超ゴージャスなミュージカル『プリシラ』待望の再演が間もなく開幕! 山崎育三郎インタビュー
華麗なドラァグクイーン達が往年のディスコヒッツで歌い踊る、超ゴージャスなミュージカル『プリシラ』! 大ヒットを記録した初演から2年、待望の再演が決定。3月9日から30日まで日生劇場で上演される。
この舞台で、初演に引き続き、ドラァグクイーンの主人公ティックを演じる山崎育三郎。ありのままの自分を息子が認めてくれるのか?惑い悩みながら仲間と共にバスの旅を続けるティック自身の自分探しが、華やかな作品の太い幹となっている。
2016年の初演以降、映像に舞台にと更に大きく活躍の場を広げている山崎の目に、再演となる『プリシラ』という作品とティック役、更に活況が続くミュージカル界の今はどう映っているのだろうか。その思いを語ってくれた「えんぶ2月号」のインタビューを、演劇キックでもご紹介する。
受け身でいながら物語の軸になるティック
──待望の再演となりましたが、再演決定の報せを聞いた時にはいかがでしたか?
やはりどんな作品でも再演ができるという訳ではない中で「もう一度!」と言って頂けたのは、2016年の日本初演が皆様の心に何かしら残せるものがあったのだな、という証明でもありますから、とても嬉しかったです。
──その初演時で特に印象が深かったことは何ですか?
フライヤーなどのビジュアルからまず衣裳が話題になりましたし、衣裳だけを見て頂いても楽しめるというくらいのインパクトがあったと思います。僕の衣裳だけで22着あったのですが、早替えという短時間での衣裳替えの連続で、スタッフさんを含めて袖ではもうバタバタの戦争状態でした(笑)。着替えたら出る! というかたちだったので。でもその見た目の華やかさだけに終わらず、ストーリー自体にとても深いものがある、グッとくる作品でもあって。僕の演じたティック、陣内孝則さんが演じたバーナデット、ユナクと(古屋)敬多がWキャストで演じたアダムの3人が旅をしていく過程が描かれているのですが、バーナデットとアダムのキャラクターが際立っているんです。話し方からしてとても個性的で、どんどん笑いをとっていく。そこからすると僕のティックは作品の中心を歩いていきながらも、ずっと受け身なんです。何かを動かすのではなく作品の軸として立って後半に向かっていく。こういう役柄は初めての経験だったので、受け身でいながらティックの感情の流れを作っていくのには、難しさを感じる部分もありました。
──確かにドラァグクイーンである自分を息子が認めてくれるのか? と葛藤しながらバスの旅を続けるティックの物語が軸としてありつつ、旅行中に起こる様々な出来事は、バーナデットやアダムが巻き起こしている面も大きかったです。その中でティックの何を大切に表現しようと?
ブレないということでした。どうしても大きな笑いが起きたり、周りのテンションが上がってくると、そちらに寄りたくなるのですが、でも自分はそこには行かない。華やかで、コミカルな面もたくさんある舞台だからこそ、ティックの居方によって作品の見え方が変わってきてしまうので、そこは特に意識してティック自身のストーリーを大切にしようと思っていました。
──だからこそ、息子さんと2人で語り合うシーンは感動的でした。今お話しに出た陣内さん、ユナクさん、古屋さんも続投となりますね。
大ベテランの陣内さんがムードメーカーとして、作品を支えてくださったのが本当に大きくて。立場としては僕が座長なのですが、陣内さんが積極的に食事会などを設定して、カンパニーを盛り上げてくださったのがとてもありがたかったです。ダンスが苦手だ、苦手だといつもおっしゃっていたのですが、必死に稽古していらっしゃる姿に僕も元気をもらっていました。ユナクと敬多も同じ破天荒なアダム役を演じながら、それぞれ全くアプローチが違っていて。二人の変化によって、僕の気持ちも自然に変わってきたりもしました。お客様の反応や、笑いが起こる場面もそれぞれに違っていて面白かったですし、とても魅力的なWキャストでした。
シンプルに人間の成長物語として感じて欲しい
──宮本亜門演出はいかがでしたか?
演出家という立場ですが、ほとんど椅子に座っていることがなくて! 一緒になって稽古に参加して、一緒に動いて、僕が発信するものも柔軟に受け留めて、自由に演じさせてくださるんです。これまで様々なミュージカル作品でご一緒する機会の多かった、海外の演出家の方々に近いものを感じました。現場の空気、皆がリラックスして稽古に挑めるような空間を作ってくださって、役者に寄り添って稽古を進めていく。ですから終始稽古場が良い雰囲気でしたし、それがこの作品のカラーにも見事にマッチしていたので、皆で意見を出し合いながら創っていくことができました。
──また、ディスコサウンド満載の作品でもあって、音楽の魅力も大きなものでしたが、演じていてその辺りは?
やはり既存の名曲を集めて創られたミュージカルなので、お客様の「この曲知ってる!」ですとか「思い出の曲だ!」という、音楽自体の持っているキャッチーな力やエネルギーは大きいなと感じました。初見でも楽しめますし、ミュージカル初心者の方にも、スッと入ってきて頂けるのを実感しました。
──そういう楽しさの中に、この作品はセクシャルマイノリティーと呼ばれていた方達の恋愛や生活、時には謂われない差別を受けるシーンも描かれていました。
初演の時に『プリシラ』の世界観そのままの、ドラァグクイーンのメイクや華やかなコスチュームの方達が客席にいらしてくださっていて、これまでの作品との違いを感じましたが、その中でも1人の人間が悩んだり、壁にぶつかった時に、どうそれを乗り越えていくのか。友情、家族、自分の夢などが助けになって前に進んでいける、そういう部分が、年齢、性別、様々な愛の形によらず、心を打つものになったのかなと思います。今の時代はLGBTQなどの言葉も浸透していっていますし、更にシンプルに人間の成長物語として共感して頂けるのではないかと思います。
「ミュージカル」というジャンルが広がった奇跡
──『プリシラ』の初演からこの2年間の山崎さんは、映像での大活躍、『美女と野獣』の吹き替え、また『レディ・ベス』『モーツァルト!』など、大きなお仕事が続きましたが、この期間を振り返っていただくとすると?
「ミュージカル」というジャンルが、一気に大きな広がりを見せたな、というのが一番感じていることです。僕が『下町ロケット』に出演したのが2015年で、そこから映像の仕事も増えて行ったのですが、当時はまだミュージカル役者がどんどんテレビに出る、という時代ではなくて。ですから自分自身でも手探りでのスタートでしたが、次第に映像でも認知して頂けたこと。それから『美女と野獣』の吹き替えをやらせてもらえたこと。
更に『ラ・ラ・ランド』、『グレーテスト・ショーマン』というミュージカル映画の大ヒット作品が生まれたこと。それらの要素がこの期間に集まったのが奇跡だなと僕は思っていて。ジャンルとしての「ミュージカル」が大きな盛り上がりを見せてくれたことで、ミュージカルの要素を取り入れたドラマをさせて頂けましたし、「ミュージックステーション」にも『モーツァルト!』の楽曲で出演させてもらえました。
ミュージカルの楽曲だけで番組が構成されたのは、「ミュージックステーション」の長い歴史の中で初めてのことでしたし、「FNS歌謡祭」には1人で出させて頂いていたのですが、それ以外にミュージカルコーナーができるようになった。2018年にはこの『プリシラ』のメドレーもご披露しましたが、ほんの数年前には考えられもしなかった流れが起きている。
それは僕にとって「こうなったら良いな」と思っていた理想でしたし、そのきっかけのひとつになれたら、という想いで映像の世界に飛び込んだところもあるので、今、色々なカンパニーがテレビの歌番組に出て歌っているのを見ると、「遂にこの日が来た!」と思います。1人で泳ぎ始めたという気持ちだったところに、これだけ輪が広がっているのを実感すると嬉しい限りです。
──やはり「ミュージカルのチケットを買って劇場に行こう」と一歩を踏み出して頂くには、まず「ミュージカルって楽しそう!」と感じて頂くきっかけが必要ですね。
そのきっかけにはテレビはやはり最適だと思います。実際に僕が出ていたテレビ番組から興味を持って「初めて劇場に来ました!」というお声も多く頂いているので、僕自身にとっても励みになっています。
同じ空間で体感してこそ味わえる非日常
──そういうフロントランナーの1人として、ミュージカルの一番の魅力はなんだと感じていますか?
やっぱり「ライブ」ということだと思います。映像の仕事もさせて頂いていて感じるのは、映像は撮ったものがすべてなんですね。そこから変えることはできない。だからこそいつ観ても、どんな時に観ても変わらないものが観られるという良さがあるのですが、劇場にはその日、その場の空間を共有した人としか分かち合えないものがあります。同じ作品でも同じものは二度とない。チケットを買って、おしゃれをして、劇場に足を運んで目の前で役者が演じ、オーケストラが奏でるのを、すべて生で体感する。それによってその時間の間は非日常を体験でき、夢の世界に誘ってくれる贅沢な場所ですね。それはインターネットが発達し、様々なコンテンツが広がっている今も、そしてこれからも変わらないものだと思います。その魅力を1人でも多くの方に知ってもらいたいので、僕もずっと大切にミュージカルの舞台を続けていきたいです。
──多くの方に「はじめて」の扉を開いて頂きたいですし、その為にも山崎さんのご活躍に期待しています。この『プリシラ』をはじめ、座長としての舞台も増えている中で心がけていることは?
稽古場で緊張せずに皆がリラックスしていられる空間を創りたいという意識は強くあります。稽古場は本来どんなに失敗しても良いし、様々なトライをして本番に向かっていく為の場所なのですが、僕自身も最初は先輩方が見ている前で演じることに緊張してしまって、役と向き合うというよりも、自分の緊張と闘う場になってしまっていたんです。ですから皆が固くならずに自分の役柄に真っ直ぐ向き合える稽古場にしていきたいですし、それが再演の『プリシラ』の舞台を更に素敵なものにしていける道だと思っています。『モーツァルト!』でも感じましたが、再演の舞台は自分で敢えてこう変えよう、とは全く思っていないのに、役との向き合い方が自然に変化しているんです。それは初演からの期間に自分が体験し、蓄積したものによって自分自身が変わっているからこそだと思うので、新しい2019年の『プリシラ』に僕自身も期待しています。確実にパワーアップしたものになると思いますし、これだけ幸せな気持ちで帰れるミュージカル作品は他にないと思います。目で耳で心で楽しんで頂ける客席参加型の作品ですので、是非初心者の方もお誘いになって、ご一緒に劇場にいらして『プリシラ』の世界を体感して下さい! お待ちしています!
やまざきいくさぶろう○東京都出身。07年ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役への抜擢を皮切りに、数々のミュージカル作品に出演。ミュージカル界のプリンスとして熱い注目を集める。15年テレビドラマ『下町ロケット』をはじめ、『あいの結婚相談所』『昭和元禄落語心中』等、映像作品にも活躍の幅を広げ、17年『美女と野獣』の日本語吹き替え版で野獣役を務めた。近年の主な出演舞台に『エリザベート』『レディ・ベス』『モーツァルト!』などがある。
〈公演情報〉
ミュージカル『プリシラ』
演出◇宮本亜門
翻訳◇エスムラルダ訳詞◇及川眠子
出演◇山崎育三郎 ユナク/古屋敬多(Lead)[Wキャスト] 陣内孝則
ジェニファー エリアンナ ダンドイ舞莉花 大村俊介(SHUN)/オナン・スペルマーメイド[Wキャスト] 石坂勇 三森千愛 シンシア キンタロー。/池田有希子[Wキャスト]
谷口ゆうな ICHI 大音智海 奥山寛 鈴木ゆま 砂塚健斗 高木裕和 土器屋利行 広瀬斗史輝 堀部佑介 陣慶昭 瀧澤拓未
●3/9~30◎日生劇場
〈料金〉 S席3,000円 A席8,000円 B席4,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9:30~17:30)
http://www.tohostage.com/priscilla/
【構成・文◇橘涼香 撮影◇岩村美佳 ヘアメイク◇花村枝美(MARVEE) スタイリスト◇尾後啓太】
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