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「EPOCH MAN」新作公演『我ら宇宙の塵』稽古場レポート到着!

俳優・小沢道成による演劇プロジェクト「EPOCH MAN」の新作公演『我ら宇宙の塵』が、8月2日から13日まで東京・新宿シアタートップスで上演される。

小沢が作・演出・美術を手がけるEPOCH MANは、2013年から活動をスタートし、人の美しさと醜さが含まれる物語や、ファンタジーの域まで作り込まれた舞台美術など、大胆なアイデアとチャレンジ、繊細な心理描写が詰まった作品を発表してきた。今回2年ぶりの新作となり、「パペット」と「映像テクノロジー」を取り入れ、いなくなった父の行方を探す少年と、その少年の行方を探す母の物語を描く。

出演者は、池谷のぶえ、渡邊りょう、異儀田夏葉、ぎたろー(コンドルズ)、小沢。本多劇場で成功させた一人芝居『鶴かもしれない2022』や、第66回岸田國士戯曲賞最終候補ノミネート作品となった二人芝居『オーレリアンの兄妹』など、少人数作品をメインとしていた小沢にとっては珍しい五人芝居で描かれる。

開幕まであと3週間というタイミングの稽古を取材した。

会話を重ねながら行われる稽古

稽古スタート前の稽古場は和やかな雰囲気で、俳優たちは各々、台詞の練習をしたり、おしゃべりをしたりしながら過ごしている。ステージにあるのは、幼稚園にあるような小さな椅子が5つだけ(小沢と舞台監督の藤田有紀彦による手作りだそう)。そのひとつに星太郎(しょうたろう)のパペットがちょこんと座っている。演劇の小道具などを手掛ける清水克晋が制作したというパペットは、その佇まいのリアルさゆえに、生き物ではないことに見る度にドキッとした。

この日はいくつかの場面の稽古と、前半の通し稽古が行われるという。

主な登場人物は、池谷が演じる宇佐美陽子(星太郎の母)、渡邊が演じる鷲見、異儀田が演じる早乙女、ぎたろーが演じる平家、小沢が演じる星太郎(宇佐美の息子)。

稽古場で、演出も手掛ける小沢の代わりに星太郎を演じるのは俳優の椙山さと美。椙山はこれまでも小沢の稽古場代役を務めている。

まず行われたのはいくつかの場面の稽古。おさらいだったので、芝居をよりよいものにするためのやりとりが行われていた。このとき小沢がよくリクエストしていたのは、台詞にまつわること。「どの言葉を際立たせるか」「相手のどの言葉に反応して、その言葉を話し始めるか」「会話のテンポや間(ま)を詰めるところとあけるところ」などを一つひとつ丁寧にほぐしていく。特に間は、“あける”ほうではなく、“詰める”ほうを何度も伝える。そうすることで、立たせたい言葉がきちんと立つのだという。さらにこの日は、ステージングの下司尚実も訪れて、役者たちの動きを整えていた。ステージングのあるシーンだけでなく、ちょっとした動作のもたつきも見逃さず、よりスマートな動きを提案する。どの台詞もどの動きも、見ている私は言われるまで気付かないのだが、そこが変わると途端に見やすくなった。こういった積み重ねによって観客が観るべきものに集中できるのだと実感する。

稽古中、小沢は「いまのめっちゃ素敵だった。よかった理由は~」と言葉を尽くして説明したり、「違和感はありますか?」と尋ねたり、風通しよく稽古を進めようとしているのが伝わってくる。特に、一人遅れて稽古に合流した池谷によく声をかけており、池谷も芝居の中で引っかかっていることを率直に話しているようだった。

シーンを稽古したあとは、前半の通し稽古へ。

話される言葉たちが辿りつく先は

物語の舞台は現代。5年前に愛する夫を亡くした宇佐美は、星太郎が空ばかり見て喋らなくなったことが気がかりなまま暮らしていた。その星太郎がある朝いなくなり、宇佐美は家を飛び出し探しまわる。その道のりで、星太郎と話したという人たちに出会う宇佐美。彼らもまた喪失の経験を持っていた。そんな人々の人生が交差し、宇佐美はある場所に辿り着く――。

まず印象的だったのは、登場人物たちの、一言で説明でき“ない”キャラクター。それぞれの人物が、「この物語にとっての“いい存在”か“悪い存在”か」というところとは違う軸で存在している。思えば当然のことではあるのだが、見ていてとても魅力に感じる部分だった。

この作品の登場人物たちは、それぞれが自分のことをよく喋る。基本的に星太郎を探していて一刻を争う時間なので、観客視点では「今それ関係ないのでは!?!?」とハラハラするのだが、みんな一生懸命に喋り、他の人たちはその話を聞く。小沢も稽古の中で「人は誰しも話したい」と話していたが、実際こういう場面は日常にけっこうあるように思う。そしてそれを「自分語り」と嫌う人もいる。でもだからこそ、この不毛にも思える語りの数々がどこに辿り着くのか、見てみたくなった。

5人の役者の芝居は魅力的。池谷演じる宇佐美は、賑やかな早乙女や鷲見と一緒にいても常にポツンとしてみえる姿や、「しっかりしないと」だけで立っているのではないかと思わせる頼りなさが印象的。なにをしていても少し心配な気持ちで宇佐美を見つめてしまう。でもそうやって彼女を見つめていると色とりどりの感情が見て取れ、それによってこの作品から受け取るものも増えていくような、そんな感覚を味わえた。

渡邊演じる鷲見はひとりよがりの暴走が目立つ人物なのだが、渡邊の芝居には、鷲見が喪失との闘いの真っただ中にいることを忘れずにいさせてくれるものがあり、それがとても胸を打つ。異儀田が演じる早乙女はテキパキとした人物で、その芝居を見ていると、早乙女が普段どう働いているかまで見えてくるのがおもしろかった。稽古中に髪の毛を小道具的に使った表現でみんなを大笑いさせているのも素敵。ぎたろー演じる平家は、宇佐美にとっても大切な場所で働くおばあさんという役。見てわかるようにぎたろーには全然おばあさん要素はないが、おばあさんにしか見えなかったのがすごい。平家はちょっと不思議な話し方をする人物で、だけどそこにある“気持ち”をぎたろーの芝居はスッと届けてくれる。観客として、真っ直ぐに受け取れたことをうれしく感じた。

そして稽古では椙山、本番では小沢が演じる星太郎(基本的には演じる人がパペットを動かす)。子役という筋もあったのかな?など勝手に想像していたが、今回の前半通しを見て、星太郎がパペットであることに深く納得した。動かし方も秀逸で、ぜひ劇場で観ることを楽しみにしていてほしい。最初は人形だと思って少し怖かった星太郎が少しずつ大切な存在に見えてきたのもおもしろい体験だった。

通し後、小沢は「ブラボー!」と喜び、「ここからはよりシンプルに、いろいろ削ぎ落していくことになると思う」と話した。今回は演出として壁一面の LEDディスプレイが使われる。生身の芝居と、パペットと、LED ディスプレイが融合し、果たしてどんな世界を見せてくれるのか。期待の高まる稽古場取材となった。
(取材・文:中川實穗 撮影:小岩井ハナ)

 

【公演情報】
EPOCH MAN 『我ら宇宙の塵』
作・演出・美術:小沢道成
出演:池谷のぶえ 渡邊りょう 異儀田夏葉 ぎたろー 小沢道成
●8/2~13◎新宿シアタートップス
〈料金〉前売・当日共/5,500円 U22チケット2,500円[要年齢確認証](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※前方エリア・後方エリアをお選びいただけます
〈お問い合わせ〉epochman.info@gmail.com
〈公演サイト〉https://epochman.com/uchu2023.html
〈公式サイト〉https://epochman.com/
〈公式Twitter〉@MichinariOzawa
〈YouTube〉https://www.youtube.com/c/EPOCHMAN

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