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加藤健一事務所『ジン・ゲーム』-THE GIN GAME by D.L. Coburn-  加藤健一・竹下景子・小笠原響 座談会

加藤健一事務所の最新作で、加藤健一と竹下景子の二人芝居で贈る『ジン・ゲーム』-THE  GIN GAME by D.L. Coburn-が、6月29日に本多劇場で幕を開ける。(7月9日まで)

原作は、D.L.コバーンが1976年に書き下ろし、ピューリッツアー賞戯曲部門最優秀賞を受賞している。演出には加藤健一事務所公演は3度目となる小笠原響を迎える。

春。老人ホームのサン・デッキで出会ったフォンシア(竹下景子)とウェラ一(加藤健一)。
入居者や食事や看護師への愚痴で息の合う二人。ホーム独特の空気感に馴染めない二人は、トランプ遊びを始める。時間つぶしがてら気軽に始めたゲームだが、初心者のフォンシア相手に全く勝てないウェラーは、対戦を重ねるごとに苛立ってきて…。
単純なトランプゲームが、孤独な老人たちの“単純ではない”過去をあらわにする。

セリフの応酬がおもしろく、チクリと刺さるビターコメディのこの二人芝居について、演じる加藤健一と竹下景子、演出の小笠原響という3人に語り合ってもらった。

小笠原響 竹下景子 加藤健一

14回出てくるジン・ゲームをどう見せていくか

──まず加藤さんにお尋ねします。今回この作品を上演しようと思ったのは?

加藤 翻訳の吉原豊司先生に勧められたんです。それで読んでみたら面白かったので。カードゲームしながらストーリーを見せていくという作品で、カードゲームをどう舞台で見せていくか、そこも演じる側にとって難しいけれど面白そうだなと思ったので。

──そして演出は小笠原響さんです。

加藤 小笠原さんには、これまで2回ほど、『あとにさきだつうたかたの』(2014)と『女学生とムッシュ・アンリ』(2015)で演出してもらっているんですが、そのときの印象でこの作品に合うんじゃないかと思ったんです。

小笠原 実は僕はこの本を訳した吉原豊司さんとの仕事が多くて、もう9本も吉原さんの翻訳で演出しているんです。

竹下 そんなに!

小笠原 最初はまだ演出家として駆け出しの頃に、板橋区にあるスタジオのオーナーから、吉原さんの翻訳したカナダの戯曲を演出してみないかと言われて、そのあと名取事務所で『ベルリンの東』(2017)をやらせてもらって、その作品が評価されたりして、僕の演出家としての成長物語には吉原さんの力が大きいんです。

加藤 僕も『ベルリンの東』は読みましたけど、面白かったですね。吉原さんみたいに作品を持ってきてくださる訳者ってそんなに多くないんです。普通はプロデューサーが探してきて翻訳を頼むことが多いんですが、ご自分で外国で見つけて訳して持ってきてくれるので。

小笠原 ご自身が実際に舞台をご覧になって、いいなと思われたものなので、吉原さんが紹介してくださるものは信頼できるんです。

──この作品もピューリッツアー賞受賞の名作で、あまり日本では上演されていないものですね。二人芝居ということで、演出するうえで今考えていることは?

小笠原 カードゲームがこの作品の鍵になっていますから、その場面の見せ方と、2人がゲームに集中していく様子をどう見せるのか。しかもゲームを14回やりますからね(笑)。毎回のゲームの様子と、次第に変化していく2人の関係の見せ方が課題ですが、演じてくださるのが加藤さんと竹下さんなので、そこは安心です。

──加藤さんが今回相手役として竹下景子さんにオファーした理由は?

加藤 ほかには考えられなかったんです。この作品で一緒に遊ぶには最適な方だと。

竹下 ちゃんと遊べればいいのですが(笑)。私は本を読ませていただいたとき武者震いしたんです(笑)。物語が進むにつれていろいろな面が出てくる役ですし、作っていくのがなかなか難しそうなところが、逆に魅力に思えたんです。フォンシアという人について、どうしてこんなふうに出来上がったんだろう?と考えると深いものがあって。70年代に書かれた本ですから、今の70代よりは少し老人という感覚で、老後は老人ホームで過ごすのが常識みたいなものがあって、そのぶん抱えている孤独は今の時代より深いのかなと。でも今回は、そのあたりを現代を生きる老婦人の孤独と老いに重ねて、ゲームを通して見せていければと思っているんです。でもゲームを14回もするのが一番たいへんかなと。

加藤 ははは(笑)。

竹下 だいたいジン・ゲームというものをするのも、私は初めてなんです(笑)。

僕はわからないように手を抜いてますから(笑)

──共演は3回目というおふたりに、改めてお互いの魅力について伺いたいのですが。

竹下 私が初めて加藤健一事務所の公演に参加させていただいたのは、『川を越えて、森を抜けて』(09年、12年)なのですが、初めてお会いした頃と加藤健一さんは全然変わってないです。

加藤 何をおっしゃいますか(笑)。

竹下 そして、演じるだけでなくすべての公演を作られていて、それも「あ、こういうものが観たかった!」というようなものを作っていらっしゃる。なおかつ俳優としてずっと新鮮でエネルギーも変わらないって、もうマジックですよね。

加藤 竹下さんこそ、僕よりも年下なんですが芸歴は僕より長くベテランなのに、演劇少女と言いますか、本当に一生懸命に全力で取り組むんです。そこが何よりも尊敬するところで。

竹下 私は映像でデビューしたので舞台は経験が浅いんです、一生懸命やるしかないので。

加藤 まったく手を抜かない。抜いてもばれないぐらい出来る人なのに(笑)。

竹下 いえ、加藤さんこそ毎回まったく手を抜かずに。

加藤 いやいや、僕はわからないように手を抜いてますから(笑)。

──小笠原さんから見て加藤さんの魅力は?

小笠原 加藤さんはパワーを持っていてチャンレンジャーなんです。ウェラーは、ゲームをしながらだんだん熱狂していくのですが、その変化していく様子は加藤さんがやってくれると説得力がすごい。

加藤 キレやすい人なので、身体に気をつけないといけませんね(笑)。

竹下 (笑)。こういう人、勝負事ではよくいるんですよね。

加藤 相手のフォンシアが、ゲームは初めてなのに強いからよけい口惜しいんです(笑)。

──竹下さんについてはいかがですか?

小笠原 竹下さんは柔らかさの中にも芯があって、そこが魅力ですね。

──昨年の舞台『5月35日』での毅然とした老婦人は高い評価を得ました。

加藤 あれは素晴らしかった。

竹下 中国の天安門事件を取りあげた香港の作品で、今は香港もさらに自由がなくなっていて、そういう背景もあって一生懸命に作ったのですが、おかげさまで作品ともカンパニーとも良い出会いができました。でも今回は、また違う意味でエネルギーが必要なたいへんな作品に出会っています(笑)。

奇跡のようなことがいつ降ってくるかわからない

──フォンシアとウェラーが入っているのは老後を穏やかに過ごす施設ですが、そこにいる人たちは、皆まだ燃え尽きてないものがあるのを感じます。実際の加藤さんや竹下さんはバリバリの現役ですし、小笠原さんはまだまだ遠いですよね。

小笠原 いやもうすぐ還暦を迎えるので、そういう時期にこういう作品をできるというのは、とても有り難いなと。やはり皆さん、どう人生を終えるかというのを真剣に考えていると思いますし、長く生きれば生きるほど友人知人が亡くなったりしてどんどん孤独に追いやられていく。その現象はアメリカではこの作家が書いた1970年代にすでにクローズアップされていましたが、日本では現在そうなってますから、お客さんの中にはリアルに受け止める人も多いと思います。

──フォンシアはちょっと不本意なまま入所したようですね。

竹下 フォンシア面白いですよね。最初は上品そうに出てきますけど、ある瞬間ガラッと変わるんですよね。腹を立てたり、そういうところは率直だし、ものを考えているようで、自分の人生について「いえ、私はついてなかっただけ」で片づけたり(笑)。

小笠原 彼女はたぶん若い時代は幸福に過ごして、でも老齢になって家族に問題が生じて、この施設に自分から来たんだと思うんですが、最初はやはり意気消沈していたと思います。でもウェラーと出会って、たまたまゲームをやることになって、フォンシア自身が本来持っているパワフルな部分などが引き出されていく。そういうフォンシアを竹下さんならチャーミングに演じてくださると思っています。でも、フォンシアってジン・ゲームで14回勝ち続けるんですよね。そんなことってありますか?

加藤・竹下 (笑)。

小笠原 ちょっと神がかってて、まさに奇跡ですよね。つまり人生って奇跡のようなことがいつ降って湧いてくるかわからないという、ある種、逆説的な希望も提示してくれているのかもしれない。お客さんにも前向きに捉えてもらえたらいいなと。

加藤 ケンカになってしまうのも、良い相手が見つかったからだと(笑)。

竹下 ウェラーは負けても負けても諦めないで誘ってくれますからね(笑)。

加藤 たまたま面会日に来る相手が2人ともいないという理由があるからですが(笑)。境遇もちょっと似てるんですよね、離婚歴があったり子どもとうまくいってないとか、傷の部分は似てますね。

──フォンシアもウェラーもそういう意味では孤独ではないですね

小笠原 この本ってケンカのシーンも含めて、やっぱりコメディなんですよね。だから終わり方も含めて、楽しい芝居にしたいなと。

加藤竹下 いいですね!

小笠原 演出家としては舞台の上でいかに自由にやっていただけるかだといつも思っていて、窮屈にしたくないんです。物語に伸び伸び入っていただけるような稽古をしたいと思っていますし、初日が開いたらまたお客さんの空気を感じて、更に大きく広がりを見せるような芝居にしたいと思っています。

竹下 演じる側としては、このお芝居はなんといってもゲームをしながらという大きな縛りがあるので、その中でどうしようと。小笠原さんがおっしゃった「自由に」ということを、ゲームをしながらそこをどうやって紡いでいこうかと。でもご一緒するのが加藤さんですから、絶対に楽しみながら作っていけると思っているのですが。

──ゲームをしながらということで、カードさばきなどの自信は?

加藤 それね(笑)。手慣れた感じにならないとね。ルールは麻雀と似ているんですよね。3枚ずつ揃えていって、あがりは麻雀ならロンだけど、これはジンで。

小笠原 台詞と台詞の間に手が動いていたり、相手のカードに反応したりする。それによって意外と観ている方たちも集中してくれそうな気がします。というかお客さんもゲームに引き込んでしまいましょう(笑)。

人は人に生かされるということを

──最後にこの『ジン・ゲーム』を観てくださる方へメッセージを

加藤 今、「老いる」という言葉を一生懸命勉強してるんですが、「老い」という言葉は本来は「老子」とか「長老」とか、熟語でも老がつくのは尊敬の対象であり、良い意味だったりするんです。それが今は「老ける」とか悪い意味で使われがちになっているので、もう一度良い意味で使われるようになればいいなと。この芝居もそういうふうに観ていただければいいなと思っているんです。そのためにがんばります。

竹下 今、ゲームといえばみんなスマホで、画面上でしか進行しなくて、相手が何を思っているかなんて全然わからないまま勝ち負けを追い求めていく。でもこのジン・ゲームは目の前に相手がいて、相手の顔が見えることでお互いに影響を与えながら勝負する。そのなかで相手のことも透けて見えたり、そういう人と人の出会いを観ていただく作品なのかなと。そして、いい年をした2人が熱くなったり、ケンカしたり、またよりが戻ったりしますけど、年をとるってそんなに落ち着いていくことではないし、わけ知りになることでもない。自分でもびっくりするようなことがこの年齢になっても起きるんだ、そう思ったら人生が楽しいですよね(笑)。やっぱり人は人に生かされる、そういうことを考えさせてくれる芝居でもありますので、この芝居を観ることで元気が出たり、人生なかなか悪くないと思っていただけたら嬉しいです。

小笠原 この作品はコメディで、僕もいろいろ演出してきましたが、コメディは難しいです。でもこのお二人ならきっと良い化学反応を起こしてくださって、そのことで感動も笑いも生まれると信じています。そして、この作品はストーリー自体はわりとシンプルなんですが、その表面だけでは見えてこないものが沢山あるので、そこをちゃんと引っ張り出して見ていただいて、お客さんにとっても発見のしがいのある舞台になればいいなと思っています。

小笠原響 竹下景子 加藤健一

【プロフィール】
かとうけんいち○静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を設立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(82、94年)、文化庁芸術祭賞(88、90、94、01年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞、他演劇賞多数受賞。07年、紫綬褒章受章。第70回毎日映画コンクール男優助演賞受賞(16年)。22年、『サンシャイン・ボーイズ』『スカラムーシュ・ジョーンズor(あるいは)七つの白い仮面』の演技にて、第64回毎日芸術賞を受賞した。

たけしたけいこ○愛知県出身。東京女子大学文理学部社会学科卒業。NHK『中学生群像』出演を経て、1973年NHK銀河テレビ小説『波の塔』で本格的デビュー。映画『男はつらいよ』のマドンナ役を3度務め、『学校』では第17回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、07年の舞台『朝焼けのマンハッタン』『海と日傘』で第42回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。芸能活動の一方、05年日本国際博覧会「愛・地球博」日本館総館長をはじめ、国連WFP協会親善大使ワクチン大使など幅広く活動している。

おがさわらきょう○東京生まれ。立教大学文学部英米文学科卒。俳優座、文学座、木冬社、木山事務所などで演出の研鑽を積む。2008年、Pカンパニー旗揚げに参加。同劇団公演を中心に演出活動を広げ、現在はフリーの演出家として多数の公演に携わる。18年、『白い花を隠す』、『屠殺人ブッチャー』で第25回読売演劇大賞 優秀演出家賞を受賞。最近の演出作品に、劇団俳優座『反応工程』、Pカンパニー『拝啓、衆議院議長様』、劇団昴『The Weir─堰─』、俳優座劇場プロデュース『聖なる炎』等。劇団俳優座『正義の人々』、名取事務所公演 現代韓国演劇上演『そんなに驚くな』で紀伊國屋演劇賞 団体賞受賞に2年続けて貢献した。

【公演情報】
加藤健一事務所 vol.11
『ジン・ゲーム』-THE  GIN GAME by D.L. Coburn-
作:D.L.コバーン
訳:吉原豊司
演出:小笠原響
出演:加藤健一 竹下景子
●6/29~7/9◎下北沢・本多劇場
〈料金〉前売5,500円  当日6,050 円  高校生以下2,750円[学生証提示・当日のみ] (全席指定・税込)
〈一般発売日〉5月14日(日)~
〈お問い合わせ〉加藤健一事務所 03-3557-0789
〈公式サイト〉http://katoken.la.coocan.jp/

 

【構成・文/榊原和子 撮影/中村嘉昭】

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