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ロボットが抱く無垢な感情に宿る切ない美しさ ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』上演中!

人間よりも人間らしいヘルパーロボット達が織りなす、愛しくも切ない交感を三人のキャストで描いたミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』が日比谷のシアタークリエで上演中だ(30日まで)。

『メイビー、ハッピーエンディング』は2015年に韓国でトライアウト公演ののち、2016年に初演されたミュージカル。作品は瞬く間に大ヒットとなり、全公演ソールドアウトを記録。2017年、2018年と再演を重ね、今年2020年1月にアメリカ公演、6月から再び韓国での上演と、快進撃を続けている。今回のシアタークリエでの上演は待望の本邦初演で、上田一豪翻訳・訳詞・演出。主演の旧型ロボット・オリバーに浦井健治が扮する他、多彩なスタッフ・キャスト陣で繰り広げられるミュージカルとなっている。

【STORY】
近未来の20××年、ヘルパーロボットが活躍する時代。郊外にひっそりと佇む、主人を失ったヘルパーロボット専用のアパートで、ヘルパーロボット3のオリバー(浦井健治)は、大好きなレコードと雑誌に囲まれ、植木鉢を唯一の話し相手に、穏やかで規則正しい生活を送っていた。

ある日、向かいの部屋に住むヘルパーロボット5のクレア(中川翔子/花澤香菜・Wキャスト)が充電器を貸して欲しいと突然訪ねてくる。はじめは自分だけの生活リズムを乱されることに戸惑ったオリバーだったが、充電切れで動けなくなったクレアを助けるうちに、二人の交流は深まっていく。やむなく離れることになった主人のジェームス(坂元健児/斉藤慎二・Wキャスト)に会いに行きたいと願うオリバーに、快活なクレアは、自分が運転をするから今すぐ旅に出ようと提案。行動を共にすることでより互いを理解していく二人は、ロボットにはプログラミングされていないはずの感情を育んでいくが……。

手塚治虫が「鉄腕アトム」を描いた時代から、人型ロボットに対する人類の憧れにはやがてくる未来社会への希望が詰まっていたものだ。空を飛び、人より遥かに強い力を持ち、いつまでも傍にいてくれる友達。そんな人とロボットとの共生社会に描かれた夢は、根本的には明るい未来を想像させるものだった。

しかもそんな未来社会は、今ますます身近なものなっていて、重い荷物を黙々と運んでくれるにはじまる、何かひとつの能力に特化したロボットは、各分野になくてはならない存在になっているし、空こそ飛ばないが、話しかける度に知識を増やし、会話が充実してくる人型ロボットが接客をする店舗も格段に増えた。囲碁や将棋の世界で人口知能が人間に勝つのも珍しいことではないし、ショートショートの名手として知られた作家・星新一の名を冠した「星新一賞」では、現在人工知能が書いた小説を公募中だ。人とロボットとの共生社会は今や遠い未来の夢ではなく、既にはじまっている現実とも言えるだろう。

けれども人が開発したものである以上、ロボットも進化を続けている。それこそスマートフォンやパソコン、カメラなどだけでなく、どこの家庭にも膨大にあるだろう電化製品がそうであるように、機械は日々バージョンアップされ、次々に新製品が生み出されていく。同時に、それまで第一線で活躍していた機械は型落ちになり、いつしか店頭から姿を消し、やがて部品も作られなくなって修理もできなくなる。つまりはそこで機械たちは強制終了を余儀なくされる。もちろん必ず寿命を迎えるのは人も全く同じだが、それでも勝手に廃盤にされてしまった機械に、ロボットに心があったとしたらどうだろうか。

この作品は、そんな切ない視点から立ち上がった物語だ。人の役に立つことを無上の喜びとしてプログラミングされているヘルパーロボットのオリバーは、主人のジェームズが迎えに来てくれることを待ち続けている。主人を信じて疑わないオリバーは、ジェームズが現れないのは彼に何か大きなアクシデントがあったからに違いないと案じ、なんとか元いた家を訪ねたいと願っている。一方オリバーよりは後から開発されたヘルパーロボットであるクレアは、自分が何故今このアパートに住んでいるのか?の真実を理解していて、二人の思考の違いが鮮明だ。そんな二人、型番の違うロボットであるオリバーとクレアが、互いの存在によって変化し、戸惑いながらも愛情を育んでいく姿が愛おしく、だからこそ充電器が壊れたにはじまる、二人が置かれている現状への切なさ、人として感じる罪深さも募る。

けれども舞台には充電切れで動けなくなるクレアや、人間を装おうとするオリバーの滑稽さなどが程よく加味されていて、笑ったり泣いたりしながら、二人が選び取っていく未来を自然に応援したくなる。これがエンターテインメント性を高める効果を生んでいて、人とロボットの絆が感じられる流れに救われる気持ちになる。現実もこうであったらいい、いや、こうしなければいけないのだと素直に思える温かさが心に染みた。ジェームズの趣味がそのままオリバーの嗜好になっている、ジャズレコードから奏でられる音楽をはじめ、近未来のロボットたちが主人公の物語を、デジタルサウンドではなくピアノやストリングスのアコースティックサウンドで紡いだ楽曲も作品の世界観を立ち昇らせる。糸電話、貯金箱、蛍などなどの懐かしさに満ちたしつらえと共に、セットを緩やかに回す装置に宿るアナログな感覚も作品のテーマによく合っていて、常にぬくもりのある仕事をする演出の上田一豪の、凄味を決して感じさせないからこそ際立つ凄味、稀有な才能が光った。

そんな作品で主人公オリバーを演じる浦井健治のファンタジックな個性が、役柄を支えている。人と区別がつかないほど精緻なロボットという設定は、演じる上ではかなり難しいものだと思うが、腕の動きなどをどこかシステマチックにするといった、僅かな動作だけで人よりも人らしい感情を持っているロボットの無垢な魂を描き出したのは浦井ならでは。時節柄休憩なし2時間を一気に駆け抜けるドラマの、見事な核になっている。

ヒロインのロボット・クレアの中川翔子は、「しょこたん」として愛され続ける本人のキャラクターが生きて、これまでの出演歴の中でベストパフォーマンスではないか?と思える好演。茶目っ気さとクレバーさを併せ持ったクレアをよく表現している。

一方Wキャストでクレアを演じる花澤香菜は、声優として確固たる地位を築いている人だけに、声質が非常に美しいのは言わずもがなの上に、豊かな表情で魅了する。このアパートで暮らすまでの間に傷ついているクレアの心情が伝わり、繊細な芝居心を感じさせた。

オリバーの元主人・ジェームズの坂元健児は、この人がいてくれるだけで舞台が締まり、安心感が増す力を惜しみなく披露。韓国ミュージカル独特の、主人公二人以外のキャラクターを全て演じる「マルチマン」でもあるが、この舞台の場合は決して早替わりの妙を魅せることが主眼ではないだけに、様々な役柄を演じながらジェームズとしての存在感に筋を通す力量が光った。

一方、Wキャストの斉藤慎二はお笑いトリオ「ジャングルポケット」として活躍していて、これがミュージカル初出演だが、桐朋学園芸術短期大学芸術科演劇専攻卒業後、文学座附属演劇研究所を卒業した来歴が示す通り、俳優としての資質は本格派。椅子に座り舞台をサイドから眺めている、その姿が既に役の人物として絵になり大任を果たしていて、今後の舞台活動にも期待を抱かせた。

三人のキャストの組み合わせも日程毎に異なり、組み合わせを変えて観ることで、それぞれにまた違った化学反応が期待できるだろう。総じてタイトルにもある「たぶん」が大きな鍵になっている作品で、人とロボットとの現在と未来を、ハートフルに描き出した佳品となっている。

【フォトセッション】

また、初日を前に実際の舞台では勢ぞろいしない、キャスト全員によるフォトセッションとコメントが届けられた。

斉藤慎二 花澤香菜 浦井健治 中川翔子 坂元健児

【キャストコメント】

浦井健治(オリバー役)
いよいよお客様が入っての上演ということで、稽古場から皆で和気あいあいとやってきたものがようやく花開く、と言いますか。ほっこりしていただくような時間を皆さんと一緒に過ごせるということで、本当にハッピーな気持ちでいっぱいでございます。このメンバーならではの日本版になるんじゃないかなと思っています。

中川翔子(クレア役・Wキャスト)
本当に全身がフワフワしていて夢なんじゃないかなって思ってしまうくらい、シアタークリエに立てるという事が、本当に人生において特別なことです。物語もとっても幸せな気持ちになれて毎日笑顔いっぱいで稽古に励んでまいりましたので、全身全霊でクレアを楽しみたいと思います。

花澤香菜(クレア役・Wキャスト)
(劇場に入って)舞台を見た時に本当に素敵で、一目見た瞬間にメイビー、ハッピーエンディングの世界に入れたような感じの作りになっていてとってもワクワクしました。クレアを演じられるのを楽しみにしております。

坂元健児(ジェームズ役・Wキャスト)
約一か月間稽古してきて、すごく面白い作品になったと思ってます。初日が迎えられる喜びを味わいたいですね。今はとにかく気を引き締めて、初日を迎えることを願っております。

斉藤慎二(ジェームズ役・Wキャスト)
素晴らしい方々と共演できることを本当に嬉しく思っています。新宿の「ルミネ」というところでは何度も立たせていただいたんですけども、全く緊張感が違うなと言うか(笑)。皆さんと一つの素晴らしい作品を作れることを本当に誇りに思っていますので、一生懸命頑張りたいと思います。

【公演情報】
ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』
作◇ウィル・アロンソン&ヒュー・パーク
翻訳・訳詞・演出◇上田一豪
出演◇浦井健治
中川翔子/花澤香菜(Wキャスト)
坂元健児/斉藤慎二(Wキャスト)
●8/11~30◎シアタークリエ
〈料金〉10.800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半~17時半)
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/maybe/

【取材・文・撮影/橘涼香】

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