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歌舞伎としてよみがえる宮崎駿の名作漫画 新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』上演中!

1982年から連載が開始され、作者である宮崎駿自身が監督を務めた映画版が今尚世界中で愛され続けている大作漫画を原作とした新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』が新橋演舞場で上演中だ(25日まで)。

「風の谷のナウシカ」は、宮崎駿が昭和57(1982)年に雑誌「アニメージュ」で連載を開始し、13年をかけて完結した大作漫画。昭和59(1984)年には宮崎駿自身の手により、連載途中に映画化され、『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』等々、日本のアニメーション界に大きな足跡を残す、スタジオジブリ作品の礎を築く、大ヒット作品となった。

今回の新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』は、そのスタジオ・ジブリ関連作品初の歌舞伎化であり、全七巻をもって完結した漫画を原作に、丹羽圭子と戸部和久の脚本、G2の演出、主人公ナウシカに尾上菊之助、トルメキアの皇女クシャナに中村七之助をはじめとする歌舞伎俳優たちが、昼夜通し上演で壮大な物語の全てを歌舞伎として描いた舞台となっている。

【ものがたり】

今から約千年後、文明世界は頂点を極め、船が空を飛び交い、人間は生き物を自由に作り変える技法を手に入れた。更に人間の欲望は留まるところを知らず、大地の富を奪い、大気を汚染し、遂には「火の七日間」と呼ばれる戦争によって多くの命が失われていった。その後、大地のほとんどは巨大な蟲が生き、有毒な瘴気を発する菌類の森、腐海に覆われていたが、尚、人間同士の争いは止むことがなく、トルメキア王国と土鬼(ドルク)諸侯国連合帝国の二大国は対立を続けていた。

そんな時代の中、風を操る民が住む辺境の小国である「風の谷」は、トルメキアと古くから盟約を結んでいる。「風の谷」の族長の娘ナウシカ(尾上菊之助)は、人々が恐れる腐海に親しみ、蟲を愛し、心を通わせ、腐海が生じた謎を解き明かしたいと思っていた。

ある時、小国ぺジテで、火の七日間で世界を焼き尽くした兵器「巨神兵」を復活させる力を秘めた秘石が発見される。トルメキアは秘石を手に入れる為にぺジテを焼き払うが、命からがら秘石を所持して逃げ延びたぺジテの王女のいまわの際に遭遇したナウシカは、兄の王子アスベル(尾上右近)に渡して欲しいと秘石を託される。ほどなくして「風の谷」に、秘石を探してトルメキアの皇女クシャナ(中村七之助)が乗り込んでくる。腐海が誕生した理由を追って腐海を旅している剣士ユパ(尾上松也)が居合わせたことも助けになり、ナウシカは秘石の在り処を秘匿するが、そんなナウシカにクシャナは古い盟約を守り出陣せよと命じる。トルメキアは土鬼(ドルク)に攻め入ろうとしていたのだ。

盟約を守り、出陣することになったナウシカだったが、腐海の植物たちは地下深くからくみ上げた水で育てれば、巨大にもならず毒も出さないことを突き止めていた。ナウシカは愚かな戦争や、腐海や蟲の起こす困難に立ち向かい、黄昏ゆく世界に希望の光を灯すために歩み続けていき……

舞台に接して感じるのは、国民的にヒットした漫画作品を原作としていつつも、この新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』が、非常にトラディショナルな古典歌舞伎として描かれていることだった。もちろん巨大な蟲や、空飛ぶ船ガンシップや、空飛ぶ凧メーヴェといった、古典歌舞伎には決して描かれないこの作品だけの世界観に添った道具立ては多数登場するし、本水の立ち回りや宙乗りなど、ケレン味も取り込まれている。それでも全体はむしろゆったりと品良く流れるし、歌舞伎ならではの見栄もたっぷりと取られていて、原作世界をあくまでも古典歌舞伎にしようとしている姿に、逆説的に驚かされることになった。ここには「風の谷のナウシカ」が新作歌舞伎になる!というキャッチーな企画から想像した斬新なものとは、ひとつ違う風が吹いていて、つまりはそれだけスタッフ・キャストが古典歌舞伎の力を信じているのだろう。そう気づいてみると、黒装束に黒頭巾を着用した「黒衣」が、ナウシカが心を通わせるキツネリスのテトを動かしていく様も、「黒衣」は見えないという、誰もが了解している歌舞伎世界の約束事として納得できてしまう流れも含めて、歌舞伎の懐深さを感じさせる。これによって、異なる生き物同士が共存していくことの大切さや、戦いの愚かさといった作品の大きなテーマが静かに浮かび上がっていた。

そんな世界の中で、ナウシカを演じる尾上菊之助の柔らかな個性が、人とも、動物とも、蟲とも、植物とも分け隔てなく心を通わせる高潔で優しいナウシカの魂の表現によく合っている。菊之助自身がこの作品を歌舞伎化したいと五年越しに夢見ていたというのがよくわかる、役柄と本人との親和性が見てとれた。

頭脳に優れ凡庸な三皇子な疎まれながら、トルメキアの王位を争う皇女クシャナの中村七之助は、まずこの役柄の装束が抜群に似合い、水際立った美しさを披露している。それだけでなく、役柄の屈折した葛藤を巧みに表現していて、ブレないナウシカとは異なり、変化していくことに妙味のあるクシャナを引き立たせていた。

ここに如何にも自由な旅人というおおらかさと強さを醸し出すユバの尾上松也が関わっていく効果も大きく、客席に語り掛ける場面もあるユバを松也が軽妙さも交えて演じれば、冒頭この作品の世界観を伝える口上の役割も果たす、アスベルの尾上右近の爽やかな持ち味が、心根の真っ直ぐな王子役を清廉に描き出して目を引く。一方土鬼(ドルク)の神聖皇弟ミラルパの坂東巳之助が、超能力を持つ人物の禍々しさを大きく造形していて、作品が求める役割りを果たした。

彼ら若手の活躍を、豪華な声の出演の中村吉右衛門、市川中車をはじめとした多彩な歌舞伎俳優たちががっちりと支え、左ひじの一部を亀裂骨折するというアクシデントに見舞われ、心配された菊之助の頑張りで、連日大盛況の舞台が展開されている。

尚、大好評の為チケット入手困難となっている作品は、早くも2020年2月に東劇・新宿ピカデリーほか全国の映画館でのディレイビューイングが決定。話題沸騰の舞台の勢いが続きそうだ。

【公演情報】
新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』
〈昼の部〉
序幕  青き衣の者、金色の野に立つ
二幕目 悪魔の法の復活
三幕目 白き魔女、血の道を征く
〈夜の部〉
四幕目 大海嘯
五幕目 浄化の森
六幕目 巨神兵の覚醒
大詰  シュワの墓所の秘密

原作◇漫画「風の谷のナウシカ」宮崎駿(『風の谷のナウシカ』全7巻 徳間書店刊)
脚本◇丹羽圭子 戸部和久
演出◇G2
出演◇尾上菊之助 中村七之助
尾上松也 坂東巳之助  中村種之助 中村米吉 尾上右近 中村歌昇
市村橘太郎 嵐橘三郎 中村吉之丞
中村又五郎 中村錦之助 片岡亀蔵  河原崎権十郎  市村萬次郎
中村歌六
(声の出演)中村吉右衛門 市川中車
●12/6~25◎新橋演舞場
〈料金〉1等席17,000円 2等A席10,000円 2等B席6,500円 3階A席6,500円 3階B席3,000円 桟敷席18,000円
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10時~18時)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/604/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

 

(c)Studio Ghibli

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