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地人会新社第9回公演『リハーサルのあとで』間もなく開幕! 一路真輝・森川由樹・榎木孝明 インタビュー

国内外の上質な戯曲を取り上げて、毎回注目の舞台を上演する地人会新社。その第9回公演は、スウェーデンの映画監督、イングマール・ベルイマンの作品を栗山民也が演出、9月1日から10日まで新国立劇場 小劇場で上演する。

ベルイマンは20世紀最大の巨匠として、のちの映画監督たちに大きな影響を与えただけでなく、舞台演出家としても活躍。1984年に「新しいメディア」としてのテレビに演劇的手法を取り入れて書いた作品が、この『リハーサルのあとで』。ストリンドベリの『夢の劇』の初日を2カ月後に控えた舞台上で繰り広げられる三人だけの会話劇だ。

【STORY】
稽古の終わった舞台上で、演出家・ヘンリックがまどろんでいる。二カ月後にストリンドベリの『夢の劇』の初日を迎えるのだ。そこに、若い女優・アンナが、忘れ物をしたと戻ってくる。彼女の両親も俳優で、ヘンリックとは旧知の仲だ。彼はアンナに思い出を、そして演劇論、俳優論を語り始める。とそこへ彼女の母・ラケルが現れ…。

この作品で演出家ヘンリック・ヴォーグレルを演じる榎木孝明、女優のアンナ・エーゲルマン役の森川由樹、元女優でアンナの母、ラケル・エーゲルマン役の一路真輝という三人の出演者に、稽古場で作品や役柄について語り合ってもらった。

森川由樹 一路真輝 榎木孝明

1対1という形で向き合う三人芝居

──まず、初めて作品を読んだ時の感想からいただけますか。
榎木 やろうかやるまいか迷いました。
一路・森川 (笑)。
榎木 想像以上の台詞量ですからね。ただ、僕は新劇(劇団四季)の出身ですから、栗山民也さんの目にとまったというのが嬉しくて。何年か前にこの公演のプロデューサーと栗山さんが一緒にいるところに偶然出会ったのですが、その時の印象で僕にこの役をということになったそうで、その話を聞いて「よし!やろう」と思いました。

──演出家という役柄についてはいかがですが。
榎木 俳優という立場から見た演出家への憧れというのはあります。実際に素敵な演出家の方も多いですから。それに演出家は台詞を覚えなくていいし(笑)、好きなことを言って俳優を動かせる(笑)。やはり作品全体に采配を奮えるということには憧れますね。

──一路さんは元女優のラケル役です。なかなか強烈な個性を持った女性ですね。
一路 最初は「わっ」と思いました(笑)。でも私にとって、今、出会うべくして出会った役かもしれない、思いきって飛び込んでみようと。栗山さんとは2回目になるのですが、信頼できる栗山さんだからこそやらせていただきたいと思ったし、飛び込む勇気をいただきました。お芝居の中では、榎木さんと(森川)由樹ちゃんはずっと舞台の上にいるのですが、私は話の真ん中で出ていって、台風のようにワーッと掻き回して引っ込んでしまう(笑)。そういうポジションも初めてですし、女優の役というのも意外とやってなくて、何十年もこの仕事をしてきたのに初めてということが多いのですが、とにかく挑戦したい作品であり役なので、稽古場がとても楽しいです。

──森川さんは女優のアンナです。
森川 この芝居は三人芝居ですけど、実際には榎木さんと私、榎木さんと一路さんというふうに、1対1で向き合う形になるんです。こんなに直接のやりとりで情報を渡していく舞台は初めてですし、ここまでの台詞量も初めてです。実は台本を最初に読んだ時はちゃんと把握できなくて、この気持ちからどうしてこの台詞が出てくるんだろう?みたいなことが沢山あったんです。でも立ち稽古が始まって、ここはあえて正面から受け止めずに外しているとか、あまりに深く根づいているがゆえに色々な道を辿ってここに来ている、というようなことがわかってきて、全員が回り道をしながら自分が欲しいものを摑みに行く、その自我のぶつかり合いがこの本の面白さなんだと。そういう台詞のぶつかり合いを楽しみながら稽古しています。

『妄想おじさんの恋』と勝手に名付けて

──ベルイマンが色々な演劇的仕掛けをしている作品ですが、その1つがラケルのシーンで、彼女はヴォーグレルの幻想のようにも思えますが。
榎木 それも解釈次第なんですよね。
一路 幻想とも考えられますし、アンナが12歳の時、ヴォーグレルはラケルと会っているので、その場面と捉えることもできるんです。稽古の初め頃に、ラケルが出てくる時はある音がしているので、幻想シーンのようなつもりで演じていたら、栗山さんに「もうちょっと現代の会話劇でやって」と言われて切り換えました。
榎木 栗山さんの演出は、良い意味で予定調和を裏切ってくれるのがいいんですよね。この作品は時系列が整っていなくて、ずっと前に死んでいるはずのラケルが出てきたりするので、観客は迷うかもしれませんが、でもその混乱を楽しむことで作品がすごく膨らむんです。栗山さんは「今はあまりにもエンターテイメント性に重きをおいた演劇が多いけれど、そうではないものもちゃんとやらないといけない」と。それは僕も同感で、この作品の混乱を楽しみたいと思っていて、そのために自分で勝手に副題を付けてるんです。『妄想おじさんの恋』と。
一路・森川 (爆笑)。

──確かに彼は2人の女性に恋をしているようにも見えますね。ヴォーグレルには作者ベルイマンが自身を投影しているとも言われます。ということはベルイマンに心酔している栗山さんも自身を投影していそうですね。
一路 私もそう感じたので、ちょっと聞いてみたのですが、「俺は全然違うよ」と(笑)。
榎木 でも栗山さんが長い間あたためていた作品ということは、やっぱりそういうことではないのかな(笑)。

舞台が疑似体験なのか、普段の自分が疑似体験なのか

──それぞれ演じる役への共感はいかがですか?
榎木 不遜に聞こえるかもしれないんですけど、私はたまたま芸能界にいますが、いまだに他の何かを探して彷徨している感覚があるんです。どこかで1つの枠に収まりたくないと思っている。そういう意味では、ヴォーグレルという人は私の中の一部としてあるだろうなと思っています。
森川 アンナは、女優としても女性としてもヴォーグレルに認められたいという気持ちがあって、でも母親を女としても女優としても超えられない。それが逆に、彼女が女優を続けるためのモチベーションにもなっているのかなと。さらに、大好きな母が身を滅ぼしていった姿を見たことで、大好きであるがゆえに憎しみに変わってしまったという葛藤もあって。そういうアンナの台詞を言いながら「ここは女優として、ここは娘として、ここは女として」と、それぞれわかる部分を重ねています。また、アンナには一緒に住んでいる彼がいるのですが、その関係も含めて、成長したいし、自分の感情を消化できなくてイライラするし、泣きたくなるし、みたいな不安定な、その第二次成長期みたいな時代(笑)は自分にもあったなと思いながら演じています。

──一路さんは、ラケルの女優としての生き方や母親の部分などで感じることも多いでしょうね。
一路 偶然ですが私の娘が今12歳で、劇中のラケルのシーンのアンナは12歳で、それに私の娘もアンナも両親が俳優で、そういう共通点があることで娘を通して考えるとわかる部分も少しはあります。ただ私自身はお酒もタバコもだめですし、色々な面でラケルとは真反対なのですが、でもふっとくっつく瞬間があって。ラケルが言う「演劇をやっているがゆえにある、自分と演じている時の自分とがわからなくなる瞬間」というのは私にもあるんです。ですからお酒などで「どうせならわからなくなるほうに行ってしまおう」というラケルの気持ちもわかるというか、現実逃避ではないですけれど、そういう瞬間は女優をやってきた中でいっぱいあったんですけど、やっぱり自制心や子供の存在で戻ってくるんですよね。でも戻れなくなったラケルが病んでいくというのも、痛いぐらいにわかるんです。そこはたぶん自分が封じ込めていたものなので。それだけでなく今回の芝居で改めてわかるということがいっぱいあって、それがとても面白いです。ちょっと疑似体験しているみたいな、でも何が疑似体験かも本当はわからなくて、舞台が疑似体験なのか、それをわかっている普段の私が疑似体験なのか(笑)。

──実生活がどちらかわからなくなるというようなことでしょうか?
一路 そうですね。実際にそういう台詞も劇中に出て来ます。演劇をやっている人間にはとても実感のある作品ではないかと思います。

一路さんが登場した時の「もう大丈夫!」という安心感

──初共演ということでお互いの印象を話していただけますか?
一路 榎木さんは、栗山さんがヴォーグレルのイメージと言われたそうですが、私もこの役が榎木さんだと伺った時、ぴったりだなと。稽古でも何もしないでそこに座っているだけでヴォーグレルなんです。初めてお会いしたのは大河ドラマで、時代劇もお似合いでしたが、この作品ではどの角度から見てもスウェーデンの人にしか見えない(笑)。そして由樹ちゃんは、すごくしっかりしてるのにまだ20代なんですよね。お芝居が好きなのがよくわかるし、好奇心がいっぱいで話してくれることも楽しくて(笑)。まだ稽古入りして間もないのでそんなに話せていないのですが、この三人で色々なことを話していきたいと思っています。
森川 このお芝居の最初は私と榎木さんだけで場面を作っていくのですが、そこに一路さんが登場した時の「もう大丈夫!」という安心感、それは本当に絶大なものなんです。榎木さんは、一路さんがおっしゃったように本当にカッコよくて。アンナが彼に議論を仕掛けていく場面なども、ヴォーグレルがカッコいいので圧倒されるのですが、絶対に負けないぞ!と(笑)。

──アンナがヴォーグレルと敬語でなくタメ口で議論していることに驚いたのですが。
森川 ヨーロッパでは演出家と俳優は対等に話し合うんだと、栗山さんがおっしゃってました。
榎木 それにヴォーグレルはアンナの父親のミカエルとは友人関係で、小さな頃から知っているので、生意気なところもわかってるんです(笑)。
森川 役だけでなく私自身も榎木さんに甘えて、ガンガンぶつけて行ってます(笑)。
榎木 いや、それはまったく逆で、実際は僕がお二人に甘えているんです(笑)。舞台の上では、年齢や性別、キャリアなんて一切関係ないと僕は思っていて、どれだけ魅力的に存在できるかが大事なんです。そういう意味ではお二人の力はすごく大きくて、お二人の存在がどれだけ支えになっていることか。今、僕には1つ夢があって、三人でカラオケに行って、お二人の歌声を聞くというのをちょっと妄想していて(笑)。
森川 妄想おじさん!(笑)
一路 (笑)突然こういう可愛いことをおっしゃるんですよね。

演劇論であると同時に人間の日常の話として

──三人カラオケが実現することを祈ります。最後に作品のアピールをぜひ。
森川 まず、私個人としては演劇研修所でお世話になった栗山さんにこのようなすごいお芝居に呼んでいただいて、めちゃくちゃ嬉しくて(笑)。ものすごいビッグチャレンジですので、一生懸命に良いお芝居にしていきたいです。そしてこの作品ですが、言葉にしていることと思っていることが違うというのは、私たちにも日常的にあって、たとえば大切な人と喧嘩していて、思いがけない方向に話が行ったり、わざわざそちらへ仕掛けて行ったりということは沢山あるわけです。栗山さんがおっしゃるには、人生は選択の連続であると。そしてその選択を瞬時に後悔したり、そこに思わぬ言葉が来たことで一喜一憂したりとか、人間はそういうふうに日常を過ごしている、これはそういう芝居なのだと。ですから観ている方にも、演劇論であると同時に人間の日常の話として受け取っていただければと思います。
榎木 僕はもともと新劇出身で、地人会新社の前身の木村光一さんともよくご一緒させていただいていたので、この世界に帰ってきたなという思いなんです。膨大な台詞については仕事ですからやりおおせて当たり前で、別の意味で今回は背水の陣ぐらいの覚悟で挑みたいなと。これをやりおおせてこそ次があるという気持ちで取り組みますので、それを見届けていただければと思っています。
一路 私はこの作品の真ん中の3分の1しか出ていないのですが、その中でやらなくてはいけないこと、表現しなくてはいけないこと、沢山の課題を栗山さんからいただいているので、どこまで栗山さんの思っているラケルと私が思っていたラケルを1つにして、初日にもっていけるかが課題です。翻訳劇はまだ数本しかやっていませんが、その中で経験したこととはまた違う表現を教えていただきながら、毎日勉強、毎日挑戦していて、私も榎木さんと一緒で、この作品で1つ上がれたらいいなと思っています。作品自体もとても斬新ですし、会話劇でもあり独白でもあり、演じていても面白いので、ぜひ観ていただければと。三人でお待ちしています。

榎木孝明 森川由樹 一路真輝

いちろまき〇愛知県出身。82年宝塚歌劇団に入団。93年雪組トップスターに。96年日本初演となったミュージカル『エリザベート』のトート役を最後に宝塚を退団。以降、女優としてミュージカルを中心に活躍、近年ではストレート・プレイにも積極的に挑戦している。最近の主な舞台は、新国立劇場『トロイ戦争は起こらない』ミュージカル『キス・ミー・ケイト』明治座『細雪』など。第22回菊田一夫演劇賞、第12回読売演劇大賞優秀女優賞、第37回松尾芸能賞受賞。

もりかわゆき○埼玉県出身。新国立劇場研修所6期生。主な舞台は、トム・プロジェクト プロデュース『百枚めの写真 ~一銭五厘たちの横丁~』新国立劇場『ピグマリオン』Kawai projectシェイクスピア生誕450周年記念公演『から騒ぎ』俳優座劇場プロデュース『インポッシブル・マリッジ -ありえない結婚-』トム・プロジェクト プロデュース『萩咲く頃に』新国立劇場『ウィンズロウ・ボーイ』こまつ座『國語元年』梅田芸術劇場『ETERNAL CHIKAMATSU』西瓜糖『レバア』など。

えのきたかあき○鹿児島県出身。1978年に劇団四季に入団し『オンディーヌ』(81年)で初主演。退団後、連続テレビ小説『ロマンス』の主演でドラマデビューを果たす。95年にスタートしたドラマ「浅見光彦シリーズ」は大ヒット、2002年まで主演を務める。近年の主な舞台は、東京グローブ座『カルテット』新橋演舞場『大和三銃士~虹の獅子たち』新橋演舞場『トリッパー遊園地』など。映画『みとりし』が2019年9月13日より有楽町スバル座から全国順次公開。

 

【公演情報】
地人会新社第9回公演『リハーサルのあとで』
作:イングマール・ベルイマン
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:一路真輝 森川由樹 榎木孝明
●9/1~10◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉A席 7,000円 B席 5,500円 25歳以下4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※プレビュー公演(9/1)全席 6,000円 25歳以下 3,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉J-Stage Navi  03-5912-0840   http://l-tike.com/
〈公演HP〉http://www.chijinkaishinsya.com/newproduction.html

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

 

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