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『グッドラック、ハリウッド』加藤健一・日澤雄介 インタビュー

演劇はなんでも作れる自由な場所

加藤健一事務所では、1980年代のハリウッド映画界を背景にしたリー・カルチェイム作の『グッドラック、ハリウッド』を、3月末から下北沢・本多劇場にて上演する。

リー・カルチェイムは舞台やテレビで数多くの作品を書いている作家で、演劇では『Defiled』『Friends』『The Prague Spring』などの作者として知られている。

今回の物語は、過去に大成功を収めた名監督で脚本家のボビー・ラッセルを中心に、変わりゆく映画の世界と世代交代の悲哀を、コメディ仕立てで展開する。

この作品でボビーを演じる加藤健一、そして劇団チョコレートケーキの演出家であり、社会派の作品からミュージカルまで手掛けて、注目を集める日澤雄介。今回が初タッグとなる2人が、この作品への取り組みを語った「えんぶ4月号」の対談を別バージョンの写真とともにご紹介する。

加藤健一 日澤雄介

経済至上主義に人間が行き詰まる

──今回初タッグのお二人ですが、これまでに出会いは?

日澤 うちの劇団の西尾友樹が、一度加藤さんの公演に出演させていただいてます。もちろんその前から作品はいろいろ拝見していました。それに何年か前、福岡の小さい劇場でうちの劇団が『ドキュメンタリー』という作品を上演していたとき、加藤さんがふらっと観にきてくださって。

加藤 僕の公演も近くでやっていたので。

日澤 びっくりして「どうもありがとうございます」とご挨拶するのがやっとでした(笑)。それに劇団員の浅井伸治が加藤健一事務所の出身なので、いろいろご縁はあるのですが、今回やっとご一緒できます。

──この作品ですが加藤さんはなぜ今、上演しようと?

加藤 これはテーマでもあると思うのですが、ハリウッドという商業主義というか経済至上主義の中で生きてきた人間が、行き詰まって道を変えようとする。今の日本もちょうど同じで、経済至上主義の東京圏から人が出て行く。コロナ禍もあって拍車がかかっています。そういう人生の進路を考えるというテーマが今の時代と重なるので。

──演出を日澤さんに頼もうと思ったのは?

加藤 演出されている作品を拝見して、とても丁寧に演出されているなと。社会派と言われる作品でも、ちゃんとエンターテインメントとして見せてくれる力があるので、いいなと思ったんです。

──日澤さんはオファーを受けていかがでした?

日澤 面白い作品だなと思いました。ハリウッドの商業主義というか、その世界で生きてトップにいた人が時代に取り残されていく。でもなんとかそこにしがみつこうとする感じが、人間として可笑しみがあって。これは3人芝居なのですが、若い作家のデニスとの会話の噛み合わなさとか、セリフのはしばしにコメディ的なものが滲み出ていて、痛いし、面白いんです。

破壊する映画が主流になったハリウッド

──ボビーは若いデニスの才能を利用して、自分がまた第一線に復帰することを考えますね。でも映画界は古き良きハリウッド映画の時代とはすでに違っていた。

加藤 物語の背景となる19 88年は『ダイハード』が作られて世界的に大ヒットした年で、そこからハリウッドは崩れ落ちるように破壊する映画が主流になっていくのですが、そういう流れの中で、ボビーはそれは作りたくないわけです。日本もちょうど同じ頃、映画ではなくテレビが一気に殺人ドラマに変わっていきました。今も新作ドラマはどれも警察モノだったりする。そういう物語は人を殺さないと話が始まらないですからね。僕は80年代に、そういうドラマに出てもしかたないなと思って一歩遠ざかった。だからボビーとちょっと似たところがあるんです。

──この作品では、60代のボビーと20代のデニスという2人の価値観や考え方の違いにもフォーカスが当てられます。日澤さんは戦争をテーマに作品を作り続けていますが、世代間のギャップを感じることなどは?

日澤 僕自身は戦争を知らない世代ですが、少なからず知識はあるので、あの戦争を繰り返してはいけない、あの戦争について伝え続けようという気持ちで作っているんです。ボビーは戦争を体験してきた人間なんですよね。過去のいろいろな傷を抱えながらハリウッドで生きている。それをこの作品は色濃く出してはいないのですが、その体験は、彼がいろいろな選択をするときとか、考え方や人生との向き合い方において影響しているし、それによって負荷がかかっている感じがするんです。生きるということの意味が全然違うというか、負けてはいけないというか、必死なんですよね。僕もそうですが戦争を経験していない人間との一番の違いはそこかなと。この作品はそういうものを根底に隠しつつ、小気味のいい会話と明るいシチュエーションで進めていく。そういう作り方にどこまでトライできるのかなと思っています。

加藤さんが何を取捨選択するかを見たい

──日澤さんが今回の加藤さんとの現場で期待するものは?

日澤 俳優は稽古場で見るときと舞台上で見るときでは全然違うんです。だから稽古場では、そこに行き着くまでの過程、どういうふうにしてここまで来たのだろうか、というのを見てみたいといつも思います。そこに行き着くまでに加藤さんが何を取捨選択するか、そのために右往左往する姿も見たいし(笑)、一緒に探す作業もしたい。トライアンドエラーで一緒にやっていけるといいなと思っています。

──加藤さんは初めての演出家の方とは、どんなふうに向き合いますか?

加藤 僕はキャストを選んで、演出家はこの人と決めた時点で丸投げするんです。途中でそのやり方では失敗するなと思っても、丸投げしたのですから何も言いません。

日澤 えー、そうなんですか!

加藤 演出には一切口を出さないと決めてやってきたので。僕はプロデューサーでもあるのですが、プロデューサーが稽古場で口を出したら演出家が2人になってしまう。決して良いことはないので。

──加藤さんは50年以上演劇を続けてきて、ある意味、映画一筋だったボビーに重なりますが、演劇をやめようと思ったことは?

加藤 ボビーの場合とはちょっと違うので。ボビーは、映画界が変わってしまったことで思うような映画を作らせてもらえない。そしてデニスに作らせた映画も思っていたものと違っていて、しかもそれが大評判をとってしまう。そういう時代になったらもう自分の居場所がないわけです。でも日本の演劇は自由ですからね。自分が作りたいと思えば何でも作れますから。

──日澤さんの劇団も常に社会に問題提起しています。その闘いはいかがですか。

日澤 闘っているつもりはないです。小さい劇場では何をやっても怒られないですから。そういう意味では演劇は良い世界だと思います。だから闘うというよりいかに楽しんでいくかを常に考えていて、萎縮するのではなく、自由に創造して、さらにトライしていく。そのことを楽しみたいと思っています。

──そんな演劇どっぷりのおふたりのタッグを楽しみにしています。最後に観る方へメッセージをぜひ。

加藤 今いる場所をこれでいいのかなと思っている人にぜひ観てもらいたいです。

日澤 ユーモアもあって人間もしっかり描かれている作品です。必死で生きている人間の可笑しみを感じてもらえたらいいなと思っています。

加藤健一 日澤雄介

■PROFILE■
かとうけんいち○静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を設立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(82、94年)、文化庁芸術祭賞(88、90、94、01年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。第70回毎日映画コンクール男優助演賞受賞(16年)。2022年、『サンシャイン・ボーイズ』『スカラムーシュ・ジョーンズor(あるいは)七つの白い仮面』の演技にて、第64回毎日芸術賞を受賞した。

ひさわゆうすけ○東京都出身。劇団チョコレートケーキ主宰。2000年、駒澤大学OBを中心に劇団チョコレートケーキを結成。以降、俳優、演出家として活躍中。2013年、若手演出家コンクール2012最優秀賞を受賞。2014年、『起て、飢えたる者よ』『治天ノ君』で第21回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞、そのほか多数の演劇賞を受賞。22年8月の劇団公演『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』(演出)が読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。劇団以外の最近の演出作品は『芸人と兵隊』『M.バタフライ』『アルキメデスの大戦』など。

【公演情報】
加藤健一事務所 vol.114
『グッドラック、ハリウッド』
作:リー・カルチェイム
訳:小田島恒志
演出:日澤雄介
出演:加藤健一 関口アナン 加藤忍
●3/29~4/9◎下北沢・本多劇場
〈お問い合わせ〉加藤健一事務所 03-3557-0789(営業時間 10:00~18:00)
〈公式サイト〉http://katoken.la.coocan.jp/114-index.html

 

【文/宮田華子 撮影/中田智章】

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