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歌舞伎座新開場十周年「七月大歌舞伎」開幕!

昼の部『菊宴月白浪』斧定九郎=市川中車(C)松竹

歌舞伎座で 7 月3日に「七月大歌舞伎(しちがつおおかぶき)」が初日の幕を開けた。昼夜ともにエネルギッシュでエンターテインメント性溢れる演目が揃い、熱い舞台を繰り広げている。

《昼の部》

昼の部『菊宴月白浪』左より、斧定九郎=市川中車、仏権兵衛=市川猿弥、金笄のおかる=中村壱太郎(C)松竹

昼の部は、スペクタクルな展開で描く忠臣蔵の後日譚『 菊宴月白浪( きくのえんつきのしらなみ ) 』。歌舞伎の三大名作のひとつ『仮名手本忠臣蔵』をもとに鶴屋南北により独創性豊かに描かれた本作は、文政 4(1821)年に初演されたのち、昭和 59(1984)年に実に 163 年ぶりに三代目猿之助(現・猿翁)によりスペクタクルな要素を盛り込み復活上演され、「三代猿之助四十八撰」の一つにも選ばれた。「忠臣蔵」では憎まれ役として描かれる斧定九郎がお家再興を目指す忠義者として登場するのも大きな特徴だ。

昼の部『菊宴月白浪』左より、斧定九郎=市川中車、塩谷縫之助=中村種之助、毛利小源太=中村福之助(C)松竹

舞台は塩谷の浪士が高野師直を討って 1 年余、塩谷家、高野家の御家再興が取り沙汰される「禅覚寺」の場面から始まる。主君の敵討ちを果たした四十七士は義士として讃えられるなか、斧定九郎(市川中車)は、敵討ちに加わらず不義士の汚名を着せられた父・斧九郎兵衛(浅野和之)に代わり、せめて自分は亡君への申し訳を立てたい忠義の心をもっている。しかし御家再興のために必要な家宝が盗まれたことが判明し…。

家宝を奪い返すため、定九郎は父九郎兵衛から斧家に伝わる忍術秘法を記した秘書こふさきの忍びの一巻を授かり、忍術を手に入れると“暁星五郎”と名のり、仲間とともにお家再興に立ち上がる。お家再興を巡り、それぞれの思いが入り乱れ、塩谷家、高野家それぞれの家宝はさまざまな人々の手を渡っていき…。

昼の部『菊宴月白浪』左より、加古川=市川笑也、斧定九郎=市川中車(C)松竹

『仮名手本忠臣蔵』の大序の場面を“兜改め”ならぬ“宝改め”として表現した冒頭の「禅覚寺」の場面をはじめ、五段目の鉄砲と猪の代わりに花火と角兵衛獅子を出すなど、随所に『忠臣蔵』のパロディ要素が散りばめられ、名場面の数々を彷彿とさせる構成、細かな趣向が観客を楽しませる。個性豊かな登場人物たちともに南北らしい奇抜な展開を見せる物語に引き込まれていくうち、舞台は注目の“両宙乗り”に。

昼の部『菊宴月白浪』(宙乗り)斧定九郎=市川中車(C)松竹

観客の熱い視線が注がれるなか、花道上を大凧が悠々と飛んで行ったかと思うと、たちまち反対側から本舞台へ向かって傘で舞い降りる中車演じる定九郎。劇場空間をいっぱいに使った大掛かりな演出に場内の盛り上がりも最高潮に。さらに、大屋根での大立廻りなど一瞬たりとも目が離せない怒涛の展開が続く。

三代目猿之助(現・猿翁)が復活させた本作に挑むにあたり、「父の熱い思いを受け継ぎ、力を込めて勤めます」と意気込み見せた中車は、「令和のエンターテインメント作品として楽しんでいただけるよう、澤瀉屋一門をはじめ、共演の皆様の胸を借り、力を合わせて臨みます」と筋書の聞き書きで語った通り、気迫溢れる舞台を勤めあげ、客席からは割れんばかりの拍手が贈られた。

昼の部『菊宴月白浪』左より、斧定九郎=市川中車、金笄のおかる=中村壱太郎、下部与五郎=中村歌之助(C)松竹

《夜の部》

夜の部は、平賀源内が「福内鬼外」の名で描いた義太夫狂言『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』から。

舞台は、褒美の金欲しさに新田義興の命を奪った強欲者・渡し守の頓兵衛(市川男女蔵)の家。ある日、義興の弟義峯(市川九團次)が恋人の傾城うてな(大谷廣松)と一夜の宿を乞いに偶然にも頓兵衛の家を訪れる。頓兵衛の娘のお舟(中村児太郎)は、気品あふれる義峯に一目ぼれ。全身で恋する乙女を体現するお舟の様子が微笑ましく描かれる。

夜の部『神霊矢口渡』左より、娘お舟=中村児太郎、渡し守頓兵衛=市川男女蔵(C)松竹

しかし、父頓兵衛が義峯の命を奪おうとすると一転、愛しい人を守ろうと決意したお舟は恋と考との板挟みで苦しみ、物語は後半の見せ場である父と娘の立廻りの場面へ。純粋な娘と極悪非道な父の姿が対照的に描かれる。今回が共に初役となるお舟役の児太郎と頓兵衛役の男女蔵。児太郎は、恋に身を焼く切なくも情熱的なお舟で観客を魅了し、男女蔵は、徹底的な悪役でありつつも歌舞伎らしい品を失わない頓兵衛を勤めあげた。

 

夜の部『神明恵和合取組』左より、女房お仲=中村雀右衛門、め組辰五郎=市川團十郎(C)松竹

続いては、江戸っ子の生き様を鮮やかに描く『神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)』。通称「め組の喧嘩」と呼ばれる、江戸風俗をたっぷりと味わえる世話狂言の傑作。

め組の鳶頭・辰五郎(市川團十郎)は、品川の遊廓でのめ組の鳶と四ツ車大八(市川右團次)ら力士たちの喧嘩を収めるが、その後も喧嘩が再熱し…。「喜三郎内の場」では力士への仕返しを心に決めた辰五郎と、辰五郎を案じる兄貴分の喜三郎(中村又五郎)とのやり取りが印象的に描かれ、続く「辰五郎内」では辰五郎の苦悩と、愛する妻お仲(中村雀右衛門)と幼い子との別れが竹本を巧みに用いて繊細に表現される。

夜の部『神明恵和合取組』左より、背高の竹=中村歌昇、山門の仙太=市川新之助、柴井町藤松=市川九團次(C)松竹

公演に向けた取材会で「気持ちを収めなければならないけど、収まりきらない。そこに男の心意気、色気がある」と辰五郎について語った團十郎は、背中で語る男の魅力を全身で体現。力士との喧嘩へ向かっていく鳶たちを率いる姿は、まさに粋でいなせな江戸っ子そのもの。今回は若い鳶の一人として市川新之助も出演。喧嘩へ向かう鳶たちの水杯、鳶と力士の豪快な大立廻りも心地よく、活気溢れるひと時となった。

場内(2 階ロビー)には出演者による成功祈願の絵馬も飾られている。ご観劇とあわせて「め組の喧嘩」の舞台でもある芝大神宮の絵馬にも注目したい。

成功祈願の絵馬(C)松竹

夜の部を締めくくるのは、趣向を凝らした迫力溢れる舞踊『鎌倉八幡宮静の法楽舞(かま くらはちまんぐうしずかのほうらくまい)』 。

夜の部『鎌倉八幡宮静の法楽舞』左より、提灯=市川新之助、油坊主=市川團十郎、三ツ目=市川ぼたん(C)松竹

劇聖と謳われた九世團十郎が制定した「新歌舞伎十八番」の一つで、平成 30(2018)年に新たな着想により復活上演された本作を、九世團十郎没後 120 年という節目の年に上演する。

夜な夜な物の怪が現れるという鎌倉の荒れ寺に、風とともに現れたのは一人の老女(市川團十郎)。怪しげな空気が漂うと、次々と物の怪たちが現れ、提灯(市川新之助)は軽やかに、三ツ目(市川ぼたん)はかわいらしくそれぞれの舞をみせる。

夜の部『鎌倉八幡宮静の法楽舞』左より、町娘=市川ぼたん、三途川の船頭=市川團十郎、若船頭=市川新之助_(C)松竹

團十郎は冒頭の老婆に始まり、狐の白蔵主、油坊主、船頭と次々と鮮やかに早替りを披露。そこへ町娘(ぼたん/二役目)、若船頭(新之助/二役目)も現れ、一同は賑やかに踊り始める。やがて老女が在りし日の静御前(團十郎)の姿になってやってくると、幻の源義経(團十郎)も現れ、連舞となる。しかし、静御前に魑魅魍魎が憑依すると、その姿は恐ろしい化生に。河東節、常磐津、清元、竹本、長唄囃子とだんだんと音が重なり合い豊かな五重奏が響き渡る中、化生と僧たちとの立廻りとなる。

夜の部『鎌倉八幡宮静の法楽舞』左より、竹抜五郎=市川新之助、化生=市川團十郎、五郎姉二宮姫=市川ぼたん

恨みのあまりの大きさに僧たちも圧倒されるところへ、花道より満を持して登場したのは二宮姫(ぼたん/三役目)と竹抜五郎(新之助/三役目)。二人は團十郎演じる化生を本舞台へと押戻す。「我らが父十三代目にさも似たり」と趣向を凝らしたセリフでも観客を沸かせる。九世團十郎の没後百二十年に相応しい豊かな音楽性とエンターテインメント性溢れる華やかな一幕となった。

【公演情報】
歌舞伎座新開場十周年「七月大歌舞伎」
2023年7月3日(月)~28日(金)歌舞伎座
【休演】10日(月)、19日(水)

《昼の部》午前11時~

四世鶴屋南北 作
奈河彰輔 脚本
市川猿翁 脚本・演出
石川耕士 脚本・演出
藤間勘十郎 演出
三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)
忠臣蔵後日譚
市川中車 両宙乗り相勤め申し候
斧定九郎 市川中車
金笄のおかる 中村壱太郎
塩谷縫之助 中村種之助
腰元浮橋 市川男寅
角兵衛獅子猪之松 市村竹松
毛利小源太 中村福之助
丁稚伊吾 中村玉太郎
下部与五郎 中村歌之助
高野師泰 市川青虎
山名次郎左衛門 澤村由次郎
世話人寿作 市川寿猿
一文字屋お六 市川笑三郎
加古川 市川笑也
仏権兵衛 市川猿弥
斧九郎兵衛 浅野和之
石堂数馬之助 市川門之助

《夜の部》午後4時~

福内鬼外 作
一、 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)

娘お舟 中村児太郎
新田義峯 市川九團次
傾城うてな 大谷廣松
渡し守頓兵衛 市川男女蔵

竹柴其水 作
二、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
め組の喧嘩

め組辰五郎 市川團十郎
女房お仲 中村雀右衛門
江戸座喜太郎 河原崎権十郎
四ツ車大八 市川右團次
九竜山浪右衛門 市川男女蔵
背高の竹 中村歌昇
おもちゃの文次 中村種之助
山門の仙太 市川新之助
島崎楼抱おさき/三ツ星半次 大谷廣松
伊皿子の安三 市村竹松
芝浦の銀蔵 市川男寅
御成門の鶴吉 中村玉太郎
左利の芳松 市村橘太郎
田毎川浪蔵 市村光
柴井町藤松 市川九團次
露月町亀右衛門 片岡市蔵
三池八右衛門 市川齊入
葉山九郎次 市村家橘
喜三郎女房おいの 市村萬次郎
焚出し喜三郎 中村又五郎
尾花屋女房おくら 中村魁春

九世市川團十郎歿後百二十年
松岡 亮 作
二、 新歌舞伎十八番の内 鎌倉八幡宮静の法楽舞(かまくらはちまんぐうしずかのほうらくまい)

静御前/源義経/老女/白蔵主/油坊主/三途川の船頭/化生 市川團十郎
三ツ目/町娘/五郎姉二宮姫 市川ぼたん
提灯/若船頭/竹抜五郎 市川新之助
僧普聞坊 大谷廣松
僧寿量坊 市川男寅
僧隋喜坊 中村玉太郎
蛇骨婆 市川九團次
姑獲鳥 中村児太郎
僧方便坊 中村種之助

〈料金〉1等席18,000円 2等席14,000円 3階A席6,000円 3階B席4,000円 1階桟敷席20,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)ナビダイヤル 0570-000-489
または東京 03-6745-0888 大阪06-6530-0333
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/820

 

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