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トム・プロジェクト公演『無言のまにまに』 斉藤とも子・髙橋洋介・原口健太郎 インタビュー  


信州上田にある戦没画学生慰霊美術館「無言館」は、戦地への召集を受けながらも、最後まで絵筆を握り続けた画学生たちの絵を集めた美術館。その絵を私費を投じて探し集め、美術館を設立した人物がいた。

その男・坪島啓一郎(モデルとなったのは窪島誠一郎氏)を主人公に、時代に翻弄された様々な家族の有り様を描き出すトム・プロジェクトの『無言のまにまに』。

この作品が6月4日から12日まで、両国シアターΧで上演される。(6/18に山形公演あり)

《あらすじ》
戦後からの脱却をスローガンに好景気に沸く東京。
靴の修理を生業とする貧しい家庭に育った男は、貧乏を憎み、不器用な父母を憎み、やっとの思いで富を得た。
しかしやがて心に一抹の虚しさが訪れるようになる。
ある日、男は1冊の画集と出会う。「祈りの画集」。戦没画学生を扱った画集だった。
戦地への召集を受けながらも最後まで絵筆を握り続けた画学生たちの青春…
ひっそりと保存されたままになっている数多の作品たち…
それらを守ってきた残された家族の思い…。
男はそれまで気づけずないがしろにしてきた父母の深い愛情に、悔恨とともに気付かされていく…。

この公演で主人公の坪島啓一郎を演じる髙橋洋介、その母親役ほか3役を演じる斉藤とも子、絵を集めるきっかけとなる小宮山豊治役の原口健太郎が、内容や役柄を語り合った「えんぶ6月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

原口健太郎 斉藤とも子 髙橋洋介

一番愛していたものを描いて残した

──皆さんは無言館にそれぞれ行かれたそうですね。

原口 僕は3年前に旅公演をしている途中で、誘われて役者仲間と一緒に行きました。1つ1つの絵についての上手い下手とかはよくわからないのですが、それが集まった空間は迫力がありました。僕が一番興味を惹かれたのは葉書で、小さな絵で軍隊生活を報告していて、僕もきっとぎりぎりまで文章で何か書いてるだろうなと想像したら、ちょっと胸に迫りました。

斉藤 私は5年くらい前に友だちと一緒に。ちょうど雪が降っていて辺りが真っ白でよけい特別な雰囲気が漂っていました。そして本当に1枚1枚の絵というより全体が醸し出す「気」みたいなものを感じました。友だちが1歳ぐらいの男の子を連れていたのですが、最初は恐がって、でもほとんど風景とか人物画ばかりの中に、猫か何かそういう動物の絵が1枚だけあって、その絵を喜んで見ていました。それを描いた方は、まさか70年後に自分が描いた絵で小さな子が喜んでくれるとは思わなかっただろうなと、胸がいっぱいになりました。上手い下手ではないんです。一番愛していたものを描いて残した、それが胸に迫りました。

髙橋 僕が行ったときもほとんど人がいなくて、教会みたいにシーンとした中で見ていたんですが、描いた人について書いてある「どこで生まれてどこで戦死した」という解説を読んでいるだけで、その人について様々な想像がわいてきて、そのせいか館を出たときはものすごく疲れていました。

斉藤 枚数はそんなに多くはないし、そんなに広いところでもないのにね。

原口 普通の美術館のようにすっと通り過ぎてはいけない気がするんだよね。

この人たちの息子は死んで僕は生きて帰ってきた

──髙橋さんは無言館を作った坪島啓一郎を演じるわけですが。

髙橋 すごい人だなと思います。ただ彼は自分の出生や親についても悩んでいて、そのためかちょっと変わり者で(笑)、でも嫌な人間にしたくないなと。絵を探して色々な家族に会うなかで、彼は彼なりに葛藤してきたことを、観ている方にわかってもらえるといいなと思っています。

──斉藤さんはなんと3役ですね。

斉藤 啓一郎の育ての母マツと、戦没画学生の兄嫁と、弟を亡くした静江という女性です。私はずっとおばあちゃん役を演じてみたかったんですが、マツさんは50代~70代位までの役なので、「えっ、私にこの役やらせていただけるんだ!」とすごく嬉しくて(笑)。静江さんはもっと年を取っている役なので、難しいけど楽しみです。

──原口さんは坪島の先輩で、絵を探す旅の発案者でもあります。

原口 仲間たちを戦争で亡くして、でも自分は生きて帰れた。だからこれこそ自分がやるべきことだと思って始めたけど、遺族と会うたびに、この人たちの息子は死んで僕は生きて帰ってきたということで苦しみます。自分が生き残ってしまったという実感をきちんと持って演じたいですね。

──重いテーマを含んだ作品ですが、見どころもぜひ。

原口 見どころは「絵」ですね。本物がスライドで出ますから。ただ絵の力はすごいから、勝負しようとか思わずに、絵の邪魔をしないように。そして絵にも興味を持ってもらえるようにしたいですね。

斉藤 絵を皆さんに観てもらえるだけでも嬉しいですよね。それと実際に無言館を作った窪島誠一郎さんという人を聖人のように描いていない、そこが大事で、もがき苦しんで答えが見つからないままで、でもそれが生きているということだと思うんです。私も窪島ハツという実在の方を演じるわけですが、ハツさんのことを知りたくなったり、本物の絵を無言館へ観にいきたくなるような、そういうちょっとした何かを皆さんの心に投げかけられたらと思っています。

髙橋 こういう時代ですが、人が集まってものを作っていくのが演劇ですから、そうやって出来上がったものをぜひ観ていただきたいです。

原口健太郎 斉藤とも子 髙橋洋介

■PROFILE■

さいとうともこ○兵庫県出身。女優として映像や舞台で活動しながら、03年社会福祉士資格取得。著作『きのこ雲の下から、明日へ』により平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞、日本ジャーナリスト会議市民メディア賞を受賞。最近の出演舞台は『かもめ来るころ-松下竜一と洋子-』『熱風』『痕跡』『静かな海へ』『明日がある、かな』『黄色い叫び』『骨ノ憂鬱』『かげぜん』『飛ぶ太陽』など。

たかはしようすけ○北海道札幌市出身。アメリカやヨーロッパでの活動を経て、劇団TRASHMASTERSに所属。劇団以外の近年の出演舞台は、近代能楽集『綾の鼓/卒塔婆小町』、スペシャル・リーディング『蜜柑とユウウツ』、『今、僕は六本木の交差点に立つ』。トム・プロジェクトでは『明日がある、かな』『Sing a Song』『芸人と兵隊』『風を打つ』『沖縄世うちなーゆ』『モンテンルパ』など。

はらぐちけんたろう○茨城県出身。演劇企画グループ木冬社を経て劇団桟敷童子の旗揚げに参加。最近の劇団公演は『骨の憂鬱』『獣唄』『獣唄2021』『飛ぶ太陽』。劇団以外の出演舞台は、舞台『トンマッコルへようこそ』、オフィスコットーネプロデュース『怪談牡丹燈籠』、劇団チョコレートケーキ『無畏』、トム・プロジェクトでは『百枚めの写真 ~一銭五厘たちの横丁~』『砦』などがある。

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『無言のまにまに』
作・演出:ふたくちつよし
出演:斉藤とも子 髙橋洋介 原口健太郎
生津徹 中嶋ベン 吉田久美
●6/4~12◎東京・両国シアターΧ
〈料金〉一般/前売5,500円 当日6,000円 U-25[25歳以下]3,000円 シニア[60歳以上]5,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト03-5371-1153(平日10:00~18:00)
https://www.tomproject.com

《山形公演あり》
●6/18(土) 18:30 大石田町町民交流センター「虹のプラザ」 0237-35-2094
http://niji.town.oishida.yamagata.jp/

 

【構成・文/宮田華子 撮影/田中亜紀】

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