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『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』開幕! 鴻上尚史・渡辺いっけい インタビュー

鴻上尚史の書き下ろし新作舞台『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』が、KOKAMI@networkの第19弾として、5月1日に、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕した。(21日まで。大阪公演あり)

主演はふぉ~ゆ~の福田悠太で、人間の女性に恋をして翼を捨てるがすぐ失恋し、もう一度天使に戻るために人間を救う戦いに挑む元天使・榊原一郎を演じる。そして榊原が戦いを挑むスピリチュアルグループ「宇宙の声」の代表・神山秀雄役には渡辺いっけい。そのほか大野いと、小南光司、鈴木康介などの若手に加え、田畑智子も参加するなど多彩な顔ぶれによる公演となっている。

この作品で初タッグを組むことになった鴻上尚史と渡辺いっけい。だがその出会いはなんと35年前、鴻上率いる劇団「第三舞台」の役者オーディションだった……。今だから話せる当時の思い出話から本作への取り組みまで、歳月を飛び超えて2人が語り合う。

渡辺いっけい 鴻上尚史

いっけいさんにはずっと悪いなと思ってた

──渡辺いっけいさんが念願の鴻上作品へ初登場します。

渡辺 もう諦めてたんですよ。オファーをいただいて驚きました。たぶんもう死ぬまで縁がないだろうと思っていたから。なんか感慨深いです。

──35年前に「第三舞台」の役者オーディションがあって、いっけいさんはそれを受けて落ちたそうですね。

鴻上 そのことは俺の中でずっと申し訳ないと思っていて。ぶっちゃけて言いますと、いっけいさんのほうが、そのとき受かった筧(利夫)より明らかに上手かったの(笑)。だけど2人とも劇団☆新感線の出身だから、同じ劇団から2人というのはまずいだろうと。それに、いっけいさんはうちの大高(洋夫)と小須田(康人)とイメージとか雰囲気が同じカテゴリーだったけど、筧は誰にも似てなかったから。だからいっけいさんにはずっと悪いなと思ってて、会うとごめんなさいと言ってたし、『デジャ・ヴュ』をプロデュース公演したときにも、パンフの中で「ごめんなさい」って書いたぐらいだから。そのあとドラマで売れていくのをみて、「ああよかったな」と。「第三舞台」にいたら、大高や小須田、それに勝村(政信)もいたから、その中で自分の色を出すのに苦労したかもしれないから。

──その出会いからしばらくして、鴻上さんの代表作の1つでもある『天使は瞳を閉じて』(1988年)という名作が生まれました。そして今回の舞台も天使がモチーフということで、運命的なものを感じますが、いっけいさんは神様なんですね。

鴻上 神様とスピリチュアルグループ『宇宙の声』のリーダーとの二役をやってもらいます。神様のほうは役作りしなくていいよね(笑)。

渡辺 何を言ってるんですか!(笑)ああいうのこそ難しいんですよ。いや最初はやりづらそうだなと思ったんですけど、ある意味思いきり振り切ってやれる役だし、スピリチュアルグループのリーダーの神山とはかなり違う感じでできるんじゃないかと、今は思ってます。もちろん同じ人間がやっているわけだから、通して演じるなかで2つの役が何かしらシンクロする部分もあるかもしれないけど。

鴻上 書いた本人が言うのもあれだけど、神山はいい役だよね(笑)。

渡辺 作家を前にしてあれですけど(笑)、稽古が進んでいくのがちょうど小説を読み解く面白さがあって、毎日取り組んでいくということは、同じ小説を何度も読み重ねていくわけだから、新しい発見があったり、わからなかったことがわかったり、しかも相手役が目の前で動くことで自分で想像を超えることが起きる。そこからどう作っていくかが面白いんです。

──演劇だからこその面白さがあるのですね。

渡辺 やはり鴻上さんのセリフ劇ならではの妙というか、言葉はシンプルだけど解釈の違いでどんどん変容していくから、ちゃんと読み解くことの面白さがあるんだと思います。

──面白さという点でいえば、天使は観客には見えているのに、登場人物には見えていないということもありますね。

鴻上 それこそが演劇的な面白さで、映像でそれをやってもしらけるけど、そこにいるのに見えてないという状態は、演劇の観客ならすぐに納得してくれるので、好きな演劇的仕掛けなんです。

もし天使だったら、今の社会をどうするかなと

──鴻上さんは今回の作品について、『天使は瞳を閉じて』を書くきっかけとなった映画『ベルリン・天使の詩』(1987年)に絡めて、人間になった天使のその先を書いてみたかったとおっしゃっています。

鴻上 あの時代もちょうど統一教会などのカルト宗教が社会問題になっていた頃で、そこから35年経った今は陰謀論が広がって、分断が始まっているという不安な時代になっている。そういう今の社会を、もし天使だったらどうするかなというのがあった。

──当時と同じような状況があるということですね。

鴻上 一巡りしてね。ただ、そういう意味では、いっけいさんにやってもらうリーダーはあの時代より絶望しているような気がします。でも僕自身それではいけないと思っていて、だからいっけいさんが軽妙にやってくれて、喜劇と悲劇を同時にやってくれているのがすごく嬉しいわけです。

渡辺 まだ稽古中ですが、僕としては神山がだんだん俗っぽくなっていくようにお客さんには見えたらいいかな、とか考えてます。

鴻上 とにかく上手いんだよね、いっけいさんは。

渡辺 上手いんです(笑)。

鴻上 (笑)くやしいくらい上手いんだよね。俺も最近、ドラマとかで役者の仕事を何本かしているから、いっけいさんがこの作品の稽古に来られないとき、代わりに「俺が読むよ」とか言って、喜々として読んだんだよね。で、次の日にいっけいさんが来て読んだら、はるかに面白くて、こまったなと(笑)。まあ、それがわかるから俺も演出家なんだけどね(笑)。

渡辺 鴻上さん、「第三舞台」の前に役者やってましたよね。

鴻上 やってました。自分で言うのもあれだけど評判よかったんです(笑)。早稲田の劇研(演劇研究会)に「新機劇」という劇団があって、白井(晃)さんとか高泉淳子とか大高もいたんだけど、それを演劇評論家さんが観に来て、彼は「平凡パンチ」という当時の人気週刊誌に若手劇団の劇評を書いていたんだけど、そこで「鴻上尚史という上手い役者がいる」と。それを読んでみんなが「なんでおまえの名前だけ出るんだ」と怒ったという(笑)。

渡辺 (笑)。

鴻上 でも「第三舞台」を作るときに、作品に責任を持つために最後まで客席で観たいからと、役者はやめたんです。劇研の後輩だったスズカツ(鈴木勝秀)にも、「鴻上さん本当に役者やめちゃうんですか、もったいないと思います」と言われたけど、芝居がウケたのか自分がウケたのかわからなくなるからと言って。でもそんなに上手かったのに、演出家生活を40年続けていたら、いっけいさんにすっかり離されちゃった(笑)。

渡辺 いやいや(笑)。

鴻上 やっぱりオーディションに落ちても這い上がる、その力強さだよね。

──いっけいさんは天性の役者さんという気がします。

鴻上 いや、天性なんて言葉で終わらせちゃだめです。すごく努力しているし、台本も読み込んでいるし、映像と掛け持ちなのにちゃんとセリフを入れてくる。なかなかいませんよ。「ロケがあったので」とか平気で言い訳する若手もいますからね(笑)。

渡辺 結局好きではじめたわけですからね。正直、途中で疲弊した時期もあって、コロナ禍もあったし。でも今すごく上向きになってきたんです。そのきっかけになったのはある女優さんのエッセイで、その人は文章を書くのが好きだったはずなのに楽しくなくなったと。それはうまく書こうと思ったことや遊び心を忘れていたからで、まずは自分が書くことを楽しもうと思うようになったそうです。それを読んだとき「そうか!僕もまず楽しもう」と。それでラクになって、今は稽古場に来るのが楽しいし、相手役とお芝居できることとか、何かを発見できるとか、そういうことを楽しめるようになったんです。

不意に胸にくる何かがまぶされている作品

──今回のカンパニーですが、鴻上さんはふお~ゆ~の福田悠太さんは初めてですね?

鴻上 今回みんな初めてなんですよ。福田くんは他の芝居で観て、すごく上手かったし、大高の若いときに似てるなと思ったんだよね。

渡辺 アーティキュレーションがいいですね。それにすでにリミッターはずしてやってるなと。

鴻上 そうですね。それから福田くんが好きになって振られる玲菜役の大野いとも面白い。がんばりやで、「私この役みたいに自己肯定感低くないですから」とか憤然と言ってたのに、昨日、「今の演技は自分では何点ぐらい?」と聞いたら、「100点満点でマイナス10点ぐらいです」って。めちゃくちゃ自己肯定感低いじゃないかって(笑)。「僕は60点ぐらいだと思うよ」と言ったんだけどね。ちゃんと感情が動き出していたから。

──小南光司さんと鈴木康介さんという若手2人も楽しみですね

鴻上 小南くんは今回いっけいさんが出ると聞いて、「はい出ます」って(笑)。鈴木康介はオーディションなんだけど、若いのにしっかりしてて、何ものかになりたいという野望に燃えてるところがよかった。この2人がいっけいさんを見て、福田くんを見て、何を盗むかですね。あと麻衣を演じる子役の2人(三上さくら/中川陽葵(Wキャスト))もすごいから。2人はこの夏に僕が演出するミュージカル『スクールオブロック』のオーディションで、1000人ぐらいから選ばれた12人の中の2人なんです。僕は子役を使うのは初めてで。オーディションですごくリアルな演技ができるんだとわかったので、だったら書けるなと思ったのでこの役を作ったんです。

──そして麻衣の母親役は田畑智子さんです。いっけいさんが共演がすごく楽しみだと。

渡辺 連続ドラマで一緒だったりしてるんですけど、軽やかで華があって大好きなんです。今回、まだセリフを覚えきってないところでテンパってたりするけど、それも可愛くて面白くて。

鴻上 セリフが覚束なくてテンパっても面白いというのは、いっけいさんも同じだよね(笑)。

──いっけいさんのお芝居は、良い意味でのあざとさと純粋さが裏表で出てくるところがたまらなく魅力的です。

渡辺 若かりし頃に、池田成志に「小技を大技にする男って」って言われたことがあって。

鴻上 いいねえ! 成志は小技を積み上げる男だからね(笑)。それで、なぜこの小技の面白さがわからない!って怒るんだよね。

渡辺 やめなさい、元劇団員の悪口は(笑)。

鴻上 はい!(笑)。

──最後に改めてこの作品のアピールをいただければ。

渡辺 たぶんそれぞれのお客さんに刺さるというか、不意に胸にくる何かがまぶされていると思います。僕も稽古場でぐっと来た瞬間がありましたので、楽しみにしていてください。

鴻上 気合いを入れて書きました。そして適材適所の俳優さんたちが集まってくれました。本当に幸福な現場なので、きっと名作になると信じています。

渡辺いっけい 鴻上尚史

■PROFILE■

こうかみしょうじ○1981年に劇団「第三舞台」を結成。以降、作・演出を多数手がけ『朝日のような夕日をつれて』『ハッシャ・バイ』『天使は瞳を閉じて』『トランス』などの多くの作品を発表、人気を博す。「KOKAMI @network」でのプロデュース公演や、若手俳優を集め旗揚げした「虚構の劇団」の主宰(2022年に解散)も行うほか、海外公演や、ミュージカルなどの作・演出も手がける。演劇公演の他にも、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティ、テレビ番組司会、小説家、映画監督などとして幅広く活動。最近では、AERA.dotで「鴻上尚史のほがらか人生相談」を連載。「声」や「身体」の表現に関するワークショップの開催・指導にも力を注ぎ、関連書籍も多数執筆。受賞歴は紀伊國屋演劇賞、ゴールデンアロー賞、岸田國士戯曲賞をはじめ、読売文学賞戯曲など。近年の主な舞台作品に、虚構の劇団 解散公演『日本人のへそ』(演出・22)、『エゴ・サーチ』(作・演出・22)、『ロミオとロザライン』、『アカシアの雨が降る時』(作・演出・21)、『ハルシオン・デイズ2020』(作・演出・20)、『地球防衛軍 苦情処理係』(作・演出・19)、『ベター・ハーフ』(作・演出・15、17)など。

わたなべいっけい○大阪芸術大学在学中、1983年から1985年まで学生劇団だった劇団☆新感線で活動後上京し、1985年から1988年まで劇団状況劇場に参加。退団後、数多くのプロデュース公演に出演。NHK朝の連続テレビ小説『ひらり』(1995年)の準主役で広く注目される。以後、テレビ、映画、舞台、ナレーションなど幅広い分野で活躍。近年の主な出演作に【舞台】『住所まちがい』(22・白井晃演出)、『てなもんや三文オペラ』(22・鄭義信演出)、『D-river』(22・鈴井貴之演出)、『カノン』(21・野上絹代演出)、【映画】『Winny』(23・松本優作監督)、『シャイロックの子供たち』(23・本木克英監督)、『マリッジカウンセラー』(23・前田直樹監督)、『われ弱ければ 矢嶋揖子伝』(22・山田火砂子監督)、『梅切らぬバカ』(21・和島香太郎監督)、【ドラマ】『大富豪同心3』(NHK)、『ウツボラ』(WOWOW)、『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(TX)など。アニメ『おしりたんてい』でナレーションと声優も務めている。

【公演情報】
KOKAMI@network vol.19
『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』
作・演出:鴻上尚史
出演:福田悠太(ふぉ~ゆ~)
大野いと 小南光司 鈴木康介 三上さくら/中川陽葵(Wキャスト)
渡辺芳博 辻捺々 湯浅くらら 古谷陸
田畑智子 渡辺いっけい
●5/1~21◎東京公演 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
〈料金〉9,000円 U-25 チケット4,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25チケット:当日劇場受付にて引換券と身分証明書を提示の上、座席指定チケットを受渡し。
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
●5/27・28◎大阪公演 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉9,000円 U-25 チケット4,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25チケット:当日劇場受付にて、引換券と身分証明書を提示の上、座席指定チケットを受渡し。
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00※日・祝休業)
〈公式サイト〉https://www.thirdstage.com/knet/wingless/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

 

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