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歌舞伎座「三月大歌舞伎」開幕!

第一部『新・三国志』右より、関羽=市川猿之助、劉備=市川笑也、張飛=市川中車(C)松竹

歌舞伎座では3月3日から「三月大歌舞伎(さんがつおおかぶき)」が開幕した。尾上菊五郎、片岡仁左衛門はじめ充実の出演者が顔を揃え、三部制で見応えたっぷりの多彩な演目が並ぶ。(28日千穐楽、 10日、22日は休演日)

出演者・観客は各部総入れ替えを行いながら、引き続き安心して歌舞伎を楽しめるよう、換気や消毒を徹底するなど感染予防対策に万全を期して上演している。

◎第一部

三代猿之助四十八撰の内『新・三国志(しんさんごくし)』

平成 11(1999)年、三代目市川猿之助(現 猿翁)により創出された、スーパー歌舞伎『新・三国志』は、世界的に名高い羅貫中の傑作長編小説「三国演義」に想を得て、劇作家・横内謙介が筆を執り、約1800 年前の中国を舞台に、高潔で純粋な魂を持つ勇士たちの姿を壮大なスケールのもとに描き出した超大作。三代目猿之助が主演の関羽を演じ、演出もつとめるドラマチックな舞台は、圧倒的なスペクタクルに富む演出で多くの人々を魅了し、三部作としてシリーズ化されるなど、スーパー歌舞伎屈指の人気作となった。熱狂の初演から 23 年──伝説の舞台となった『新・三国志』が、四代目市川猿之助の主演・演出のもと、新たな演出・構想で甦り、歌舞伎座に初登場した。

歌舞伎座に、初演以来の加藤和彦のテーマ曲が鳴り響く中、「三国演義」の作者・羅貫中の子孫だという、市川中車演じる羅昆中(ら“こんちゅう”)が登場。コミカルにこれまでの物語を説明していくと、客席からは笑いが起き、冒頭から物語世界に引き込まれていく。

第一部『新・三国志』右より、関羽=市川猿之助、曹操=浅野和之(C)松竹

幕が上がると、鮮やかに咲き誇る桃園が出現し、舞台中央から、市川猿之助演じる関羽、羅昆中から早替った市川中車演じる張飛、初演依頼演じ続けている市川笑也演じる劉備がせり上がって登場。「生まれし月日は違えども、願わくば同じ年、同じ月、同じ日に死せんことを」という三人が義兄弟の契りを結ぶ有名な「桃園の誓い」の場面となり、場内は盛大な拍手に包まれた。「争いのない、人々が幸せに暮らす国」をつくるという同じ志を持つ三人が聡明な諸葛孔明を軍師に迎える「三顧の礼」の場面へと続く。「三国志」においても有名な逸話であり、『新・三国志』でも人気の場面が新たな演出と出演者によって甦るので、客席のテンションは上がりっぱなしだ。

今回、孔明を演じるのは、当月より市川弘太郎から名を改めた二代目市川青虎。関羽を演じる猿之助の、新たな名前にちなんだ「青き虎となり」というセリフには、客席から祝福するかのような大きな拍手が沸き上がった。また、関羽の宿敵・曹操を勤めるのは、歌舞伎座初出演となる浅野和之。溢れ出る存在感で観客の心を掴み、曹操が貫く悪の迫力と義に生きた英雄・関羽の勇ましさとの対比が、物語の深みを増していく。さらに初演時、猿之助(当時亀治郎)が演じた関羽の養子・関平を市川中車の長男・市川團子が継承し、勇ましい成長ぶりを見せた。初演から出演している市川門之助、市川猿弥、市川笑三郎、91 歳となる市川寿猿をはじめ、尾上右近や中村福之助といった若手、石橋正次ら歌舞伎以外の俳優も出演する本作は、スーパーバイザーに市川猿翁、脚本・演出に横内謙介がクレジットされ、初演以来の魂が継承される舞台となっている。

第一部『新・三国志』関羽=市川猿之助_(C)松竹

魂が共鳴し、互いを信じ、“争いなき平和な世を希求する”英雄たちの、「夢見る力」が感動を巻き起こし、クライマックスでの関羽による宙乗りでは、美しい桃の花びらが客席いっぱいに舞い降り、場内は大きな感動と鳴りやまぬ拍手に包まれた。

◎第二部

幕開けは、『河内山(こうちやま)』。

片岡仁左衛門演じる悪だくみに長けた河内山宗俊が活躍する痛快な人気作。中村鴈治郎演じる松江出雲守に奉公する質屋上州屋の娘が、出雲守の機嫌を害して屋敷に幽閉されていることを見世先で聞きつけた河内山は、金目当てにその奪還を請け負います。そして大胆不敵にも、上野寛永寺の使僧になりすまして松江邸に赴くが…。

第二部『河内山』右より、河内山宗俊=片岡仁左衛門、松江出雲守=中村鴈治郎(C)松竹_

公演に向けた取材会で、作品について「好きな狂言」と笑顔を見せた仁左衛門は、「悪に強きは善にもと」という名セリフについて、「大悪人は部分的に大善人である場合もある。いざとなったらお金を度外視しても、立ち向かおうとする人でなければいけない。悪であることを強く出す必要はないと思って演じています」と役柄の魅力を表した。また、「リズムを大切にし、運びを変えたり緩急を付けることで、お客様にご理解いただける部分が増えると思うので、大事にしています」と工夫を明かしたように、黙阿弥ならではの七五調の流麗な名台詞が耳に心地よく、仁左衛門演じる河内山の表情、仕草からは色気と愛嬌が溢れ出す。

前半の「上州屋質見世の場」と打って変わって、松江邸に向かう河内山の姿に客席からはため息が漏れ、正体が露見しても「馬鹿め!」と言い放つ痛快な場面に沸きました。上州屋の娘で腰元の浪路を、仁左衛門の孫・片岡千之助が可憐に演じると、客席からは祖父と孫の共演に温かい拍手が送られた。

続いては、『芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)』

三遊亭円朝が生んだ落語「芝浜」は、現在でも人気を誇る人情噺として知られていますが、その落語をもとにした歌舞伎の世話狂言としても愛されている。ある朝、大酒飲みで怠け癖のある尾上菊五郎演じる魚屋の政五郎は海岸に働きに来るが、中村時蔵演じる女房おたつが一刻間違えて起こしたようで、人っ子一人いない。ぶつぶつと一人で愚痴をいう政五郎の姿に愛嬌があり、客席から笑みがこぼれる。そこで大金の入った財布を拾った政五郎は、しめたとばかりに仲間を集めて酒盛りを始めたものの、酔い潰れて寝てしまい…さあ、目を覚ますと事態は一変。おたつに夢を見ていたのだと諭された政五郎は禁酒を誓うと、一念発起して仕事に励むが…。

第二部『芝浜革財布』右より、魚屋政五郎=尾上菊五郎、政五郎女房おたつ=中村時蔵(C)松竹

菊五郎が魅せる江戸っ子気質の政五郎の粋、時蔵演じる女房おたつの夫への深い情愛、数々の作品で共演を重ねてきた名コンビが、庶民の暮らしの哀歓や人情の温かさを描き出します。劇中には、菊五郎の孫・寺嶋眞秀も丁稚長吉役で出演。筋書のインタビューで、菊五郎が「体が大きくなってきましたので、次はどんな役を演じてもらおうかと考えています」と語るように、その成長ぶりに観客も目を細める。観劇後には、ほろりと心が温かくなる名作だ。

◎第三部

幕開けは、『信州川中島合戦(しんしゅうかわなかじまかっせん)』

時は戦国時代。中村芝翫演じる越後の大名・長尾輝虎(後の上杉謙信)は、敵対する武田信玄の軍師山本勘助を味方につけようと画策する。家老の直江山城守(松本幸四郎)の妻唐衣(片岡孝太郎)が勘助の妹であることを利用し、勘助の母越路(中村魁春)と妻お勝(中村雀右衛門)を館に呼び寄せると…。

第三部『信州川中島合戦』右より、長尾輝虎=中村芝翫、お勝=中村雀右衛門(C)松竹

史上名高い上杉謙信と武田信玄の川中島の合戦。壮麗な戦国武将の館を舞台に、近松門左衛門がドラマチックに描いた場面は、自ら配膳を運ぶ輝虎はじめ、多彩な登場人物が緊迫感あふれるやり取りを繰り広げる。芝翫が「〝ザ歌舞伎〟と言っても良いお芝居」と表現するように、時代物らしい絢爛とした舞台だ。

続いては、『 石川五右衛門 ( いしかわごえもん) 』。

豊臣秀吉の治世に天下を揺るがした実在の盗賊をモデルにさまざまな脚色がなされ、江戸庶民のヒーローとなった石川五右衛門。先行作からの名場面や人気のせりふを再構成した、まさに集大成といえるのが本作。石川五右衛門を勤めるのは、平成 23 年以来2度目となる松本幸四郎。叔父の中村吉右衛門が初代から継いで当り役としていたこの役を直に教わったという幸四郎は、「叔父に教えていただいた芸を、自分の身体を通して一人でも多くの方に見ていただけるように」と、並々ならぬ熱意を抱いて挑む。

第三部『石川五右衛門』石川五右衛門=松本幸四郎(C)松竹

本作は、五右衛門と中村錦之助演じる久吉(豊臣秀吉)の二人が実は幼馴染みという奇想天外な設定が楽しく、昔話に興じる微笑ましい二人の姿に場内が和む。その後、足利家の名刀を盗んだことが発覚すると、五右衛門は久吉に追われる。花道の葛籠がゆらゆらと浮かび上がったかと思うと、中からパッと五右衛門が登場!そのまま華麗に宙乗りで逃げ行く様子に、客席もますます盛り上がりを見せていく。

第三部『石川五右衛門』右より、石川五右衛門=松本幸四郎、此下久吉=中村錦之助(C)松竹

「絶景かな」の名セリフでも知られる大詰の「南禅寺山門の場」では、幸四郎が吉右衛門から教わったという〝役の大きさ〟をしっかりと体現し、圧倒的な存在感で舞台を包み、大きな拍手に包まれた。

【公演情報】
歌舞伎座「三月大歌舞伎」
●2022年3月3日(木)~28日(月)
【休演】10日(木)、22日(火)

◎第一部 11:00~

羅貫中 作「三国演義」より
横内謙介 脚本・演出
市川猿之助 演出
市川猿翁 スーパーバイザー
三代猿之助四十八撰の内
一、『新・三国志』
関羽篇
市川猿之助宙乗り相勤め申し候

関羽 市川猿之助
劉備 市川笑也
香溪 尾上右近
孫権 中村福之助
関平 市川團子
諸葛孔明 市川弘太郎改め市川青虎
華佗 市川寿猿
司馬懿 市川笑三郎
陸遜 市川猿弥
黄忠 石橋正次
曹操 浅野和之
呉国太 市川門之助
張飛 市川中車

◎第二部 14:40~

河竹黙阿弥 作
天衣紛上野初花
二、『河内山』
質見世より玄関先まで

河内山宗俊 片岡仁左衛門
松江出雲守 中村鴈治郎
宮崎数馬 市川高麗蔵
腰元浪路 片岡千之助
番頭伝右衛門 片岡松之助
北村大膳 中村吉之丞
米村伴吾 澤村宗之助
黒沢要 中村亀鶴
大橋伊織 坂東亀蔵
和泉屋清兵衛 河原崎権十郎
後家おまき 坂東秀調
高木小左衛門 中村歌六

二、『芝浜革財布』

魚屋政五郎 尾上菊五郎
政五郎女房おたつ 中村時蔵
左官梅吉 河原崎権十郎
錺屋金太 坂東彦三郎
酒屋小僧 寺嶋眞秀
桶屋吉五郎 市村橘太郎
大家長兵衛 市川團蔵
金貸おかね 中村東蔵
大工勘太郎 市川左團次

◎第三部 18:30~

近松門左衛門 作
一、『信州川中島合戦』
輝虎配膳

長尾輝虎 中村芝翫
お勝 中村雀右衛門
直江山城守 松本幸四郎
唐衣 片岡孝太郎
越路 中村魁春

戸部銀作 補綴
増補双級巴
二、『石川五右衛門』
松本幸四郎宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候

石川五右衛門 松本幸四郎
三好長慶 中村松江
三好国長 中村歌昇
左忠太 大谷廣太郎
右平次 中村鷹之資
佐々木秀経 中村玉太郎
細川和氏 市川男寅
仁木頼秋  市村竹松
次左衛門 松本錦吾
呉羽中納言 大谷桂三
此下久吉 中村錦之助

〈料金〉1等席16,000円 2等席12,000円 3階A席5,500円 3階B席3,500円 1階桟敷席17,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京 03-6745-0888 チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/745

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