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名作ゲーム×歌舞伎の世界初コラボ『新作歌舞伎ファイナルファンタジー X』尾上菊之助&中村米吉インタビュー 

「シン」という大いなる脅威に立ち向かう少年と少女の物語を、キャラクターボイスやフェイシャルアニメーションなどの技術を使い、映像美あふれるCGで紡ぎあげた『FINAL FANTASY X(FFX)』。発売から世界累計出荷・DL販売本数2,110万本以上(2022年3月末時点)を記録したゲームの金字塔。反響の大きさから続編も製作され、今でも世界中にファンが多い作品である。その舞台化となる木下グループpresents『新作歌舞伎ファイナルファンタジー X』に歌舞伎俳優の尾上菊之助が挑む。

菊之助はこれまで『NINAGAWA十二夜』『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』『風の谷のナウシカ』など、挑戦的な新作歌舞伎を送り出してきたが、第4弾の今作では、企画・構成だけでなく演出も手掛けている。四方に8メートルの巨大スクリーンを配し、座席が360度回転するIHIステージアラウンド東京(豊洲)にて2023年3月4日から4月12日まで上演予定で、前編・後編を通して観ると一日がかりの大作となる。

出演者は、スピラに迷い込んだ謎の少年ティーダに菊之助、父の遺志を継ぎシンを倒す旅に出る召喚士の少女ユウナに中村米吉をはじめ、中村獅童、尾上松也、中村梅枝、中村橋之助、上村吉太朗、さらに坂東彦三郎、中村錦之助、坂東彌十郎、中村歌六などの錚々たる歌舞伎俳優たちが顔を並べる。

その製作発表会見の熱気も冷めやらぬ中、ティーダ役の菊之助とユウナ役の米吉にインタビューを行った。2022年7月歌舞伎座での『風の谷のナウシカ』の再演で、クシャナ役とナウシカ役としての名コンビぶりが記憶に新しい二人だけに話が弾んだ。

中村米吉 尾上菊之助

これから未知なる挑戦が始まる期待感

──会見では、俳優さんの衣裳合わせは済んでいると伺いました。脚本や演出のプラン、音楽などの進捗状況は現在いかがですか?

菊之助 SQUARE ENIX様が監修をしてくださっていることもあり、ひとつひとつの作業に対してじっくりと時間を掛けて取り組んでいます。(衣裳は)すべて松本勇さんがキャラクターからデザインを起こして、それに歌舞伎テイストを加えたものを監修に出させていただきました。野村(哲也)さんからお返事をいただいて、ビジュアルはすべて監修を通り、フィッティングも終わって、今徐々に皆さんを撮っていっている段階です。演出の金谷(かほり)さんも、メイクの松本慎也さん(ヘアデザイン・メイクデザイン)も、原作があるものを俳優さんに着てもらってポスター撮りをするという経験をいろいろされていらっしゃいますが、おふたりのなかでは今回は一番しっくり来ているみたいです。

──ああ、そうなんですね!

菊之助 キャラクターに偏りすぎず、その心情が出ている拵え(衣裳)になっているので、非常に歌舞伎との融合がうまくいっているのではないかと仰っていました。私も実際に米吉さんと撮影させていただいた時に、非常に再現度が高くて、ポスターを真似しているのではなく、歌舞伎のティーダとユウナになった一歩を踏み出せたかなと感じました。脚本は、今は前編後編の現代語での脚本がほぼできあがっているので、そこに歌舞伎テイストを加えていく作業をしています。音楽は、植松(伸夫)先生と先日お会いして、音楽担当の新内多賀太夫さんが、植松先生の作られた曲や『FFX』のサウンドトラックから和楽器(アレンジ)に直して、徐々に録音が始まっています。

──演出はいかがですか?

菊之助 昨日も会議がありましたが、360度、およそ東西南北にステージがあるので、どう使っていくか、金谷さんと相談しています。もう何回目の会議かなあ? かなり重ねています。初めは「ここはこうでしたよね?」と確認しながら二人で打ち合わせていきましたが、昨日は金谷さんが「ここはこう」と、だいたい全編通されました。以前は一日の会議で半分までしかいけませんでしたが、今はかなり金谷さんの頭の中でできあがっていて、昨日は昼夜通して流れを確認できたので、舞台の使い方はだいぶ共有できています。ただ、劇場に入ってみないとわからないことがたくさんあるし、今回は演出だけではなく、歌舞伎俳優一人ひとりの創意工夫が必要になってきますので、これから未知なる挑戦をしていくんだなと思っています。

──会見でも映像が大画面に流れました。劇場ではスクリーンが全面にあって、没入感という点では、自分が本当にその世界に迷い込んだようになれそうだと感じました。イメージはできていますか?

菊之助 全体的な演出を通していないので、そこは何とも言えませんが、SQUARE ENIX様からお借りした映像をどのように芝居と合わせながら使うのか、絵コンテはだいぶできあがっているので、それをSQUARE ENIX様と共有しつつ、8メートルのスクリーンに映した時にどのくらい鮮明に映るのかなどを検証しながら、金谷さんと作り上げていこうかなと思っております。

──金谷さんは以前のインタビューで、後ろでも端でも、どんな席の方にもちゃんと楽しんでもらえるようにと仰っていました。それは今回も同じですか?

菊之助 金谷さんは、大きなところ(空間)でものを作られていますし、映像と舞台が融合した作品もかなり作られているので、お話を伺いながら進めています。隅々までお客様に楽しんでいただける工夫を、一場一場、金谷さんの手描きの絵コンテで作っていただいています。

作品のテーマは“祈り”

──脚本の八津(弘幸)さんと金谷さんは、どの段階で決められたのでしょうか?

菊之助 最初は八津さんですね。八津さんが脚本を書かれたドラマに出させていただいたこともあるのですが、出演作品だけでなく八津さんの作品がとても好きで。ドラマとして素晴らしいのはもちろん、人間の内面をきちっと丁寧に描かれている作品が多いんです。今回はティーダとユウナのみならず、キャラクターそれぞれの葛藤が見せ場になっておりますので、ぜひそこを八津さんに丁寧に描いていただきたいと、お願いしました。金谷さんにはその後すぐお声がけさせていただきました。私は「歌舞伎ではこうです」という表現や演出を金谷さんに提案させていただいています。金谷さんは劇場や映像の使い方を思案し、作っていただくということで、共同演出をお願いしました。

──今回菊之助さんがお二人と共有しているテーマやビジョンはどういうものですか?

菊之助 “祈り”ですね。ユウナも異界送りをしますが、祈らなければ魔物になってしまい、異界送りをすると魂が鎮まるというのは、日本古来からある祈りの、八百万の神をうやまうようなもの。この『FINAL FANTASY X』の世界では魂を大切に想う気持ちが描かれているので、テーマが祈りだということを、おふたりと共有しています。

──そうなんですね。次に実際の役作りなどを伺いますが、おふたりは原作ゲームをやり込んでいらっしゃるので、この人はこういう人というキャラクターのイメージはあると思います。それぞれのお役について、ひと言でいうとどういう人で、ご自身として共感できるところ、また逆に自分にはないなと思うところは?

菊之助 ティーダは、明るくて活発、そして絶対に諦めない人ですね。スピラという世界に行き、エボン教というみんなが信じていたものを、それはおかしいと彼は動かしていく。チェ・ゲバラ的な革命家の要素がティーダにはあると思います。私は別に革命を起こしたいと思っているわけではありませんが、新作歌舞伎を作る時は、50年100年と未来に残る古典を作りたいと思っているので、ティーダのように、信念を曲げずに突き進む気持ちは、とてもよくわかります。だけど、彼のように常に真っ直ぐ、ぶれずに行けるかというと、ちょっと私は自信がない。やはり迷うし、考えるし、いろんな方に相談するし、みんなの力を借りて作っていくので、ティーダみたいに「よし、行くぜ!」という推進力が自分にあるかというと、それは羨ましいところではありますね(笑)。

──米吉さんはいかがですか?

米吉 ユウナは本当に素直で、純粋で、そして何よりすべての物事を愛している。スピラが好きで、父親が成し遂げたように、どうにかこの世界を救いたいと強く思っていて、自分の犠牲を厭わずに(エボン教の)教えにあるナギ節を迎えることを目指し、ほんの少しでもみんなが幸せになったらいいなと願いながら、召喚士の道を歩み始めるわけですよね。葛藤を抱えながらも、全く表に出さず、ただただ世の中のため、みんなのために自分自身に何ができるかを考えながら行動する、奉仕の精神がある女性だと思いました(うん、と頷く菊之助)。それは、とてもじゃないけど普通にできることではなくて。彼女が抱えている葛藤は、ティーダと会って、少しずつ揺れ動き出すのですが、ティーダに影響を受けて、教えに捕らわれない考え方をするようになっていきます。ユウナというキャラクターがひたむきに旅を続けているからこそ、お話が切なく、また悲しくなっていくのかなと。

──ゲーム中で、ティーダがユウナについて「(悩みを)言ってくれたらいいのにさ」と言うと、アーロンが「それができない娘なんだ」と返すシーンが印象的だったのですが、ティーダとユウナは、お互い真っ直ぐだからこそ、わりと自分の内側に入ってしまうところが似ているのかなと感じました。

米吉 ユウナが「明るく旅をしたいんだ」と言うところがありますが、その台詞が象徴しているように、弱いところをあまり見せないようにしているんだと思います。でも、そこは(登場人物の)みんなにあるのかなと思いますね。

お客様にとっての“私”の物語を探しにきてほしい

──それぞれが葛藤を抱えて、最初はみんなぶつかったり、理解し合えないなか、ユウナのために集まって、手探りでパーティが進まざるえないまま物語が進んでいきます。どのキャラクターもモブじゃなく、一人ひとりに物語がしっかりあって、何本スピンオフができるんだというくらい。そこは脚本の上では叶いそうですか?

菊之助 「これは俺の物語だ、これはお前の物語だ」とアーロンが言いますが、観にきてくださるお客様もそれぞれに、「これは私の物語だ」と思えるストーリーが散りばめられているんです。キャラクターの心情に、皆が共感できる普遍的な葛藤があるので、お客様も、ご自分の過去を振り返りつつ、キャラクターの物語も楽しんでいただきたい。“僕”の物語、“私”の物語を探して、思い返していただきたいと思います。

──それぞれの役を、新作歌舞伎の『FFX』の役として演じる上で、気を付けたいことや大事にしていることは?

米吉 ユウナが旅をして、それを守るガードにティーダが入るというストーリー展開ですよね。ユウナが物語の軸になっていくのは変わりがないと思いますし、みんなに「守ってあげたい」と思われるより、みんなに「支えてあげたい」と思ってもらえる、そしてしっかりと旅を続ける信念をもったユウナでなければいけない。そして、歌舞伎で演じさせていただく上で、女方としてどのようにキャラクターを作っていけるのか、これからもっと掘り下げていこうと思います。異界送りに日本舞踊が入ってくるのであれば、やはり歌舞伎の女方としての良さをみなさまにお見せしたい。場面ごとに、ユウナは素敵な台詞がいっぱいあって…。ゲームをやりながら「この台詞を言えるんだな」と楽しみな反面、「ああ、これを言わなきゃいけないのか!」という難しそうな台詞も多くありました。それを女方のお芝居として、いわゆる女優さんが演じるのとは違う魅力をもって演じることが出来なければ、意味がなくなってしまうのではないでしょうか。と、自分でハードルを上げているのですが(苦笑)、とにかくそういう部分は意識したいです。

菊之助 ナウシカもそうでしたが、ユウナも恐らく歌舞伎の女方の類型には当てはまらない女方なんですよね。ナウシカの時も、米吉さんが新たな歌舞伎のナウシカの型を作り上げたように、今回もきっとユウナの型を作り上げていってくださる。私も一緒に作っていくのがいつも楽しみです。ティーダは活発で、太陽のような明るさがあるので、世話物の、鳶頭の若い者のような感覚もあるんです。でもそこに寄り過ぎずに、そのエッセンスを加えつつ、原作のティーダを尊重しながら、うまく歌舞伎との合流点を作っていければといつも考えています。

──メインキャストの皆さんに、それぞれお電話で打診されたと伺いました。直感的に、ご本人と演じるキャラクターの重なるところなどは?

菊之助 米吉さんは、役に向き合う時のひたむきさや深い探求心を持っているところがユウナと重なったんですよね。新作を作る時は、自分から率先してメイクテストの写真を送ってきてくれたりといつも役に対してすごくストイックで。あとは可憐さがあるところですよね。獅童さんは、アーロンの剣豪のような感じがぴったりじゃないかなって。あと、アーロンはそれぞれを見守る役どころなのですが、獅童さんの佇まいと芯が強い印象がアーロンと重なるので、ぜひやっていただきたいと思いました。

──他の方々についてもぜひ。

菊之助 シーモア役の松也さんは幼い頃から同じ舞台、(菊五郎)劇団で育っていますから、彼のことはずっと見てきて、新作歌舞伎の時は彼に入ってもらいたいといつも思っている仲間なんです。シーモアは心の闇を抱えていて、今回は、原作では描き切れなかった部分を八津さんに丁寧に描いていただいています。そのドラマを松也さんに引き受けて演じていただきたかったので、お願いしました。彦三郎さんのキマリは、もう見るからにキマリで。

米吉 見るからにキマリ(笑)。

菊之助 キマリって、ほとんど喋らないじゃないですか。でも、ところどころで良いことを言うところや、声のトーンですね。彦三郎さんの素敵な声で、良いことをボンと言っていただけると素晴らしいんじゃないかなと思って(笑)。梅枝さんは女方として素晴らしいですし、色気と妖艶さを兼ね備えています。ルールーの持っている妖艶さを梅枝さんが演じたら間違いなく素敵だろうなと思って、ぜひお願いしました。

──橋之助さんのワッカは?

菊之助 あの…会見でもおわかりになったと思いますが、非常に元気ですよね(笑)。

米吉 (笑)。

菊之助 ワッカの溌剌とした感じは、橋之助さんは出せるんだなと思って(笑)。見るからにワッカですよね。

米吉 あのまま出られちゃいますよね(笑)。

菊之助 そしてリュックの吉太朗さんとは、最近一緒になることが多いんです。彼も、これからもっと歌舞伎を勉強したいという気持ちと、歌舞伎に対する愛がとても溢れていて、立役も女方も素敵なんです。若女方としてこれからもっと活躍されるでしょうし、一緒にお芝居をしたいなと思いました。心が純粋で真っ直ぐに歌舞伎に向かっている姿勢を見て、リュックがユウナを思いやる気持ちや、アルベド族の思いやる気持ちが重なったので、お願いできないかとお電話させていただきました。

──ブラスカ、ジェクト、シドといったおじ様たちはいかがですか?

菊之助 ブラスカ…もう、ダンディですよね。

米吉 ピッタリですよね!

菊之助 ユウナが誇るお父様、大召喚士ブラスカ様ですから。出てきただけでハァ…(溜息)となるブラスカは、ぜひ錦之助のおにいさんにやっていただきたいと思いました。彌十郎のおにいさんは、(『鎌倉殿の13人』の北条)時政パパで最近非常に皆さんに人気でいらっしゃいますが、お父さんの役がとても素敵なんですよね。ぶっきらぼうだけど非常に愛情があるジェクトを、彌十郎のおにいさんにやっていただいたら、胸に飛び込んでいって演技させていただけるのではないかと思って、お願いしました。シドは、船長なんですよね。だから、権四郎みたいな感じなんですよ…。

米吉 『逆櫓』のですか!?(笑)

菊之助 (中村歌六の)おじさまは権四郎を得意としていらっしゃるから、あの感じで芝居をやっていただいたらと思って、ぜひお願いしました。

米吉 びっくりしていました、本人は。観に行くだけのつもりだったのに、まさか出るとは思ってなかったって(笑)。

菊之助 (笑)。

ふたりで相談して作り上げていった『風の谷のナウシカ』

──おふたりは、『風の谷のナウシカ』の初演では違うお役でしたが、再演ではクシャナとナウシカを勤められて、新作でがっつり組まれるのは2作目です。おふたりだからこその苦労話など、思い返すといかがですか?

菊之助 米吉さんは、先ほども申し上げたように、役に対して探求心があるので、「どうですか?どうでしたか?」といつも聞いてきてくださるんです。私も、前回ナウシカをやった時はこうだったよと伝えたり、クシャナとナウシカは、最初は意見が相容れないところがあるので、言葉でやり合うのですが、そこで遠慮されている感じがあったので、もっとそこは突っ込んで大丈夫だよと言ったり。ふたりで見せ方をいろいろ相談して作った場面もあります。女方でナウシカをやるって、難しいんですよ。ブーツも履いていますし、女方の体のままじゃできない、だけど女方の演技を使わないと歌舞伎にはなっていかないので、そこを米吉さんが非常に丁寧にやっていってくださって、ナウシカを作り上げていった思い出があります。

米吉 思い出すだけで大変でした(苦笑)。とにかく最初から出ずっぱりで、引込むたびに衣装を変えたり鬘(かつら)が変わったり、舞台裏もとても目まぐるしく、次から次にやらなければいけないことがありました。物語そのものもスピーディーに展開していく中で場面ごとにお客様に伝えなければいけないことがあり、短い場面の中で登場人物との心の交流を表現しなくてはならない。菊之助のお兄さんに様々なことを教えていただきましたが、本当にどれだけご迷惑をかけたか。

菊之助 いえいえ。

米吉 菊之助のおにいさんは、今ずいぶん優しく仰ってくださいましたが、自分自身から見ればどうしようもない状態で、初日直前まで迎えてしまったという思いはあります。でもおにいさんはお見捨てなく、根気強く向き合ってくださいました。前回はご自身がなさったナウシカを、今回は『白き魔女の戦記』ということでクシャナをされて、僕にナウシカをやらせてくださった。ご自身がお作りになったナウシカの役を次へ、またこれからも上演できるものいしたいというお気持ちを強く感じる日々でした。残念ながら、千穐楽は迎えられませんでしたが…(2022年7月23日から千穐楽の29日まで公演中止となった)。

菊之助 そうだね。それは残念だったよね、本当に。

米吉 本当に毎日毎日いろいろなことを教えてくださって、毎日の長いお芝居をずっと見守り、導いてくださったので、お客様に最後(千穐楽)まで観ていただけなかったことはもちろん悲しくて申し訳ありませんでしたが、僕は菊之助のおにいさんに毎日ぶつかって、「ここはこうじゃなかった?」とか、たまには「今日のここはよかったよ」と言っていただける毎日を最後まで駆け抜けることができなかったことがものすごく悲しかった。今度は『FFX』という形で、またおにいさんの胸を借りて、ご一緒に、古典歌舞伎とはまた違う空気のなかで過ごせるのは本当に楽しみですし、ナウシカの時のような、深い勉強の時間をいただけるのではないかなと思っております。

気楽に遊びにいくような感覚で『FFX』を楽しんで

──楽しみにしています。では最後に今回おふたりが目指すものと、公演を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

米吉 ゲームと歌舞伎の初めての融合です。『FFX』が発売された時は8歳ぐらいで、まだ(プレイするのは)難しかったのですが、子どもの頃からゲームで遊んできた人間としては、ゲームが歌舞伎になるって、すごく不思議でびっくりなことなんです。ですが、例えば『勧進帳』であれば能がもとですし、『義経千本桜』でも文楽の本行があるように、他の芸術分野から作品や題材をもらってアレンジするのは、歌舞伎の得意中の得意とも言えるところ。アニメや漫画原作の新作歌舞伎はここ最近ありましたが、今回そこに新たに「ゲーム」が加わるということは、これからの歌舞伎のさらなる広がりや深まりを、初めて皆様にお目にかけることにもなるわけです。歌舞伎を愛する者として、それは大きく期待する所でもあり、楽しみでもあります。また今回菊之助のおにいさんが「企画・構成」とあって、演出にまで入られています。これまで『マハーバーラタ』にしても『風の谷のナウシカ』にしても、これほどおにいさんの名前が前面に出ていることはなかったですよね?

菊之助 なかったですね。

米吉 『NINAGAWA十二夜』の時は蜷川(幸雄)先生でしたし。菊之助のおにいさんがここまで全身全霊をかけて作られる新作歌舞伎にお声掛けをいただいたことが、出演者としては何より嬉しい。そのご期待に沿えるよう、お力になれるよう、パーティーメンバーやおじさま方と力を一つに、絶対楽しんでもらえるような舞台を作らなくてはと決意しているところです。「え~、『FF』と歌舞伎?」と思っている方たちがいたら、その方たちに「そんなこと言ってごめんなさい。面白かった。」って言ってもらえるくらいの舞台に(笑)。歌舞伎好きな方、『FF』好きな方、皆さんが楽しんで劇場をあとにしていただける作品にできるよう、自分自身の役割を全うしたいと思います。

菊之助 新作歌舞伎『FFX』は、歌舞伎をあまりご覧になったことがない方でもわかりやすいように作り上げていくつもりです。演技体に関しては、歌舞伎をいつも観てくださっている方にもご納得いただけるよう、歌舞伎の手法を各芝居場に取り入れようと思っています。今回、ゲームを歌舞伎化するのは初めてのことですし、まして360度のIHIステージアラウンド東京でやることも世界初なので、初めての挑戦づくしになりますが、そこにあるのは文化の懸け橋なんですよね。ゲームと歌舞伎文化の相互発展を担うと同時に、歌舞伎をご覧になったことがない方と、歌舞伎をいつもご覧になってくださっている方が、本作品を観て交流をしていただければとても嬉しいです。今はなかなか客席で話すことは難しいですが、お客様のなかには、今まで孫や子どもは歌舞伎に興味なんてなかったのに「一緒に行こう」と逆に誘ってくれたと喜んでくださっている方もいらっしゃるので、そういう世代を超えた文化交流の場が、新作歌舞伎の魅力だと思っています。ですので、今回は気楽に遊びに来ていただくような感じで、新作歌舞伎を楽しんでいただければ幸いです。

■PROFILE■

おのえきくのすけ○東京都出身。1984年2月歌舞伎座『絵本牛若丸』で六代目尾上丑之助を名のり初舞台。1996年5月歌舞伎座『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助ほかで五代目尾上菊之助を襲名。『伽羅先代萩』の政岡、『摂州合邦辻』の玉手御前などの女方、『義経千本桜』の知盛・権太・忠信などの立役はもちろん、『鏡獅子』『京鹿子娘道成寺』など舞踊の大曲も勤める。故・蜷川幸雄とタッグを組んだ『NINAGAWA 十二夜』や『風の谷のナウシカ』など、新作歌舞伎にも意欲的に取り組んでいる。『下町ロケット』や『グランメゾン東京』、NHK連続テレビ小説『カムカムエブリバディ』など、TVドラマへの出演でも話題となった。2023年1月にはNHK土曜ドラマ『探偵ロマンス』に出演予定。

なかむらよねきち○東京都出身。2000年7月歌舞伎座『宇和島騒動』の武右衛門せがれ武之助で五代目中村米吉を襲名し初舞台。2011年から女方を志し、歌舞伎俳優として本格始動。2015年8月、アメリカ・ラスベガスで初の歌舞伎公演『鯉つかみ』への参加や、2019年6月G20大阪サミットで『KABUKI2019』を披露するなど、国際的な舞台も経験している。2022年7月歌舞伎座『風の谷のナウシカ』でヒロインのナウシカを勤めた。2021年第42回松尾芸能賞新人賞。2022年12月に名古屋、2023年1月に東京で自身初の外部舞台『オンディーヌ』で主演。

【公演情報】


木下グループpresents新作歌舞伎『ファイナルファンタジーⅩ』
〈配役〉
尾上菊之助/ティーダ
中村獅童/アーロン
尾上松也/シーモア
中村梅枝/ルールー
中村萬太郎/ルッツ、23代目オオアカ屋
中村米吉/ユウナ
中村橋之助/ワッカ
上村吉太朗/リュック
中村芝のぶ/ユウナレスカ
坂東彦三郎/キマリ
中村錦之助/ブラスカ
坂東彌十郎/ジェクト
中村歌六/シド
ほか
●2023/3/4~4/12◎IHIステージアラウンド東京(豊洲)
※休演日:3月8日(水)、15日(水)、22日(水)、29日(水)、4月5日(水)
〈前編・後編通しチケット料金〉SS席32,000円 S席28,000円 A席24,000円 B席19,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※SS席/非売品オリジナルCGビジュアルアクリルスタンド付き、S席/オリジナルCGビジュアルポスター付き
※SS席、S席の非売品特典グッズはご観劇日当日、劇場内でのお渡しとなります。
〈前編のみ後編のみチケット料金〉SS席18,000円 S席16,000円 A席14,000円 B席11,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://ff10-kabuki.com
〈公式Twitter〉https://twitter.com/ff10_kabuki

 

【取材・文/内河 文 撮影/中村嘉昭】

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