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パルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念公演『オイディプス王』上演中! 石丸さち子・三浦涼介インタビュー

三浦涼介

パルテノン多摩のリニューアルオープン1周年記念公演として、世界最高峰のギリシャ悲劇『オイディプス王』が、パルテノン多摩・大ホールにて、7月8日に幕を開けた(17日まで)。

紀元前より約2500年にわたり観客を惹きつけてやまないギリシャ悲劇の名作、ソポクレスの『オイディプス王』。日本でもこれまでに幾度となく上演された本作に、かつて蜷川幸雄版において演出助手を務めた石丸さち子が、魅力的なキャスト、スタッフとともに挑んでいる。

タイトルロールのオイディプス王を演じるのは、俳優、音楽活動と表現の場で常に輝きを放つ三浦涼介。共演には大空ゆうひ、新木宏典(荒木宏文改め)、浅野雅博、外山誠二、吉見一豊、今井朋彦ほか実力派俳優陣が名を連ねる。

人間の不条理と、根底で交錯する深い愛と憎しみを、叙情的な台詞で描くこの作品への取り組みと思いを、演出の石丸さち子と主演の三浦涼介に、開幕を控えた稽古中に語り合ってもらった。

石丸さち子

三浦さんと出会ったことで新しい演出ができると

──まず三浦さんに今回の作品に出演を決めたときの気持ちを伺いたいのですが。

三浦 僕はまず石丸さち子さんとまたお仕事ができるというところが大きかったです。ミュージカル『マタ・ハリ』(2021年)でご一緒して、とにかくこの人についていきたいという思いになりました。というのもこの仕事をもう20年ぐらいさせていただいていますが、いつもどこかで「これでいいのだろうか」と悩みながらの日々でした。それが、石丸さんと出会った『マタ・ハリ』で、「あ、楽しい!」「お芝居をもっとやりたい」と初めて思ったんです。ミュージカルでしたから歌もありましたが、歌うこともお芝居の延長の1つだと言われて勇気づけられて、「この人を信じてついて行けば大丈夫だ」という思いで進んで行けたんです。それは過去に蜷川幸雄さんのお芝居に出演させていただいたときに感じたものと似ていて、とくに『マタ・ハリ』の稽古中に僕の芝居で石丸さんが涙を流してくださったときに、「あ、伝わっているんだ」という明確な手応えが感じられたんです。僕はいつもお客様の前に出てリアクションをいただくまでは、これでいいのかなと不安なまま進んで行く感じだったんですが、「あ、この人を信じてついて行けば大丈夫だ」と思って進んで行けた。それがあったので今回のお話を聞いたとき、石丸さんの演出だったら是非という気持ちでした。

──石丸さんは三浦さんのオイディプスについてはどんな思いが?

石丸 プロデューサーから『オイディプス王』をやりませんかというお話をいただき、三浦さんを主役にと提案いただいたとき、私はまず三浦さんのオイディプスならば演出したいとお話ししました。ミュージカル『マタ・ハリ』で初めて一緒に仕事をしたことで三浦さんの表現力を知り、『オイディプス王』は様式的に演出されることが多いけれども、人間として生まれてきて、これだけの運命を背負った1人の人間を、三浦さんとなら様式でなくリアルに演出できるかもしれないと思ったんです。かつて蜷川幸雄さんのもとで、『オイディプス王』という作品に参加してきた私としては、そうすることで過去の記憶を覆し、新しい演出ができるのではないかと。そしてそのためにも三浦さんと一緒に創りたいと思いました。

──リアルな新しい演出をするということですが、稽古での手応えはいかがですか?

石丸 この作品が2500年前に書かれて、ずっと生き続けているその力を実感しています。こんなによく書けている、こんなに言葉が残酷で美しく、そしてプロットがうまく張り巡らされていて、読み方によってどうにでもなる謎もある。まるで初めて読むような感覚を抱きました。私が参加したのは一度は役者としてコロス役で、もう一度は蜷川さんの演出助手としてでしたが、当時は自分の役のことや蜷川さんの意図などを考えるだけで精一杯だったんです。それが今回三浦さんが読み始めて、台本に書いてあることにまっすぐに反応して、そのまま体験してくれたとき、初めてこの作品の偉大さを知ったんです。どういうふうにこのオイディプスという人が運命と出会っていき、それがどれほどのことかということ……人を殺してしまった記憶とか、人が亡くなったこととか、母親と関係を持ってしまったこととか、そういうことは自分の体験とは違う戯曲の中での経験として出会うことはあるのですが、三浦くんはその全てとリアルに出会いながら体験してくれたんです。そのとき私は、今までなぜこんなにも読めていなかったのだろうと。もう一度『オイディプス王』という台本を読み直していかなくてはいけないという思いになりました。

人間はなんと不条理な中で生きているのだろう

──その初めての読み合わせに、三浦さんはどんな思いで臨んでいたのですか?

三浦 稽古初日はやはりすごく緊張するんです。恐いし。石丸さんがいらっしゃるという安心感はどこかにありながらも、キャストの方もスタッフの方も初めましての方ばかりですから。でも最近、悲しいことと向き合わなくてはいけないことが多い日々の中で、そういう”今”とどこか通じるところがあったり、三浦涼介として置かれているところも含めてわかってしまう部分があったりして。そういうものが自分を先に進めさせてくれて、すごく難しい台本なのですが、最後まで気持ちを途切らせずに歩めたかなとは思います。

石丸 その読み合わせで私は、オイディプス1人のことではなく、最近いろいろ起きている事象やこの世界のことなども思い起こして、人間はなんと不条理な、不平等な、不公平な中で生きているのだろうと。人間存在のことをこんなにもえぐり出して描いている作品に最近出会ってなかったなというぐらい感動して、涙が止まらなくなったんです。もちろん泣くことがいいことだと思ってはいなくて。今はクールになって、この作品の実現に向けて必死で考えていますし、稽古の中で三浦さんもこの大作に向き合って苦労していると思いますが、その最初の読み合わせは、素晴らしいスタートラインでした。まさに「出会った!」という感じがしました。

──三浦さんは石丸さんの涙を見ていかがでしたか?

三浦 逆に不安にもなりました。そのときは素直に読んだだけですし、足りてない自分がいっぱいあるのがわかっていましたから。1ヵ月稽古をして学んで、いろいろなことがわかったうえでお客様の前に立ったとき、最初の素直なところにまた戻れるのかということもあります。

石丸 不安に思うことはないです!(笑)理解して再構築して作っていくのが稽古ですし、演出家は稽古をしてどこに辿り着くのかが見えていないといけないので。そこへ私と三浦さんが手を組んでいけばいいので。俳優のやることは基本ウソですけれども、あのとき出会った真実を呼んでこれるのが演劇の本番の力で、いくらウソをやろうとしても、真実を、素直を呼んでくる力があるので。何よりも三浦さんは心が動いたときに、一番素敵な発見をするので、私はそこに持っていきたいと思っているので、不安に思わないでください。

──今回のカンパニーについて話していただけますか。

三浦 素晴らしい役者さん方ばかりで、尊敬するところが沢山あって、僕は日々、皆さんから学ばせていただくことばかりです。

石丸 本当に良い俳優ばかり集まってくれています。この『オイディプス王』を人間のリアルを根拠に創ろうとしているときに、台本を丁寧に読み解いて、繊細に小さなところから1個の人間を作り上げていこうとしている方々ばかりなので、三浦さんと良いチームになるキャスティングだなと思っています。

──蜷川さんの演出では様式的でスケール大きな作品という印象が強いのですが、今回はリアルに作るということで、衣裳や装置などはどうなりますか?

石丸 オーソドックスなイメージにします。時代性が出ないものにしようと。衣裳はクラシカルで柔らかで、いかにもギリシャ悲劇というイメージのものになります。舞台美術も、ギリシャ悲劇としての『オイディプス王』の場合は、まず館があって、館の前にステージがあって、上手と下手にそこを訪れる人が出る登退口があるというのが基本です。その基本は守りながらも、今回はイメージとしては天にも昇るような階段があるんです。その階段の中腹からオイディプスが現れる。つまり疫病や飢饉に襲われて救いを求める民衆にとって、神と自分たちとの中間にいる人がオイディプスというイメージなんです。とても素敵なセットになっていると思います。

三浦涼介

生きている、生きる、死なないということ

──若い世代の人たちには難しく受け止められそうですが、三浦さんはこの作品についてどう感じていますか?

三浦 最初は悲劇というところにとらわれていたのですが、絶対的に希望というものを持って終わりたいと思っていますし、それが伝わればいいなと。とても悲しく、すごい話だったとだけ思って帰っていただくのではなくて、やっぱり希望を持って帰っていただければと思っていて、そこに辿り着ければいいなと思っているんです。

──とても苛酷な運命ですが、そこで希望を持てるとしたらそれは?

三浦 生きている、生きるということでしょうか。死なないという。僕もいろいろ寂しいなって思って考えてしまったりすることが日々あるのですが、でも残された、生きているということの希望、生きているだけでできること、それはすごく感じるので。だから生きているからには希望があるはず、と思っています。

石丸 この芝居で、母イオカステが悲惨な死を迎えたことを目の当たりにして、オイディプスは自死ではなく眼を潰すことを選ぶわけですが、それは世界に対して眼を閉ざしたのではなく心眼が開いたのではないか。そして民衆のところまで降りて行って、その姿を晒して、穢れであった自分自身を追放させます。この生き続ける強さみたいなもの。それは様式で演じる中では感じなかった強さで、それは三浦さんと一緒にこの作品をやってみることで「なんて強い選択をしたのだろう」と、私は初めて考えたんです。これまで何度も出会っているのに。つまり現代劇を読み解くようにこの『オイディプス王』を分析しているんです。そんな稽古の中で、オイディプスがどう成長し、何が見えるようになり、気がつかなかったことに気づき、どこに達したのかということを、私自身もこの作品の中で知っていくのが楽しみです。

──最後に観てくださる方へのメッセージをぜひ

石丸 ギリシャ悲劇というと難しい印象があるかもしれませんけど、ある運命のいたずらで自分のことを知っていく、とある1人の男の話です。とてもわかりやすく観ていただけると思います。極上のミステリーでもあって、その国の不幸のもとになっているものを自分が解決しようとしていたら、自分の運命にも出会ってしまい、そして自分探しの旅にもなってしまう。そういう物語が三浦涼介という俳優をオイディプスに得たことで、新しくすぐそこにある物語として演出できるような気がしています。そして劇場で良い歌を聴いたり楽しい話を観てすっきりするようなカタルシスではないけれど、これだけのつらい物語の悲劇を観たあとにあるカタルシスに案内したいし、それこそがギリシャ悲劇を観る醍醐味なので、それをリアルに描きたいと思っています。

三浦 僕は一生懸命に石丸さんと稽古していきたいと思っています。そしてこの作品の初日が開いたということは、僕がオイディプスとして舞台に立てているということなので、それだけでもう希望があると思うので(笑)、ぜひ観にきてください。

■PROFILE■

いしまるさちこ○演出家・劇作家。早稲田大学演劇専攻卒業。蜷川幸雄作品に俳優、演出助手として数多く参加。2009年に演出家として独立後は、自主企画制作(Theatre Polyphonic)で演出作を発表し、俳優私塾を開いて育成にも情熱を注ぐ。13年、NYオフブロードウェイ演劇祭MITFに招聘された『color of Life』で最優秀ミュージカル賞・演出家賞・作詞賞などを受賞。現在はミュージカル、ストレートプレイの演出、作・作詞・演出のオリジナルミュージカルを多数手がけている。

みうらりょうすけ○東京都出身。『仮面ライダーオーズ/OOO』のアンク役で人気を博し、以後多くの映像作品に出演。歌手としても活躍するほか、多数のミュージカル作品に出演し高い評価を得ている。近年の主な出演作品に、ミュージカル『1789 – バスティーユの恋人たち-』『ロミオ&ジュリエット』『エリザベート』『マタ・ハリ』『銀河鉄道999 THE MUSICAL』などがある。2024年2月より上演の『SaGa THE STAGE~再生の絆~』に出演予定。

【公演情報】
パルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念
『オイディプス王』
作:ソポクレス
翻訳:河合祥一郎
演出:石丸さち子
出演:三浦涼介 大空ゆうひ 新木宏典/
浅野雅博 外山誠二 吉見一豊 今井朋彦/
悠未ひろ 大久保祥太郎 相馬一貴
岡野一平 津賀保乃  林田航平 小田龍哉
丸山厚人 福間むつみ ほか
●7/8~17(休演日3日含む)◎パルテノン多摩・大ホール
〈料金〉9,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈取扱い〉パルテノン多摩チケット042-376-8181(10:00~19:00 休館日を除く)
https://www.parthenon.or.jp/ticket/
〈お問い合わせ〉パルテノン多摩 042-375-1414(9:00~22:00 休館日を除く)
●8/19◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
〈お問い合わせ〉兵庫県立芸術文化センター0798-68-0255(月曜以外10:00~17:00)
〈公演サイト〉https://www.parthenon.or.jp/event/202307anniversary

 

 

【取材・文/榊原和子 撮影/岩田えり ヘアメイク/春山聡子 スタイリング/村瀬昌広】

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