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劇団扉座『最後の伝令 菊谷栄物語』間もなく開幕! 横内謙介×横山結衣 インタビュー

扉座の第65回公演『最後の伝令  菊谷栄物語 ー1937年津軽〜浅草ー』が、11月23日・24日に厚木市民会館小ホールで、11月27日~12月1日に新宿・紀伊国屋ホールにて上演される。

この作品は、2007年に作・演出の横内謙介が浅草のレビュー小屋を舞台にした『モダンボーイ』を木村拓哉主演で作り、その劇中で平田満が演じたレビュー作家の後日譚ともいうべき物語。「日本の喜劇王」と呼ばれたエノケン=榎本健一の一座でレビュー作家として人気を博した菊谷栄(本名・菊谷栄蔵)を中心に、浅草と津軽の人々とあの時代を描いている。

──大震災からの復興が進む昭和初期、浅草。怪しげな芸人たち、媚態を売る踊り子たち、見世物崩れの怪人たち。津軽から上京した娘・北乃祭は、浅草の劇場で働く遠縁の男を頼り、レビュー小屋を訪ねる。その男、菊谷栄蔵は知る人ぞ知る浅草の寵児として、新たな舞台芸術の創造を真摯に夢見ていた。そのレビュー小屋で、北乃祭が踊り子修行を始めた頃、栄蔵は召集され北支戦線へと出征する──

この物語の中で浅草と津軽を結ぶ踊り子、北乃祭役に扮するのが、AKB48 Team8で活躍する横山結衣。本格的な演劇への出演はこれが初めてという彼女と、その資質を認めてキャスティングしたという横内謙介に、作品世界への思いを語ってもらった。

アイドルは可愛くという定義からはずれても

──横山さんはこれまでに芝居の舞台は?

横山 AKB48 Team8の舞台で横内さんが演出してくださった『KISS KISS KISS』(2018年7月) という作品に出たのが初めてです。

横内 『KISS KISS KISS』の出演者はオーディションで決めたんですが、その前にたまたま僕が名古屋にいたときにTeam8のライブがあって、それを観たんですが、40人以上いる中でこの人の踊りがすごく目立ってて。踊りが得意だとは聞いていたけれど、その踊り方がすごくて、まるで鬼というか「なまはげ」が踊ってるみたいな(笑)。

横山 そんな!(笑)

横内 髪振り乱してて1人だけアイドルの踊りじゃないのがいるなと(笑)。

横山 いつもそうなんですけど、私は歌とか踊りとか好きで、自分でも得意だと思っているので、毎ステージ毎ステージ100%プラスαぐらいの気持ちでやるというのを目指しているんです。その点ではアイドルは可愛くという定義からはちょっとはずれているかもしれないです。

──ポリシーがあるんですね。横並びではなく自分の表現へのこだわりがある?

横山 はい。パフォーマンスに関してはなによりもそれを大事にしてきたので。

横内 梅棒の9月の公演にも出ていて、すごく目立ってた。

横山 『ウチの親父が最強』という舞台です。

横内 ゲストとかじゃなくて普通に一緒に踊って、梅棒のメンバーみたいだと言われていたくらいで。歌もうまくて、AKBの歌唱コンテストのファイナルに残ったんだよね。

横山 歌は基礎的な勉強はしてなくて、自分の好きなように歌ってるだけなんですけど、好きです。

──『KISS KISS KISS』でのお芝居はどんなものだったのですか?

横内 オムニバスで歌や踊りの入った舞台で、コントとかショーとか何本か並べる形で作ったんですが、全部を通す芯になる芝居が欲しいと思って、「なまはげ」のダンスを思い出して『サロメ』を入れたんです。ただオーディションのときは声も出てなかったし、サロメ役がちゃんと出来るかちょっと心配だったから、他のキャストより先に何回かレッスンしたんです。稽古しているうちに徐々に「なまはげ」パワーが出てきた(笑)。

横山 もう!(笑)

──演じた本人としてはどうでした?

横山 稽古期間中はいやだったんです。自分の中でなかなか進歩が見えないし、うまくなっている感覚がなくて。せっかく長台詞をいただいたのに全然覚えられないし(笑)、舞台ってたいへんだなと。でも終わってから、私楽しかったんだと気づいて。達成感とか色々な感情がじわじわ湧いてきて、舞台って素敵だなと。稽古途中では「ダメだ!」と思ったりしたんですが、横内さんに導いていただいたおかげです。

横内 稽古中よりも舞台の上でどんどん変わっていったね。いわゆる憑依型の女優さんで、頭で考えるというより気持ちが動くと出来るタイプだから。ヨカナーンの血まみれの首にキスをするという普通の感覚ではできない芝居にどんどん本気になっていくから、やっぱり「なまはげ」だなと(笑)。

横山 違います!(笑)

──そのお芝居の成果もあってこの作品に出演ということになったわけですが、オファーを聞いていかがでした?

横山 嬉しかったです。まさか扉座さんによんでいただけるなんて思ってもいませんでしたから。

──横山さんは小さい頃から女優になりたかったのですか?

横山 女優というよりアイドルになりたかったんです。でも青森ではオーディションの機会はほとんどないですし、わざわざ東京に受けに行くとかいうこともないままでした。それが私が中学生になったとき、AKBが青森でも募集することになって、すぐ応募しました。芸事はダンスしかできなかったんですが。

──ダンスは習っていたのですか?

横山 小学校からダンススクールでヒップホップを習っていました。

──体が動くと演技にも役に立ちそうですね。

横内 ただ踊りが上手すぎると言葉が不自由というか、先に体が動いちゃう人もいるんです。でもこの人はそこは意外に早くクリアできた。芝居への感覚が鋭いんだと思う。それに10月まで梅棒に出ていたから、台本なんか読む暇ないだろうと思っていたら、ちゃんと読んできてるし、『サロメ』と比べると相当伸びていて、1年でこれだけ伸びるんだと。

横山 台本はとにかく読まないといけないなと思って、でも時間がなくて、梅棒の公演中も楽屋で読んだりして、稽古初日は本当にドキドキしました。

最先端のショーやコントを作っていた菊谷栄

──今回の物語ですが、『モダンボーイ』に出て来た浅草のレビュー小屋が、再び舞台になるのですね。

横内 『モダンボーイ』は浅草を書こうと思った作品で、今回は津軽を書こうと思ったんです。津軽出身の菊谷栄という人が、レビューという日本最先端のものへの想いを抱えながら、出征していかなければならなかった。それを1回書いておきたいなと思ってた。それに『モダンボーイ』では、菊谷栄の役を平田満さんが演じたんだけど、話の主役ではなかったんです。そういう意味では菊谷栄をちゃんと書きたかった。それと、横内家のルーツは津軽なんですが、僕自身は住んだことがないし、子供時代はあまりピンときていなかった。でも演劇鑑賞会で行く度にすごくお世話になって、その人たちの中に菊谷栄に縁のある人がいっぱいいて、会うたびに菊谷栄の話をしてくれる。本当に偶然だけど色々な縁があったわけです。それで、やろうと決めてから青森の方言を喋れる人間が欲しいなと。古くからの演劇仲間で青森出身の草野とおると劇団員で八戸出身の鈴木利典がいて、あとは踊り子だと思っていたら、ちょうどぴったりな人がいた(笑)。

──出会うべくして出会ったという感じですね。

横内 僕はその前の2ヶ月、『オグリ』をはじめいくつかの公演を掛け持ちしていて、書く時間があまり取れなかったんだけど、踊り子が菊谷栄のいる津軽の旅館に、浅草からの伝令としてやってくると決めたら、そこからあまり苦労しないで書けた。祭というキャラクターが勝手に喋ってくれたんです。

──横山さんは、最初に台本を読んだときの気持ちは?

横山 読む前は戦争の話が出てくるということで、大丈夫かなわかるかな?とドキドキしていたんですけど、読んでみたら想像以上にわかりやすく書かれていて、読みながら気持ちが動きやすかったです。

横内 そりゃあ『サロメ』よりは共感しやすいよな(笑)。

──その主人公の菊谷栄蔵を演じるのが有馬自由さん。

横内 ちょっと年齢は上だけど、写真を見ると似てるんです。それにインテリというところも有馬と重なる。浅草のちょっと猥雑な世界にインテリが入って、パリとかニューヨークの舞台を思い描きながら最先端のショーやコントを作っていた。そんな作家がいきなり召集されてしまう。昭和12年という時期はまだ日中戦争が始まったばかりで、若者でもない34歳のしかもレビュー作家が、戦場へ連れて行かれたわけです。

──風刺劇を書いていたことで軍部に睨まれたのでしょうか?

横内 かつて志願兵だったという経歴があったことで、下士官として取ったのではないかと一応言われていますが。そして9月に入隊して11月に戦死しています。死因は頭部貫通ですから、先頭で突っ込んでいったのかなと。

──とても才能のある作家だったようですね。

横内 最初は絵描き志望で、美術スタッフで手伝っていたエノケン一座で脚本を書くようになって、1932年から死ぬまでの5年間で100本も書いてるんです。

──今回のタイトルにも使われた『最後の傳令』も風刺劇で、人気演目の1つだったそうですね。エノケンの一座は、日本が戦争に突入した頃もまだ浅草で軽演劇を上演し続けていて、今から考えるとすごいことだなと。

横内 意識としてはこんな時代に暗いものをやってどうするんだというのが、彼らの中にあったわけです。ただ、今回改めて資料や歴史を詳しく調べてみたんですが、いわゆる太平洋戦争の開戦(昭和15年)とそれ以前ではすごく違いがあって、昭和12年に菊谷は出征して中国で戦死するのですが、中国との戦争の時代はまだそんなに検閲なども厳しくなくて、アメリカとはまだ戦っていないので、菊谷の手紙にも英語が出てきたり、横文字もまだ大丈夫だったんです。思想的な検閲はありましたけどね。そこから何年かのうちに横文字も検閲されるようになるわけですが。だから終戦後の復興では、「昭和8年に戻れ」が合い言葉でだったそうです。昭和8年には何でもあった。デパートもジャズも車もなんでもあった。そこから12年間で何もかも消えていくんです。

何年か後にはミュージカルで活躍する女優に

──この公演は有馬さんはじめ扉座のベテランの方が沢山出ていて、頼もしいですね。

横内 このところ若者の芝居が続いていたんですが、今回はちゃんと台詞をやらないといけないので。でも津軽弁でいきなりハードルあげちゃったから、津軽の場面に出る岡森諦とかはたいへんだと思います(笑)。そこへ伝令としてくるのが横山さんで、津軽出身の踊り子なんだけど、東京の香りを持ってこないといけないという役だから。

横山 責任重大です。

──ぴったりですね。

横内 うちの劇団員たちも、横山さんが台本を読み始めたら、すぐこの人を選んだ意味はわかったから。

横山 横内さんがハードルあげてくるので本当に心配です(笑)。

──それだけ期待しているのでしょうね。

横内 踊りはすごいし歌もうまい。芝居は役に入ることはできるので、あとは、なぜこの台詞になるかとか読み込む経験を積む必要があるけど、たぶんちゃんと芝居も覚えたら、何年か後にはミュージカルで活躍する女優になっているんじゃないかと。まだ18歳だから、22歳とか23歳になったら、絶対に見せられる女優になれると思っているので。

──これからの活躍が楽しみです。では最後に改めて公演のアピールを。

横山 今回、題材が浅草と津軽ということなので、私にとってもそんなに遠くないお芝居で、まだ演技というものにはあまり慣れていませんが、皆さんに引っ張ってもらいながら、私自身も成長できるようにがんばりたいです。観てくださった方に何かを伝えられるようなお芝居ができるようにがんばります。

横内 久しぶりに芝居だけで見せる舞台で、レビューシーンはありますが、いつも以上に芝居をきちんと見せようと思っています。そういう意味でもディープな演劇ファンにぜひ観てもらいたいなと。そして、別に昭和の歴史を自分の主戦場にするつもりはないのですが、たまたま菊谷栄は縁があるということで、その背景もちゃんと描きたかった。そういう意味では心をこめて書きました。横山さんはこれからもアイドルをやっていくと思いますが、どんどん可能性を広げてほしい。扉座のこの作品もその糧になれたらいいなと思っています。

──今回は故郷の青森での公演はないのですね?

横内 残念だけど、いつか青森で公演したいですね。でもわざわざ青森から観にきてくれる人もいるみたいで有り難いです。横山さんの両親にも来て貰えるといいね。

横山 はい。絶対に観てほしいです。

横内謙介・横山結衣

よこうちけんすけ○東京都出身。82年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。最近の扉座公演は『歓喜の歌』『郵便屋さんちょっと2017』『江戸のマハラジャ』『リボンの騎士~県立鷲尾高校演劇部奮闘記2018~』『無謀漫遊記~助さん格さんの俺たちに明日はない~』『新浄瑠璃 百鬼丸』。扉座以外は『浪花阿呆鴉』(脚本・演出)ミュージカル『奇想天外☆歌舞音曲劇げんない』(脚本・演出・作詞)『HKT指原莉乃座長公演』(脚本・演出)スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)などがある。

よこやまゆい○青森県出身。AKB48チーム8およびチームKのメンバー。2014年、青森県91人の応募の中から代表として選ばれ、同年AKB48劇場にて公演デビュー。2016年「AKBINGO! CUP ダンスロワイヤル」に優勝、初代AKB48グループダンスクイーンの座に輝く。外部出演は梅棒EXTRAシリーズ第一弾『ウチの親父が最強』(2019)。2014年よりABA青森朝日放送「夢はここから生放送 ハッピィ」 に月1回レギュラー出演中。

【公演情報】
劇団扉座第65回公演『最後の伝令  菊谷栄物語─1937年津軽〜浅草─』
作・演出◇横内謙介
振付◇ラッキィ池田・彩木エリ
振付・所作◇花柳輔蔵
出演◇岡森諦・中原三千代・有馬自由・伴美奈子・犬飼淳治・鈴木利典・鈴木里沙・新原武・鈴木崇乃・野田翔太・藤田直美・塩屋愛実・砂田桃子・白金翔太・三浦修平・小笠原彩・北村由海・小川蓮・菊地歩・山川大貴・佐々木このみ/
草野とおる(客演)/柳瀬亮輔(客演)/横山結衣(AKB48 Team8)
レビューダンサー◇加藤萌朝・中山珠里・藤倉百々花・三谷あかね
ほか
●11/23・24◎厚木市文化会館 小ホール
〈料金〉前売 4200円/当日4500円/学生1500円(要学生証持参)(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
●11/27~12/1◎紀伊国屋ホール〈料金〉
〈料金〉前売 5000円/当日 5500円/学生3000円(要学生証持参)(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※ミナクルステージ 3500円(11月27日19:00回のみ)
〈お問い合わせ〉劇団扉座 03-3221-0530(12:00~18:00土・日・祝休、公演中平日12:00~16:00)
〈公式 HP〉https://tobiraza.co.jp/saigono-denrei2019

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

 

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