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歌舞伎座新開場十周年「八月納涼歌舞伎」開幕!

第三部『新・水滸伝』林冲=中村隼人、魯智深=松本幸四郎をはじめとした梁山泊軍(C)松竹

歌舞伎座新開場十周年、歌舞伎座8月公演「八月納涼歌舞伎(はちがつのうりょうかぶき)」が、8月5日に初日の幕を開けた。納涼歌舞伎は、平成2(1990)年より十八世中村勘三郎(当時 勘九郎)と十世坂東三津五郎(当時 八十助)らを中心に、花形が活躍する公演として人気を博してきた。納涼歌舞伎恒例の三部制で、人情味溢れる作品に、華やかな舞踊、スペクタクルな娯楽大作まで、夏の暑さを吹き飛ばす舞台が目白押しとなっている。

第一部の開場前には、松本幸四郎、中村獅童、中村勘九郎、中村七之助、坂東巳之助、中村壱太郎、 坂東新悟、大谷廣太郎、中村隼人、中村児太郎、市村光、中村橋之助、 中村福之助、中村虎之介、中村歌之助、市川染五郎、市川團子、中村勘太郎が、劇場前にうちわを手に、そろいの浴衣で登場した。幸四郎、獅童、勘九郎、七之助、巳之助、隼人が挨拶し、皆で「歌舞伎座でお待ちしております!」と掛け声をかけると、集まった観客から大きな声援を受け、これから始まる8月公演を活気づけた。うちわは、出演者が公演へ向けての思いを直筆でしたためたもので、公演期間中、37名分を劇場2階ロビーに展示している。

《第一部》

第一部は『裸道中』から。新国劇などで上演されてきた「次郎長外伝」の本作を、歌舞伎として初めて上演する話題の舞台。幕が開くと、尾張にある勝五郎の家。博打好きな勝五郎(中村獅童)と、そのために貧乏暮らしで身なりも整わない女房みき(中村七之助)夫婦が言い争いをしています。獅童の勝五郎、七之助のみきによる、息ぴったりのやり取りには、喧嘩をしながらも仲の良い夫婦の関係が滲み、観客からは自然と笑みがこぼれる。

第一部『裸道中』(前)勝五郎女房みき=中村七之助、(後)博徒緒川の勝五郎=中村獅童(C)松竹

そこへ、勝五郎の恩ある清水の次郎長(坂東彌十郎)が、女房お蝶(市川高麗蔵)の病気を労わりながら、偶然やって来る。思わぬ再会に驚きながらも、なんとか次郎長夫婦をもてなそうとする勝五郎とみきだが、銭に替えられるものは全て売りつくした何もない家で、あたふたと大騒動。次郎長の器の大きさが物語に深みを持たせ、次郎長の子分たち大政(市川男女蔵)、小政(中村橋之助)、法印大五郎(中村虎之介)、豚松(市村光)らの賑やかさが舞台をさらに活気づける。次郎長に、恩を返したい勝五郎が思いついた画策によって、さらなる騒動に…?

第一部『裸道中』左より、勝五郎女房みき=中村七之助、博徒緒川の勝五郎=中村獅童(C)松竹

タイトルに通じる賑やかな幕切れまでテンポ良く、愛嬌ある登場人物たちが織りなす掛け合いに笑い、勝五郎とみきの夫婦愛、人と人との情のふれあいにほろりとする展開で、場内が大きな拍手に包まれた。

続いては、『大江山酒呑童子』。萩原雪夫が十七世中村勘三郎に書き下ろし、昭和 38(1963)年に初演。その後、十八世勘三郎、そして当代の勘九郎へと大切に受け継がれてきた中村屋ゆかりの舞踊劇。

第一部『大江山酒呑童子』左より、卜部季武=市川染五郎、碓井貞光=中村虎之介、酒田公時=中村橋之助、渡辺綱=坂東巳之助、源頼光=中村扇雀、平井保昌=松本幸四郎 (C)松竹

大江山の鬼神酒呑童子を退治するようにと命じられてやって来た源頼光(中村扇雀)は、平井保昌(松本幸四郎)と四天王(坂東巳之助、中村橋之助、中村虎之介、市川染五郎)を従えて大江山へと向かう。やがて、花道のスッポンから酒呑童子(中村勘九郎)が忽然と姿を現す。熊野権現から賜った神酒を勧められ、心地良く呑んで踊る。勘九郎が公演前のインタビューで「祖父や父のお酒の飲み方がとても素敵でしたので吸収しながら演じています」と語ったように、朗らかで可愛らしい姿が観客の視線を釘付けにし、鮮やかに酔態した様子を見せていく。

第一部『大江山酒呑童子』(前方)酒呑童子=中村勘九郎、(後方)碓井貞光=中村虎之介(C)松竹

第一部『大江山酒呑童子』左より、酒田公時=中村橋之助、濯ぎ女若狭=中村七之助、渡辺綱=坂東巳之助_(C)松竹

ついに童子は酔い潰れてしまい、ここへ、童子に攫われた濯ぎ女の若狭(中村七之助)、なでしこ(坂東新悟)、わらび(中村児太郎)たちがやって来て、大江山での辛い様子を語る。

第一部『大江山酒呑童子』左より、平井保昌=松本幸四郎、酒呑童子=中村勘九郎、源頼光=中村扇雀(C)松竹

やがて、頼光たちが寝所へ押し寄せると、童子は鬼神の本性を現し…。酒呑童子が本性を現すと、恐ろしい形相で勇ましい立廻りを披露。有名な鬼退治伝説をもとにした洒脱で豪快な舞台をとなる。
第一部の特別ポスターを公開中。

《第二部》

第二部は、真山青果作『新門辰五郎』で幕を開ける。現在でも頻繁に上演される真山作品は、『将軍江戸を去る』や『元禄忠臣蔵』をはじめ、史実を背景に人間味溢れる登場人物たちが心を通わせる様子を繊細に描き、心に残る台詞の数々で彩られた骨太な作品が観るものを魅了する。昭和14(1939)年に発表された本作は、昭和16(1941)年に映画化され、二年後に舞台化された。歌舞伎座では、昭和51(1976)年以来、実に47年ぶりの上演となる。

第二部『新門辰五郎』左より、金看板の源次=市川猿弥、馬道の清五郎=中村歌之助、新門辰五郎=松本幸四郎、会津の小鉄=中村勘九郎、三春の猪之吉=橋之助 (C)松竹

舞台となるのは、江戸・幕末動乱期の京都。恩ある水戸家の依頼で将軍のお供として上洛している江戸町火消し、浅草十番「を組」の頭・新門辰五郎(松本幸四郎)と、京都黒谷会津部屋の部屋頭・会津の小鉄(中村勘九郎)の二人の男を中心に物語が展開する。図らずも歴史の荒波に巻き込まれてしまった辰五郎と小鉄、その男の意気地と苦悩が色濃く描かれる。辰五郎が馴染みの芸者・八重菊(中村七之助)の家へ水戸天狗党の若侍、都築三之助(市川染五郎)らを匿ったことから、ある事件が発生し…。

第二部『新門辰五郎』左より、新門辰五郎=松本幸四郎、会津の小鉄=中村勘九郎_(C)松竹

政争渦巻く京の地で、知らず知らずのうちにその波に飲み込まれていく辰五郎だが、祇園で起きた火事をきっかけに火消しの本性に目覚めた辰五郎が「祇園様は京都の宝だ、京都の宝は日本の宝だ」と啖呵を切る場面は本作の見どころのひとつ。江戸町火消しの新門一門が纏を振りながら火事場に向かう場面は迫力に溢れ、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのように当時の風情を堪能することができる。また、辰五郎の状況を気遣う中村歌六勤める「を組」の隠居役・勇五郎とのやり取りや、素性を隠して行動し得体が知らない存在感を発揮する公卿・山井実久を演じる中村獅童など、男同士の会話の応酬が真山作品ならではの味わい深い骨太な描写で描かれる。

第二部『新門辰五郎』左より、新門辰五郎=松本幸四郎、天狗党都築三之助=市川染五郎(C)松竹

染五郎は天狗党都築三之助を力強く勤め、父・幸四郎演じる辰五郎と丁々発止の台詞の応酬を魅せる。勘九郎の長男・中村勘太郎は、辰五郎の長男丑之助として江戸っ子の粋を生き生きと表現し、会場を盛り上げた。中村隼人、中村橋之助、中村虎之介、中村福之助、中村歌之助など花形世代も活躍し、夏の暑さに負けない熱い舞台に大きな拍手が巻き起こった。

第二部『新門辰五郎』左より、辰五郎伜丑之助=中村勘太郎、新門辰五郎=松本幸四郎_(C)松竹

続いては、人気の舞踊『団子売』。江戸時代、庶民の間で親しまれていた団子売りの姿を舞踊化した作品。賑わいをみせる大坂天神橋にやってきた団子売の夫婦。坂東巳之助演じる杵造と、中村児太郎演じるお福が花道から登場すると、場内は明るく華やかになり、大きな拍手が送られた。

第二部『団子売』左より、杵造=坂東巳之助、お福=中村児太郎_(C)松竹

第二部『団子売』左より、杵造=坂東巳之助、お福=中村児太郎_(C)松竹

夫婦で息の合った踊りを見せる二人の踊りには、五穀豊穣、子孫繁栄の願いが込められ、明るく幸福感に満ちた舞踊の一幕に、客席はあたたかい空気に包まれた。
第二部の特別ポスターを公開中。

《第三部》

第三部は、三代猿之助四十八撰の内『新・水滸伝』。中国四大奇書のひとつで、梁山泊(りょうざんぱく)に集結した豪傑たちが縦横無尽に暴れまわり、腐った体制に反旗を翻す様を描いた「水滸伝」。このエンターテインメント性溢れる長編小説を、市川猿翁(当時 三代目猿之助)がスーパー歌舞伎を彩ってきたスタッフたちと共に新たな着想のもと創り出した本作は、平成20(2008)年に市川猿翁門下の「二十一世紀歌舞伎組」がル テアトル銀座で初演し、23(2011)年名古屋・中日劇場、25(2013)年と27(2015)年には大阪・新歌舞伎座で再演を重ねてきた。

再演の度に脚本、演出が練り直され、宙乗りや立廻りなどのスペクタクル性に富み、客席全体を巻き込むような臨場感、躍動感溢れる痛快娯楽大作として人気を博している。この度、初演から15年を経て、満を持して歌舞伎座で初上演。9月には南座での上演が決定している。

第三部『新・水滸伝』彭玘=市川團子(C)松竹

幕が開くと、市川團子勤める朝廷軍の兵士・彭玘が登場。物語の背景を朗々と説明すると、「イザ、悪党ども、首を洗って待っておれ!」と悪党征伐を力強く誓い、観客を物語世界へと誘う。続いて、梁山泊に根域を構え、悪党を束ねて暮らす晁蓋(市川中車)が登場。役人たちの不正に憤り、毒をもって汚い国家を壊してやろうと、数多くの罪で牢に繋がれた天下一の悪党、中村隼人勤める林冲を助け出させ、後日の再会を約束する。その後、梁山泊にやって来た林冲は周囲とそりが合わず酒浸りの日々。そこへ、兵学校の教え子で今は朝廷軍の兵士となった彭玘(團子)が密かに訪ね、林冲から授けられた「替天行道(たいてんぎょうどう)」の書を捧げますが、邪険に追い払われてしまう。信頼する林冲へぶつける彭玘の真っすぐな眼差しと想いが観客の心を掴む。

第三部『新・水滸伝』左より、時遷=嘉島典俊、お夜叉=中村壱太郎、王英=市川猿弥、公孫勝=市川門之助、晁蓋=市川中車、姫虎=市川笑三郎、李逵=中村福之助、燕青=寿猿 (C)松竹

都では、林冲の命を狙う朝廷の重巨・高俅(浅野和之)が、側近の張進(中村歌之助)に梁山泊を成敗するように指示。昨年三月公演『新・三国志』、先月の『菊宴月白浪』に続き、三度目の歌舞伎座出演となる浅野和之は、その溢れ出る存在感で悪の深さを発散させ、歌之助演じる張進、市川青虎演じる祝彪とともに、梁山泊との対比を魅せ、物語に深みを増していく。荒くれ者たちの物語が進む中、初演以来の笑いを誘っているのが、梁山泊の王英(市川猿弥)が戦で刀を交えた青華(市川笑也)に一目惚れした恋の行方。美しき殺し屋お夜叉(中村壱太郎)のサポートも加わり、ユーモア溢れ、テンポよい掛け合いに客席から笑いが起き、その結末には拍手が巻き起こった。

第三部『新・水滸伝』左より、魯智深=松本幸四郎、林冲=中村隼人、晁蓋=市川中車(C)松竹

梁山泊では、初演以来の市川笑三郎演じる姫虎が独特の存在感を発揮し、色男・燕青を勤める 93 歳の市川寿猿はじめ澤瀉屋一門が適材適所に活躍。二丁斧がトレードマークの勇ましい李逵を勤める中村福之助が生き生きと演じ、泥棒上がり時遷を勤める嘉島典俊が身軽さを、晁蓋の腹心・公孫勝を勤める市川門之助がどっしりとした存在感で見せた。

第三部『新・水滸伝』左より、公孫勝=市川門之助、林冲=中村隼人、魯智深=松本幸四郎、晁蓋=市川中車(C)松竹

林冲を演じる隼人は筋書で「正しい道を貫こうとする男の葛藤を表現できれば」と意気込み、苦悩する林冲を見事に演じ、立廻りの華麗さで観客を魅了。林冲の飛龍による宙乗りは、熱い心を持って天翔けるその姿に場内は割れんばかりの拍手に包まれた。

第三部『新・水滸伝』林冲=中村隼人(C)松竹

そして、松本幸四郎勤める林冲の兄貴分・魯智深が貫禄を見せ、「その熱い心があれば、どんな嵐にも立ち向かって行けるだろう」という台詞のひとつひとつに説得力を持たせ、舞台を引き締めた。

今回の公演では、作・演出に初演以来の横内謙介、斬新な演出で新たな世界を創り出した杉原邦生の演出、スーパーバイザーに市川猿翁がクレジットされ、衣裳デザイナーの毛利臣男が監修した衣裳、加藤和彦の音楽と、初演以来の魂を継承しながら新旧改たな魅力を放つ痛快娯楽大作として、歌舞伎座に初登場した『新・水滸伝』。腐敗した社会に真っ向から挑む悪党たちの躍動感溢れる舞台が感動を巻き起こした。
第三部の特別ポスターを公開中。

【公演情報】
歌舞伎座新開場十周年「八月納涼歌舞伎」
2023年8月5日(土)~27日(日)歌舞伎座
【休演】14日(月)、21日(月)【貸切】第三部:20日(日)※幕見席は営業

◎第一部 午前11時~

谷屋 充 作
大場正昭 演出
次郎長外伝
一、「裸道中(はだかどうちゅう)」

博徒緒川の勝五郎 獅童
勝五郎女房みき 七之助
大政 男女蔵
小政 橋之助
法印大五郎 虎之介
保下田の久六 吉之丞
豚松 市村光
次郎長女房お蝶 高麗蔵
清水の次郎長 彌十郎

萩原雪夫 作
二、「大江山酒呑童子(おおえやましゅてんどうじ)」

酒呑童子 勘九郎
平井保昌 幸四郎
渡辺綱 巳之助
酒田公時 橋之助
碓井貞光 虎之介
卜部季武 染五郎
濯ぎ女わらび 児太郎
濯ぎ女なでしこ 新悟
濯ぎ女若狭 七之助
源頼光 扇雀

◎第二部 午後2時15分~

真山青果 作
織田紘二 演出
一、「新門辰五郎(しんもんたつごろう)」

新門辰五郎 幸四郎
会津の小鉄 勘九郎
芸妓八重菊 七之助
九紋龍の定五郎 男女蔵
秋葉屋のお六 新悟
堂前の庄吉 廣太郎
三春の猪之吉 橋之助
花川戸の小竹 中村福之助
海苔屋の久次 虎之介
馬道の清五郎 歌之助
天狗党都築三之助 染五郎
辰五郎伜丑之助 勘太郎
寄席の女主おとめ 梅花
用心棒黒部六之進 吉之丞
会津巡邏隊佐瀬得司 宗之助
茶屋亭主万兵衛 錦吾
金看板の源次 猿弥
目明し弥太吉 片岡亀蔵
山谷堀の彦造 隼人
山井実久 獅童
絵馬屋の勇五郎 歌六

二、「団子売(だんごうり)」

杵造 巳之助
お福 児太

◎第三部 午後6時~

横内謙介 作・演出
杉原邦生 演出
市川猿翁 スーパーバイザー
三代猿之助四十八撰の内
「新・水滸伝(しん・すいこでん)」
中村隼人宙乗り相勤め申し候

林冲 隼人
お夜叉 壱太郎
李逵 中村福之助
張進 歌之助
彭玘 團子
祝彪 青虎
燕青 寿猿
時遷 嘉島典俊
姫虎 笑三郎
青華 笑也
王英 猿弥
高俅 浅野和之
公孫勝 門之助
晁蓋 中車
魯智深 幸四郎

〈料金〉 1等席16,000円  2等席12,000円  3階A席5,500円  3階B席3,500円  1階桟敷席17,000円(全席指定・税込)
チケットWeb松竹(24時間受付)
チケットホン松竹(10:00-17:00)ナビダイヤル   0570-000-489
東京 03-6745-0888  大阪06-6530-0333
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/825

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