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トム・プロジェクト プロデュース『風を打つ』間もなく開幕! 音無美紀子・太川陽介・髙橋洋介・いわいのふ健・岸田茜 座談会

トム・プロジェクトによるプロデュース公演、『風を打つ』が11月7日から俳優座劇場で開幕する。(17日まで)

1959年、水俣で発生した公害は海を汚し、そこに生きる魚だけでなくそれを食べた生き物にも甚大な被害を及ぼした。その被害を受けたある一家の34年後を描く物語が、この『風を打つ』だ。

──1993年水俣。あの忌まわしい事件から時を経て蘇った不知火海。
かつて、その美しい海で漁を営み、多くの網子を抱える網元であった杉坂家は、その集落で初めて水俣病患者が出た家でもあった…。
長く続いた差別や偏見の嵐の時代…。
やがて、杉坂家の人々はその嵐が通り過ぎるのを待つように、チリメン漁の再開を決意する。
長く地元を離れていた長男も戻ってきた。しかし…本当に嵐は過ぎ去ったのか?
家族のさまざまな思いを風に乗せて、今、船が動き出す…。
生きとし生けるものすべてに捧ぐ、ある家族の物語──

物語の主人公の杉坂夫妻に音無美紀子と太川陽介、家を飛び出し東京で暮らしていた長男功一に髙橋洋介、その妻で東京生まれの貴子に岸田茜、家に残って漁を営む次男の悟はいわいのふ健。杉坂家の家族を演じるキャスト5人に、作品と役柄について話してもらった。

後列/いわいのふ健 岸田茜 髙橋洋介 前列/太川陽介 音無美紀子

バイタリティがあって、真っ直ぐで信念のある女性

──まず今回の役について伺います。音無さんが演じる杉坂栄美子という女性ですが、これまで演じてきた中でも特別な強さを持っている女性ではないかと。

音無 この役は杉本栄子さんという実在の方がモデルになっているんです。水俣病の訴訟では先頭に立って闘って、その後も水俣で起きたことを風化させないために語り部として活動された方です。資料も沢山ありまして、それを読めば読むほど私でいいのかしらと思うほどで。それに実在の方がモデルという役も初めてなので、やはりプレッシャーがあります。でもすごくバイタリティがあって、非常に真っ直ぐで信念のある女性で、人間としてとても魅力的ですし、演じ甲斐のある役だなと思っています。

──そして栄美子の1つ年下の夫、杉坂孝史役は太川陽介さんです。おふたりは今までに共演は?

音無 意外と共演してないんです。ドラマで一度と舞台で一度かな。

太川 ドラマは『熱中時代』です。視聴率40何%という数字を取ったお化けドラマで、僕は校長の息子で高校生役、音無さんはそこに下宿する教師の役でした。

音無 それがまさかの夫婦役だなんてね(笑)。

──栄美子と孝史はとても仲の良い夫婦ですね。

太川 杉坂家の跡取り娘の栄美子を好きになって、孝史は婿養子に入るんです。網元の家なので栄美子は漁にも出るし気が強いんですが、周りの人を大事にする。孝史はそこに惹かれたんでしょうね。

音無 優しい夫ですよね。ちょっと優柔不断なところもあるけど(笑)。

太川 でも家族全体を見ているし、奥さんをしっかり支えているんです。そこはちゃんと見せたいですね。

特別な家族ではなく普通の家族に起きた特殊なこと

──長男の功一役は髙橋洋介さんです。

髙橋 功一は一度家を飛び出しているんです。小さい時に両親が2人とも水俣病で入院してしまったので、弟たちの世話をしながら漁にも出て、網元の息子だからと頑張っていたのに、裁判で勝って保証金が入ったら、もう漁もやめるから船に乗らなくていいと言われて、そういう両親に反撥するんです。それで14年間東京で暮らしていたんですが、妻を連れて戻ってきます。

──功一の妻は岸田茜さんが演じます。貴子はなかなか面白い女性ですね。

岸田 良い奥さんですよね。東京の生まれですけど、最初は迷っていた水俣での暮らしにも馴染んでいける逞しさもあるし、とても前向きです。この役はたぶん観客の目線に一番近いのかなと。貴子は水俣という土地にも水俣病というものにも初めて出会って、知識としては知っていただけのその現実に飛び込んでいくわけですが、そういう彼女を通してお客さんに伝えられるものがあるのではないかと思っています。

──そして四男で悟を演じるのは、いわいのふ健さん。

いわいのふ 悟も一度は漁をやめるんですが、今は家を継いでいます。僕は広島出身なので、この作品に重なることも色々あって。東京にいると「田舎があっていいな」と周りのみんなに言われるんですけど、別に良いところでもないし、田舎には田舎のリアルがあるし、災害もあったりするし、父親など「まさか被災者になるとは思わなかった」とポロッと言ってましたが、でも生活は続いていく。そう考えるとこの話も特別な家族ということではなく、普通の家族に起きた特殊なことであって、そういう考えの上で、兄ちゃんとの関係や両親との関係を考えながら、悟を演じたいと思っているんです。

──兄の功一との関係はちょっと複雑ですね?

いわいのふ 帰ってくることは嬉しいと思うんですよね。ただ兄ちゃんの出て行き方が、何もかも放り出して行った感じが、悟にはちょっと許せないところはあるんじゃないかなと。

あからさまな差別といじめ、無知であることの怖さ

──音無さんが出演したトム・プロジェクト作品の『萩咲く頃に』も、家族もののお芝居でした。全国巡演を何度もしていますが、観客の反応はいかがでした?

音無 今回は水俣病というテーマが1つあるので、かなりケースは違うのですが。『萩咲く頃に』は、どの会場でも皆さん自分の家族と重ねて観てくださって、とくに長男が引きこもりだったという設定については、そういう家族を持つ方が沢山いらっしゃって、お客様の色々な声が届いてきました。

太川 でもこの作品も、家族関係として見たらわりとよくある形で、兄弟の関係なども典型的というか、兄が出て行っちゃったから仕方なく下の子が家業を継ぐとかね。それで東京で失敗して帰ってきて、また一緒にやろうとか、悟としてはいやだよな。

いわいのふ 自分なりに一生懸命にやっていたのに、どうしても長男のほうが大事にされるんですよね。そこはちょっと(笑)。

全員 (笑)。

太川 孝史は、そういう子供たちの思いもわかりながら、病気の妻のこともいたわりながら、みんなをきちんと気遣っている。良い父親なんです。

──このご夫婦はとても明るいんですよね。でも実は、国や企業だけでなく、同じ被害者や同じ町の人とも闘わなくてはいけない状況があって、そこがつらいですね。

音無 杉本栄子さんの書かれた原作を読むと、村八分にされるんですが、それが本当に信じられないほどひどいんです。無知の怖さですよね。今、東日本大震災と原発被害の方々もそういう目にあっているのですが、あからさまな差別といじめが行われるんです。

岸田 私もその話を読んで、昨日までの隣人が平気で手のひらを返すんだと怖かったです。

髙橋 今でも人間の本質はそんなに変わってないと思います。ふとしたことで意見や態度を変える。そういう弱さは誰にでもあるわけで。そういうときに家族であったり、奥さんだったり子供だったり、そういう存在が平常に戻してくれるんですよね。やっぱり人間は孤立していると弱いですから。

──この家族は最終的には絆が固くて、そこが救いですね。ところで家族を演じる皆さんは、音無さんと太川さん以外は皆さん初顔合わせだそうですが、お互いについての印象は?

音無 イケメンの息子2人で嬉しいです(笑)。

いわいのふ えーっ!?(笑)

髙橋 いやいや(笑)。

太川 僕は最初、こんなに大きな息子たちがいるんだ?と思ったんだけど、実年齢から考えるとおかしくないんですよ(笑)。だから稽古を積み重ねる中で親子として違和感ないように、関係を成立させていこうと思っています。

家族の話がやりたかった。やっと両親を呼べます(笑)

──子供たちから見て両親役のおふたりは?

いわいのふ とにかく頼りがいがあります。

岸田 何でも受け止めていただける大きさがあるので、お芝居でもぶつかっていけます。それにおふたりとも本当に気さくなんです。

髙橋 座組って長になる方や経験の長い方たち次第で稽古場の空気が全然違うんですよね。僕はビシッとするのも嫌いじゃないんですが、クリエイトする場では自分らしさを出していけるほうがいいなと思うので、その点おふたりなら安心できます。

──音無さんは、トム・プロジェクトへの出演はもう3本目ですね。トム・プロ公演の魅力はどんなところですか?

音無 まず、すべてがオリジナル作品ということは凄いことですよね。次はどんなテーマを打ち出してくるのかなと、いつも楽しみです。私はほとんど毎公演観ているのですが、客席で感じる手作り感、みんなで一丸となって作っている感じ、それが大好きです。

太川 僕も作品は3本くらい拝見していて。

音無 うちの村井(國夫)が出ていた『砦』も観てくれたんです。

太川 そのときトムの社長にロビーでお会いして、その場で「出してください」って言ったんです(笑)。

音無 商業演劇以外は初めてでしょ?

太川 そうなんです。すごく新鮮な気持ちですね。

髙橋 僕は何度も出させてもらっていますが、出演する俳優の方々が個性的で、しかも演技もうまいんです。僕は稽古を見るのが好きなんですけど、こういう解釈でこういう表現をしてくるんだと、毎回皆さんに刺激されますね。

岸田 再演される作品が多いなと思います。私も出演した『百枚めの写真』とか『エル・スール』、音無さんのお話に出た『萩咲く頃に』もそうですが、全国から来て下さいと呼ばれるような作品が沢山あるのがいいですね。

いわいのふ 観ているときに受けた印象は、いわゆる新劇の主張のある作品に近いんですが、でも独特の温かさがあるなと。僕らの温泉ドラゴンも主張のある舞台なんですが、温かさとは遠くて、僕なんかヤクザとか殺し屋とか、裸で褌1つで出たり(笑)。とくにここ数年はそういう作品が多かったので、家族の話とかやりたくて仕方なかったんです。今回やっと両親を呼べます(笑)。

音無 よかったわね(笑)。

生まれ育った郷土への愛、ふるさと愛の話

──では最後に、そんな皆さんで作る舞台『風を打つ』を改めてアピールしていただけますか。

いわいのふ すごく素敵なメンバーが揃っているので、僕も精一杯やろうと思っています。ぜひ僕のやる家族の話を観にきてください。

岸田 今回、水俣病の話ということで「重い話?」と心配される方もいらっしゃるんですけど、そんなことはなくて、家族や人間の在り方などとても普遍的な話ですし、しかも明るく生きる家族の話なんです。ぜひ沢山の方に観ていただきたいです。

髙橋 僕もとても温かい家族の話だと思いますが、その話をさらに俯瞰的に見ると、やはり胸にズシンとくるものがあるなと。それを功一という自分の役を深める作業と同時に、ずっと考えていきたいと思っています。

太川 僕は、皆さんがいつもテレビで見ている太川陽介とは違う、「あ、こういう太川もあるんだ」と思ってもらえればいいなと。役者としてきちんとやっている太川をお見せしたいと思います。

音無 私、今回のポスターが爽やかで気に入ってるんです。これは水俣の話ですけど、福島の方々の話でもあるし、色々な人たちの、故郷をふるさとを取り戻したいという話でもあるんです。生まれ育った郷土への愛、ふるさと愛、そして壊されてしまった人間関係を取り戻したい、あの頃の良い町に戻りたい、きれいな海に戻したい、そういう愛に溢れた作品です。それをこの家族で一生懸命に伝えたいです。

■PROFILE■

おとなしみきこ○東京都出身。1971年、TBSポーラテレビ小説『お登勢』のヒロイン役でデビュー、以後、多くのテレビ、映画、舞台で活躍。近年の主な舞台は『女たちの忠臣蔵』『佐賀のがばいばあちゃん』『三丁目の夕日』『菊次郎とさき』『おたふく物語』など。トム・プロジェクト公演は『萩咲く頃に』、『にっぽん男女騒乱記』に出演。

たがわようすけ○京都府出身。1976年、「陽だまりの中で」でレコードデビュー。翌年の「Lui-Lui」が大ヒット。俳優、司会者としても活躍。1989年のミュージカル『エニシング・ゴーズ』をきっかけに舞台へも進出、近年の主な出演作は『細雪』(2000年~2019年)『南太平洋』『キス・ミー・ケイト』(2017年・2018年)など。

たかはしようすけ○北海道札幌市出身。カリフォルニア州立サンタモニカ大学演劇専攻卒業。ヨーロッパを中心に舞踏ダンサーとして活動。アメリカの演劇学校でメソッドを習得し帰国。劇団TRASHMASTERSに所属。劇団以外の近年の舞台は、近代能楽集『綾の鼓/卒塔婆小町』ペシャル・リーディング『蜜柑とユウウツ』『今、僕は六本木の交差点に立つ』、トム・プロジェクト公演は『明日がある、かな』『Sing a Song』『芸人と兵隊』など。

いわいのふけん○広島県出身。2012年の第4回興行公演『birth』から温泉ドラゴンに加入。以降すべての作品に参加。映像やナレーションでも活躍中。最近の主な舞台は、『幸福な動物』『嗚呼、萬朝報!』『THE DARK CITY』『渡りきらぬ橋』(以上温泉ドラゴン公演)、metro『陰獣 INTO THE DARKNESS』劇団俳小『殺し屋ジョー』など。

きしだあかね○東京都出身。新国立劇場演劇研修所三期生。近年の主な舞台は、『ぺてんばなし』『百枚めの写真 ~一銭五厘たちの横丁~』『エル・スール ~わが心の博多、そして西鉄ライオンズ~』『欺瞞と戯言』『熱風』『あとは野となれ山となれ』(以上トム・プロジェクト公演)、Kawai Project vol.5『お気に召すまま』など。

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『風を打つ』
作・演出◇ふたくちつよし
出演◇音無美紀子 太川陽介 髙橋洋介 いわいのふ健 岸田茜
●11/7~17◎俳優座劇場
〈料金〉一般前売¥5,000 当日¥5,500 U-25(25歳以下)¥2,500 シニア(60歳以上)¥4,500(全席指定・税込)
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00~18:00)
https://www.tomproject.com/peformance/kaze.html

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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