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『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』木村達成 インタビュー

ハムレットと、太宰治。「まぜるな危険」と言いたくなるような、危うくて、刺激的で、贅沢で、破滅的な組み合わせが実現した作品がある。
それが、昭和16年、32歳の太宰治がシェイクスピアの『ハムレット』を翻案して書き下ろした長編小説『新ハムレット』だ。世界中で愛されるシェイクスピア屈指の悲劇を、天才・太宰のレンズを通して描くとどうなるのか。

シェイクスピアファンにとっても、太宰ファンにとっても見逃すことはできない怪作を、文学座の五戸真理枝の上演台本・演出によって舞台化。主人公・ハムレットを木村達成が演じる。
私たちがまだ知らないハムレットが、ここに誕生する。

ハムレットを演じることで、自分のことを理解していく

──この『新ハムレット』は、太宰治が『ハムレット』を翻案したものですが、これまでどなたかが翻訳した『ハムレット』をお読みになったことは?

今回初めて出会いました。ですからとても新鮮な感覚でこの作品と向き合っています。

──上演台本を読ませてもらいましたが、個人的には太宰治の文学者としての葛藤も内容に反映されている印象を受けました。

自分の考えが壮大である分、なんで僕のことを誰も理解してくれないんだとか、お前らが思ってることが全然理解できないというところがありますよね。僕も人と共感できないところが結構あるので、今作で描かれているハムレットのなぜ誰も俺の言ってることがわからないのかという苛立ちみたいなものは通じるところがあります。

──そういう意味では、この『新ハムレット』のオファーが自分のもとに届いたことへの納得感みたいなものは。

ありますね。だからこそやらなきゃいけないなと思いました。僕の印象では、この作品のハムレットは自分をしっかり持っているんですよね。ナイーブなところはあるけれど、ちゃんと何かしら自信がある。そうでないと、あれだけ強気なことは言えない。だから、周りにいる人はハムレットに対してなんかちょっと好きになれないという印象を持つのかなと。このハムレットって、思ったことをそのまま口に出すじゃないですか。苦しいときに苦しいと言ったらなぜいけないんですか、というタイプ。そこは結構共感できるところかも。僕もこうやってインタビューを受けさせてもらっていますけど、役者だからって何かいいことを言わなきゃいけないとも思わないし、完璧でいる必要なんてあるんですかと思っちゃうから。ある意味、自分にとってのバイブルというか。自分は自分らしくという考えを、この作品を演じながらより深めていく気がするし、きっとこのハムレットを演じることで僕は木村達成という人間をより理解していくんだろうなという気がします。

長台詞は、お客さんの胸ぐらを掴むイメージで

──昨年の『血の婚礼』もそうですが、今作も台詞回しが日常的なものではありません。こうした普段馴染みのない言葉遣いは、演じる上でのハードルになりますか。

僕は、難しい言葉で書かれている台本の場合、現代語というか日常会話に置き換えて、こういうつもりで言ってみるという内容を台本に書いたりしています。基本的に、難しい言葉もそういうつもりでは喋っていないんです。いかに難しい言葉っぽく喋らずにやれるか。そのためには自分が台詞をちゃんと理解できていることが大事で。そうしないと、相手にも伝わらないですからね。逆に言うと台詞の真意さえ理解して喋れば、どんなに難しい言葉でも難しくないように聞こえると思っています。

──特に今回は長台詞も多く、美しい韻律が求められます。

そういう台詞は、ずっと相手の胸ぐらを掴んでいればいいんです。お客さまの胸ぐらを掴んで、絶対離さない。ただそれはやっぱり難しくて、台詞が長い分、時折つまったり、いつも通りのテンションで行けないときもあるかもしれない。でも、人がいちばんドキッとするポイントって、ガッと掴まれたのに、フワッと離されて、またグワッって掴まれる、その瞬間だと思うんですよ。あまり綺麗に喋りすぎても、人は興奮しない。何が起こるかわからない、目が離せないくらいの方がいいんだろうなと。

──稽古場での居方についても聞かせてください。稽古中って、自分の出番ではないときは他の人の稽古を見るタイプですか。

作品によりますけど、見ないこともあります。それこそミュージカル『マチルダ』では全然見なかった。なぜかと言うと、自分の役を演じる上で知らなくていい情報を知る必要はないんですよ。もちろんどういう劇構造になるかは絶対理解しておく必要があると思いますけど、演者として知ってしまった方がやりづらくなることもある。僕に聞かせないでほしかったと思うこともたくさんあるから。自分が必要だなと思ったら見るし、必要じゃないと思ったら見ないです。

──なるほど。演じる役が見ているものが見えていればいいということですね。

どこまで自分がその役になりたいかにもよりますけどね。今回で言えば、本当にハムレットから見えてる景色だけ見たいと思うんだったら、クローヂヤスとポローニヤスのやりとりを見る必要はないし。あくまで(クローヂヤス役の)平田(満)さんの口から直接受け取ったときに壮絶な思いになればいいわけだから、なんなら見ない方がリアルだなと僕は思うんですね。

今はちょっと何歩も引いた状態で演劇を見ている

──平田さんもそうですが、ここ最近でいえば舞台『管理人/THE CARETAKER』のイッセー尾形さんなど、この道何十年の先輩と共演する機会も増えました。先輩方の背中を見て何か感じたことはありますか。

やっぱりそれだけ長く演劇をやり続けているということは、演劇を愛しているということだと思うんですよね。それは素晴らしいし、尊敬するところなんですけど、じゃあ僕は演劇を愛してるのかと聞かれたら愛してるとは言えないな、とも思いました。

──どういうことでしょう。

結局、愛するってその対象に対して前のめりになることじゃないですか。でもそうすると何も見えてこない気がしていて。むしろ一歩引いた方が視野も広がって、いろんなものが見えるのかなと。そういうのもあって、今はちょっと何歩も引いた状態で演劇を見ています。『血の婚礼』のときはめちゃくちゃ前のめりでしたけどね。今回はどうだろう。わりと引いた立ち位置から見ている気がしますけど。

──特にハムレットは身を削るようにして演じていくものなのかなと思っていたので意外でした。

僕も苦しむのかなと思っていたんですけど、案外日常と変わらないぐらいの感覚で終わりそうな気がしています。いや、どうだろう。やってみたら、やっぱりめっちゃしんどかったとなるのかもしれない。どっちに転がるかはまだわからないですね。それこそ日によって変わるだろうし。すごく興奮して覚醒しているときもあれば、ダウナーなときもあるかもしれない。それがわかるのは、もっと先でしょうね。

一瞬で脳に快楽物質を与えてくれるような愛を求めている

──愛するという言葉が出ましたが、劇中、愛についてハムレットとオフヰリヤは言葉を交わし合います。ハムレットは「お前のことが好きだと大声できっぱり言ってくれ」と乞い、オフヰリヤは「本当に愛していれば、かえって愛の言葉など白々しくて言いたくなくなるものです」と言います。木村さんは、どちらの人間ですか。

僕は、愛してるんだったらなんで愛してるって言えないの、と思いました。愛してるからこそ出る言葉もあると思うんです。それは、直接的な愛という言葉じゃなかったとしても。たとえば、もっとこうやらなきゃいけないんですよってお尻を叩いてくれることも愛だと思うし。どうでもよかったら別にそんなこと言わないですよね。もちろん言葉だけではないけど、僕も愛は言葉だと思います。行動って気づくのに時間がかかるんですよ。僕たちが今ほしいのって瞬間的な愛。苦しんでる人間は、徐々に浸透してくる愛がほしいわけじゃなくて、一瞬で脳に快楽物質を与えてくれるような愛を求めている。それは言葉なんです。苦しい、やばいというときほど、一瞬で元気になる愛の言葉を人は欲する。僕もそういう愛の言葉を今絶賛募集中でございます(笑)。

──愛の言葉を欲するのは、木村達成が今どういう状態だからでしょうか。

枯渇しているんじゃないですか。

──枯渇してるんですね。

たとえば僕が一杯のコップだとします。僕は常に全力で毎日を生きているので、コップは常に水がいっぱいで溢れきっている。特に仕事をしていると、もう情報が多すぎて、とてもそこに愛を入れられる余裕がない。だから、一旦コップを頑張って空にしたいけど、なかなかそうはいかないですよね。そういうときに思うんです。もう一つ器があればなって。その器は常に愛情で満たしておく。で、もともと持っているコップが仕事で溢れ返そうになったら、一度そこを空にして、もう一つの器から愛情を補給すればいい。そしたら、今度は器の方が空になりますよね。そこに、また仕事を注いでいくんです。この循環がうまくまわれば、きっと朝目覚めたときに今日も頑張ろうと思えるような健康的な毎日を送れるんだろうなと。

──太宰を見ていても思いますが、愛は依存性が高く、愛にすがりつけばすがりつくほど自分を保てなくなる。そういう愛されることの危うさや恐ろしさを感じることはありますか。

僕は愛するより愛してほしい人間なんですね。だから、相手が僕に向けてどれくらいの愛情を示してくれるかで、僕もそれに見合った愛をその人に与えます。と言うのも、本質的に僕の愛の総量は大きいんですよ。とんでもない大きさの愛情を僕は持っている。だから、僕の思っている愛の物差しで測ったときに、僕の与えた愛情より小さい愛が返ってきたら、僕はこんなに愛しているのにって怒ります。これは愛の依存ですよね。そういう意味では、僕も愛に依存しているところはあるだろうし、人ってそういうものなんじゃないかなという気がします。

■PROFILE■
きむらたつなり○1993年生まれ、東京都出身。2012 年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンでデビュー。『ハイパープロジェクション演劇ハイキュー‼』などで注目を集める。近年の主な舞台は『ジャック・ザ・リッパー』『四月は君の嘘』『マチルダ』(以上ミュージカル)、音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』、『SLAPSTICKS』『血の婚礼』『管理人/THE CARETAKER』など。ドラマ『オールドファッションカップケーキ』、映画『お茶をつぐ』(22年)など映像でも活躍の場を広げている。

【公演情報】
『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』
作:太宰治
上演台本・演出:五戸真理枝
出演:木村達成 島崎遥香 加藤諒 駒井健介/池田成志 松下由樹  平田満
●6/6~25◎PARCO劇場
〈料金〉11,000円 U-25チケット6,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
U-25チケット[観劇時25歳以下対象、要身分証明書(コピー・画像不可、原本のみ有効)、当日指定席券引換/「パルステ!」、チケットぴあにて前売販売のみの取扱い、指定席との連席購入不可(連席ご希望の場合は指定席をご購入ください)]
福岡・大阪公演あり
https://stage.parco.jp/program/shin-hamlet
〈問い合わせ〉パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)
〈公式サイト〉https://stage.parco.jp/

 

【取材・文/横川良明  撮影/友澤綾乃】

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