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唐十郎の傑作戯曲『泥人魚』間もなく開幕!宮沢りえ・磯村勇斗インタビュー

磯村勇斗 宮沢りえ

読売文学賞、紀伊国屋演劇賞、鶴屋南北戯曲賞をトリプル受賞した唐十郎の傑作戯曲『泥人魚』。あの井上ひさしが「唐十郎の集大成」と評した伝説の名作が、初演以来、18年ぶりに甦る。挑むのは、唐十郎を「神」と崇める宮沢りえと、唐作品に初挑戦となる磯村勇斗だ。

干拓事業で揺れる港町を捨て、都会の片隅でひっそりと生きる男・蛍一と、蛍一の前に突然現れる謎の女・やすみ。唐十郎らしいリリシズム溢れる鮮烈な台詞と、生命力みなぎるキャラクターによって紡がれるこの物語は、2021年を生きる観客にどのように受け止められるだろうか。今や希少となりつつある「アングラ演劇」の灯火が、2人の手に託されている。

この公演に向けて宮沢りえと磯村勇斗にインタビューした「えんぶ12月号」の記事をご紹介する。

唐さんの言葉が血となって流れていくように

──りえさんにとって舞台では4度目の唐作品。磯村さんにとっては初の唐作品となります。

宮沢 4度目とはいえ、戯曲を読んだときの衝撃度は変わらないというか。唐さんの戯曲は頭で読もうとすると、正直わからないことがいっぱいあって、なかなか飲み込もうと思っても飲み込めないんですね。

磯村 僕もどんな世界か台本を一度読んだだけでは理解できなかったというのが正直な感想でした。まあそれが2度読んでさらにわからなくなったんですけど(笑)。

宮沢 そうだね(笑)。

磯村 どんどん迷宮入りしていくような感覚がありますよね。

宮沢 唐さんの戯曲は稽古に入って、唐さんの言葉を自分の音で発して、相手役の方から返ってくるのを受けているうちに、頭じゃなくて心で理解できるようになる。そのときに初めて唐さんの作品の中で自分が生きているんだという実感が湧いてくるんです。ですから、稽古が始まるまでは本当に苦悩の日々(笑)。そこは4度目とはいえ変わらないですし、この『泥人魚』という戯曲をやるのはこれが初めてですから、磯村さんと気持ちはまったく変わらないのかなと思います。

磯村 あんまり頭でっかちになってはいけないんだろうなというふうには感じています。りえさんの言う通り、一緒にお芝居をしていく中で何か発見があって、それが徐々に馴染んでいって、唐さんの言葉が血となり自分の身体に流れていくようになっていけばいいなと。

宮沢 私は唐さんの言葉が大好きなんです。稽古に入るまでは本当に悩むんですけど、劇場に立って、その空間の中で音にして体現していったときに、今まで理解できていなかったことが殻が剥がれるように見えてくる。そこが魅力ですね。

磯村 詩的というか、普段なかなか心情的にすっとは出てこない言葉が多いなと思いました。だから、自分がこの言葉を発するとき、どうやって音に出していけばいいかすごく考えちゃったんですよね。きっとどこかに気持ちのいいポイントがあるんだろうなと台本を読んで思ったので、そこを見つけられたらいいなと思います。とりあえずラストシーンはシアターコクーンだから後ろの扉を開けるのかな、なんて思いましたけど(笑)。

宮沢 今までやってきた唐さんの戯曲と違うなと思ったのは、この『泥人魚』には長崎の諫早湾で実際に起きた干拓問題が盛り込まれているんですね。そうした実在の出来事に基づくテーマを盛り込んだ唐さんの作品をやったことがなかったので、そこはちょっと印象の違うところでした。これまでその土地で漁師として生活してきた人たちが生きる術を奪われて、中には自殺をした方もいるそうです。唐さん自身が取材を重ねていく中で出会った漁師さんたちの想いがこの物語の根底に流れていて、それが演じる上での底力になる気がしています。

10代の頃からずっとアングラ演劇に憧れていた

──時代の変化と共にアングラ演劇を上演できる団体も減ってきているように感じます。その中でりえさんはアングラ演劇を継続的にやってこられていますよね。そこには何かアングラ演劇を次代へ継承したいという想いのようなものがあるのでしょうか。

宮沢 そうですね。子どもの頃から70年代に勢いを持って生きていた人たちへの憧れというのがありまして。自分が10代のときに、唐さんだったり石橋蓮司さんだったり、アングラの魂を持ったカッコいい大人たちに出会って、そのときに抱いた憧れがいまだに残っているんです。あの頃から30年の時が経って、私自身、時代が変わってきていることをとても強く感じています。でもだからこそ、時代が大きく変わるときに自分の声で自分のメッセージを発していくことの大事さを唐さんの世界を通して伝えたい。そしてそれをまだ20代の磯村さんと一緒にできることが、すごくうれしいです。

──磯村さんにとって、アングラ演劇はどういうイメージですか。

磯村 もちろんアングラ演劇という言葉自体は聞いてはいましたが、僕自身がそんなに舞台にふれてきている人間ではないので、どれがアングラ演劇かと言われたら正直わからないんですよね。前に小劇場をやっていたとき、アングラ系の舞台に立たせてもらったことはあるので、なんとなく感じはわかるんですが、他との大きな違いはまだ説明できません。ただ、この『泥人魚』がまさしくそうなんですけど、いつもなら台本を1回読んだらなんとなく体に入ってくるものが、今回は読み終わったあとに、「ちょっとやばいな、どうしよう」ってなっちゃって。これだけいろいろ読み解いていくのが楽しみな台本に出会ったのはこれが初めて。そこが今感じるアングラ演劇の面白さなのかもしれません。

──最後に読者に向けてお誘いのメッセージをいただけますか。

磯村 こんなにも素敵なメンバーの中に参加させてもらえる喜びをしっかり噛みしめながら1日1日を過ごしていきたいと思います。こういうご時世になって、演劇界はものすごく大きな影響を受けました。たくさんの人が苦しい想いをしているし、劇場から足が遠のいてしまった方も多いと思うんですね。でもこんなときだからこそ、この作品をひとつのエンターテインメントとして届けられたらと思いますし、みなさんに舞台を楽しんでいただけるよう頑張っていきたいと思います。

宮沢 こうやって口にするのも悔しいんですけど、まだまだ先が見えない状況で、まだみんながマスクをして相手の顔も見られない生活が続いています。そんな中、この間、お芝居を観に行ったんですけど、目の前でマスクをせずに大きな声で台詞を言っている人たちがいるというだけで、私は泣きそうになったんですよね。やっぱり劇場でしか生まれないものは絶対にある。その日のその空間にいる者だけしか味わえない特権をぜひ感じに来ていただきたいですし、今この時代にこの作品をやる私たちを目撃しに来てほしいです。

■PROFILE■
みやざわりえ○東京都出身。11歳でモデルデビュー。89年に映画初主演にして日本アカデミー賞新人賞を受賞。以来、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞(5度)、ブルーリボン賞主演女優賞、東京国際映画祭最優秀女優賞、報知映画賞主演女優賞(3 度)など多数受賞。映像作品だけでなく、舞台にも積極的に出演、18年に第25回読売演劇大賞の大賞および最優秀女優賞を受賞。近年の主な出演舞台は『死と乙女』(19)、『ビニールの城』(16)。日本テレビ 新日曜ドラマ『真犯人フラグ』放送中。22年・NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演予定。22年1月7日、映画『決戦は日曜日』全国公開。

いそむらはやと○静岡県出身。14年にドラマで俳優デビュー。15年『仮面ライダーゴースト』(EX)で注目を集め、17年の NHK 連続テレビ小説『ひよっこ』で幅広い支持を得る。以降、映画・ドラマで数多くの作品で活躍中。近年の主な出演作は【舞台】『プレイハウス』(19)、『hammer&hummingbird』(18)、【映画】『彼女が好きなものは』(21年12/3公開予定)、劇場版『きのう何食べた?』、『東京リベンジャーズ』、『ヤクザと家族 The Family』(21)、【ドラマ】『演じ屋』(21・WOWOW)、『サ道 2021』(21・TX)、『珈琲いかがでしょう』(21・TX)、『青天を衝け』(21・NHK)、『恋する母たち』(20・TBS)など。

【公演情報】
COCOON PRODUCTION 2021
『泥人魚』
作:唐十郎
演出:金守珍
出演:宮沢りえ 磯村勇斗 愛希れいか 岡田義徳
石井愃一 金守珍 六平直政 風間杜夫 ほか
●12/6~29◎Bunkamura シアターコクーン
〈お問い合わせ〉Bunkamura チケットセンター
03-3477-9999(10時~17時)
https://www.bunkamura.co.jp

 

【構成/宮田華子 文/横川良明 撮影/大久保惠造 ヘアメイク/[宮沢]千吉良恵子(cheek one)、[磯村]佐藤友勝 スタイリング/[宮沢]三宅陽子、[磯村]笠井時夢 衣裳協力/[磯村] UJOH(M)03-3498-6633、new territory 03-6451-0534】

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