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藤ヶ谷太輔が体現する愛さずにはいられない男の魂 ミュージカル『ドン・ジュアン』公演レポート!

放蕩の限りを尽くした稀代のプレイボーイが真実の愛を見つけたが為に、その運命を狂わせていく物語を藤ヶ谷太輔が再び演じるミュージカル『ドン・ジュアン』が、TBS赤坂ACTシアターで上演中だ(6日まで)。

ミュージカル『ドン・ジュアン』は、モリエールの戯曲、また舞台をイタリアに移したモーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』等で知られる、ヨーロッパに広く伝わる「ドン・ジュアン伝説」を基に、フェリックス・グレイの作詞・作曲によって2004年カナダで初演されたミュージカル。快楽をのみ追い求めた男が辿る愛の顛末を、フラメンコをベースとした珠玉の名曲で綴ったフレンチミュージカルとして喝采を集め、2016年に生田大和の潤色・演出で、宝塚歌劇団雪組で日本初上演。のち2019年、同じ生田が潤色・演出、Kis-My-Ft2のメンバーとして広く活躍を続けている藤ヶ谷太輔のミュージカル初主演作品として上演され、大きな話題を投げかけた。

今回の再演バージョンは、ヒロイン・マリア役に元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の真彩希帆。ドン・ジュアンに翻弄される娘エルヴィラにミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役の記憶も新らしい天翔愛などの新キャストを迎え、主演の藤ヶ谷以下、平間壮一、上口耕平、吉野圭吾、春野寿美礼、鶴見辰吾と、多くの続投メンバーでの充実した上演となっている。

【STORY】
スペイン・アンダルシア地方。赤い砂塵の舞うセビリア。スペイン貴族ドン・ルイ・テノリオ(鶴見辰吾)の跡取りでありながら、酒と女に溺れ放蕩の限りを尽くすドン・ジュアン(藤ヶ谷太輔)は、夜毎女たちとの情事に浸っていた。ある夜、彼は騎士団長のひとり娘を一夜の快楽の相手に選ぶが、そのことが誇り高き騎士団長(吉野圭吾)の激怒を招き、決闘を挑まれる事態に発展してしまう。剣の腕も確かなドン・ジュアンは闘いには勝利したものの、騎士団長が最期に残した「お前はいずれ〈愛〉によって死ぬ。〈愛〉が呪いとなる」という予言に苛まれ、やがて亡霊にとりつかれるようになる。

そんなドン・ジュアンを案じる唯一の友ドン・カルロ(上口耕平)の忠告も、ドン・ジュアンと結婚したと信じる娘エルヴィラ(天翔愛)の慟哭もドン・ジュアンには届かず、アンダルシアの美女(上野水香)との刹那の関係を見せつける有様。我を失ったエルヴィラの衝動的な振る舞いを、イザベル(春野寿美礼)をはじめドン・ジュアンを愛した女たちは、諦観の目で見つめていた。

だが折も折、亡霊に導かれたドン・ジュアンは亡き騎士団長を讃える石像を製作している女性彫刻家のマリア(真彩希帆)に出会う。マリアの美しさ、ひたむきさに惹かれたドン・ジュアンは、かつて経験したことのない、心の震え〈愛〉の訪れを自覚し、マリアもまたその想いを真っ直ぐ受けとめるに至る。だが、マリアの許婚ラファエル(平間壮一)が戦地から戻ってきたことをきっかけに、亡霊の呪いの言葉通り、ドン・ジュアンは〈愛〉の呪縛に絡め取られてゆき……

ミュージカルとひと言で言っても数多の描き方、数多の主人公が存在するし、彼、彼女らのすべてが品行方正なヒーロー、ヒロインであるとは限らない。野心の為なら手段を選ばずに高みを目指す者もいれば、もっと悪徳に満ちた所謂ダーティヒーローも存在する。

だがその中でもこの作品、ミュージカル『ドン・ジュアン』のタイトルロールのドン・ジュアンは、やはり相当に難易度の高い主人公だと言える。何しろ彼が快楽に溺れ、夜ごと異なる女性たちを追い求め、放蕩の限りを尽くす、その行動原理がどこからくるのかが、物語世界のなかで明確には描かれていない。もちろん「ドン・ジュアン伝説」は、そうした神に背いた行いをしたものには、必ず報いが訪れる=地獄に落ちるという顛末が語られているものだが、ただそれだけでは舞台はひとつの教訓話に収まってしまう。

そうならない為の鍵は、だからドン・ジュアンを誰が演じるのか?という一点に集約されていく。ただ上手いだけでも、技術力が高いだけでも、この作品の主人公は務まらないだろう。この男性が心に抱えている渇望、どれほど放埓な振る舞いを続けても埋まらない心の空洞を埋めるためならば、刹那の関係になることがわかっていても、傍にいたいと思える人物でなければ、作品を支えるのは難しい。

そう考えると、このドン・ジュアン役に、初演時ミュージカル作品初主演だった藤ヶ谷太輔が登場したのは、必然だったと思う。この人物に誰しもが惹かれることに説得力がなければ、何よりも華がなければ務まらない役柄を、藤ヶ谷のスター性が見事に支えてみせた様は鮮烈で、忘れ難いものだった。演出の生田大和が、基本的にスターシステムを敷く、まずスターを立てることが最優先の宝塚歌劇団所属の演出家だったことも大きな要素で、藤ヶ谷ドン・ジュアンを美しく見せて、赤い土と風が吹きすさぶのを感じる舞台面に、どこかでファンタジックなものを加えた絵作りも秀逸だった。

そんな大成功の組み合わせだった藤ヶ谷主演、生田演出で再び臨んだ今回の上演は、より作品が深化したことを如実に感じさせるものだった。藤ヶ谷のドン・ジュアンがフラメンコを主体としたダンス、歌、芝居と全ての表現力をアップさせてきたことがまず大きいし、生田の演出方法も終幕にドン・ジュアンが取る行動に、ある明確さを持たせていて、この結末をドン・ジュアンが自ら選び取ったと感じられるのが作品の余韻を深めた。これは原典で天罰を受ける主人公とは全く異なる景色を見せたもので、真紅の薔薇に象徴されるメッセージが哀しくも美しい。藤ヶ谷に感じる伸びしろも豊かで、このタッグでミュージカル『ドン・ジュアン』は更に育っていくのではないかという、未来が見えたのも嬉しいことだった。

また、今回作品のミュージカル度を確実にあげたのが、マリア役で登場した真彩希帆で、宝塚退団後の初ミュージカル作品への出演となったが、持ち前の抜群の歌唱力はもちろん、元々「宝塚の娘役」というコードを着るというよりも、演技者としての顔を見せてきた真彩に似つかわしい、自らの仕事に誇りを持つ、自立した女性であるマリア役がジャストフィット。あれだけ華やかな藤ヶ谷の隣でも、柔軟にヒロインを演じられる真彩の盤石の女優デビューになった。思えばこの作品の日本初演は真彩がコンビを組んだ元雪組トップスター望海風斗の主演で上演されていて、異なる時空で同じ作品を二人が経験した形になったことにも、どこか不思議な縁を感じる。

またエルヴィラの天翔愛が、基本的に経験を積み過ぎても役柄のカラーと異なるだろうし、さりとて技術力はかなり必要という、なかなかに難しい役柄を体当たりで演じている。歌唱面ではここからのものも感じさせるが、ドン・カルロが放っておけないのも無理がないと思えるエルヴィラ像を作ってきたのは物語にとって貴重だった。

もうひとりの話題の新キャストが、アンダルシアの美女を演じた上野水香。言わずと知れた日本バレエ界の至宝だが、プリマバレリーナならではのオーラ満載の登場シーンから、やはりこの女性もドン・ジュアンの魅力にいつしか抗えなくなっていくのだなという変化を、台詞を挟まずに表現する力は絶大だった。

他の主要キャストのほとんどが続投していて、それぞれが深めてきたものもまた、この再演の舞台に寄与しているが、終幕への重要な鍵を握るラファエルの平間壮一は、マリアの愛が自分にあることを疑わない、しかも結婚したら当然家庭に入ってくれるものと思い込んでいる、マリアの自立心に全く気付かない男性像を、出番としてはかなり飛んでいるなかできちんと通していて、ここ数年ますます進境著しい演技面の充実を改めて感じさせる。

またドン・カルロの上口耕平は、ドン・ジュアンへの友情をひたすらに持ち続けているのだが、当のドン・ジュアンからは本当に友人と思われているのかどうかが未知数という、非常に難しい役柄に、友を想う熱い心のなかにも羨望を滲ませて表現していて見応えがある。この役柄もかなり人を選ぶものだと思うが、初演から続く上口の好演が作品を支えて頼もしい。

また、騎士団長、やがてその亡霊となる吉野圭吾は、こういうクッキリと個性の強い役柄を演じさせると、右に出る者がいないのではという感覚を年々深めている人で、映像効果を含めて一歩間違うと笑うところ?と錯覚されかねない大胆な演出にも、堂々と真っ向から応える吉野のひたむきさがいい。演じることにただ一直線に向かい合える貴重な人材だとの感をまたも深くした。

イザベルの春野寿美礼は、持ち前の歌唱力はもちろんのこと、一度ドン・ジュアンを愛した女たちが、互いに敵になるのではなく、彼を媒介にしてどこかで連帯していくという、この作品の描く主人公像を伝える存在として大きな仕事をしている。ドン・カルロと共に作品世界を俯瞰している存在にも見えるのが、更に面白かった。

そしてドン・ルイ・テノリオの鶴見辰吾は、放蕩息子への複雑な感情を表情に出さない表情とも言いたい、僅かな変化で見せていて、口調の強さとは異なり、彼が息子に愛を持っていることが伝わるからこそやるせない存在感がますます大きくなり、全体を引き締めている。

また、ドン・ジュアンが愛した女たちとも、真紅の薔薇とも、更にはドン・ジュアンが求める愛の象徴ともとれる女性たちをはじめ、兵士や、アンダルシアの人々を演じるアンサンブルメンバーの質が高く、常に赤い土に吹く風を感じさせる舞台を全員が支えている。なかでも春野のイザベルとある意味対になる存在として、美声をふんだんに聞かせた則松亜海の優れた仕事ぶりが際立ち、より深いところに上っている作品がDVD化され、ひとつの形として残ることを喜ぶと共に、次の上演も期待したい舞台になっている。

【初日コメント】

鶴見辰吾 藤ヶ谷太輔 真彩希帆また東京公演の初日を前にした取材会には、藤ヶ谷太輔、真彩希帆、鶴見辰吾、演出の生田大和が登壇。それぞれからのメッセージが語られた。

生田 こうして登壇させていただいているのが藤ヶ谷さんはじめ、真彩さん、鶴見さんという、メインキャストのなかの三人、厳選メンバーで挨拶させていただいておりますが、この舞台には他にもたくさんのアンサンブルキャストや多くのキャストが出ております。このセットは初演からずっと我々がセビリアのセットとして使わせていただいているもので、この床も初演のままで無数の傷あとがついているんですね。カンパニーのメンバーの足跡ですし、きっと初演のメンバーの足跡もあるだろうと思っています。初演のメンバー、そして再演の新しいメンバーも含めて、一丸となって大千穐楽まで駆け抜けていこうと思いますので、是非皆様ご支援のほどよろしくお願いします。

鶴見 ドン・ジュアン役は、芝居が上手くて歌が上手いだけじゃダメなんですよね。できる人は今考えると藤ヶ谷くんしかいないんじゃないかなと思います。再演にあたっても本人は謙虚ですが、十分手応えがあるとみんなは感じていると思いますし、人間の深みがドン・ジュアンに出てきた。そこが今回グレードアップした一番大きな見どころではないかと。皆さんの前で演じて舞台の上に立つ喜びをお届けして、最後まで藤ヶ谷くんと他の皆さんとスタッフ、キャストと共にミュージカル、演劇、エンタテインメントの力をお届けしたいと思います。

真彩 宝塚退団後の初舞台ということで、本当にこんなに幸せなことがあっていいのかと思うくらい、素敵なスタッフさんやキャストの皆様と出会えて毎日がとても幸せです。藤ヶ谷太輔さんはパフォーマーとしてもとてもスターだなと、私はご本人にもお伝えしているんです。人を引き付ける魅力というものがドン・ジュアンにつながることを稽古場からも思っていましたし、温かい藤ヶ谷さんの周りにはとても素晴らしいカンパニーの方がいらっしゃって、スタッフの方々も本当に優しい方々ばかりで、毎日本当に幸せに舞台に立てています。劇場で演じることの大切さを改めて今回感じましたので、最後までどうぞよろしくお願いします。

藤ヶ谷 再演ということで、初演よりもすべてにおいて深さや奥行きを出そうというのがテーマで今回やっています。色々とプレッシャーなところもあったりしますが、本当に命を削って、その日にできることをその日に全部出しきってやっています。エネルギーのある作品だと思いますので、是非劇場に観に来てくだされば嬉しいですし、来られない方も心のなかで応援してくださればすごく嬉しいなと思っています。誰一人欠けることなく、大千穐楽までとにかく走りぬきたいと思っていますので、是非応援のほどよろしくお願いします。

【公演情報】 
ミュージカル『ドン・ジュアン』
作詞・作曲◇フェリックス・グレイ
潤色・演出◇生田大和
出演◇藤ヶ谷太輔
真彩希帆
平間壮一 上口耕平 天翔愛
吉野圭吾 上野水香 春野寿美礼
鶴見辰吾 ほか
●10/21~11/6◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席13,500円 A席9,500円(税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.don-juan2021.jp/

【DVD発売情報】
公演本編
特典映像(予定)
藤ヶ谷太輔×生田大和(潤色・演出)×キャストによる座談会
舞台セット設営完成までのタイムラプスブックレット
※11月12日)23:59までの予約分は別冊フォトブック(ビジュアル写真&舞台写真)付きのスペシャルエディション。
〈料金〉12,100円(税込)(スペシャルエディション)
※通常版(別冊フォトブックなし)は11月13日以降予約。9,900円(税込)予定。
発売日 2022年4月15日(金)予定
〈問い合わせ〉
商品内容 梅田芸術劇場 0570-077-039(平日10:00~18:00)
購入 宝塚クリエイティブアーツ カスタマーセンター 0797-83-6000(日曜休10:00~17:00)

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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