お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

「ひとり芝居」シリーズの新作『帰ってきたカラオケマン』9月に上演! 風間杜夫インタビュー

 

風間杜夫の「ひとり芝居」シリーズの新作『帰ってきたカラオケマン』が、9月に上演される。カラオケ大好きな中年のサラリーマン、牛山明を主人公にしたこのシリーズは、1997年の『旅の空』からスタート。『カラオケマン』『一人』と続き、03年には三部作一挙上演で大きな反響を呼び、多数の演劇賞を受賞した。その後『コーヒーをもう一杯』『霧のかなた』と牛山明の物語は続き、10年の五部作一挙上演では、5時間15分という前人未到の上演記録を打ち立てている。そんな牛山明が、11年の時を経て、文字通り『帰ってきたカラオケマン』として、華麗に復活する。そして演じる風間杜夫も、翻訳劇から小劇場までの活躍が評価され、今年4月には菊田一夫演劇賞の大賞を受賞した。この取材の当日も初めて挑むテント芝居の稽古の真っ最中。まさに、とどまるところを知らない役者風間杜夫に、「ひとり芝居」への意欲と菊田一夫演劇大賞受賞の感想を話してもらった「えんぶ8月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

帰ってきたウルトラマンならぬ帰ってきたカラオケマン

──「ひとり芝居」の牛山明シリーズの新作が9月に上演されます。6作目ですね。

牛山明を主人公にしたシリーズは、2010年の五部作一挙上演で一応完結したんですが、あれから10年、あの男はどうしていたのか、僕も気になっていたし、観てくださったお客さんも、牛山明が『霧のかなた』に消えたままどうなっているのか知りたいんじゃないかと。作・演出の水谷龍二さんもその後の牛山明をやろうと言ってくれたので、久しぶりに新作を上演することになりました。

──その新作が『帰ってきたカラオケマン』というタイトルですが、内容はどんなふうになりそうですか?

まだ大まかなところしか出来てないのですが、牛山明が過去の自分を悔い改め、新たな人生をということで、世間への恩返しを始めるんです。まず今の世の中で何が大事かと言ったら人と人の繋がりだからと、心と心の絆を求めていろんなことをやり始める。たとえば町内会でボランティアするとか、町議会議員に立候補するとか、なんだか知らないけど70過ぎてやたらいきりたって奮闘してる(笑)。それで家庭はどうかというと相変わらず問題ありでうまくいってない。そのせいもあって、社会にやたら訴えかけている牛山明の姿は、なんか面白いんじゃないかと。

──社会復帰する牛山明の姿が見どころですね。

これは僕のアイデアなんですが、牛山明シリーズは2010年で終わってますから、観ていた方でもちゃんと覚えてる人は少ないかもしれない。だから、これまでの牛山明を、五部作の舞台写真とか映像でまず見てもらう。そして、「あの牛山明がついに帰ってきた!」とド派手に登場したらどうかなと。「帰ってきたウルトラマンならぬ帰ってきたカラオケマン」ということで(笑)。

──そういう派手さは風間さんの真骨頂でもあるので、ぜひ実現していただきたいです。カラオケマンということで、カラオケスナックでバイトする場面もあるようですね。今回も劇中で歌う歌が楽しみです。

ちょっと歌に逃げてるんじゃないかというぐらい歌ってますからね(笑)。あんなに歌わなくてもいいんじゃないかと思いますけど。とりあえず定番の三波春夫さんの「俵星玄蕃」と、吉幾三さんの「ともこ・・・」は歌わせていただこうかなと。「ともこ・・・」は好きでコロナ前にはカラオケでよく歌ってたんです。それを知っている水谷さんが今回使ってます。

やるほうは楽しいだろうけど観るほうの身にもなれ

──このシリーズでは五部作一挙上演という快挙を2010年に成し遂げています。なんと5時間15分という長時間、1人で演じ切りました。

自分でもよくやったなと(笑)。午後1時に開演して、終わるのは午後6時15分ですからね。途中休憩が15分ずつ2回入るだけで、4時間45分僕は舞台上にいて、歌ったり踊ったりしながら5本の芝居をやるわけです。ただ、お客さんもよく観にきたなと(笑)。しかも補助席出すくらい入って、さすがに長丁場なのでお客さんも腰にくるだろうからと、座布団を用意して腰に当ててもらったりしました。なかには「やってるお前は楽しいだろうけど、観てるほうの身にもなれ」と言う人もいたようですが(笑)。僕も若い頃に加藤健一さんの『審判』という2時間半の一人芝居を観て、楽屋に行って加藤さんに言いましたからね。「やるほうは楽しいだろうけど、こっちの身になってほしい」と(笑)。もちろんお客さんは観たいから来てくれているわけで、ありがたいことだと思ってますけどね。

──5本分の台詞といえばすごい量で、エネルギーも相当いりますね。

体力があったんです。1日2回やろうと思えばできるくらいの気力もあった。でも時間的に1日2回上演は無理なので(笑)。とにかくやってるときは楽しくてしかたなかったんです。休憩時間も待ってられないくらいで。ちょうどパドックで入れ込んでる馬ですよ。おう!早くやろうぜって(笑)。

──やはりこのシリーズは風間さんのライフワークですね。これからも続けていただきたいです。

牛山明は言ってみれば役者風間杜夫にならなかったもう1人の俺の人生という感じですからね。まあ俺はあんなに淋しい男じゃないけど(笑)。いろんなところに首をつっ込んで、そのおかげで娘の結婚式には出られなかったり、淋しい男ですよ。ウルトラマンじゃないから、帰ってきてもそうそう歓迎されるわけじゃないし。でもとにかく帰ってきちゃったんだから、出てくるときはケレン味たっぷりに仰々しく出てきたいなと思ってます。

一度お客さんの前で演じたことは役者の体に記憶として残る

──この4月に第46回菊田一夫演劇賞で大賞を受賞されました。昨年11月の『女の一生』、今年1月の『セールスマンの死』の再演、そして3月の『白昼夢』での受賞で、おめでとうございます。菊田一夫さんとは仕事でご一緒したことがないそうですね

一度もお会いしたことがないし、作品も『放浪記』ぐらいしか拝見してなかったから、正直びっくりしました。受賞と聞いて、「なんで俺なの?」と(笑)。

──昨年からの3作での演技が対象で、それぞれ違うジャンルの舞台で確かな存在感を示したと高く評価されました。まず『女の一生』から伺いたいと思います。

『女の一生』には、劇団新派が上演して波乃久里子さんが布引けいをやったとき、堤家の次男の栄二の役で出演しました。今回の新橋演舞場公演では、大竹しのぶさんが布引けいで、けいが嫁いだ伸太郎の叔父にあたる堤章介の役をやりました。この叔父というのがなかなか面白い人で、布引けいの商才も、たぶん女としても認めていて、けいの強烈な生き様を一番理解していた人間だったと思います。そういう意味でもやり甲斐がありました。戦争中に出来た作品ですが、今でも通じるものがあって、戦後の焼け野原になった場面など、新派公演のときは2011年の大震災の直後だったので生々しく受け止めたし、今回もこのコロナで打ちのめされている現実とどこか重なって、やはり時代を超えて訴えるものがある名作だと思いました。

──次に出演した『セールスマンの死』もやはり名作で、初演での風間さんのウィリー・ローマンは衝撃的と言われましたが、再演の今回もさらに生き様がリアルに迫ってきました。

僕は再演では、ウィリー・ローマンのタッチを太く描きたかったんです。人物像をもっとはっきりくっきり描きたいなと。それにキャストが初演と同じ顔ぶれだったことで、役柄がそれぞれ肚に入ってますから、そのおかげでより密度の濃い舞台になっていたと思います。一度お客さんの前でやっているというのは役者にとっては財産で、だから僕は再演が好きなんですが、劇場でお客さんの前でやったときの記憶が体に染みついている。だからあれをもっと膨らませようとか、あそこは修正しようとか考えるので、演技が深くなっていくんです。だから僕もやってよかったと思ったし、出ていた全員があの作品をもっとよくしようと考えてやっていたんです。だから僕は全員でいただいた賞だと思っています。

──風間さんの持てるすべてを、全身でウィリー・ローマンにぶつけているような舞台でした。

なによりも舞台に立てていることの喜びが大きかったですね。去年は『女の一生』で11月に演舞場に立つことができましたけど、4月から7月ぐらいまでは家で腐ってましたからね(笑)。「つまんねえ!」って叫んでましたから(笑)。だから舞台をやれていることの喜びがまず大きかった。今もこうして新宿梁山泊の『ベンガルの虎』の稽古がやれているし、9月に「ひとり芝居」があって、12月にも1本決まってる。今年は5本出来るんです。去年の腐っていた頃を思えば夢みたいな話で(笑)、なんでもこいという心境になってます。

──賞の話に戻りますが、今年3月の『白昼夢』は赤堀雅秋さんの作・演出で、『世界』(17年)に続いて2度目となりました。

赤堀くんの書くものは好きです。今回も半径3メートルくらいの世界で、そこでなんの進歩も成長もない人たちの、ほんの少しだけマシになったかなという程度の話で。心を入れ替えたとかないですから、問題をまだまだ引きずってるし、簡単には人は変わらないんだという人間性を赤堀雅秋さんが見事に描いていた。僕の役は1年間でだんだん老いていってボロボロになっていく爺で、芝居全体が誰かの見た白昼夢な話で、もしかしたらあの爺の夢かもしれないなと思いながら。

──赤堀作品の独特の作風が風間さんに似合っていました。今回、演劇賞も受賞しましたが、風間杜夫がこれからさらに目指すところ、あるいはやりたいことは?

今回初めてテント芝居に出ることになったわけですけど、テントに立って台詞を言うってどういうことなのか、体験してみたかったんです。そういう意味ではまだやってないことはあるはずで。これまでも面白そうだなということはどこでも飛び込んできたので、これからも面白そうだなと思うことには飛び込んでいきたいですね。体力が続く限りですが(笑)。

かざまもりお○東京都出身。77年以降、つかこうへい事務所の舞台に出演。映画の『蒲田行進曲』では、多数の賞を受賞。舞台、映画、TVドラマ、ナレーションとマルチに活躍。20年前から落語に取り組むなど実力派俳優として第一線を走り続けている。最近の舞台は『リトル・ナイト・ミュージック』『唐版 風の又三郎』『黒白珠』『風間杜夫ひとり芝居 平和三部作』『女の一生』『セールスマンの死』『白昼夢』『ベンガルの虎』。文化庁芸術祭賞演劇部門大賞、読売演劇大賞最優秀男優賞、菊田一夫演劇賞大賞などを受賞。10年に紫綬褒章を受章。

【公演情報】
風間杜夫ひとり芝居
『帰ってきたカラオケマン』
作・演出:水谷龍二
出演:風間杜夫
●9/4~12◎東京芸術劇場シアターウエスト
〈料金〉一般前売5,000円 当日5,500円 U-25(25歳以下)3,000円 シニア(60歳以上)4,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-3571-1153(平日10:00~18:00)
https://www.tomproject.com/peformance/karaokeman.html
●9/2◎府中の森芸術劇場
〈お問い合わせ〉チケットふちゅう 042-333-9999(平日10:00~18:00 ※劇場休館日は休業)

 

【構成・文/宮田華子 撮影/中村嘉昭】

記事を検索

観劇予報の最新記事

草彅剛・主演のシス・カンパニー公演『シラの恋文』ビジュアル公開!
数学ミステリーミュージカル『浜村渚の計算ノート』開幕!
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』井上芳雄最終日の写真到着&再演発表!
 「池袋演劇祭」まもなく開幕!
加藤拓也の最新作『いつぞやは』開幕!

旧ブログを見る

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報