花組芝居創立35周年記念公演、三島由紀夫の名作戯曲『鹿鳴館』いよいよ開幕!加納幸和・谷山知宏・丸川敬之・武市佳久 インタビュー
創立35周年を迎えた劇団、花組芝居が、記念公演として、2021 年の『地獄變』に引き続き、三島由紀夫の世界に取り組む公演が、いよいよ明日、11月17日に東池袋のあうるすぽっとで幕を開ける。(27日まで。のち12月3日・4日に大阪 ABC ホールでも上演)
上演する作品は名作戯曲『鹿鳴館』。華麗な鹿鳴館の舞踏会の裏側で繰り広げられるのは、硝煙と血が匂い立つ悲劇と、欺瞞に満ちた冷ややかな喜劇。
「今夜の夜会に私は出ます、あの恥さらしな身なりをして。」
かつての恋人と息子を守るために、初めて舞踏会の女主人となることを決意する影山朝子を、座長の加納幸和と20周年に入座した谷山知宏がWキャストで演じれば、朝子と愛人の清原の間に生まれた息子久雄には、やはり20周年入座組の丸川敬之と30周年BOYの武市佳久が挑む。
花組芝居の華麗な歴史を織りなす俳優3人と、演出家で座長の加納幸和が本作と劇団について語り合った「えんぶ12月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。
三島ってこんなに面白いんですよと
──今回の『鹿鳴館』では、影山朝子役を加納さんと谷山さんがWキャストで演じます。加納さんは『鹿鳴館』の舞台は?
加納 初演の杉村春子さんのものは映像も残っていないので観ていないのですが、二代目水谷八重子さんの舞台をはじめ、いろいろ拝見しています。朝子は和装で出てきて途中で洋装になるので両方着られるのが楽しみです(笑)。
谷山 朝子は沢山の女優さんたちが演じていますが、皆さん有名すぎて逆にプレッシャーはないです。花組芝居という僕らの表現でやればいいので、尻込みせずに新しい『鹿鳴館』を作りたいです。
──その朝子と愛人の清原永之輔の間に生まれた久雄役は丸川さんと武市さんです。
丸川 明治という時代に生きた若い男ということで、気持ちがわからない部分もあるのですが、親に対しての葛藤とか何もできない自分への悔しさなどは多少は覚えがあるので、そこから久雄を表現できたらと。でも時代と置かれている状況が違うので、なかなか難しいです。
谷山 もうおじさんだしね(笑)。
丸川 (笑)武市はそのままでいいけど、僕は相当がんばらないとね。
武市 年代は久雄と近いですけど、技術的には丸川さんに及ばないので、なるべく若さとか青臭さみたいなものを出せればと思っています。
──谷山さんと丸川さんは同期で母と子を演じるわけですが、お互いへの信頼などは?
加納 この2人は最初は仲が良くなかったんです(笑)。
谷山 大阪と広島から東京へ出て来て、背負ってるものが違うからよく言い合いになってました(笑)。
丸川 芝居のことで議論になって、僕が突っかかると谷山が「まあまあ」って(笑)。
谷山 でも、やはり話しやすいし、稽古で「これやってみたい」と言うと最低でも1回は付き合ってくれるので、そこは有り難いです。
加納 入座当時から2人とも女形がしたいと言ってて、見ていたら器用で、とくに谷山は他の役者が女形をやっているのを真似ると彼のほうが上手い。これは出来るなと思って女形もさせるようになったんです。
──武市さんは、入っていきなり『天守物語』(18年)の新人公演で姫川図書之助に抜擢されましたね。
加納 うちの劇団はいいなと思ったら早い時期に主役をさせてしまうんです。自分の経験からいっても、重い役をやらせて役の重みとか居方とか経験させたほうがいいので。このときは『天守物語』だったので、一緒に入った永澤洋に富姫を、武市に図書之助をやらせたんです。
武市 洋も僕もデビュー戦ということで気合いを入れすぎて(笑)。
加納 がんばり過ぎて声を嗄らしてたね(笑)。
──そのあとも一緒に大役を演じていますね。同期がいるのは心強いのでは?
武市 お互いの得意不得意とか性格とか正反対なんです。だからこそ補い合えるし、サポートし合えてます。今回も洋が相手役なので安心感があります。
腹の探り合いをしているその緊張感を
──花組芝居は年代も幅広くて皆さん個性的で、そこが魅力ですね。
加納 僕の考えでは役を演じるということは、その役者のままで良いと思っているんです。新劇のメソッドなどには役を分析して役になるという考え方もありますが、僕が大学で教わったものは、自分の体を楽器として与えられたシチュエーションにいかに順応させていくか、いかに発想を豊かにしていくかというもので、自分という楽器をどこまで知り尽くすかが大事なんです。その方法でやってきたので、みんなも自然と個性が出てきたのでしょうね。
──そういう意味では三島はまさにこの戯曲を、「初めて書いた俳優芸術のための作品」と言っています。
加納 だから台詞が大変なんです。『地獄變』では動いたりできましたが、これは本当に会話だけで、それも平易な言葉で短いやりとりでお客様を引っ張っていかなければならない。しかも腹の探り合いをずっとしている。その緊張感をちゃんと拾わないと会話が流れてしまうんです。
谷山 1人の相手としっかり喋って、また「次の方どうぞ」ではないですけど(笑)会話する。その相手との関係も考えながらなのですごく大変です。
丸川 久雄は台詞が少ないぶん助かりますけど、普通に喋っていたらもたない。ちょっと派手に言いたいけれど、リアリティが必要で、その匙加減が難しい。
武市 ただ朗々と喋ればいいというものではないですからね。演劇的な表現もしつつ生っぽさも必要で、人間のちょっとした息遣いとか機微も混ぜていく、そのバランスに苦心します。
──会話劇ですが、オリジナルの音楽が入るそうですね。
加納 15周年の『南北オペラ』でご一緒した星出尚志さんの作曲です。三島は鹿鳴館の晩餐会を美しき記憶として劇作したようですが、この芝居では、公演チラシに入れたビゴーの風刺画のように、西洋の真似ごとで背伸びしているという発想で、衣裳のドレスも着物のパーツを組み合わせたり、音楽もチンドン屋風になります。
──花組芝居としてはフェイクを茶化すのですね。
加納 今までの『鹿鳴館』は華麗さで観せるものが多かったと思いますが、うちがそれをやっても仕方ないので。ニセモノだらけという発想で作ろうと思っています。
加納さんは知識量や経験量が圧倒的
──創立35周年ということで座長の加納さんについても語っていただきたいのですが。
谷山 今、立ち稽古に入ってますけど、一番動いて元気です。まるで妖怪です(笑)。
加納 (笑)みんなが成長していくと、自分も成長しないといけないと思わされるんです。一個の俳優でいたらここまで貪欲になれなかったでしょうね。
丸川 外部の公演に出て、少しは成長したかなと思って劇団に戻ると、まだまだだなと。とにかく加納さんは知識量や経験量が圧倒的なので。
武市 僕は29歳なので、生まれる前から加納さんは劇団をやっていたわけで、想像もつかないです。師匠で絶対的な存在なのですが、僕みたいな若い人間が意見を言っても、「なるほどね」と言ってくれる懐の深さがあって。僕が演劇を好きなのはみんなで一緒に作りあげていけるからで、それがとても感じられる劇団だと思います。
加納 劇団の主宰とか座長はいろいろなやり方があると思いますが、僕はまず居やすいところにしたいなと。もし何かあったら逃げてこられるところがいいなと思っているんです。
──最後に改めて加納さんから公演への意気込みを。
加納 三島没後50年のときに『地獄變』を上演したのですが、他ではほとんど三島作品を取り上げてなくて寂しかったんです。だから『鹿鳴館』もこんなふうにできますよ、もっと気軽にやってみたらいかがですか、という気持ちなんです。そして三島は小説もそうですが、いろいろな演劇的仕掛けをしているので、「三島ってこんなに面白いんですよ」とその面白さを伝えたいですね。
■PROFILE■
かのうゆきかず○兵庫県出身。87年に花組芝居を旗揚げ、ほとんどの作品の脚本・演出を手掛け、劇団外の演出も多数。俳優としても映像から舞台まで幅広く活躍中。劇団以外の近年の主な舞台は『ドレッサー』、『三億円事件』、音楽活劇『SHIRANAMI』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸 双騎出陣、『十二夜 Twelfth Night』、PARCO PRODUCE『桜文』など。西瓜糖『ご馳走』(演出)花組芝居ヌーベル『毛皮のマリー』(脚本・演出)で2019年前期の読売演劇賞演出家賞にノミネートされた。
たにやまともひろ○大阪府出身。06年『ザ・隅田川』より研修生として参加、07年『かぶき座の怪人』で入座。ダンスで鍛えた柔軟な体と独特の感性で男役、女形の両方をこなす。劇団公演『毛皮のマリー』『黒蜥蜴』ではタイトルロールを、『義経千本桜』では狐忠信を演じている。最近の外部舞台は、木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』、劇団鹿殺し『キルミーアゲイン’21』、新国立劇場『貴婦人の来訪』など。
まるかわたかゆき○広島県出身。06年『ザ・隅田川』より研修生として参加。07年『かぶき座の怪人』より入座。13年愛媛・坊ちゃん劇場で半年間、ミュージカル『げんない』に出演。15年、NHK木曜時代劇『ぼんくら2』にレギュラー出演。最近の外部舞台は、『舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONE』、あやめ十八番『空蝉』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸 双騎出陣に2年連続出演。
たけいちよしひさ○徳島県出身。玉川大学芸術学部卒業後、小劇場に客演。17年に花組芝居30周年BOYとして『いろは四谷怪談』『黒蜥蜴』に出演。18年『婦系図』を経て正座員として入座。入座後初の『天守物語』では新人公演で主役の1人、姫川図書之助を演じた。劇団公演では『毛皮のマリー』『義経千本桜』などで主要な役柄を担い、『地獄變』では初の女形に挑戦した。最近の外部舞台は西瓜糖『ご馳走』など。
【公演情報】
花組芝居創立35周年記念公演第二弾
『鹿鳴館』
作:三島由紀夫
演出:加納幸和
出演:【コロッケ組】/【カツレツ組】
小林大介/原川浩明 谷山知宏/加納幸和 横道毅/松原綾央 大井靖彦/永澤洋 桂憲一/押田健史 丸川敬之/武市佳久 北沢洋/磯村智彦 秋葉陽司/山下禎啓
花組男子:塚越健一(DULL-COLORED POP) 神田友博 原口紘一 早川佳祐(扉座) 森口誉大
●11/17~27◎東京 あうるすぽっと
●12/3・4◎大阪 ABC ホール
〈料金〉一般/前売7,000円 当日一7,400円 U-25/前売4,000円 当日4,400円 高校生以下/前売1,000円 当日1,400円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25と高校生以下(入場時要身分証)
※17日(木)・18日(金)の回は初日割引1,000 円引き(高校生以下は対象外)
〈チケット問い合わせ〉花組芝居 03-3709-9430
オンライン予約 https://hanagumi.ne.jp の「券」を参照
チケットぴあ/https://t.pia.jp/(P コード:東京/513-874 大阪/513-875)
イープラス/https://eplus.jp/
〈劇団公式サイト〉https://hanagumi.ne.jp/
【インタビュー:宮田華子 撮影:中村嘉昭】
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