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有吉佐和子の傑作『ふるあめりかに袖はぬらさじ』が“歌舞伎×新派”で再演!「六月大歌舞伎」坂東玉三郎・喜多村緑郎・河合雪之丞 合同取材会レポート

河合雪之丞、坂東玉三郎、喜多村緑郎

 

坂東玉三郎のお園が15年ぶりに歌舞伎座へ登場する。

新型コロナウイルス感染症が収束の兆しを感じさせるなか、歌舞伎座は当初からハイレベルな感染対策を講じながら興行を続けている。コロナ禍での公演再開以来、微調整しながら客席の間隔をあけてチケットを販売してきたが、「八月納涼歌舞伎」でようやく全席販売に戻されることが発表された。この明るいムードのなかで、6月2日に「六月大歌舞伎」が幕を開けた(9日・20日は休演、27日まで)。

第一部は、歌舞伎の古典であり、様式美が堪能できる『菅原伝授手習鑑』の「車引」で幕開き。そして、「西遊記」をもとに、初代市川猿翁が1926年に初演した舞踊劇『猪八戒』。澤瀉屋ゆかりの舞踊劇が、歌舞伎座に95年ぶりに登場する。

第二部は、徳川家康の長男・信康(のぶやす)を市川染五郎が演じる『信康』からスタート。父と子の心の葛藤を描いたドラマティックな悲劇の物語だ。続いて、江戸三大祭りのひとつ・山王祭を舞台にした『勢獅子(きおいじし)』。江戸の風情あふれる華やかな舞踊が繰り広げられる。

『ふるあめりかに袖はぬらさじ』芸者お園=坂東玉三郎(撮影:岡本隆史)

第三部は、幕末の世、開港間もない横浜の遊郭岩亀楼を舞台に、三味線の名手・お園、お園の旧知の遊女で病床に臥せっている亀遊、亀遊と恋仲で渡米を夢見る通訳・藤吉、亀遊の身請けを望むアメリカ人のイルウス、強欲で抜け目のない岩亀楼主人など、様々な人物たちが繰り広げる人間ドラマを描いた名作『ふるあめりかに袖はぬらさじ』。50年前に生み出された作品ながら、有吉佐和子の鋭い観察眼で紡がれる物語は、現代にも十分通じる魅力を持ち続けており、今回は歌舞伎と新派の俳優の合同上演となる。

5月下旬、第三部に出演する坂東玉三郎、喜多村緑郎、河合雪之丞が都内で合同取材会を行った。第三部は当初、片岡仁左衛門と玉三郎による『与話情浮名横櫛』の上演予定だったが、仁左衛門の休演で『ふるあめりか~』に変更となった。

《レポート》

玉三郎は20代から、『明治一代女』をはじめ、『滝の白糸』や『日本橋』など、数々の新派でも演じられる作品を手掛けている。歌舞伎座でお園を勤めるのは、公私にわたって親しかった十八代目中村勘三郎と共演して以来。

『ふるあめりか~』は、元々は文学座の杉村春子に書き下ろされたもので、玉三郎が初めて見たのは国立小劇場の公演で再演の時だった。玉三郎は「有吉先生の、世の中を俯瞰している目を感じますが、それを芝居上では何も言っていない。笑いのなかで転がっていきながら、日本の在り様の真髄を突いているところにすごく感銘を受けました。幕末物ですが、今でもまったく同じことが言えると思う」と語る
また、発表当時、『華岡青洲の妻』に比べて『ふるあめりか~』は笑い、客受けする戯曲だと評価されていた。「勤皇も佐幕ももっともだけど、どっちでもないと言っている。アメリカを否定しているわけでもなければ、日本を肯定してるわけでも、否定しているわけでもない。ただ人間ってここに生きていて雨に濡れてしまうのね、というなかに人間模様がきらめいている。お客様をぜんぜん深刻にさせないまま、深い所に突き刺さる、特別な戯曲だと思います」とも語り、「笑い転げた後でしみじみと考えさせる戯曲は、海外の作品には多いけど、日本にはあまりない。笑いなら笑い、悲しいなら悲しい、不条理劇ならわからない芝居が多い。有吉先生の場合は、不条理なことを結局突き付けられるけど、観ている時に不条理劇を観ている感じを起こさせないのが凄い」と、その普遍性をもった筆力を讃える。

喜多村緑郎が歌舞伎座に出演するのは、8年ぶり。「心の底から嬉しい限りで、魂も震え、その震えが全身に回っております。とにかく緊張する1ヶ月になると思う」と、そのプレッシャーを語る。
15年前は思誠塾の血の気の多い多賀谷という若者役だったが、今回は同じ塾生でも監査役の岡田で、当時、十代目坂東三津五郎が勤めた重要な役どころだ。「やはり、みんなを収めなければいけないし、その者たちより思慮深くなければいけない。当然、15年前なら手も足も出なかったようなお役だと思う。今もそうですが。必死にお稽古しています」と神妙な面持ちで話す。

河合雪之丞は、昨年8月と今年2月に玉三郎の舞踊公演に出演して以来の共演で、歌舞伎座の舞台に立つのは6年ぶりとなる。「今回『ふるあめりか~』という大好きなお芝居に、また歌舞伎座で呼んでいただいて、緊張して、喜多村の言うように震えがとまりません」と、こちらも緊張。
前回の『ふるあめりか~』で勤めたのは、三味線を弾く芸者役だった。「毎日が楽しくて、大和屋の若旦那(玉三郎)のお園が大好きで、できれば客席から見たいと常に思っていました(笑)。お園ってこういう人なんだろうなと一見してわかるところが素敵で、言葉では説明できない。観ていただければ必ず喜んでいただけると思う」と、玉三郎演じるお園へのほれ込みようが伝わる。
今回勤める亀遊は、そのお園の昔馴染みという大役。「(演出の)齋藤先生には、女方がやると小股の切れ上がったようにキリッとするので、歌舞伎で演じる娘のような雰囲気でやってほしいと仰っていただいた。ご助言をいただきながら、しっかり稽古を重ねて大切なお役を勤めさせていただきたい」と意気込みを見せた。

大いに緊張して気負う2人に、玉三郎は「気楽にやってもらいたい(笑)」と頬を緩ませる。喜多村と河合が国立劇場の研修所を卒業して、澤瀉屋(市川猿翁)に入門して以来、30年を超える付き合いだという。
2人の印象を、玉三郎は「喜多村君は、『太功記』十段目の久吉を、(中村)歌六さんの代役でやって、研修生で代役ができるんだと思いました。春猿(河合の歌舞伎俳優時代の名前)君は、前進座劇場で発表会をやった時、今度この子が入ったからよろしくと言われて覚えました(笑)」と振り返る。「その頃から知り合いなので私たちにはあまり垣根がないんです。これが良いきっかけになって、いつでも一緒にできるようになればいいなと思う」と、歌舞伎と新派の将来を見据えて、フラットな座組みで興行ができることの必要性について触れた。

一方、当時の玉三郎の印象について喜多村は「卒業したてだったので、『金閣寺』の雪姫をされた時、上から桜を散らしていたんです。(目を丸くしながら)もう、綺麗で綺麗で!(場内笑い) その後、相手役をさせていただけるとは思いませんでした」。喜多村の言葉に「桜、降らしてたの…知りませんでした(笑)」と驚く玉三郎。
河合は「子どもの頃から歌舞伎が好きで、役者になろうと思う前からずっと坂東玉三郎ファンでした。初舞台の時、『忠臣蔵』の通しに出ておりまして、「四段目」で踵を縫うけがをしたので、お詫びのご挨拶に行ったら、大事にしとくれと言ってくださったのが印象に残っています。その後、博多座で『三人吉三』をやった時に、夜鷹で出たのですが、大和屋の若旦那のお嬢吉三があまりに綺麗で、一瞬台詞を忘れたこともありました(笑)」と、観客にも負けないファンぶりを見せつけた。

新派で培ったものを今回どう活かせるかという質問に対して、喜多村は「いろいろなお芝居に触れる機会が増えました。演じる役は違いますが、再演に当たり、どういう風に感じ方が変わるか、自分自身としては楽しみです」と、期待を込めて語った。河合は「新派に移籍し、舞台をさせていただいて感じたのは、歌舞伎役者である間に勉強させていただいた延長線上に新派があるということ。よく、歌舞伎の女方と新派の女方がどう違うか質問されますが、根本的なものは変わらないのではないかと感じています。20代後半から30代にかけて、大和屋の若旦那にいろいろ教えていただいたことを、当時は1か2ぐらいしか理解できていませんでしたが、移籍してから少しずつ、今は多分5ぐらいわかると思っています(笑)」と少しの自負をみせた。

これまでの共演で、歌舞伎俳優として玉三郎から大いに学んできた2人が、新派の俳優として成長した姿となって歌舞伎座に戻ってくる。久しぶりの歌舞伎✕新派の座組みで、どのような新たなエネルギーがうまれ、どのような舞台が立ち上がってくるだろうか。歌舞伎の多面性や面白さを、ぜひ劇場で目の当たりにしてほしい。

【公演情報】


歌舞伎座「六月大歌舞伎」
●2022年6月2日(木)~27日(月)
《休演》9日(木)、20日(月)

◎第一部 11:00~

一、『菅原伝授手習鑑』
車引

梅王丸 坂東巳之助
桜丸 中村壱太郎
杉王丸 市川男寅
藤原時平 市川猿之助
松王丸 尾上松緑
岡鬼太郎 作
市川猿翁 補綴
二、澤瀉十種の内『猪八戒』

童女一秤金実は猪八戒 市川猿之助
孫悟空 尾上右近
沙悟浄 市川青虎
村長張寿函 市川寿猿
女怪緑少娥 市川笑三郎
女怪紅少娥 市川笑也
霊感大王実は通天河の妖魔 市川猿弥

◎第二部 14:15~

田中喜三 作
齋藤雅文 演出
一、『信康(のぶやす)』
岡崎城本丸書院の場
二俣城外の丘の場
二俣城本丸広間の場

徳川信康 市川染五郎
松平康忠 中村鴈治郎
平岩親吉 中村錦之助
本多重次 市川高麗蔵
大久保忠佐 坂東亀蔵
大久保忠泰 大谷廣太郎
御台徳姫 中村莟玉
鵜殿又九郎 中村歌之助
奥平信昌 嵐橘三郎
大久保忠教 澤村宗之助
酒井忠次 松本錦吾
天方山城守 大谷桂三
大久保忠世 大谷友右衛門
築山御前 中村魁春
徳川家康 松本白鸚

二、『勢獅子(きおいじし)』

鳶頭 中村梅玉
鳶頭 尾上松緑
鳶の者 坂東亀蔵
鳶の者 中村種之助
鳶の者 中村鷹之資
鳶の者 尾上左近
手古舞 中村莟玉
芸者 中村扇雀
芸者 中村雀右衛門

◎第三部 18:00~

有吉佐和子 作
齋藤雅文 演出
坂東玉三郎 演出
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

芸者お園 坂東玉三郎
通辞藤吉 中村福之助
遊女亀遊 河合雪之丞
旦那駿河屋 片岡松之助
遣り手お咲 中村歌女之丞
浪人客佐藤 中村吉之丞
唐人口マリア 伊藤みどり
思誠塾小山 田口守
思誠塾岡田 喜多村緑郎
岩亀楼主人 中村鴈治郎

〈料金〉1等席16,000円 2等席12,000円 3階A席5,500円 3階B席3,500円 1階桟敷席17,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京 03-6745-0888 大阪06-6530-0333 チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/761

 

【取材・文/内河 文 撮影/(C)松竹】

 

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