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トム・プロジェクトプロデュース『沖縄世』間もなく開幕! 古川健・小笠原響・島田歌穂 インタビュー

トム・プロジェクトの新作は古川健が書き下ろす『沖縄世 うちなーゆ』。
沖縄が日本へ返還された時期を起点に、太平洋戦争中から敗戦後、そして返還前後の沖縄と、そこで闘った人々の姿を、1人の運動家の不屈の闘いから描き出す。
主人公・島袋亀太郎のモデルとなったのは沖縄人民党から共産党に入り、国会議員として活動した瀬長亀次郎、那覇市長も1年務めた人物だ。その妻の俊子には実在した女傑・照屋敏子を重ねて描いている。演出は小笠原響、キャストは下條アトムが島袋亀太郎を、妻の俊子は島田歌穂が演じる。

【物語】
1972年、日本復帰直前の沖縄。一人の復帰運動のリーダーが引退を決意する。
男は「米軍が恐れた男」として知られる不屈の運動家。
男の妻はかつて漁船団を率い、女海賊とあだ名された女傑。
男たちが語る悲しき島々の歴史。美しい島を焦土に変えた地上戦。
戦後も続く、米軍との苦闘。秘かに花開いた密輸貿易の黄金時代。
男も女も力強く生き抜かざるを得なかった時代。
戦前の「大和世 やまとゆ」、戦後「アメリカ世 あめりかゆ」から復帰がもたらす世は「沖縄世 うちなーゆ」なのか?
男と妻の見据える沖縄の未来とは…

この作品について、作の古川健、演出の小笠原響、出演の島田歌穂に、物語や作中の人物たち、沖縄の現在や過去について語り合ってもらった「えんぶ2月号」のロングバージョンをお届けする。

小笠原響 島田歌穂 古川健

苦難の時代を生きた1組の夫婦の視点から

──今回、古川さんが沖縄についての作品を書いた動機は?

古川 以前から沖縄のことは書きたいと思っていて、書くのだったら沖縄戦のことを書こうと思っていたのですが、色々調べている中で、この作品の主人公・島袋亀太郎のモデルになった瀬長亀次郎さんの話が出てきて、彼を追ったドキュメンタリー映画もあるなど、凄い方がいたのだなと。沖縄が返還されるまでの経緯でも改めて知ったことが多くて、これを自分なりに物語にしたいなと思ったんです。

──演出は小笠原さんです。台本を読んでまず感じたことは?

小笠原 沖縄の苦難の歴史という非常にデリケートなテーマを、1組の夫婦、そして家族というくくりにして、主人公の妻の視点から描いているのが特徴的だなと。その中に古川くんらしい辛辣な台詞も入れ込んである。そのコントラストがうまく出せればと思っています。

──今話に出た亀太郎の妻俊子役は島田歌穂さんです。沖縄についての舞台はミュージカル『ひめゆり』に出ていますね。

島田 はい。作品に出させていただくにあたって、ひめゆり部隊のことを色々調べました。こんなに残酷なことがあったんだと胸をえぐられる思いでした。

──今回演じる俊子はなかなかたくましい女性ですね。

島田 相当たくましいですね。実在した女傑を重ねて書かれた役ということで、その方の本も読みました。ガタイの良い男の人でも吹っ飛ぶくらいの力持ちだったそうで、私も鍛えなければいけないかなと (笑)。とても挑戦の多い作品で、ワクワクしつつちょっと脅えています(笑)。

「基地のことは我々のことだ」と、観た人が思ってくれたら

──沖縄と言えば基地闘争が主題になることが多いのに、返還にまつわる政治闘争に着目しているところが古川さんらしいですね。そして返還闘争はまだ決着がついていないという認識で書かれています。

古川 これだけ時間が経っても基地問題は全然解決していません。基地問題が解決していないということは、結局あの戦争を総括できていないということだと僕は思っているんです。それなのにほぼ沖縄だけがその責任を負わされ続けている。「復帰と言ったってこんな復帰、なんなんだよ」と沖縄の人が思うのは、ごくごく当然のことだと思っていて。そもそも沖縄になぜ基地があるのだろうということを、日本人全体で考えなければいけないわけですが、ついつい「それは沖縄の問題でしょ?」という感じになってしまう。そうではなくありたいし、この作品を観て、「基地のことは我々のことだ」と少しでも思ってくれたら嬉しいのですが。

──主人公亀太郎のモデルになっている瀬長亀次郎さんは明治生まれで、戦争も体験して、戦後の沖縄も返還もすべて見ているわけですが、この物語は返還当時に焦点を当てて書かれていますね。

古川 ずっと先頭に立って闘ってきた人が、1つの時代の終わりに何を思うのか、ふと自分を振り返って虚しくなることもあったのではないかという想像からスタートしています。実際はものすごく強い方で、残されている資料には一切愚痴など出てこないし、常に「闘ってやるぞ」という方なのですが。でも人間は複雑なものですから、もしかしたらそういうことがあったかもしれないと、沖縄返還を前に、これまでの人生を振り返って考えるという物語にしました。

──亀次郎さんは復帰にまつわる闘争の中で投獄されたり、たいへん不条理な目に遭います。また沖縄返還をめぐるせめぎ合いは、政党間にも、島民同士の中にもあったそうですね。

古川 なかなか人間というのが一緒になって闘えないものだなということを感じます。亀次郎さんが那覇市長になると、保守系の議員はアメリカとタッグを組んで引きずり降ろそうとする。革新勢力は革新勢力で一緒にやっていたと思ったら脱税問題などを起こして足を引っ張る。現実的に政治をやっている中で一致点を見付けてずっと一緒にやるというのは難しいことが多いのだろうなと。それは人間の持っている業なのかもしれないのですが。でもやはり「これからの沖縄って?」と考えていくことが大事で、最近亀次郎さんがフィーチャーされているのは、そういうところもあるのかなと。亀次郎さんのことから考えようよということなのかなと。

沖縄の民族の闘いが不屈なのだと

──小笠原さんは今回の演出にあたって、沖縄やこの時代のことなど調べられたと思いますが。

小笠原 沖縄には何度か行っていて、一番最近では、亀次郞さんの記念館、「不屈館」に行ってきました。こぢんまりとした記念館でしたが、亀次郎さんの写真や記事も含めてびっしり資料がありました。それから、面白かったのが演説したときの衣装や持ち物などもあって、よく写真に写っている白の上下の背広だったり、帽子だったり、手袋だったり、腕時計なんかもありました。

島田 わー!私も「不屈館」に行かなくては(笑)。これまでもコンサートなどで沖縄に行っているのですが、いつもホテルから会場に行くだけで終わるので、あまり色々なことを知る機会がなかったんです。今回この作品に携わるので、もっと沖縄をきちんと知りたいなと思っています。

──小笠原さんはこれまで行った中で、とくに印象に残っていることは?

小笠原 最初のときは沖縄戦が出てくる芝居の取材だったのですが、現地の方がまず案内してくれたところがお墓だったんです。沖縄では一族のお墓が大きめで。

島田 家みたいですよね。

小笠原 そう、家なんです。説明の中で、日本に帰属する前の琉球の時代は、自害をした人はお墓に入れてもらえなかったと。それがあの戦争では日本軍から自決を強要された。その話を聞かせていただいて、集団自決があった洞窟にも案内してもらいました。だから沖縄の方々が日本の本土の政策に、そうやすやすと「うん」と言えないのもわかります。民族の持っている長い歴史がある。亀次郎さんは不屈の男と言われていますが、亀次郎さん自身というより民族の闘いが不屈なのだと。ただ時代がだんだん戦争から時を経た今、基地問題なども微妙なところにきている。だからこそもう一度くさびを打つためにも、亀次郎さんを取り上げるのは大事なことだと思います。

──国会議員としても活動して、まさに沖縄の闘いの象徴のような方ですね。

小笠原 闘い方も面白いんです。国会との闘い方、米軍との闘い方でも、ただ声高に主張するだけではなく、ハーグ陸戦条約とか世界の法律をきっちり盾にとって物申していく。その準備の仕方が理にかなっているし、ただ感情的にぶつけるだけでなく、用心深く計算してしっかり対抗していく。そこにまた不屈の強さがあるのかなと思います。

これもまた日本の歴史の一部だと認識してほしい

──古川さんと小笠原さんは、昨年2月の『拝啓、衆議院議長様』という作品で、一度タッグを組んでいますね。

古川 実はもう1つ、6、7年前になるんですが、脚色と演出でご一緒してるんです。『蒲田行進曲』の映画を舞台化するという。

小笠原 その後再びご一緒できる機会を得て、『拝啓、衆議院議長様』相模原障害者殺傷事件を題材に書いて頂きました。

──小笠原さんは古川さんの脚本や劇団チョコレートケーキについては、どんな印象がありましたか?

小笠原 劇団の公演を拝見していて感じるのは、時間が濃密でストイックなんですよね。演出の日澤(雄介)くんの作り方もあると思いますが、大きな過去の事件を深く濃密に書き込んで、それをストイックに俳優さんが演じ切る。そこに痺れますね。まるで水を打ったような静けさで舞台が進行していく。古川さんの脚本については、いつも構造が緻密だなと思っていて、今回も沖縄返還から回想の場面に行って、主人公が生きた色々な時代や逆戻りした時間の扱い方を、とても演劇的に書いているなと思います。

──古川さんから見た小笠原さんの演出の印象は?

古川 俳優の良いところを引き出すのが本当に上手だと思います。俳優をその気にさせるというか(笑)、引っ張り出し方がスマートですね。何かを押しつけるわけじゃなく、俳優がやりたい方向に近寄りながら、演出家が目指すものを的確に構築していく。かっこいいですよね。

──島田さんは、お二人については?

島田 実は昨年の夏、NHK-FMの「青春アドベンチャー『ベルリン1989』」というオーディオドラマを、古川さんの脚本でやらせていただいたんです。ベルリンの壁が崩壊した直後の2組のカップルの話だったのですが、きちんと社会問題を背景にしつつ、男女間のロマンスが描かれていて、とても大人で深い素敵なお話で、読みながら感動していました。そして、この『沖縄世』では政治闘争の中での家族愛とか夫婦愛が描かれていて。しかも台本の中では、実在した伝説の女傑として知られる照屋敏子さんと瀬長亀次郎さんを夫婦にされてしまうし、発想がすごいなって。

古川 無茶もいいところなんですが(笑)。

島田 いえいえ、そこが面白いと思いますし、楽しみです。劇団チョコレートケーキの公演は、今回の舞台のお話しを頂いてから拝見させていただいたのですが、なんていうか、本当にかっこいい。どこまでかっこいいんだろうって(笑)。ですからこの作品で、きっと私の新しい部分を引っ張り出していただけるのではないかと。

古川 ラジオドラマでご一緒したとき、声が特徴的で物腰が上品で素敵だなという印象があったんです。だから、今度は逆にサバッとした女性でのしゃべり声を聞いてみたいなと思って書きました。

島田 そして小笠原さんとは、今回初めてご一緒するのですが、手掛けてこられた作品のイメージだと、厳しい方かなとドキドキしていましたが、とても優しい方でホッとしています(笑)。

──そんな方々で作り上げる『沖縄世 うちなーゆ』を、改めてアピールしていただければ。

小笠原 今、世の中がなかなか本音をはっきり言いにくくなっていますが、そんな世の中で、誰もが考えなくてはいけない、とても大事なメッセージを持った作品だと思っています。だからこそそのメッセージを中心に据えて、家族の物語に絡めてお客様に伝わりやすく、染み込むような舞台を作っていただけたらと思います。

島田 今回、こんなに素晴らしいチャンスをいただいて本当に感謝ばかりです。とにかくとことん皆さんに揉まれて(笑)、女優修業させていただきます。そして、自分たちの理想や未来に向かって生きた亀太郎さんを強く逞しく支えた妻として、しっかりとそこに立っていられるように頑張ります。

古川 歴史の近現代史の中でも忘れられがちだし、あまり知られていない部分なんですが、これもまた日本の歴史の一部だということを改めて意識してもらって、これから我々がどうあればいいのかという、思考のとば口になれたら最高だなと思っています。

小笠原響 島田歌穂 古川健

■PROFILE■

ふるかわたけし〇東京都出身。劇団チョコレートケーキ所属。02年以降、劇団の全作品に参加。09年より劇団本公演の全作品の脚本を手がけ、外部作品にも脚本を提供している。14年『あの記憶の記録』で第25回テアトロ新人戯曲賞最優秀賞と2013年度サンモールスタジオ選定賞最優秀脚本賞を受賞。15年『ライン(国境)の向こう』が第60回岸田國士戯曲賞最終候補、『遺産』が第22回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた。

おがさわらきょう〇東京都出身。近年の演出作品は、2017年『屠殺人 ブッチャー』『奈落のシャイロック』『ベルリンの東』『白い花を隠す』、2018年『冬 Winter』『ダウイー夫人の勲章 The Old Lady Shows Her Medals』『男の純情』、2019年『拝啓、衆議院議長様』『血と骨』『Other People’s Money 他人の金』『√ルート』『隣の家 -THE NEIGHBOURS』など。『白い花を隠す』『屠殺人ブッチャー』の演出で第25回読売演劇大賞の優秀演出家賞受賞。

しまだかほ○東京都出身。1987年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で脚光を浴び、同作の世界ベストキャストに選ばれ、出演回数は1,000回を超えた。近作では、17年『ビリー・エリオット』、18年『メリー・ポピンズ』『ナイツテイル』に出演し好評を博す。芸術選奨文部大臣新人賞(88年)、紀伊國屋演劇賞個人賞(07年)、読売演劇大賞優秀女優賞(07年)など受賞多数。大阪芸術大学教授。

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『沖縄世 うちなーゆ』
作◇古川健
演出◇小笠原響
出演◇島田歌穂 鳥山昌克 きゃんひとみ 髙橋洋介 原田祐輔 下條アトム
1/25~2/2◎東京芸術劇場 シアターウエスト
〈料金〉一般:前売5,500円 当日6,000円 シニア(60歳以上):前売・当日5,000円 U-25:前売・当日3,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00~18:00)
https://www.tomproject.com/peformance/okinawa.html

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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