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少女漫画のロマンを乗せて進化を続けるミュージカル『王家の紋章』上演中!

1976年「月刊プリンセス」(秋田書店)にて連載開始以来、熱狂的なファンを生み出し、累計発行部数4000万部を誇る少女漫画界の金字塔「王家の紋章」のオリジナルミュージカル版である、ミュージカル『王家の紋章』が有楽町の帝国劇場で上演中だ(28日まで。のち、9月4日~26日福岡・博多座で上演)。

『王家の紋章』は細川智栄子 あんど芙~みんの手により、古代エジプト王メンフィスと、現代のアメリカの少女キャロルとの、時空を超えた愛とロマンを描いた物語だ。この、連載開始以来実に45年に渡り多くの読者に愛され続け、連載を続ける作品が、オリジナルミュージカルとして生れ出たのは2016年。『エリザベート』『モーツァルト!』などの傑作ミュージカルを手掛けた巨匠シルヴェスター・リーヴァイの音楽。「荻田ワールド」とも呼ばれる独特の世界観を創り出す脚本・作詞・演出の荻田浩一というクリエィティブと、浦井健治、山口祐一郎をはじめとした豪華キャストでの世界初演は、全日程のチケットが即日完売。早くも半年後に再演されるなど、大きな話題を呼んだ。

そんな作品が多くの新キャストを迎えて、2021年8月4年ぶりに帝国劇場で幕を開け、よりダイナミックに深みを増した舞台が展開されている。

【STORY】
16歳のアメリカ人キャロル・リード(神田沙也加/木下晴香)は、エジプトで大好きな考古学を学んでいる。頼もしい兄ライアン(植原卓也)や、友人たちや教授に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。
ある日、とあるピラミッドの発掘に参加したキャロルは、古代エジプトの少年王・メンフィス(浦井健治/海宝直人)の墓に向き合う。ピラミッドに眠っていた美しい少年王のマスクに、古代エジプトへのロマンを掻き立てられるキャロル。
だがそんな中、古代エジプトの神殿の祭司でメンフィスの異母姉アイシス(朝夏まなと/新妻聖子)が突然現れ、愛する弟・メンフィスの墓を暴いた報いを受けよとかけた呪術によって、キャロルは古代エジプトへとタイムスリップしてしまう。
我が身に何が起きたのかもわからないキャルロだったが、エジプト人にはありえない金髪碧眼に白い肌、更に考古学の知識と現代の知恵を持つ彼女は、メンフィスに見初められ、宰相イムホテップ(山口祐一郎)の信頼も得、やがて古代エジプト人達からも、“ナイルの娘”“黄金の姫”と呼ばれ崇められる様になる。
それでも現代を懐かしみ、帰りたいと願うキャロルだったが、強引で美しい若き王メンフィスの求愛に反発しながら、いつしか心惹かれてゆく。
だが、キャロルの英知と美しさにほれ込み、彼女を奪おうとするヒッタイトの王子イズミル(平方元基/大貫勇輔)をはじめ、二人の間には数々の困難が立ちふさがる。果たしてメンフィスとキャロル運命は──

誕生以来実に半世紀が近づいているこの大河原作漫画に接して思うのは、少女の夢というものはかくも壮大なものかというある種の畏敬の念だ。ここにはディズニー映画『白雪姫』の「いつか王子様が」が描いた少女の古典的な夢と、竹内まりやが書き、河合奈保子が歌ったヒット曲「けんかをやめて」が描いた自身がヒロインとなる夢とが、堂々と共存して描かれている。しかもそれがキャロル一人を争って、エジプトとヒッタイトが戦争をはじめるというスケールなのだから、この想像の翼の飛翔には驚かされるばかりだ。

もちろんこうした古代にタイムスリップするというほどに、現実から離れたところに夢を仮託せざるを得なかったほど、現代に比べて45年前の女性が自ら選び取れる人生の選択肢は極めて少なかったのも厳然とした事実で、だからこそこの『王家の紋章』の根幹には、つじつまが合おうが合うまいが、観劇している間は疑問を差し挟む余地を生まない、怒涛のスピード感とスケール感が必要不可欠になる。

その一点においてのみいえばミュージカル『王家の紋章』の初演は、そうした理屈をねじ伏せる勢いにやや欠けたきらいがあったのは否めなかった。リーヴァイの書いた楽曲の多くはキャッチーに耳を奪うというよりも、聞きこむほどに味の出てくるタイプのものだったし、脚本・演出の荻田浩一は、長大な原作世界から第4巻にあたる部分までを主に脚色することを選んだ着眼点は極めて正しかったが、それでも尚こぼれていかざるを得ないエピソードをコラージュするというよりは、むしろカットしていった為に、演出を含めて、物語がどこか小さくまとまってしまった感が残った。それは如何にも世界初演らしい、これから育っていく作品のはじめの一歩を感じさせたものだ。

それが半年後という短いタームでの再演でもかなりの手直しが施されていたほどだから、今回新キャストを迎えた三演目の印象がグッと大きくなったのは嬉しいことだった。全体のメリハリが強くなっているし、特に浦井健治をはじめとした続投のメンバーが持たらす深みと、海宝直人をはじめとした新キャストが吹かせた新鮮な風の双方による化学反応が、Wキャストの妙味も生み見比べる楽しみがより大きくなっている。

初演からエジプト王メンフィスを演じ続けている浦井健治は、王になるべくして生れた者の威厳と、自分の意見に誰一人逆らわないことが当然の立場に、何の疑問も持たない役柄に必要な孤高の傲岸不遜を体現している。だからこそはじめて自分の意に添わない態度をとるキャロルに憤りながら、混乱し、惹かれていく過程が鮮明で、大国を率いる王としての大きな存在感が良い。初演以来の非常に難易度の高い衣装もすっかり板につき、安定した主演ぶりだった。

一方、メンフィスとして初登場の海宝直人は、実は誠実なものを生まれ持ちながらも、王たる者全ての人々をひれ伏させ、恐れさせなければならないと自分を鼓舞している若き王に見えるのが、浦井メンフィスとの対比としても非常に面白い。わかりやすく歌い上げて終わらない持ちナンバーも、きちんと盛り上げて終われる豊かな歌唱力も後押しし、十全な帝劇主演デビューになった。メイクも公演を重ねる都度工夫されていて、漫画原作の主人公を体現するべく振り切った造形が増えていったことも興味深かった。

現代のアメリカ人少女キャロルは、Wキャストの二人共に新キャスト。その一人の神田沙也加は、原作漫画からそのまま抜け出したような愛らしく、溌剌とした表現が群を抜く。元々の愛らしい顔立ちが、如何にも少女漫画のヒインを体現していることも効果になっていて、この時代のヒロインならではの運命にひたすら巻き込まれていきながら、なんとか意志を通そうとする少女の勝気さが役柄によくあっている。

もう一人のキャロルの木下晴香は、歌唱力を武器にミュージカル界に旋風を巻き起こし続けている人らしい安定感がある。出番は非常に多いが、ここぞという見せ場はむしろアイシスが多くもっている作劇のなかで、真摯に役柄に対峙していて、柔らかな持ち味が「現代に帰りたい」と涙するキャロルの心許なさをより倍化していた。

同盟国であるエジプトを我が物にとの野望を秘めて身分を隠し潜伏しているヒッタイトの王子イズミルは、やはり初演からこの役を演じ続けている平方元基の、迫力ある歌唱と、深い演技力が目を引く。キャロルに恋する過程が、作品のなかでほとんど描かれていない難しさを、目があった、手に触れた、というごく短い瞬間、瞬間に落とし込んで唐突感を与えない形にまで昇華したのはたいしたもの。コスチュームも抜群に似合い、平方のイズミルがいるからこそ、話の続きが見たいと思える得難い存在になった。

そのイズミルで初登場の大貫勇輔は、近年芝居に注力してきた本人の頑張りが顕著に発揮されている。せっかく大貫をキャスティングしたのならば、どこかでダンス力が生きる場面を、例えば平方とは別の演出でつくっても良かったのではないかと、これはクリエィティブ側への要望として感じもするが、目線の使い方などの表現にも工夫があり、終盤の殺陣の迫力はいわずもがな。俳優としての階段を着実にあがっているのが嬉しい。

メンフィスの異母姉にして下エジプトの女王アイシスにも初役が揃い、その一人朝夏まなとが、難曲の多い持ちナンバーを歌い切り、歌唱面の充実にまず驚かされた。ここがクリアされると衣装の着こなし、女王としての威厳や押し出しがより光って感じられ、この時代まったく問題ではなかった母親が異なる弟であるメンフィスとの結婚を望み続けるいじらしい恋心と、それ故の狂気を大きな振り幅で演じていて素晴らしかった。

一方、Wキャストの新妻聖子は、初演、再演と演じていたキャロル役をまだ十分に演じられるのではないか?と思える愛らしさのなかから、弟への愛と献身が歪んだ独占欲に変わっていく過程をひたひたと表現していて目が離せない。元々作品の大ファンの呼称である「王族」を自認するだけに、役柄への理解が深く、十全な歌唱力は最早言うまでもない。この作品のなかでは、キャロルよりも書きこまれているアイシスをより引き立てる好演だった。

キャロルの兄ライアンにも今回が初参加となる植原卓也が登場。メンフィスとアイシス、ライアンとキャロル、イズミルとミタムン三組の兄妹(姉弟)の物語という側面さえある物語のなかで、一人現代にいる難しい役柄を、キャロルへのひたすらな思いをこめて演じている。おそらくいくら少女漫画の世界でも、現代ではピンストライプのスーツを着たビジネスマンが、ワンレングスのストレートロングヘア―ということはほとんどないだろう、この時代ならではの登場人物を髪の長さも工夫してバランスよく見せた、植原のスタイルの良さも際立った。

イズミルの妹ミタムンも初役の綺咲愛里。宝塚歌劇団時代から、その愛らしさで注目が集まってきた人だが、恐ろしい運命に見舞われたあとも、さすらう魂が物語を進めていく、これぞ「荻田ワールド」の象徴のような役柄の、その後半部分の迫力に凄味があり、まだまだこれから新たな面が生まれ出るのでは?という役者・綺咲愛里への興味が深まった。

同じく宝塚歌劇団出身で、エジプトの女官長ナフテラの出雲綾は、出過ぎず引き過ぎずの居住まいと、温かさと同時に力感のある歌声がやはり貴重で、初演以来の欠かせない顔になっている。また、イズミルの部下ルカは、この舞台の幕が下りてもまだ物語は決して終わっていないことを表す重要な役柄で、前山剛久が頭の回転の速さを印象づければ、岡宮来夢がイズミルへの崇拝を濃く感じさせて、こちらも面白いWキャスト。キャロルの警護役ウナスの大隅勇太が、優しく機智にも富んだウナスなら、ルカと役替わりで登場の前山剛久が、思いやり深い純朴さを表現していて、これは大隅との対比としても、自身のルカ役との対比としてもよく考えられた演じ分けになった。

ほかにミヌーエの松原剛志、セチの坂口湧久がそれぞれ役柄の造形をクッキリと見せたし、千田真司、長澤風海の超絶技巧のダンス力も光るなかで、クレジットこそされていないが、まさしく特別出演の趣のエジプトの宰相イムホテップの山口祐一郎が、初演より更に軽やかさを増した演技で魅了する。初演時は、ラストシーンの幕を下ろす大ナンバーを歌う為の、贅沢なキャスティングだと思わせた山口だが、年々歳々本人のキャラクター性が強まっていて、登場しただけで温かな空気で場をさらう様は、まさに一服の清涼剤。ますます貴重な存在になっている。

総じて、現代と古代をつなぐ演出や、イズミルの登場場面などが全体に親和した進化を感じさせる三演で、瀕死のメンフィスを前に歴史を変えることに戸惑うキャロルのナンバーの尺が、如何になんでも長く感じるなど、更なるブラッシュアップも可能な余白も持つ作品が、着実に育っていってくれることを期待したい。

【公演情報】
ミュージカル『王家の紋章』
原作:細川智栄子 あんど芙~みん『王家の紋章』(秋田書店「月刊プリンセス」連載)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
出演:浦井健治/海宝直人(Wキャスト)、神田沙也加/木下晴香(Wキャスト)、平方元基/大貫勇輔(Wキャスト)、朝夏まなと/新妻聖子(Wキャスト)、植原卓也、綺咲愛里、出雲綾、前山剛久/岡宮来夢(Wキャスト)大隅勇太/ 前山剛久(Wキャスト)、山口祐一郎 ほか
●8/5~28◎東京・帝国劇場
〈料金〉S席 14,500円、A席 9,500円、B席 5,000円全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777 ※全日程チケット販売終了
〈公式サイト〉https://www.toho.co.jp/stage/
●9/4~26◎福岡・博多座
〈料金〉S席 15,500円、A席 9,500円、B席 5,500円全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉博多座電話予約センター 0092-263-5555 ※チケット販売終了
https://www.hakataza.co.jp/lineup/202109/ouke/index.php

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

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