大阪松竹座『黒蜥蜴 緑川夫人編』河合雪之丞・河合宥季 インタビュー
近年江戸川乱歩の『黒蜥蜴』『怪人二十面相』、山田洋次演出の『東京物語』『家族はつらいよ』、横溝正史の『犬神家の一族』と、次々に新作を世に送り出し、更に活躍の幅を広げている劇団新派が、9月大阪松竹座で大ヒット作品となった『黒蜥蜴』と『家族はつらいよ』を豪華二本立てで上演する。
そんな新派ならではのテリトリーの広さを感じさせる公演で、『黒蜥蜴 緑川夫人編』に出演する河合雪之丞と河合宥季。喜多村緑郎と共に新派快進撃を牽引する師の雪之丞と、美しき若手女方として台頭している弟子の宥季が、公演への意気込み、また新派の女方としての想いを語ってくれた「えんぶ8月号」のインタビューをご紹介する。
女方が演じるからこそ醸し出せる風情
──大変豪華な二本立て公演ですが、大好評を博した『黒蜥蜴』を、今回は緑川夫人編として一幕もので上演するのですね。
雪之丞 女賊「黒蜥蜴」が緑川夫人を名乗って、明智小五郎に近づいていく。緑川夫人に化けている間の物語としてお届けする形です。山田洋次監督の現代喜劇『家族はつらいよ』と、江戸川乱歩の摩訶不思議な世界観の『黒蜥蜴』を同時に上演する、こうした演目立ては新派にしかできないものなので、新派の魅力をお伝えできると思っています。
──『黒蜥蜴』は新派に新しい扉を開いた大きな財産演目だと思いますが、演じていていかがですか?
雪之丞 自分でも大変興味を感じる役でしたし、新派に新風を吹かせたとも言って頂けましたが、黒蜥蜴を初めて舞台で演じたのは実は先代の水谷八重子さんなんです。そういう縁も感じながら、乱歩ファンの方々にもご納得頂ける舞台を目指して創っていった後の、今回が三度目なので、単純に時間を短くしましたではなく、凝縮したものをお見せしなければなりませんから、目でも耳でも楽しんで頂けるものにしていきたいです。
──宥季さんはその世界に早苗役として加わることになりますが。
宥季 ドラマの鍵を握る人物ですし、今回は特に後半部分が描かれませんので、ほのぼのと演じられたら。僕自身の持ち味もあるのか大人っぽくなりがちなので、今回の早苗では特に意識して若々しい女方でいたいなと思っています。
雪之丞 必然的に早苗の役作りも変わっていくだろうと思いますしね。
宥季 そうなんです。ですから黒蜥蜴の標的になるに相応しい魅力的な雰囲気や、女方が演じるからこその風情も出していけたらいいなと思っています。
新派にきたことを後悔したことは一度もない
──長いお付き合いの師弟であるお二人ですが、お互いの魅力をどう感じていますか?
宥季 歌舞伎俳優時代の師匠にご縁を得て入門し、新派にも共に移籍させて頂いたのですが、新派に移ってから、師匠の魅力がどんどん大きく膨らみ輝いていくのが、何か不思議なほどです。
雪之丞 歌舞伎で弟子にしたのも急だったけど、移籍も急だったからね。「私新派に移るけどあんたどうする?」と(笑)。
宥季 さすがに「ちょっと時間を下さい」と言いましたが(笑)。
雪之丞 勿論そのまま歌舞伎にいたらどうなっていたか?は誰にもわかりませんが、少なくとも新派にきたことを後悔したことは一度もない。それは一緒でしょう?
宥季 はい。
雪之丞 この子の何が魅力かと言えば踊りも上手いし、ビジュアルもいいですが、何よりも芝居が好きだということです。それは良い役者になる為に一番大事なことなので、これからも色々勉強し、私に怒られていく中で(笑)伸びていく役者さんだと思っています。歌舞伎と新派の大きな違いは女優さんの中に女方が共に立つということで、そこに違和感があってはならないのと同時に、新派の女方を観たいと言って頂けるようにならなくてはいけないので、ひたすら勉強ですね。
宥季 新派の中でも女方は少ないので、独特の魅力を大切に探究し続けたいです。
雪之丞 そんな女方の魅力が詰まった『黒蜥蜴』と、人情喜劇の『家族はつらいよ』が一度に楽しめるお得な公演ですので、是非皆様大阪松竹座に足をお運び下さい!
■PROFILE■
河合雪之丞
かわいゆきのじょう○東京都出身。1988年国立劇場第九期歌舞伎俳優研修修了。歌舞伎座『忠臣蔵』で初舞台。三代目市川猿之助(現猿翁)門下となり二代目市川春猿を名乗る。2017年『華岡青洲の妻』より劇団新派に入団、河合雪之丞と名を改め活躍中。最近の主な舞台に『黒蜥蜴』『怪人二十面相~黒蜥蜴 二の替わり~』『黒蜥蜴─全美版─』『犬神家の一族』『日本橋』『夜の蝶』などがある。
河合宥季
かわいゆうき〇島根県出身。 2014年新橋演舞場『空ヲ刻ム者』の玄和の弟子などで、本名で初舞台。同年市川猿翁一門、市川春猿(現:河合雪之丞)に入門し、大阪松竹座『空ヲ刻ム者』で市川猿珠を名のる。2017年『華岡青洲の妻』より河合宥季と名を改め劇団新派に入団。『犬神家の一族』では物語の鍵を握る野々宮珠世役を女優の春本由香とのダブルキャストで演じ話題を呼ぶ。『日本橋』では女方の出世作といわれるお千世を演じ、新派最年少の女方として活躍中。
【公演情報】
九月新派公演
出演
一、「黒蜥蜴 -緑川夫人編-」
原作:江戸川乱歩
脚本・演出:齋藤雅文
出演:
緑川夫人 河合雪之丞
明智小五郎 喜多村緑郎
二、「家族はつらいよ」
山田洋次
平松恵美子 脚本「家族はつらいよ」より
原作・脚本・演出:山田洋次
出演:
平田富子 水谷八重子
平田周造 田口守
平田幸之助 喜多村緑郎
平田史枝 石原舞子
金井成子 瀬戸摩純
金井泰蔵 児玉真二
平田庄太 喜多村一郎
間宮憲子 春本由香
加代 波乃久里子
9/7~16◎大阪松竹座
〈料金〉1等席12,000円 2等席7,000円 3等席4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10:00-18:00 年中無休・年末年始除く)
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/shochikuza1909/
構成・文◇橘涼香 撮影◇岩田えり
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