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七月大歌舞伎『神霊矢口渡』市川男女蔵・中村児太郎 合同取材レポート

7月3日に幕を開ける歌舞伎座新開場十周年「七月大歌舞伎」は、昼の部が通し狂言『菊宴月白浪 忠臣蔵後日譚』、夜の部が『神霊矢口渡』、『神明恵和合取組 め組の喧嘩』、九世市川團十郎歿後百二十年と銘打った新歌舞伎十八番の内『鎌倉八幡宮静の法楽舞』。名作古典をモチーフにした意欲的な通し狂言から、江戸っ子の意気地を見せる世話物、名優をしのぶ舞踊まで、バリエーション豊かなラインナップだ(28日まで、10日・19日は休演)。

なかでも、夜の部の『神霊矢口渡』は、父娘でありながら、極悪人で金に目がない渡し守・頓兵衛と、一目惚れした相手を命がけで守ろうとする娘・お舟のコントラストを描いた義太夫狂言の名作で、作者の福内鬼外は、エレキテルでおなじみの才人・平賀源内である。

頓兵衛をつとめるのは、古典から新作まで様々な役で腕を磨きながら、舞台に欠かせない存在となっている市川男女蔵。お舟を演じるのは、女方として近年は『壇浦兜軍記』の阿古屋などの大役にも挑んでいる中村児太郎。頓兵衛は、男女蔵の父で4月に急逝した四代目市川左團次の当り役の1つであり、お舟もまた児太郎の父である中村福助が度々つとめてきた思い入れのある役である。そんな縁(ゆかり)のある役を、今回どちらも初役でつとめる、注目の一幕だ。

6月上旬、都内でその合同取材が行われた。男女蔵と児太郎が出席し、それぞれ役に対する思いや役作りのこと、公演にかける意気込みなどを語った。

【取材会レポート】

市川男女蔵

初役に挑む心境などを尋ねられて、男女蔵は「これから、父(四代目左團次)がやっていた役を初役で演じることが多くなると思います。歌舞伎は1人ではできないので、相手役に選んでいただいて、お芝居が回っていくように、必要とされるようになれれば。頓兵衛は、自分がやってきた役のなかでは入りやすいと思います」と語った。頓兵衛役が決まった時、左團次から、頓兵衛に限らず役に取り組む姿勢として「あんまり小細工はするな」とアドバイスをもらったという。「最後の教えというわけではなく、それが四代目市川左團次としての漢気(おとこぎ)で、多分自分でも小細工はしていないからこそ、そういう言葉が出たのだと思います」。

中村児太郎

児太郎は「お舟は数少ない、女方が主役をつとめる演目の1つです。父(福助)は平成10(1998)年に大阪で演じたのが最後だと思いますが、私は観た記憶がなく、前回(2019年12月)歌舞伎座で(中村)梅枝にいさんがお舟をなさった時に、近くで拝見したい思いからうてなに立候補させていただきました。命をかけても守りたいものがある、信念がしっかりしている女性の役で、今のお客様にはわかってもらいやすい演目だと思います。私もどちらかというと激情型というか、1つのものにのめり込んでお芝居をするのが好きなタイプなので、どれだけ自分が観たものや、父などが大事にしていたものを体現できるか、とても楽しみです」と闘志を燃やす。

2人はこれまでにも共演しているが、改めてお互いの印象を尋ねられて、男女蔵は「児太郎さんとはとてもイキが合います。私は児太郎さんが大好き。いつもイジられて、いじられキャラです」と笑った。一方の児太郎は「私の記憶では、最初にご一緒させていただいたのは、私が男女蔵さんの役を殺す場目でした(笑)。優しくて、自分がお芝居をやりやすいようにやらせていただけるので、今回もそうなると嬉しい。イキや間合いの相性がすごくいいと思いますので、胸を借りて一生懸命つとめたい。本当はとても怖いので、びくびくしています(笑)」とジョークも飛び出した。この日はネクタイの色が揃いのピンク。男女蔵の楽屋でこのネクタイを見かけ、児太郎が色を合わせたという。

『神霊矢口渡』渡し守頓兵衛=市川男女蔵(令和5年7月歌舞伎座)(C)松竹

役の話にうつる。男女蔵は、左團次が2001年4月に金丸座(四国こんぴら歌舞伎大芝居)で頓兵衛をつとめた際に、お舟に横恋慕する下男六蔵役で1度だけ共演している。「若い頃から、父の役をずっと見ていますが、役をいただいて自分で稽古し出すと、こんなに大変なんだ、すごいことをやってらっしゃったんだと改めてわかります。自分には手取り足取り教えることはなく、『とりあえず見ておけよ』という人でした」。一方、他家の俳優に教える時は、手取り足取り細かく指導していたという。「例えば『坂東のおじさん(十七代目市村羽左衛門)はこう言っていたよ』とか、こういう風にやったよとか。自分にはそれが全然なかったので、言わない厳しさ、怖さ、語らないからこその緊張感が強かったです。『俺の息子ならわかるだろう』という気持ちが強かったのかもしれません」。

頓兵衛役については「悪役は本当に悪い人のほうが(演じた時に)いいと思うかもしれませんが、自分は、歌舞伎に限っては反対だと思います。根っからの悪人はそんなにいない。誰かに仕えていたり、お金に目が眩んだり、立場上から悪さをしてしまう。自分のなかでは、悪人だからこそ善がないといけないと思います。本当に悪く見えると品がなくなってしまう」と、これまで敵役をつとめてきた経験から分析する。一番好きなのは、やはり左團次の頓兵衛だという。「自分のなかではスーパーマンですから。いろいろな方がなさっていますが、堂々としていて、父の頓兵衛がいいなと思います。ただ、そこにあんまりこだわりすぎず、今回児太郎さんとつとめさせていただくのだから、『児太郎さんと男女蔵さんの『矢口渡』はいいね、また観たいね』と言っていただけるような、自分の頓兵衛を作っていけたら」と決意をにじませた。

『神霊矢口渡』娘お舟=中村児太郎(令和5年7月歌舞伎座)(C)松竹

お舟役は、福助にも話を聞きつつ、梅枝が演じた時に稽古をつけていた中村時蔵に教えを乞う。梅枝のお舟を観て感じたのは「女方のなかでも、お舟とお三輪(『妹背山婦女庭訓』)だけかなというくらい、出ずっぱりで、すべての人と絡んでお芝居をしていく数少ない役です。いろいろなスイッチとエネルギーを使い分けますが、お稽古しながら体現して習得できたら」と語った。父はもちろん、先輩たちがつとめてきたお舟を思うと、手も足も出ない自分をもどかしく感じることもある。「いつか形になる日が来るといいなと思いつつ、目の前のお客様にどれだけ多くのものをお届けできるかを大事に、いただいたお役1つ1つを一生懸命つとめたい。何か(周囲に助言を)言っていただいたら素直に聞いて、少しでもより良いものを作れるように、1つ1つの動作、台詞、感情をしっかり表現できたらいいと思います」と、気を引き締めた。

【公演情報】
歌舞伎座新開場十周年「七月大歌舞伎」
2023年7月3日(月)~28日(金)歌舞伎座
【休演】10日(月)、19日(水)

《昼の部》午前11時~

四世鶴屋南北 作
奈河彰輔 脚本
市川猿翁 脚本・演出
石川耕士 脚本・演出
藤間勘十郎 演出
三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)
忠臣蔵後日譚
市川中車 両宙乗り相勤め申し候
斧定九郎 市川中車
金笄のおかる 中村壱太郎
塩谷縫之助 中村種之助
腰元浮橋 市川男寅
角兵衛獅子猪之松 市村竹松
毛利小源太 中村福之助
丁稚伊吾 中村玉太郎
下部与五郎 中村歌之助
高野師泰 市川青虎
山名次郎左衛門 澤村由次郎
世話人寿作 市川寿猿
一文字屋お六 市川笑三郎
加古川 市川笑也
仏権兵衛 市川猿弥
斧九郎兵衛 浅野和之
石堂数馬之助 市川門之助

《夜の部》午後4時~

福内鬼外 作
一、 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)

娘お舟 中村児太郎
新田義峯 市川九團次
傾城うてな 大谷廣松
渡し守頓兵衛 市川男女蔵

竹柴其水 作
二、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
め組の喧嘩

め組辰五郎 市川團十郎
女房お仲 中村雀右衛門
江戸座喜太郎 河原崎権十郎
四ツ車大八 市川右團次
九竜山浪右衛門 市川男女蔵
背高の竹 中村歌昇
おもちゃの文次 中村種之助
山門の仙太 市川新之助
島崎楼抱おさき/三ツ星半次 大谷廣松
伊皿子の安三 市村竹松
芝浦の銀蔵 市川男寅
御成門の鶴吉 中村玉太郎
左利の芳松 市村橘太郎
田毎川浪蔵 市村光
柴井町藤松 市川九團次
露月町亀右衛門 片岡市蔵
三池八右衛門 市川齊入
葉山九郎次 市村家橘
喜三郎女房おいの 市村萬次郎
焚出し喜三郎 中村又五郎
尾花屋女房おくら 中村魁春

九世市川團十郎歿後百二十年
松岡 亮 作
二、 新歌舞伎十八番の内 鎌倉八幡宮静の法楽舞(かまくらはちまんぐうしずかのほうらくまい)

静御前/源義経/老女/白蔵主/油坊主/三途川の船頭/化生 市川團十郎
三ツ目/町娘/五郎姉二宮姫 市川ぼたん
提灯/若船頭/竹抜五郎 市川新之助
僧普聞坊 大谷廣松
僧寿量坊 市川男寅
僧隋喜坊 中村玉太郎
蛇骨婆 市川九團次
姑獲鳥 中村児太郎
僧方便坊 中村種之助

〈料金〉1等席18,000円 2等席14,000円 3階A席6,000円 3階B席4,000円 1階桟敷席20,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)ナビダイヤル 0570-000-489
または東京 03-6745-0888 大阪06-6530-0333
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/820

【文/内河 文  (C)松竹】

 

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