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1年半の時を経て開幕を待つ『カノン』 野上絹代×渡辺いっけい インタビュー

昨年3月、劇場入りしながらも、新型コロナウイルスの影響で開幕直前に中止になった野田秀樹作・野上絹代演出の『カノン』。
その公演が、1年半の時を経て東京芸術劇場シアターイーストで上演されることになったが、現在、感染症拡大防止の影響を受け、初日が延期される中で開幕を待っている。
(編注※ 8月31日現在、初日を予定していた8月19日から8月31日までの公演が中止となっていましたが、9月1日(水)18:00回より上演することが決定。追加公演として9月4日(土) 18:00の上演も決定しました。)

本作は、劇団「快快」のメンバーとして活躍している野上絹代が、2015年の演劇系大学共同制作Vol.3で上演。その成果を評価した野田秀樹が、「国内外の優れた演出家が野田戯曲に挑むシリーズ」の中の1つとして東京芸術劇場での再演を提案。
出演者はオーディションでベテランから新人まで、バックグラウンドが異なる俳優たちが選ばれた。その企画に「若者たちと芝居がしたい!」と渡辺いっけいが参加。野田演出のオリジナル版では野田本人が演じた都の権力者、天麩羅判官役を演じることになった。

昨年の公演中止当時のキャストは、ほぼ全員が再結集し、開幕に向けて熱い日々を送っていた稽古中のある日。演出の野上絹代と出演の渡辺いっけいを訪ねて、さまざまな思いの詰まった舞台『カノン』について語り合ってもらった。

渡辺いっけい 野上絹代

自分を遠いところに連れてきてくれた戯曲

──昨年の公演が中止になって、1年半の延期になりました。そのときの気持ちはいかがでした?

野上 ショックはありましたが、わりと早い段階で、延期にはなるけど上演はしますと、主催の東京芸術劇場から言っていただいたので、次を目指そうという気持ちでした。

渡辺 ただ、同じメンバーできるとは限らないだろうなと、ちょっと諦めていたんですが、ほとんどの人が参加できたのでよかったなと思っています。

──ポジティブに捉えるなら、作品を練り直す機会ができたとも考えられますね。

野上 そうですね。昨年はいよいよ皆さんに観ていただけるという段階までは行っていたので、今回はそれを更にどうしていこうかという段階になったわけです。俳優たちからも沢山のアイデアを出してもらいましたし、やはり時間ができたことで俯瞰して考えることができて、そこはよかったんじゃないかなと。

渡辺 今回の稽古の初日に、前回の映像を観ることができたんです。中止が決まったときに通しのリハーサルを撮影しておいたものがあったので。それをみんなで観たんですが、ほぼほぼ全員が自分が思っていた以上にできてないと感じたんじゃないかな。それで、ああしたい、こうしたいというのがそれぞれに出てきた。なぜなら僕がそうだから(笑)。

──そんなふうにして改めて向き合っている『カノン』という作品について、どんな思いがありますか?

野上 私にとって、今回で向き合うのは3回目になるわけですが、こんなにじっくり1つの作品に時間をかけて、人生の折々に出会うということはそんなにないので、やはり縁が深い作品だなと。また、最初に作っていたときより、ずいぶん自分を遠いところに連れてきてくれたなと。そのことへの感謝も感じていますし、今また向き合いながら喜びも感じています。

渡辺 僕は、NODA・MAPの初演の『カノン』を観ているんです。そのときはよくわからない作品だなと思って、野田さんにもそう言ったんですけど、今回こうしてやってみると、全然わかりにくい作品なんかじゃない。なんで俺はピンとこなかったのかなと不思議に思っているぐらい、すごくわかりやすい。

──初演で野田さん演じていた天麩羅判官という役は、いっけいさんにもすごく似合いますね。悪の部分も善の部分もあって、その裏表が瞬時に変わる、とても面白い役ですね。

渡辺 酔っ払うと人格が変わるんです(笑)。その部分は自分でも稽古しながら、思いもよらない方向に行ってしまいそうなときもあって、面白いですね。

野上 庶民を翻弄する権力者の役なんですが、いっけいさんがやると愛嬌があってキュートなんです。嫌なやつの役なのにずっと観ていたくなるところがあります。

──この作品は初演は2000年で、作品のモチーフになっている「浅間山荘事件」や連合赤軍の話などは、当時の観客にとってまだ生々しい部分があったと思います。そこからさらに15年経って、世代の違う野上さんが良い意味でフラットに扱ったことで、この戯曲そのものの面白さが、再確認されたのではないかと思います。野上さんは、なぜこの戯曲を手がけたいと?

野上 2015年の演劇系大学共同制作で上演するために、野田さんの作品の中から選ぶことになって、学生が演じること、また20人ぐらいの出演者という条件があったのですが、若者が演じて説得力のある作品ということで『カノン』に決めました。

──確かに若さゆえの理想や夢、恋や欲望、その果ての挫折などが疾走感とともに描かれています。

野上 彼らが掲げる理想は素晴らしいのですが、どこかですり替わって別の方向に暴走してしまうんです。そういう意味では私にとっても決して無縁とは言い切れないし、反面で重たさも感じながら面白い戯曲だなと思いました。

──その中で天麩羅判官という人は、そういう若者たちを手玉にとる大人として登場します。そこもいっけいさんにはぴったりかと。

渡辺 いやいや、野田さんの天麩羅はそういう老獪さがあると思いますが、僕はそこまでは(笑)。ただ稽古を見てて思うんですが、野田さんの稽古では僕がストレートにやると、「綺麗にまとめんじゃねーよ」といつも言われてたんですが、今、若い人たちと稽古していると、みんな素直でうまいんです。でも果たしてそれでいいの?というような感情を、天麩羅の立場に重ねたりしてます。そういう意味ではどこか批評性を持って見る役でもあるので。

野上 ああ、そうですね。

人様の戯曲なので、大事にしたいポイントがある

──今回、ほとんどがオーディションで選ばれた人ばかりですが、皆さん、この作品の雰囲気に合いますね。

野上 佇まいがぴったりという方が多いですよね。オーディションで見た瞬間に「あ、居たわ」という(笑)。そういう感じだったので、稽古のときはアドバイスはしますが、そのままの良さを活かしつつ、という感じですね。

──メインキャストについて決め手となったところを話していただけますか。まずはヒロインの沙金を演じるさとうほなみさん。

野上 見目麗しいのはもちろんですが、芯が強いというのが重要でそれがオーラとして出ています。そして男性から好かれる役ですが、女性も付いて行きたくなるような素直さも持っている。盗賊団の頭ですから誰からも信頼されているようなところがないといけない。それも彼女にはあります。

──沙金に運命を狂わされる太郎役は中島広稀さんです。

野上 中島さんは線が細い印象があるんですが、演技をさせるとすごくパワフルなんです。初日の本読みで、いっけいさんと中島さんが私の両サイドにいたんですが、2人とも声が大きくて、ちょっと2人は段違いでしたね(笑)。

渡辺 ははは(笑)。

野上 いっけいさんの天麩羅判官と張り合えるぐらいのパワーがあって、それに少年ぽさもあるし、さらに狂っていける狂気もあるので、非常に頼れる俳優さんです。

──その弟で狂信的な思想を持つ次郎役は小田龍哉さんです。

野上 可愛らしいというか。

渡辺 うん、可愛い(笑)。

野上 ずいぶん大人になってきましたが、でも中島さんの弟役に見えること、そして中島さんの太郎の母性をかきたてるような俳優さんがいいなと思ったので。それに小田さんはすごく身体も利くし、どんな要求でも体現できる技術もあるんです。

──皆さん頼もしいですね。ところで、いっけいさんから見て野上さんの演出は野田さんとはやはり違いますか?

渡辺 いや、そんなに違うとは思わないです。本当に演出家っていろんなタイプの方がいますけど、絹ちゃんは俯瞰で見てくれているなと。ポイントをしっかり言ってくれて、違っているとそうじゃないほうがいいとか、はっきりしてるんです。例えば僕が言われたことをシレッとまたやってみると、もう1回ちゃんと指摘される(笑)。

野上 (爆笑)。

渡辺 いや、試してるわけじゃないですよ(笑)。二度目は採用する人もいるから。

──演出するうえで確固としたイメージがあるということですか?

野上 というより自分が書いた戯曲じゃなく、人様の戯曲を使わせていただいているので、いろいろ大事にしたいポイントはあるということでしょうね。これはこういう意図で書かれているので、それを覆すならそれなりの強いものが必要だと思っているので。イメージは逆に固まってないというか、出された素材でみんなで何ができるかやってみようと、全体のバランスなども見ながら手探りでやっているので。

自分の中に「本当の自由」がないと、自由にできない

──野田さんが野上さんについて「僕の戯曲に寄り添ってくれる」と。野田戯曲は野田演出の印象が強いだけに、そこからあえて離れようとする人もいますが。

野上 私自身、奇を衒うという本能はなくもないのですが、それはちょっともったいなくない?と思うし、それは演出家のエゴではないかと。もちろん新しいものを作り出したいし、へんなこともしたいのですが、それよりは、取り込ませてもらって作ったほうがお互いにWin-Winじゃないかと思うんです。俳優さんの演技に関しても、そこにある良いものを取り込ませてもらうほうがいいという考え方なので。

──いっけいさんから見て野上さんは、コミュニケーションしやすい演出家さんですか?

渡辺 そうですね。パフォーマーでもあるので、役者を自由にさせてくれますね。野田さんもそうで、いつも僕の稽古時間をちゃんと取ってくれなくて、「いっけいは勝手にやって」みたいな(笑)。「それは演出の放棄です!」と抗議したこともあるんですが(笑)。でもこの公演の若い人たちも言われるまで待ってないで、自分でどんどんやっているのがいいなと。戯曲の中にも出て来ますが、「本当の自由」というのは自分の中にないと自由にできない。僕が学んだことですが、自分の中に規律がないと動けない。そういう意味で規律を持っている役者を選んでいると思います。

野上 動きを付けてステージングをしてというところまでやると、そこからはみんな自分で動き始めるし、俳優同士が「ここはこうしたらいいんじゃない」とか勝手にやってくれるんです。私は外から見ている人間なので見栄えの指摘はできるけど、段取りは実際動く人が話し合って決めるべきで、そういうことをみんなが勝手にやってくれる。いい稽古場だなと。

──そんな『カノン』を観に来られる観客のみなさんへメッセージを。

渡辺 このコロナ禍の中で、ぜひ来てくださいとは言いにくいのですが、この『カノン』という作品は、絶対に生で観て、役者の振動というか波動とかそういうものを感じていただきたいので、なんとか1人でも多くの方に観ていただければいいなと思っています。

野上 『カノン』の設定は最初は平安時代だったりするので、過去のことをやっているように見えますが、現在のこととか未来のこととか、いろんなことを想像していただきながら観てくださるといいなと思っています。分断の時代ということで、他者とか未来とかを想像しにくい時代になっていますが、劇場にぜひ想像力を養いにきていただければと思います。

野上絹代 渡辺いっけい

のがみきぬよ○演出家・振付家・俳優・多摩美術大学非常勤講師。大学在学中、劇団・快快(ファイファイ)の旗揚げに参加。以降、同団体の国内外における活動のほとんどに参加。ソロ活動でも演劇/ダンス/映像/ファッションショーなど幅広く活動。代表作に自身の子育て経験を踏まえて作・演出したソロ活動・三月企画『GIFTED』(坂あがりスカラシップ2015対象公演)などがある。最近の活動は三島由紀夫没後50周年企画「MISHIMA」の『橋づくし』(作・演出)、リーディングアクト『一富士茄子牛焦げルキー』脚本など。

わたなべいっけい○愛知県出身。大阪芸術大学在学中、当時、学生劇団だったいのうえひでのり主宰「劇団☆新感線」参加。上京後、唐十郎主宰「状況劇場」に入団。1998年の退団後は、野田秀樹演出など数多くに参加。1992年、NHK 連続テレビ小説『ひらり』で多くの人に知られるようになる。近年の主な出演作に、ドラマ『大富豪同心2』『今ここにある危機とぼくの好感度について』『青天を衝け』『バイプレイヤーズ』『神様のカルテ』(2021年)『居酒屋兆治』『W の悲劇』『警視庁遺失物捜査ファイル』(2020年)、映画『科捜研の女 劇場版』(2021年9月3日公開)『バイプレイヤーズ』(2021年)『いつくしみふかき』『クローゼット』(2020年)『二宮金次郎』(2019年)、舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム』『北齋漫畫』(2019年)など多数。アニメ『おしりたんてい』で声優も務めている。

【公演情報】
『カノン』
作:野田秀樹
演出:野上絹代
出演:
中島広稀  さとうほなみ
名児耶ゆり  永島敬三  大村わたる  山本栄司  長南洸生  緒形 敦  川原田樹
手代木花野  佐々木美奈  前原麻希  本多 遼  湯川拓哉  小田龍哉  村田天翔
木津誠之  家納ジュンコ  佐藤正宏
渡辺いっけい
● ~9/5◎東京芸術劇場 シアターイースト
※初日は9月1日以降について現在協議中。公演日程は公式サイトをチェックしてください。
〈公式サイト〉https://www.geigeki.jp/performance/theater278/
〈料金〉一般5,000円   65 歳以上 4,500円 25 歳以下 3,500円 高校生以下 1,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296(休館日を除く 10:00~19:00)
〈劇場HP〉https://www.geigeki.jp
●9/17◎高崎芸術劇場 スタジオシアター
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/concert_detail.php?key=462

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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