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心に深く届く愛の物語 ミュージカル『GHOST』上演中!

世界中に感動の嵐を巻き起こした大ヒット映画『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年公開)のミュージカル版であるミュージカル『GHOST』が、日比谷のシアタークリエで上演中だ(23日まで。のち4月4日愛知県芸術劇場ホール、9日~11日大阪・新歌舞伎座でも上演)。

ミュージカル『GHOST』は、1990年に公開され、世界的大ヒット映画となった「ゴースト/ニューヨークの幻」で、第63回アカデミー賞脚本賞を受賞したブルース・ジョエル・ルービンの脚本・歌詞と、デイヴ・スチュワートとグレン・バラード音楽・歌詞により誕生したミュージカル。突然命を落としゴーストとなってしまった青年サムが、最愛の恋人モリーの危機を救い、永遠の愛を届けようとする感動の舞台が、映画版に勝るとも劣らない名作として、ウエスト・エンド、ブロードウェイから世界中を席巻し高い評価を得た。日本ではミュージカル界を牽引するスターの一人である浦井健治主演により2018年に初演。『ミス・サイゴン』をはじめ数々の大作を手掛ける名匠ダレン・ヤップの日本版オリジナル演出と共に、ミュージカル界の新たな財産演目としての喝采と好評を得た。

今回の上演は、初演から引き続いて主人公サムを演じる浦井健治、ヒロイン・モリーの咲妃みゆ、霊媒師オダ・メイの森公美子ら続投メンバーに、モリーをWキャストで演じる桜井玲香、サムの親友カール役の水田航生などフレッシュな新キャストを迎えて、およそ2年半ぶりの待望の再演になっている。

【STORY】
温厚で誠実な銀行員のサム(浦井健治)は、芸術家である最愛の恋人モリー(咲妃みゆ/桜井玲香)との新居を構え、同じ銀行員であるカール(水田航生)との友情も育みつつ、幸せな日々を送っていた。

ある夜、外出先から家路を辿る道中にモリーから「あなたと結婚したい」と打ち明けられたサムは、お互いが愛し合い、幸福に暮らしている今のままでは何故いけないのかと戸惑うが、モリーは更に、いくら「愛してる?」と問いかけても「きちんと言葉にしてくれない」と、不安な気持ちを訴えてくる。自分の目を見てさえくれれば愛は伝わるはずだと考えるサムは、言葉にこだわるモリーの思いを受け止めきれない。

その時、突然暗がりから一人の男が現れ、ピストルを手に財布を出せと迫る。モリーを守ろうと咄嗟にピストルを奪おうとしたサムは男と揉み合いになった末、一発の銃声が響き渡った。そのまま男を追走するも取り逃してしまったサムが、モリーの元へと戻った時目にしたのは、あろうことか自分の名前を呼び続け、泣き叫びながら取り縋るモリーと、血だまりに沈む己の姿で……。

この作品に再び接して改めて感じるのは、俳優が目の前で演じているLIVEの中で、主人公のサムが全編のほとんどの場面で「ゴースト」だという、本来生身の人間が演じるのは難しいはずの設定とが、奇跡のように合致している舞台の美しさだ。それはニューヨークの摩天楼を表し、ガラスを思わせる質感を持つジェームズ・ブラウンの装置が、人の手によって動かされていくことに象徴される、現代的なものと良い意味のアナログ感との融合による世界観で、突然、周りに姿も見えず、声も聞こえない存在になるサムやゴーストたちと、現実に生きている人々が同じ空間にあることを可能にしている。しかも、天に召される、地獄に落ちる、その狭間でやり残した強い思いと共にゴーストになるという、本来かなり宗教色の強い設定にファンタジックな香りが加味されていて、愛する人との別れが待っていることは避けられない「ゴーストもの」の切なさが、心震わす涙と共に浄化されていく力になる。ミュージカル作品の良し悪しを左右する音楽面が、非常に多彩で充実していることも含め、俳優陣の力を前面に押し出すダレン・ヤップの初演から変わらぬ演出姿勢がより際立っていて、リモートという制約の中でも、演劇が瑞々しくブラッシュアップされていく力強さを感じた。

その世界でサムを再び演じる浦井健治が、作品の根幹にある温かさを支えている。「そもそも「愛している」と言葉にして欲しいモリーに、言葉でなく瞳で伝えているのにとあくまでも口にしないサムという冒頭の設定。日本人にも非常にわかりやすい、国を超えた恋人同士の機微の僅かなズレが、突然人生を断ち切られたサムの魂を引き留める。物語展開はもちろん、彼が誰にも見えないゴーストになってしまったからこそわかった真実を、モリーになんとか伝えようとすることを主筋に進むが、それだけでなく、サム自身の後悔、伝えたかった思いがサムをこの世に留まらせていることを、浦井のサムが十二分に伝えてくれることが、より琴線に触れるドラマを作り上げて見事だ。初演から2年半、浦井の変わらないぬくもりある個性と、役者として積み上げてきた経験の双方が、サムを更に豊かな人物へと押し上げる力になった。

その恋人モリーは、初演から続投の咲妃みゆが、しなやかな大人の女性としてモリーを描き出したことに瞠目させられた。思えば初演時は、宝塚歌劇団雪組のトップ娘役を務めた咲妃が、退団後初めて出演した舞台作品で、当時のモリーには可憐さと健気さが強く感じられたものだ。だが、やはりこの年月で女優として様々な大役を演じてきた咲妃の経験値と、宝塚時代にも片鱗を見せていた役柄に憑依していく「演じること」の力量が大きく花開いていて、高い才能と独自のセンスを持つモリーの、芸術家としての面がくっきりと浮かび上がる進化を感じさせた。歌唱面でも高音域の発声に力強さが加わり、浦井のサムと大人同士の対等な男女であり、恋人同士に映る幾重にも脱皮したモリーの表出が頼もしい。

一方、初登場の桜井玲香は、愛らしさ、健気さが前に出る、サムがゴーストになっても尚、守らなければと願うのも当然に思えるヒロインを造形している。突然目の前で恋人を失いいっぱいいっぱいになっているモリーと、桜井の存在とがストレートにつながっていて、浦井のサムや水田航生のカールに対して華奢で小柄なことが、細かい芝居面にも表れていて面白い。桜井が初ミュージカルのヒロインを演じたのが、ところも同じシアタークリエの『レベッカ』でのことだったが、アイドルグループ乃木坂46のキャプテンだった当時から、経験を積めば相当伸びるのではとの可能性を感じさせた資質が、その予想を更に超える速度で伸びていて、それぞれの良さ、見比べる妙味の大きなWキャストになった。

サムの友人カールで初登場の水田航生は、ビジュアルの良さを生かし、まずスッキリと登場してきたことが、水田のカールとして強い印象を残す。それでいながら巨額を動かすビジネスマンの野心もきちんと表現していることが、後半に向かって役柄の見せる変化につなげている。何よりもこのミュージカル版で心を動かされる、カールの運命が決する場面で、サムが咄嗟に彼を助けようとする、物語の中で描かれている以上に、二人の間には確かな友情があったことに説得力のあるカール像が作品世界に相応しかった。

そして、初演からの持ち役である霊媒師オダ・メイの森公美子がいることが、作品を底支えしている。詐欺まがいのエセ霊媒師だったオダ・メイが本当にサムの声が聞こえるようになってしまう。この物語が持つそんなウィットを、森が巧みに可笑しみを含んで表出する様はまさに独壇場。サムやモリーとは人種が違うことの表現に過不足がなく、モータウン系のミュージカルナンバーを余裕たっぷりに歌い上げられる、森がいてこそ成り立つ余人を持って代えがたい演じぶりが鮮やかだった。浦井のサムとの信頼関係に裏打ちされた、どこまでが台詞で、どこからがアドリブなのかが判然としないほどのやりとりも楽しい。

彼ら以外のキャスト陣にも大きな役柄がいくつもあり、更にひとり一人がニューヨークの人々からゴーストまでを早替わりに継ぐ、早替わりで演じていて、キャスト全員の総力で創り上げるミュージカルという趣が強いのもこの作品の大きな魅力。中でもサムの先輩ゴーストとして粋なソロナンバーを歌いあげるひのあらたの粋。オダ・メイと共に怪しい交霊術に関わる松原凜子と栗山絵美コンビの、統一感がありつつそれぞれの個性もちゃんとある造形。そもそもの悲劇を招く暴漢を色濃く演じる一方で、オダ・メイのドリームナンバーでの執事役で、本来のカッコ良さとダンス力を示して強烈に目を引く松田岳。思いっきり危険なゴーストだからこそ、サムに重要なヒントを与える西川大貴のインパクト等々、書き出すと全員に何らかの形で見せ場があり、歌唱力、ダンス力共に秀でたメンバーがシアタークリエの空間を熱く盛り上げる様が圧巻。世界が未だ困難を抱えている中で、伝えたい思いを言葉にすることの大切さ、それも「あとで」ではなく「いますぐに」を実感させてくれる、この時代にこそ大切なメッセージがまっすぐに心に届く作品が上演されていることの意義を改めて感じる舞台になっている。

【公演情報】
ミュージカル『GHOST』
演出:ダレン・ヤップ
翻訳:寺﨑秀臣
訳詞:高橋知伽江
装置・衣裳:ジェームズ・ブラウン
出演:浦井健治
咲妃みゆ/桜井玲香(Wキャスト)
水田航生 森公美子 ほか
●3/5~23◎東京・シアタークリエ
〈料金〉12.500円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈公式HP〉https://www.tohostage.com/ghost/

【全国公演】
●4/4◎愛知県芸術劇場ホール
●4/9~11◎大阪・新歌舞伎座

【文/橘涼香 撮影/桜井隆幸】

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