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1つの歌が囚われの108人を救った! トム・プロジェクト プロデュース『モンテンルパ』間もなく開幕! 大和田獏・島田歌穂・シライケイタ インタビュー

トム・プロジェクトのプロデュース公演『モンテンルパ』が、1月23日~30日、東京芸術劇場シアターウエストで上演される。戦後まもない時期に歌われたある曲をめぐる実際にあった史実をもとに、温泉ドラゴンのシライケイタが書き下ろし、演出も手がける。

昭和28年7月。終戦後7年以上も異国フィリピンのモンテンルパ刑務所に収容されていた、死刑囚を含むBC級戦犯108人が横浜港に降り立った。
二度と、生きて故国の土を踏むことはできないと絶望していた彼らを救ったのは、1曲の歌だった。
彼らの釈放をキリノ大統領に決断させた歌とは「あゝモンテンルパの夜は更けて」。
この歌を歌った歌手、渡辺はま子。そして、この歌をキリノ大統領に届けるべく奔走した僧、加賀尾秀忍。
二人の情熱が交錯するとき、歴史は動く・・・。

劇中で刑務所の教誨師として囚われた日本人たちの釈放に力を尽くす加賀尾秀忍役に大和田獏。死刑囚が作った「あゝモンテンルパの夜は更けて」を歌ったことがきっかけで彼らの帰国のために奔走する渡辺はま子役には島田歌穂。演じる2人が、作・演出のシライケイタとともにこの作品とその時代や登場人物について語ってくれた。

美談としてではなくありのままに描くこと

──まずシライさんにこの作品を書くことになった経緯を伺いたいのですが。

シライ この作品のプロデューサーの岡田(潔)さんから、「こういう話があるのだけれど」というお話をいただいて、そこから史実などを調べはじめたのですが、僕は渡辺はま子さんのことも加賀尾秀忍さんのことも全然存じ上げなくて、今回初めて知って、僕らの知らない歴史がまだまだ沢山あるのだなと改めて思いました。

──おふたりは渡辺はま子さんやこの史実については?

大和田 僕は2年前に岡田さんから「あゝモンテンルパの夜は更けて」という曲を知っているか聞かれて、もちろん知ってますと答えたのですが。その話の中で加賀尾秀忍という教誨師がいて、彼が戦犯の人たちを救う運動をしていたと。その役をやってくれないかと。僕は加賀尾さんのことは全く知らなかったので、彼が書いた本や資料などを取り寄せて読んでみたら、こんなにすごい人がいたんだと感激しました。

島田 渡辺はま子さんについては、懐かしの歌謡曲などを取り上げる番組で何度も拝見していましたし、「蘇州夜曲」などは自分のコンサートで歌ったこともあります。でもその程度の知識しかなくて。今回出演することになって、初めていろいろ調べて、こんなたいへんな歴史を背負っていらしたのだと改めて驚きましたし、感動しました。

──シライさんはこの話を手がけるにあたって、一番考えたことは?

シライ まず資料を調べることから始まりましたが、古い資料というのはわりと一方の側からしか書いていないことが多いんです。それはどんな歴史関連の資料もそうで、時が経つにつれて多角的な検証もされるようになってくるのですが。この話もそういう視点で言えば、戦後7年も囚われ続けていた可哀想な日本人がいて、その解放に力を尽くした人たちの美談ということになります。でも戦後間もない頃ならまだしも、戦後75年も経った今では美しい話としてだけ書いていいのかと。そこがとても難しかったです。

──台本の中に、戦時中に日本軍がフィリピンで行った残虐な行為なども、具体的な数字とともに出て来ます。そういう史実も含め、起きたことをありのままに伝えたいというシライさんの姿勢を感じました。

シライ 僕らの世代は戦争をまったく知らないだけに、実際にあったことを知りたいし、そこに目が行くんです。この物語も美談として書かれた資料には違和感があって、美しいだけの物語として描いていいのか。その違和感というのはお客様もきっと感じるのではないかと。だからといって日本軍を糾弾する話になってしまうのはそれも違いますし。そのバランスに一番苦労しました。

苛酷な戦争の中でも人間らしさを見せられる人がいた

──おふたりは台本を読んでいかがでした?

島田 とても素敵な本だなと。壮絶で残酷な話も出てくるのに、ちょっとファンタジックな部分もあって、終わり方などもなんて素敵なんだろうと(笑)。最後は気持ちがフワッと温かくなるようでした。

──渡辺はま子さんの半生も描かれていますが、その中で戦争中の自分自身への思いが大きな軸になります。

シライ 彼女が戦争協力したという事実はないのですが、「私も戦犯だ」というはま子さんの言葉を書物で読んで、「そう思っていたのだな」と。加賀尾さんも、死刑囚を戦時中のような言葉で送り出したことは、正しかったのだろうかと後悔したのではないかと。加賀尾さんにしてもはま子さんにしても、正義感とか義務感とか倫理感だけで動いた人にしてしまうと、あまりにも人間味がないし、ただ暑苦しいだけの芝居になってしまう。みんな迷っていてほしいという僕の願望と、一度は、自分のやってきたことは正しいのだろうかと立ち止まったのではないか?立ち止まらせたいと。当時を知らない僕の世代だからこそ、そこをフィクションとして書きたいと思ったんです。

──大和田さんが演じる加賀尾秀忍さんも、たいへんな体験をされた方ですね。

大和田 宗教家ですからその使命感もあったと思いますが、シライさんがおっしゃったようにただの良い人ではなく、宗教家といえどやはり人間ですから迷いや悩みはあったと思います。でもそれを乗り超えて彼が行なったことは、僕などとても想像すらできないことで。一晩中、処刑される14人の死刑囚に寄り添って、1人1人に言葉をかけて、心やすらかに逝かせなくてはならなかった。それはいくら教誨師といえどなかなか体験しないことで、しかもその中にはたぶん冤罪の人もいたわけです。そういう彼の体験は想像を絶することで、そこが僕も一番探りたいし、描きたいことでもあるわけですが。いくらなんでも「よく耐えましたね」と言うしかないたいへんな体験で。

シライ 加賀尾さんの書かれた手記の半分くらいがその描写なんですよね。

大和田 1人1人をどういう言葉で送ったかということが書いてあって、そのあと明け方に疲れ果てて戻ってきたら、他の囚人たちから「ご苦労様でした」と慰めの声をかけられて、加賀尾さんは慟哭するのですが。それはどれだけの叫びだったろうかと。でもそういうことをやれた人間がいたということが、この厳しい社会に、そういう人間がいたということが救いになればいいなと思うんです。物語の中では、捕虜だったキリノ大統領に蚊帳を貸してくれた日本兵がいたという史実も語られます。あの苛酷な戦争の中でも、そういう優しさとか人間らしさを見せられる人がいた、人間らしさが残ることもあるのだという、そこは救いのような気がします。世界中が今たいへんな思いをしている。その中で一番大事なのは人への思いやりで、人を思いやるそういう社会であってほしいなと、そう思いながら稽古をしています。

──シライさんの作品は大きな状況を描きながら、節目節目に人間の持つ人間らしさを見せてくれて救いがあります。そこがシライさんの作劇のポリシーなのかなと。

シライ いやそんな大したことは考えてないのですが(笑)。歴史ものは難しくて、膨大な物量の史実を前にして、自分はそれをどう解釈して切り取るかなのですが、歴史的事実だけで作ろうとすると何時間あっても芝居が終わらないんです。それに、最終的には「人間は」というところに落とし込まないと、たんにWikipediaを貼り付けただけみたいな作品になってしまう。僕が観たい芝居は知識ではなく人間なので、情報量は少なめにして、そのとき人間がどう関わったかということが、僕が面白いと思うものなんです。

私に唯一できること、歌を歌いにきました

──この物語では、「あゝモンテンルパの夜は更けて」という曲が大きな役割を担います。音楽の力について、歌手でもある島田さんはどんなふうに感じていますか?

島田 音楽が魂を揺り動かす力はいろいろな場面で感じてきました。今回もはま子さんが、実際にフィリピンの刑務所に行ってステージに立つシーンがあるのですが、そこの台詞は、実際にはま子さんがおっしゃった言葉に加えて、どんな思いでここまでたどり着いたかを吐露する台詞をシライさんが書いて下さいました。とっても素敵な台詞なんです。はま子さんの人間味がすごくわかるんです。はま子さんは歌の力で戦争を後押してしまった、戦争を肯定してしまった、「自分は戦犯だ」という思いを背負って生きてきた。だからこそ「モンテンルパ」にこだわるし、なんとかして彼らを救いたい、と思います。そして、私は歌うことしかできないから、かつて歌によって犯した自分の罪を、同じ歌の力で償いたい、そして自分自身も救われたいと思ったのではないでしょうか。渡辺はま子さんは何に突き動かされてあんな行動ができたのかというと、その一点であったように思えてなりません。あまりに壮絶なはま子さんの人生とは比べものにもなりませんが、私もコロナ禍で自分に何ができるのか問いかけられることが多かった1年でしたから、「私に唯一できること、歌を歌いにきました」というこの台詞は、私にとっても一生のテーマだと思っています。

大和田 歌に限らず芸術も演説もそうですが、使う人、どう使うかで道具にされてしまう場合もあるわけです。音楽を利用した独裁者もいました。そういう意味では文化芸術は、どういうふうにそれを使うか、使う側も受ける側をちゃんとわかっていないといけない。やはりそれだけ人間の心を揺さぶるものだからで、演劇もそうですよね、観る人の心を揺らすわけで、どう使うかで意味が変わってくることを僕らはわかっていないといけない。だからこのコロナ禍の中で送り出すものは、たいへんな時期に演劇をやる意味をきちんと持っていないといけないなと思います。

──音楽や演劇は人間の想像力を広げてくれます。こういう時代だからこそ他者への思いに繋がるのではないかと。

大和田 そうですね。僕はこの厳しい時代の中で、一番大事なのは人が人をどう思いやれるかで、それが一番この時代の中で助けになると思うんです。演劇をたくさん観て想像力を広げてほしいなと思います。

僕たちにできる唯一のこと、演劇をやり続けます

──演出家としてのシライさんから見て、このおふたりの俳優としての魅力はどんなところですか?

シライ 僕は俳優として『飢餓海峡』(2007年)という作品で、歌穂さんと共演しているんです。遊び人の情夫というかヒモの役で(笑)。

島田 そう!(笑)

シライ それ以来のお付き合いで、僕が温泉ドラゴンを立ち上げてからも何度も観にきてくださって。

島田 シライ作品のファンなんです(笑)。

シライ 歌穂さんに出てもらえるようなちゃんとした作家にならなくてはと思っていたので、今回は本当に嬉しいです。獏さんはそれこそ、いつもテレビで観ている人でしたから、実は緊張していました(笑)。僕は基本的に知っている俳優さんには当て書きをするのですが、まだお会いしたことがなかったので、テレビの勝手なイメージで当て書きさせていただいたのですが、そのイメージが加賀尾とまったく違和感がない。それにすごく話しやすくて、最初はすごく緊張していたのが、まったく緊張しなくなりました(笑)。

──おふたりから見たシライさんは?

島田 私もケイタさんとはいつかご一緒させていただきたいなと思っていたので、今回とても嬉しいです。ただ、ケイタさんのお稽古場は「熱い!」と聞いていたので、厳しいのかなと覚悟していましたが、いろいろ話し合いながら、いいものはどんどん取り入れてくださる、すごく楽しい稽古場です。

大和田 僕は温泉ドラゴンという名前は知っていましたが、一度も観ていなかったので、どんな人かイメージも持っていなかった。ただ演出家の中には、頭の中に出来上がったイメージを持っている人がいて、シライさんもイメージ通りしたい人かなと思っていたら、全然違ってて、役者のイメージを大事にしてくれるので非常にやりやすいです。

──そんな皆さんで作るこの作品を観てくださるお客様へ一言ずついただけますか。

島田 こういう歴史があったのだということを、作品を通して知っていただきたいですし、渡辺はま子さんという実在の、戦争の時代のみならず、生涯を音楽で闘い抜かれた方を演じさせていただくのは本当に光栄なことです。コロナ禍の中ですが、今だから感じていただけることが沢山描かれています。皆様に安心してご覧いただけるよう、万全の対策のもとお待ちしておりますので、お一人でも多くのかたにぜひ足を運んでいただければと思っています。

大和田 こういう困難なときにやることへの迷いなどもありますが、その時期にやるからこそ、この時期にやってよかったねという作品にしたいと思っています。その中で、一番感じているのは「困難なときほど人間は試される」ということで、そんなときだからこそ、「人は人に優しくあれ」というメッセージをお伝えしたいと思っています。

シライ 演劇をやっていいのかどうかということを散々考えてきましたし、演劇自体も攻撃されました。じゃあなんでやるんだとずっと考えてきて、理屈ではなく、はま子さんの「歌を歌いにきました」という言葉のように、自分にできる唯一のことで、自分にとって必要だからやるんだと。批判もあるでしょう。でも人間が生きるのをやめることができないように、演劇をやめることはできないので、精一杯できる対策をして、僕たちにできる唯一のこと、演劇をやり続けます。もしよろしかったら観にきていただければ嬉しいです。

■PROFILE■

おおわだばく○福井県出身。73年、俳優としてデビュー。以降、映画やドラマへの出演多数。また昼の情報番組『ワイド!スクランブル』のメインキャスターや、『獏さんのひゅーまんテレビ』(TX)の司会などで活躍。主な出演作品は、テレビ『二十一歳の父』『おんな太閤記』『渡る世間は鬼ばかり』、舞台『歌姫』『萩咲く頃に』『天国のシャボン玉ホリデー』『滝口炎上』『くちづけ』『Sing a Song』など。

しまだかほ○東京都出身。1974年、子役デビュー。87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で脚光を浴び、同作の世界ベストキャストに選ばれ、出演回数は1,000回を超えた。近作では、17年『ビリー・エリオット』、18年『メリー・ポピンズ』『ナイツテイル─騎士物語─』に出演し好評を博す。芸術選奨文部大臣新人賞(88年)、紀伊國屋演劇賞個人賞(07年)、読売演劇大賞優秀女優賞(07年)など受賞多数。大阪芸術大学教授。

しらいけいた○東京都出身。桐朋芸術短期大学在学中に、蜷川幸雄演出『ロミオとジュリエット』(彩の国さいたま芸術劇場)のパリス役で白井圭太としてデビュー。テレビドラマ、CM多数。2011年よりシライケイタとして劇作・演出を開始。現在、温泉ドラゴン座付き作家・演出家。演出を手がけた舞台『実録・連合赤軍 浅間山荘への道程(みち)』『袴垂れはどこだ』の2作が高く評価され、第25回読売演劇大賞「杉村春子賞」を受賞。

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『モンテンルパ』
作・演出:シライケイタ
出演:大和田獏 島田歌穂 真山章志 髙橋洋介 辻井彰太 斉藤美友季
●1/23~30◎東京芸術劇場シアターウエスト
〈料金〉一般前売¥5,500 当日¥6,000(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
U-25(25歳以下)/¥3,000 シニア(60歳以上)/¥5,000
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.tomproject.com/peformance/muntinlupa.html

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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