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新派の舞台で蘇る山村美紗サスペンス『京都都大路謎の花くらべ』上演中!

快進撃を続ける劇団新派が、ミステリーの女王山村美紗サスペンスに挑む 八月新派公演 山村美紗サスペンス『京都都大路謎の花くらべ』が新橋演舞場で上演中だ(17日まで)。

『京都都大路謎の花くらべ』は、ミステリーの女王として400作近い作品を遺した山村美紗の「京都西大路通り殺人事件」をもとに、齋藤雅文が脚色・演出した作品。波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞の大看板俳優を筆頭とした劇団新派の面々と、長谷川純、山村紅葉、中村梅雀ら多彩なゲスト陣で、謎解きの楽しさにエンターテイメントをたっぷりと盛り込んだ舞台になっている。

【物語】
京都祇園の花街にあるクラブ「牡丹」でママを務める美保子(波乃久里子)が、芸妓の小春(山村紅葉)と「牡丹」の将来について話し合っている最中、「牡丹」のホステス桃子が自殺したという一報が届く。桃子は少女のような透明感を持ち、日本画家の沢木(喜多村緑郎)と人形師の歌乃(河合雪之丞)の二人の天才芸術家に、モデルとして取り合われているほどの女性だった。
「牡丹」では桃子を偲ぶ会が開かれ、若手社長の山田(長谷川純)をはじめとして多くの所縁の人々が集っていた。桃子が密室の中で亡くなっていたことから警察は自殺と断定したのだが、多くの人々はその決定に疑問を持っており、仕事帰りに「牡丹」に立ち寄った狩矢警部(中村梅雀)は、美保子や歌乃の何気ない言葉から、桃子の死を殺人事件と直感し捜査を始める。
その数日後の節分の夜、花街の風習である「お化け」と呼ばれる仮装パーティが開かれている最中、第二の殺人事件が起こり、「牡丹」の関係者に犯人がいるとしか考えられない状況に追い込まれた美保子は、事件解決まで店を閉める決意をするが、その最中に第三の殺人が起こってしまい……

昨年創始130年を迎えた劇団新派の快進撃が止まらない。『日本橋』『婦系図』『滝の白糸』『明治一代女』など、現在古典中の古典と言える作品群を大切にしながらも、近年では、歌舞伎界の革命児である市川猿翁の下で修業を積み、革新的な演劇の探求心を持つ喜多村緑郎、河合雪之丞の入団によって『黒蜥蜴』『犬神家の一族』など、劇団新派次世代の代表作として育っていくだろう作品が次々に生まれている。それは、和物に対する深い造詣と様式美を併せ持つ新派の底力と魅力を改めて世に知らしめるもので、芝居好きなら新派のスケジュールには目が離せないぞ、という嬉しい勢いが続いている。

今回の山村美紗サスペンス『京都都大路謎の花くらべ』にも、その劇団新派の持つ良さがふんだんに表れていて、新橋演舞場の舞台機構、盆回しや花道などを巧みに使い、華やかな京都の花街で繰り広げられる山村美紗らしいケレン味たっぷりのミステリーが展開されていく。何より登場人物たちの造形がいずれも色濃く個性的で、見ていると全ての人が怪しいと思えてくるミステリーならではの謎解きの楽しさがあるし、映像で切り換えられない舞台で密室トリックが展開されるなど舞台ならではの醍醐味に溢れている。
更に花街恒例の節分の「お化け」と呼ばれる仮装パーティで繰り出される、歌やダンスが本格的で目にも耳にも楽しい。もちろんミステリーだから人が亡くなることは避けられないのだが、そこに過度の暗さがなく、むしろ軽快に舞台が進むのがテレビの二時間ドラマ華やかなりし頃の、絶対に事件はきちんと時間枠の中で解決するという、安心感のある娯楽の良さにつながった。役者たちの丁々発止のやりとりにわくわくさせられるし、芝居のできる人たちが集って、とことん楽しめる舞台を創ろうという姿勢が新橋演舞場の格調と雰囲気にピッタリで、原作とは流れが異なることもあり、犯人を知ってからもう1度観たい!と思える良質のサスペンスになっている。

そんな作品の中心になる「牡丹」のママ・美保子の波乃久里子が、ふんわりと柔らかい魅力をいっぱいに醸し出して魅了する。新派の大黒柱として「ここぞ!」というキメの大芝居を受け持つことが多いし、そのしっかりした芝居の魅力ももちろんなのだが、素で話している時の味わい深い愛らしさが今回の美保子により生きていて、「牡丹」が登場人物の憩いの場になっていることがよく伝わる。「お化け」のシーンではあっと驚く扮装も披露するが、これがまた実に良く似合っていて、必見の場面になった。

天才画家・沢木幸彦の喜多村緑郎は、役柄が抱えている影をずっと身にまとった芝居を展開していて、新鮮な印象を残している。思えば『黒蜥蜴』では明智小五郎、『犬神家の一族』では金田一耕助と常に名探偵を演じてきていたから、容疑者の一人に緑郎が入っているだけで強烈に目を引くのも当然で、役柄の抱える謎を知りたいという想いを抱かせることで、舞台全体を引っ張っていた。

一方、天才人形師・歌乃の河合雪之丞は、冒頭から妖しさ満載で魅了しつつ、非常に意外性もある役柄を伸び伸びと演じている。女優陣の中に混じって女方が存在して浮かないというのは、実はかなり難しいことだと思うが、新派の様式美と共にこの人の持つ蠱惑的でありながら軽みも出せる持ち味がそれを可能にしていて、波野の美保子とのやり合いも実に楽しく惹きつけられた。

他にもそこにいるだけで権高さが匂うような嫌な奴を堂々と演じる只野操など、新派の面々の大活躍の中で、演歌歌手のシオンの河合宥季の存在感が抜群。この人も貴重な新派の若手女方だが、洋装も和装もよく似合い「お化け」のシーンでは、国民的大歌手の持ち歌を披露して、そのあまりの上手さに驚かされた。この大歌手の持ち歌は歌った本人の歌唱力があまりにも高いが故に、別の歌手が歌うとどうしても聞き劣りがするケースが多いのだが、それを歌手ではなく役者の宥季が見事に歌い切っていて、これは必聴もの。踊りも達者で作品の楽しさを倍化してくれていた。新派にとって末頼もしい若手役者だ。

そこにゲストとして参加した長谷川純は、ジャニーズ事務所所属の人特有のキラキラ感ばかりでなく、IT企業などで頭角を現した若手社長にこういう人が確かにいる! と思わせる役柄のリアルを巧みに表出している。「お化け」のシーンの所謂ジャニーズ流のダンスシーンを牽引したのはもちろん、役者としても作品に欠かせないピースになっていて、舞台を見事に彩っていた。

小春の山村紅葉は言うまでもなく、ミステリーの女王山村美紗を母に持つ女優として、この人がいないと山村美紗サスペンスを見た気がしないという存在。どんなにワイワイガヤガヤと芝居をしていても、持ち味にどこかおっとりしたものがあるのが魅力でもあって、場が和むのは貴重。京ことばの指導としても作品を支え、世界観に貢献していた。

そして、山村美紗サスペンスお馴染みの「狩矢警部」に中村梅雀が扮し、カッコよすぎず、でもキメる時はキメるという絶妙な塩梅で役柄を活写している。様々な演じ方ができる警部役だが、細かい小道具の使い方にもどこかとぼけた味わいがあり、中村梅雀の狩矢警部として独自のカラーを生んでいるのが、今更何をと言われることだろうが、役者の確かな力量を感じさせていた。

何よりも劇団新派に山村美紗サスペンスの華がピッタリと合うことが証明されたのが嬉しい舞台で、新たなシリーズ化も期待したいエンターテイメント性にあふれた作品になっている。

長谷川純、山村紅葉、中村梅雀 波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞

初日を控えた8月3日、囲み取材が行われ、波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞、長谷川純、山村紅葉、中村梅雀が、公演への抱負を語った。

【囲み会見】

──いよいよ初日を迎えられますが。
波乃 あ!今日だ!暑くて時間がわからない(笑)ダメですね(笑)
──でも出来としてはもう皆さん完全に?
波乃 完全ではありません!完全ではないけれどもう皆さんと一緒にやる嬉しさがありますね。
中村 あとはお客様の反応でね、私たちもガラッと変わるものがあります。
波乃 お客様が教えてくださるものがあるので。どんなにお稽古していても掴めないことってあるのですが、お客様が本当に教えてくださるんです。
──今回ちょっと意外だったのですが、(山村)紅葉さん以外は、山村美紗サスペンスは初めてということで。
波乃 本当?
喜多村 そうです。
波乃 私だけが初めてなのかと思った!皆さんそうなんですね?
──山村美紗サスペンスはいかがですか?
波乃 テレビで見ていて大好きでしたけれどもやってみると難しいですね。舞台では特にトリックなどをお見せするのがね。でもものすごくリアルに齋藤(雅文)先生が書いてくださったし、面白いものになっていますので、山村先生に恥じない舞台ができると思います!

──雪之丞さんテレビには出ていらしたそうですね?
河合 はい、テレビでは山村美紗サスペンスに出させて頂いております。
──テレビと舞台では違いますか?
河合 全然違いますね。久里子さんがおっしゃったように舞台ってテレビと違ってカット割りができませんし、常にどこでも見られているという状況下の中でサスペンスをお見せして、最後の最後まで犯人は誰か?をわからなくするというのが、舞台では非常に難しいです。
喜多村 テレビの時は男ですからね(爆笑)。
波乃 あぁ、そうか!
喜多村 舞台では女ですから、全然違います(笑)
──そうなるんですね!長谷川さん、そんな新派の舞台に入られてみていかがですか?
長谷川 毎日が新鮮ですし、まず新派の歴史にびっくりしますね。130年もの歴史がある座組にこんな僕が、山村美沙サスペンスの舞台作品で立てるということなので、毎日がとても楽しいです。お稽古をずっと見ていてもとても厚みがあって!
喜多村 化粧が?(笑)
長谷川 いえいえ(笑)、とても立体的なので!
──舞台でのサスペンスはどうですか?
長谷川 僕もテレビの2時間ドラマでは山村美紗サスペンスはたくさん見ていたのですが、今回は舞台作品ということで、舞台ならではの、劇場空間ならではの仕掛けもありますし、今回歌と踊りがあるんです!

──聞くところによると長谷川さん流のダンスが入っていると。
長谷川 と言うか、つまりジャニーズ流のダンスなんですけれど、そういったエンターティメント性が満載なので、舞台作品ならではの山村美紗サスペンスをご覧頂けると思います。
──ちなみにその歌と踊りは皆さんもされるのですか?
長谷川 はい!皆さんされます!
波乃 やります!
長谷川 一番楽しそうにやっているのが波乃久里子さんです!
──皆さんすぐできましたか?
波乃 すぐできましたよね!
──「お化け」のシーンで踊るのですね?
波乃 そうです。だから皆コスチュームを替えてね。
山村 色々な扮装をしますよね。
波乃 これではなく(今着ている衣装)舞台では別の扮装をするんです。何になるんでしょうか?
河合 そこは見てのお楽しみですね!ネタバレになっちゃうので。
喜多村 見た方もそこは絶対に公表しないでください!すごく大事なところなので。
──最近新派さんはサスペンスが多いですね。
波乃 2作目ですよね?
喜多村 『黒蜥蜴』も入れると3作目ですね。
──この中でミステリーの話をすることなどは?
波乃 それは言えません!

──日常生活の中でのサスペンスは?
河合 毎日がサスペンスで(笑)
喜多村 さっきの台詞誰?みたいな(笑)すごく複雑なので、昨日も最終通し稽古で出を間違えるとか、舞台機構にまだ慣れていないところがサスペンスです。
中村 かなりね!舞台裏は結構大変だね。
喜多村 大変ですね!
──どう大変なのですか?
中村 つまり盆が回ってきたら次の場面なんですが、どこでどう盆に乗ってどう待っていれば良いのか?を把握しきれないくらい手順があるので。
波乃 一昨日「大丈夫ですか?」と言われて「大丈夫です」と私が言い、梅雀さんなんて「子供の頃からやってるんだ!」と二人で威張ったのですが、私転んじゃって!
中村 袖に引っ込む時に抱えてたのに、パッと離して行っちゃったらポーンとひっくり返っちゃって危ない!危ない!
──怪我はなかったんですか?
波乃 全然ありませんよ!でも威張っていたからね(笑)
喜多村 舞台裏がサスペンスじゃないですか(笑)。
波乃 でもスタッフの方が一心同体になっていらっしゃるから。
──どうですか?こういう男性、女性、女方の方が入り乱れている舞台は?
喜多村 入り乱れてる!(爆笑)
長谷川 でも僕は新橋演舞場さんには『滝沢歌舞伎』の舞台に立たせて頂いたことがあるので、そこで2、3人は白塗りでやっていましたので、すんなり入れました。舞台機構も『滝沢歌舞伎』で慣れていたので。
──ではエスコートもしたり?
長谷川 芝居の中では雪之丞さんをリードできるシーンがありそうなので、そこで大人の魅力を見せられたらいいなと思っています。
──紅葉さんどうですか?舞台での山村美沙サスペンスは?
山村 母のサスペンスは場面数がすごく多いので、今おっしゃられたようなことが起こりますし、やはりトリックの解明が、おっしゃっていたようにカット割りが舞台ではできないので、ごまかしが効きません。しかも東京の大劇場でというのは初めてで、母が生きている時には出来なかったことなんです。でも舞台だからこそトリックを皆様の目の前で解明されるので、ワーッと思って頂けるのではないかと思います。また華やかさが母の特徴だったので、この面々を見て頂いても華やかだと思うのですが「お化け」のシーンではもっともっと色々な意外なものを見て頂けるので、大好きだった新橋演舞場で母も喜んでいると思います。

──改めて見どころは?
波乃 見どころは言えませんね!ミステリーですから!見て頂いてこそです!
中村 全員が犯人に見えてきますからね!
波乃 観て頂いて喋らないで頂きたい!そして「良かった」ということだけは伝えて頂きたいです!
──では意気込みを是非一言ずつ
波乃 夏の暑さが吹き飛ぶほどの素晴らしい演舞場でございますので、是非観て頂きたいと思います。
中村 実に登場人物が多彩で、誰が犯人かもなかなかわからないし、それぞれの人間の複雑さを面白く味わって頂ければ、最後の種明かしで「そういうことか!」と涼しくなれると思います。
喜多村 様々なジャンルから結集した舞台なので、野球のオールスターみたいな、演舞場のお祭りのようなお芝居なのではないかなと思っています。
河合 紅葉さんのお母様の作品だと思いますと、身の引き締まる思いですし、目にも耳にも楽めるお芝居、サスペンスがエンターティメントに変わったなという感じがしております。
長谷川 皆さんがおっしゃったとおりなんですけれども、僕からは午前の部が11時半開演になっておりますので、是非皆様8月は規則正しい生活を送って、11時半の開演に来て頂きたいと。あとは高校の先輩の中村七之助君にも是非観に来て頂きたい!
波乃 あの子(七之助)も舞台なのよ!

──ちょっと難しいかもですね。
長谷川 では親友の松本潤に是非来て欲しいと!
──潤君来てくれますかね?
長谷川 連絡してみます!
山村 この舞台は色々なことが詰まって面白いことは保証しますので、是非多くの方に来て頂かないと、私はこの舞台は初めての親孝行だと思っていて、でも皆様に来て頂けないと親不孝になっちゃうので、皆様たくさんの方に観て頂きたい!観て頂けたら絶対に楽しんで頂けると思いますので、皆様大勢お越し下さい!
──長谷川さん、この作品への出演をお母様がとても喜ばれたそうですが、観にいらっしゃるのですか?
長谷川 はい、あと2時間後には新橋演舞場に到着していると。
──お母様初日をご覧になるんですね?
長谷川 ひょっとしたらもう近くの喫茶店あたりでスタンバイしているかも知れません!
──プレッシャーになりますか?
長谷川 全然大丈夫です!このメンツですからね!
──作品自体がお好きだということで、息子さんを見に来るというよりも、作品を楽しみに?
長谷川 そうですね!紅葉さんを観られて喜ぶと思います。

【公演情報】
八月新派公演
山村美紗サスペンス『京都 都大路 謎の花くらべ』
原作◇山村美紗「京都西大路通り殺人事件」より
脚色・演出◇齋藤雅文
出演◇波乃久里子 河合雪之丞 喜多村緑郎 長谷川純 山村紅葉 中村梅雀 ほか
8/3~17◎新橋演舞場
〈料金〉1等席 12,000円 2等席 8,500円 3階A席 4,500円 3階B席 3,000円 桟敷席 13,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉新橋演舞場 03-3541-2111 チケットホン松竹 0570-000-489
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo1908/

 

【取材・文・撮影(囲み)/橘涼香 舞台写真提供/新橋演舞場】

 

 

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