおかぶき)」が、10月2日(土)に初日の幕を開けた。
歌舞伎座は1月から三部制での興行となっているが、10月も同じく三部制。引き続き、感染症対策を徹底し、各部総入替え、客席数(1808席)は50%(904席)を維持して公演を行っている。
「十月大歌舞伎」は、尾上菊五郎、松本白鸚をはじめとした豪華な顔ぶれで、たっぷりと歌舞伎の醍醐味を堪能できる多彩な作品が揃った。
第一部は、三代猿之助四十八撰の内『天竺徳兵衛新噺小平次外伝(てんじくとくべえいまようばなしこへいじがいでん)』。
お家追放となった小平次は女房のおとわと故郷の小幡で暮らしていた。ところが小平次が諸国巡礼の旅に出ている間、おとわは馬士の多九郎と不義密通し、今や夫婦同然の仲に。ある日、小平次が巡礼から戻ることを知った多九郎は邪魔になった小平次を殺そうともくろみ…。
三代目市川猿之助(現:猿翁)が選定した家の芸「三代猿之助四十八撰」の一つ『天竺徳兵衛新噺』は、江戸時代にインドに渡った実在の人物天竺徳兵衛を描いた物語に、四世鶴屋南北の小幡小平次の怪談を入れ込んだ荒唐無稽で大胆な展開が魅力の作品。当月は小平次の幽霊譚に焦点をあてさらなるブラッシュアップを重ね魅力を凝縮した「小平次外伝」として上演している。
小平次とおとわを演じるのは市川猿之助。猿之助は華麗に二役の早替りを披露し、観客の心をつかむ。舞台終盤、小平次の幽霊が登場する場面では舞台のあちらこちらから現れるスピーディーな演出や宙乗りに観客の目が釘付けに。幽霊が暗闇からふっと現れる怪談物ならではのゾッとする瞬間と、幽霊に恐怖する人々の慌てふためく様子が、テンポよく展開され、笑いと恐怖の連続に一瞬たりとも飽きる間がない。
凛々しい今川家の重臣尾形十郎に近年さらに活躍の場を広げる尾上松也、おとわと不義をはたらく多九郎に「八月花形歌舞伎」で猿之助の代役を勤めたことも記憶に新しい坂東巳之助、かわいらしく活躍する小平次妹おまきに注目の若手女方の中村米吉が出演。今年91歳となった庄屋満寿兵衛役の市川寿猿も元気な姿で登場。歌舞伎座では31年ぶりに上演された本作。時代の変化に応じて新たな形で生まれ変わった物語に力強い拍手が鳴り止まなかった。
続いては、 『 俄獅子 (にわかじし )』。
廓情緒と江戸前の粋な味わいを楽しむ長唄の舞踊。「俄」とは江戸から明治にかけて流行ったコントのような即興喜劇で、吉原の三大行事の一つとして親しまれていた「吉原俄」の雰囲気を感じる華やかな作品。
舞台は江戸の吉原仲之町。幕が開くと賑やかな祭囃子が聞こえてくる。そこへ艶やかな芸者たち、尾上松也演じる粋でいなせな鳶頭が次々と登場すると、客席からは待ってました!とばかりに大きな拍手が送られた。
続けて、吉原の様子を描いた洒落た歌詞に合わせながら芸者と鳶頭が息の合った踊りを見せていく。吉原のさらなる繁栄を願い舞い納めると劇場はめでたい雰囲気に包まれ幕となった。
第二部の序幕は、 『 時平の七笑 ( しへいのななわらい)』。
時は平安時代。右大臣の菅原道真は、身に覚えのない謀反の疑いをかけられる。そこへ現れたのは左大臣の藤原時平。時平は道真を庇うが、ついには謀反のあらぬ証拠が…。
多くの傑作を残した人気作者・並木五瓶による『天満宮菜種御供』の二幕目にあたる『時平の七笑』は通称「笑い幕」とも呼ばれ、幕切れに見せる時平のさまざまな笑いが見どころの時代味あふれる一幕。『菅原伝授手習鑑』などで敵役として描かれることの多い時平が白塗りの善人の姿で登場し、見るものに新鮮な驚きを与える。
今月は 79 歳にして未だ衰えることのないチャレンジ精神の持ち主、松本白鸚が初役で藤原時平役に挑んでいる。白鸚自身のアイデアを盛り込み新たな演出も加わった形での上演で、終盤、紅梅の枝を手折りどっかりと座った時平が「フフフ、、」と笑い、悪の片鱗を見せる姿に観客はぐっと引き込まれる。
幕が引かれてもなお聞こえてくる笑い声は人々に強い印象を残す。公演に先駆け「歌舞伎の悪の華はスケールの大きさが要求される」と語った白鸚。スケールの大きな悪役の存在が人々を惹きつけるミステリアスな魅力あふれる作品となった。
続いては、 『 太刀盗人( たちぬすびと)』 。
都の新市にやってきた田舎者からすっぱの九郎兵衛が太刀を盗み…。
物真似の滑稽味が笑いを誘うユーモアたっぷりの舞踊劇。能や狂言の演目を歌舞伎にした「松羽目物」の一つで、能舞台を模した舞台に田舎者の万兵衛と尾上松緑演じるすっぱの九郎兵衛が登場する。盗んだ太刀の名前や由来を二人が踊りで説明し答えていく見せ場となる場面では、そのコミカルな様子にふっと笑みがこぼれる。
悪者ながらもどこか憎めない愛嬌ある姿を見せる松緑の九郎兵衛。「お客様に、何も考えないで喜んでもらうような演目です。ほんわかと、そしてうきうきとした舞台をつくっていきたい」と松緑が語った言葉の通り、客席は明るく楽しげな空気に包まれた。
第三部は、 『 松竹梅湯島掛額 ( しょうちくばいゆしまのかけがく)』 で幕を開ける。
一途な恋心を募らせた八百屋お七の実話を題材に描かれた作品の一つで、『松竹梅雪曙』の名前で初演された本作。不思議な粉「お土砂」が笑いを生む「吉祥院お土砂の場」と降りしきる雪の中お七が激情を表現する「火の見櫓の場」で構成されている。
最初の舞台は本郷駒込の吉祥院。尾上菊五郎演じる「紅長(べんちょう)」の名で知られる紅屋長兵衛が、叶わぬ恋に嘆くお七を手助けしようと面白可笑しく活躍する喜劇的な一幕。お七を逃がすために紅長がお土砂をかけ、追手たちがぐにゃぐにゃになってしまう姿が大きな笑いを生む。
長沼六郎を演じる片岡亀蔵による「うっせぇうっせぇうっせぇわ」や、オリンピック開会式で話題となったピクトグラムを披露する演出も飛び出し、菊五郎の孫・寺嶋眞秀も丁稚長太役で出演し側転を披露するなど溌溂とした姿を見せる。また初日の10月2日は菊五郎の79 歳の誕生日。作中でも尾上右近演じるお七から「お誕生日おめでとうございます」とお祝いの言葉が。終盤でも舞台上に迷い込んだ少女に扮した市村橘太郎がバースデーソングを歌うなど今日ならではの演出に客席は大いに盛り上がった。
続く「火の見櫓の場」は文楽人形の動作を真似た“人形振り”でお七が募る恋心を表現する姿が切なくも美しい場面。八百屋お七は憧れの役であったと語る右近の熱演に大きな拍手が送られた。
続いては、桜満開の京都を舞台にした舞踊 『喜撰(きせん)』 。
『六歌仙容彩』は天保 2(1831)年に初演された、小野小町をめぐる恋模様を描いた変化舞踊。なかでも「喜撰」は単体でも上演を重ねる人気舞踊。喜撰を初役で演じるのは中村芝翫。ほろ酔い気分で足取り軽く舞台に現れると美しい茶汲み女お梶を口説き始める。
桜の枝を錫杖に見立ててのチョボクレや、迎えの坊主が登場してからの華やかな住吉踊りなどみどころの多い、洒脱で軽快な舞踊で華やかな初日となった。
【公演情報】
歌舞伎座「十月大歌舞伎」
令和3年10月2日(土)初日→27日(水)千穐楽
休演:7日(木)・19日(火)
◎第一部 午前11時開演
四世鶴屋南北 作「彩入御伽草」より
奈河彰輔 脚本
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 演出
三代猿之助四十八撰の内
一、『天竺徳兵衛新噺 (てんじくとくべえいまようばなし)』
小平次外伝
小平次/女房おとわ 猿之助
馬士多九郎 巳之助
妹おまき 米吉
尾形十郎 松也
二、『俄獅子(にわかじし)』
鳶頭 松也
芸者 新悟
芸者 笑也
◎第二部 午後2時15分開演
初代並木五瓶 作
今井豊茂 補綴
天満宮菜種御供
一、『時平の七笑(しへいのななわらい)』
藤原時平 白鸚
菅原道真 歌六
岡村柿紅 作
二、『太刀盗人(たちぬすびと)』
すっぱの九郎兵衛 松緑
田舎者万兵衛 鷹之資
◎第三部 午後5時30分開演
福森久助 作
一、『松竹梅湯島掛額(しょうちくばいゆしまのかけがく)』
吉祥院お土砂の場
四ツ木戸火の見櫓の場
浄瑠璃「伊達娘恋緋鹿子」
紅屋長兵衛 菊五郎
八百屋お七 尾上右近
小姓吉三郎 隼人
母おたけ 魁春
六歌仙容彩
二、『喜撰(きせん)』
喜撰法師 芝翫
祇園のお梶 孝太郎
〈料金〉1等席15,000円 2等席11,000円 3階A席5,000円 3階B席3,000円 1階桟敷席16,000円(全席指定・税込)
未就学児童は、満4歳よりお一人様につき1枚切符が必要です。
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京は03-6745-0888、大阪は06-6530-0333
チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/728
【舞台写真提供/松竹】
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