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ミュージカル回想録『HUNDRED DAYS ハンドレッドデイズ』稽古場レポート

歌が台詞であり、歌で心を通わせている稽古場

実生活でも夫婦であり、ミュージシャンでもあるユニット「ベンソンズ」のメンバー、アビゲイルとショーンが自分たちに実際に起きた事をベースに、愛についての物語をミュージカル化したのが「ミュージカル回想録『HUNDRED DAYS』」。日本では2月から東京・シアターモリエール、そして3月から中野ザ・ポケットで上演される。本作の稽古の様子を見学する事が出来たので早速稽古場に伺った。

12畳くらいの小さな稽古場には軽くストレッチをするアビゲイル役の木村花代、そしてギターを抱えてバラード調、そして激しいカッティングなどで音出しをしているショーン役の藤岡正明がいた。藤岡と共にギターを鳴らすのは日本語上演台本・訳詞・演出を務める板垣恭一だ。

時期も時期なので、小型の暖房機や加湿器があちこちに置かれる中、「ピアノ、ドラム、ベース、チェロとボーカル、ギターの6人編成のバンドスタイルなんですが、今日は臨時でコーラスを板垣さんが務めます」と紹介があり、照れ笑いを浮かべる板垣が「さて、やりますか」と声をかけ、スタンバイ。木村は奥のキーボードエリアに置かれた籠を手に持ち、「飴ちゃん欲しい人、手を挙げて~」と記者たちに声をかけ、「今日は紅茶もあるのよ」と笑顔で飴と紅茶のティーバックを振舞っていた。

取材陣へのサービスか、と思いながら飴を受け取ると「まず最初にアンケートを取ってもいい?」と木村が話しかけてくる。「生きるということはつまり悲しみの中にいる事だと思う人、手を挙げて」という直球かつどこか哲学的な問いを投げかけてくる木村、もといアビゲイルという女性がそこにいた。こうしてごく自然にこの物語の世界に連れ込まれたのだった。

アビゲイルは夫であるショーンを呼び込み、二人でセッションを始める。木村といえば透明感溢れ、伸びのある高音が持ち味というイメージだが、アビゲイルとして歌う木村は高音はそのままに、メインは中低音で荒々しくソウルフルな歌い方をしており、これがあの木村花代か?と記者たちを驚かせていた。そしてその歌声がぴったりとハマっているアビゲイルというフリーダムな女性をイキイキと演じていた。

そして藤岡演じるショーンは、ロックからフォーク、カントリーにパンク?と思うくらい様々な音色でギターをかき鳴らし、歌い上げる。途中ショーンが自分の事を語る場面があったが、目の動きがふわふわと落ち着きなく、どこか世間に対して怯えを感じているよう。引っ込み思案な性格なのがその表情だけですぐ把握できた。

二人は冒頭から4曲目まで演じていた。途中途中で台詞のやり取りもあるが、その台詞はいつしか歌詞となり、まるで歌が台詞であり、歌で心を通わせているようだった。4曲目が終わり、「もう一曲、この作品のタイトルでもある「HUNDRED DAYS」をと板垣が紹介し、ブルースを感じさせる「HUNDRED DAYS」を熱唱。木村のパワフルな歌声と藤岡の激しいギターとそして歌声。二人の声が絡み合う時、表現しきれない愛と心地よさに包まれた。

木村「感動で台本を読みながら号泣」
藤岡「実験的で挑戦的な舞台」

芝居の披露後、ミニ会見が行われた。

「プロデューサーの宋さんは何というものを持って来たんだと思った」と笑う藤岡。「伝えたいメッセージがどう伝えればいいのか、台本では字面でしかないので、これを演じる側がどう受け止めて形にするか、かなり実験的な作品なのでは」と率直な想いを述べる。木村は「台本を読んでいくうちになんて素敵な夫婦なんだろうと思い、運命の人とこんな出会いをしたのか、と。最後のほうはカフェで読んでいたんですが、周りに見られたらヤバイなと思うくらい泣いてしまった。この夫婦の愛に感動してね」と口にしていた。

演者と観客とのやり取りについて、藤岡がふと過去のエピソードを語り出す。「『ビリー・エリオット』で、僕が客席を回って募金を集める場面があったんです。それが最終的には10万円を超えてしまって!はじめはプロデューサーと『これ、お金がたまったら飲みに使っちゃおう』って冗談まじりで話していたんですが、余りの高額となり、その後きちんと寄付をしました」と笑っていた。

板垣は「通常の芝居だと”会話”をするので、感情の流れで多少”てにをは”を間違えてもなんとかなるんです。でもこの作品は会話というよりモノローグの応酬みたいなものなので、次に何を喋るのか相当考えてないと出てこない。壮大なモノローグを言っているみたいなんです」と作品の特殊さに触れた。

また板垣は、「稽古が始まった頃、花代ちゃんが堅かったので、関西のおばちゃんを心に入れてやってみて!と声をかけたらその後台詞回しが変わりました」と語る。その発言に木村が「ふへへへ」と笑い出し、藤岡も木村のスカートのポケットあたりを指さしつつ「ここら辺に関西のおばちゃんが入っている、ちょっと顔を出しているかも」と茶々を入れるとさらに木村の笑いが増していた。

何故アビゲイル役が木村で、ショーン役が藤岡になったのか、という根本的な質問が飛ぶと、板垣は「アビゲイルはブチ切れられる事が出来る人でないと、で花代ちゃんに(笑)。そしてショーンは絶対的にギターが弾ける人でないとって思っていたんですが、ちょうどその話を舞台『いつか』の現場でしていて、主演の藤岡くんを見て……いるじゃん!と(笑)。実在のショーンさんはひょっとして他人と喋るのは苦手ですか?というアキバ系男子っぽいんですが、藤岡くんはショーンと真逆なのも面白いなと思って」とキャスティングについて語っていた。

最後に本作を楽しみにしている方へのメッセージと、特にどんな人に観てほしいか、という質問が寄せられる。藤岡は「ライブ感を大事にしながらお客さんも楽しんでほしいです。50代、60代の方にも観ていただけたら」、木村は「うらやましいほどの愛があふれています。ご夫婦はもちろん、孤独を感じている方もふらっと観にきてもらえたら」、そして板垣は「ちょっとでも生きづらいなと感じている人に観てほしい」と希望を込めていた。

なお本作の公式サイト(https://www.consept-s.com/100days/)では、アンコールでベンソンズに演奏してほしい曲のリクエストを受け付けているので是非ご参加を。

【公演情報】
ミュージカル回想録『HANDRED DAYS ハンドレッドデイズ』
日本語版上演台本・訳詞・演出◇板垣恭一
音楽監督◇桑原まこ
出演◇藤岡正明 木村花代
●2/20~24◎シアターモリエール
●3/4~8◎中野ザ・ポケット
〈料金〉一般席及び字幕席 8,500円(全席指定・税込)
http://www.consept-s.com/100days

 

【取材・文/こむらさき 写真提供/conSept 】

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