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佐藤勝利主演×小山ゆうな演出、ニール・サイモンの代表作『ブライトン・ビーチ回顧録』開幕!

アメリカ・ブロードウェイの巨匠ニール・サイモンが新境地を開いた作品と言われる『ブライトン・ビーチ回顧録』が、主人公ユージン役に、舞台単独初主演となるSexy Zoneの佐藤勝利を迎えて、東京芸術劇場プレイハウスで9月18日から上演中だ。(10月3日まで。のち京都劇場で10月7日~13日まで上演)。

『ブライトン・ビーチ回顧録』はコメディの名手として名を馳せる劇作家ニール・サイモンが書いた『ビロクシ―・ブルース』『ブロードウェイ・バウンド』からなる三部作で、ニール・サイモン自身が投影されたユージンを中心に描かれる青春成長物語。その第一作目であるこの作品は、ブロードウェイで上演回数1306回を数える大ヒットを記録し、1985年にPARCO劇場で日本初演され大好評を博している。

今回、2021年の上演はいま最も注目を集める演出家の一人の小山ゆうなが演出を担当。あたたかな家族の物語を紡ぎ出されている。

【STORY】
1937年9月。第二次世界大戦前夜のニューヨーク。
ブルックリン地区の南、中流の下の収入の人々が暮すブライトン・ビーチで人々は、深刻な不況と近づく戦争の足音に不安な日々を送っていた。思春期を迎えたユダヤ人の少年ユージン(佐藤勝利)は、父ジャック(神保悟志)、母ケイト(松下由樹)、兄スタンリー(入野自由)の四人家族の次男坊。家には夫に先立たれたケイトの妹ブランチ(須藤理彩)が二人の娘を連れて身を寄せている。

野球選手か作家になるのが夢で、毎日秘密の回顧録を書いているユージンだったが、母親のケイトは苦しい生活が続き、いつヒステリーを爆発させてもおかしくない状態。また、従姉妹のノーラ(川島海荷)は、ブロードウェイの演出家に呼び出されて女優になると言い出し、ローリー(岩田華怜)は病気がちで本を読んでいるばかり。その上、スタンリーは正義感から同僚をかばい、この不況の中で失職しそうになる。ジャックはそんな家族の問題を解決しようとするのだが……。

物語は、ユージンの住むブライトン・ビーチの我が家をほぼ舞台いっぱいに組み立てた装置の中で進行する。中央に家族全員が食事を共にするリビングがあり、奥にキッチンがあるのだろう出入口、二階には二段ベッドのあるスタンリーとユージン。ベッドを並べているノーラとローリー二組の部屋があり、階段や、家の壁を隔てた庭先も様々に使いながらテンポの良い会話が交わされることによって、ごく自然に二つの家族が同居しているつつましい暮らしのなかに入っていける。アメリカ!ニューヨーク!と聞くと、どうしても一番に連想する摩天楼や、華やかなブロードウェイの舞台から離れた、一市民の日常がリアルで、まるで隣にあるもののように感じられ流れが滑らかだ。

そこに暮らす二組の家族それぞれが抱えている問題が、14歳の少年ユージンの目を通して描かれる。その一つひとつがまた、やはり隣で起きていると思えるのが、常にオシャレなアメリカのウィットを感じさせるニール・サイモン作品のなかでも異色で、その特別な質感を丁寧に温かに紡いでいる小山ゆうなの演出がきめ細かく、登場人物皆を応援したい気持ちにさせられる。

その筆頭、語り手でもある主人公14歳の少年ユージンの佐藤勝利は、冒頭、有名野球選手になりきって一人家の壁にボールをぶつけながら、試合を疑似体験している瞬間から発せられる吸引力に目を奪われる。夢見がちな思春期の少年が、従姉妹二人と同居していることにドキドキし、何もかも自分のせいにされると母親に不満をぶつけながら、家族の問題をどこか冷静に見つめてもいる。この少年の純粋と、将来作家として花開くユージンのなかにある物事を客観視する才能双方を、佐藤が絶妙なバランスで醸し出した。特に、14歳の少年がもうすっかり自分を大人だと思っていることをきちんと理解して、子供、9月18日からした芝居をせずに、尚愛らしさはちゃんと残せる佐藤の芝居勘の良さに驚かされる。状況を説明する長台詞も堂々とこなした、舞台俳優としての可能性を感じさせる初主演となったのが嬉しい。

ユージンの母ケイトの松下由樹は、何かと言うと大きな声をあげてユージンを叱っている、どこにでもいるお母さんを、体温を感じさせる演技で造形している。特に一幕では一見して怒っている場面が多いのだが、兄弟の母としてだけではなく、妹や二人の姪、そして何より夫への愛情を心にしっかりと持っていることがきちんと表現されているので、決してヒステリックな母親には見えないのが作品の色を決めたと言っていい。この家を司っているのはお母さん、そんな松下の温かな造形が際立った。兄スタンリーの入野自由は、青年らしい正義感と不況のなかで自らが取るべき現実の間で揺れ動く心根を真っ直ぐに演じている。信念を貫きたいが、それが難しいことももうわかっていて、でも自分でそれを認めるのではなくお父さんに決めて欲しい。この実に複雑な大人になりきれない18歳の青年の心情を、くるくると変わる表情でよく表している。ユージンとの兄弟の絆が固いこともよく感じさせた。

ケイトの妹ブランチの須藤理彩は、夫に先立たれた不安と、父親がいない二人の娘の将来をすべて自分一人で決断しなければならないことに大きな負荷を抱えている女性の、心許なさが伝わってくる繊細な表現がいい。娘の挑戦に驚き、誰かに止めてもらいたいと願いながら、母親として決断する。その局面でも大向こうに堂々と言い放つのではないところに、ブランチの想いが現れていた。

また、その二人の娘たち、ノーラの川島海荷は、突然ブロードウェイ・ミュージカルのオーディションを受けると言い出すことに説得力がある可憐さが際立つ。大人たちがせめて高校は出るようにと諭すことも、彼女がこのチャンスに賭けてみたいと思うことも、双方の気持ちがわかるだけに、先の展開にひきつける川島のストレートな演技が生きた。

一方病気がちで本を読んでいるばかりのローリーの岩田華怜は、メガネを印象的に使い、何を考えているのかな?と思わせる、ただ病弱な少女ではない複雑さを秘めているのが、ニール・サイモン作品によくあっている。

そして、そんな家族たちから大切なことの決定をすべて託される父・ジャックの神保悟志の、どこか苦み走った風貌と、破顔一笑の笑顔のギャップが効果的に家族の柱を表している。先行きの見えない生活の不安を抱えながら懸命に一家を支えようとするジャックが、決して堂々たる大黒柱ではないことが、作品のリアルと同時に温かさにもつながっていて、神保の普通の人の表出が隣人の物語としての作品の魅力を高めた。

彼らすべての登場人物が直面している問題が出そろったところで、1幕のみの公開ゲネプロは終了。家族それぞれの関係性がどうなっていくのか、に想いがめぐるなか、佐藤勝利、松下由樹、入野自由、小山ゆうなが登壇。取材会が行われた。

【取材会】


佐藤 ずっと舞台が大好きで、いつかストレートプレイに出てみたいと思っていました。そして、たくさん舞台を拝見する中で、「東京芸術劇場って素敵だな、いつか立ってみたいな」と思っていたので、まさか本当に立てる日が来るなんて、と、よく皆さんが言っていそうなコメントを言ってみました(笑)。まずは初めてなのでフレッシュな感じで!いま(Sexy Zoneの)メンバーのほとんどが舞台に出演中で、僕はみんなより少し遅れて公演が始まるので、不安で緊張していて「幕開けられるかな」とぼそっと言ったら、さっき松島(聡)からメールが入っていて、「絶対大丈夫だから、リラックスして。みんなを信じて、稽古で頑張った分本番でも頑張ってください」と書いてあって。あれ、先輩だったっけ?と思いました(笑)。舞台のという意味では、若干先輩なんですけどね! 同じ池袋で今ちょうど公演していると思います。風磨くん(菊池)も長台詞に挑戦した舞台をやっているので「僕は噛まなかった」という自慢をめちゃくちゃしてきて、あれは、何がしたかったんだろう?(笑)まあ冗談ですけど、こうやって和気あいあいと、ケンティー(中島健人)以外のみんなが舞台をやっているのは不思議といいますか、とても光栄なことです。僕も今日やっと初日を迎えられるので、みんなで切磋琢磨しながら頑張っていきたいです。

台詞量も多いので不安があったり、落ち込んだり、大変だなと思う瞬間はありましたが、稽古で少しずつ得られることや、みなさんと過ごす時間の中で、「やっぱり舞台っていいな」と思いました。こうやって劇場に立ってみて、お客さまがいるのを想像すると、自分でも本当に舞台が大好きだなと思いました。実年齢よりも10歳若い年齢をやりますが、無理して子供っぽくしないようには気を付けています。というのも14歳のときの自分は、自分のことを大人だと考えていたと思うし、変に子供っぽくしないほうが逆に14歳という役が純粋に伝わるかなと思いました。それに僕は童顔なので(笑)。それから14歳は僕がジャニーズ事務所に入ったときの年齢で、グループが10周年。そして今回初舞台で10年前の年齢の役をやるというのは感慨深いなと思いました。

僕にとっては全てが初めてだったので、稽古の始め方からどういうふうに進めていくかなど、みなさんに支えてもらいながら質問しながらの毎日でしたね。反省会といいますか、小山さんやスタッフさんからアドバイスをいただく時間を「ノート」と言うんです。あと「衣裳パレード」と書いてあって、それが衣裳合わせの意味だったのですが、衣裳を着て街を練り歩くパレードに参加するのかなと思いました(笑)。そういう分からないワードは自由くん(入野)に全部質問しました。自由くんはゲネプロ前や出番前に、わざわざ近付いてきて「大丈夫だよ」「お前ならいけるよ」と毎回言いに来てくださるんですよ。ただ、スタンリーの自由くんはかなり後からの登場なので、僕がいったんハケて出番前の自由くんが袖にいるのを見たら、この世の終わりかというくらい緊張した面持ちをしていて(笑)。僕もとても緊張しやすいタイプなのですが、僕よりも緊張している自由くんを見て、逆に緊張しなくなって(笑)。お互いに励まし合いながらやっています。

(母親役の松下について問われて)本読みのときからとても緊張していて心が震えていたのですが、松下さんはコメディということで、そのトーンで最初から読んでいらして。その時点で、松下さんに付いていこうと。お母さんに付いていこうと思っていました。なので、本当に支えていただいてありがたかったです。立ちたかった舞台に、念願叶って立てることが嬉しいですし、このような時期なので、仕方なく家族と少し距離ができてしまっている方も多いかと思います。家族の物語であるこの作品を観て、「家族っていいな」と改めて感じてもらえたら。くすっと笑えるところも多い作品になっています。今の時期にぴったりだと思うので、ぜひ楽しんでいただきたいです。

小山 (初めてのストレートプレイに出る佐藤について問われて)初めてという感じは稽古の最初から全然していなくて、みなさんよくご存知だと思いますが、センスがすごい方だなと感じます。日々新しいことがたくさんあったかと思いますが、いつのまにか凄まじい勢いでどんどんどんどん良くなっていくので、毎日私も稽古場に行くのが楽しみでした。全然違うんです。たとえば「もっとここで台詞にエネルギーを出さなくてはいけない」とか、難しい言葉を一つずつどういうニュアンスで言っていけばいいのか、など、とても難しかったと思います。でもそういうことが日々埋まっていき、長台詞を聞いているだけでイメージできるようにどんどん変わっていったかなと思います。みなさんいっぱいいっぱいなところもきっとあったと思うのですが、それを見せないで良い雰囲気のなかでここまで作ってこられましたので、こういう時期ですがお客様と一回、一回、良い舞台を作っていけたらいいなと思っています。

入野 (佐藤の)ユージンと(自分の)スタンリーの役柄と、まさに一緒だなと思っています。観ていただくと分かると思うのですが、兄ではあるけれども基本的にユージンにいろいろ助けてもらったり、サポートしてもらったり、弟に立ててもらっているところがありまして。めちゃくちゃ助けてもらっています(笑)。先ほど(佐藤から)年齢の話もありましたが、僕も18歳の役なので年齢感というものを意識するよりも、家族全員、稽古場でコミュニケーションを取ってきた感じをありのまま舞台上で繋いでいけばきっといい作品になると信じてやっていますので、楽しくやらせていただいていますね。

(ニール・サイモンの)作品はもちろん拝見していましたし、戯曲も読んだことがあるので、いつか挑戦してみたいと思っていました。今回の作品は初めて知ったのですが、ニール・サイモンらしいこの台詞量とテンポ感。恐ろしいけどそれがうまくハマると気持ちがいいですし、観てくださったみなさんにも伝わるものがあるのではないかなと思ってすごく楽しみです。勝利くんも言っていましたが、松下さんは本当に家族のお母さんという感じです。僕はもうお母さんとしか思っていないです。シンプルにお母さん。僕が長台詞をやったあとに、お母さんに「助けて」とハグするシーンがあるのですが、あれが全てといいますか。「お母さん大好きです」という感じで、本当に安心します。一緒にいるだけで安心感があって、すごく助けていただいています。肝っ玉母さんではないですけれども、変な話、お父さんよりもお母さん、お母さんみたいな感じがあるかもしれないですね。最終的に締めるのはお父さんですが、でも実は、というところも含めて頼っています。僕にとってもターニングポイントになるような大きな作品、大きな役だと思っています。一生懸命頑張っていきますので、座長にしっかり付いていきたいと思います。楽しんでいってください。

松下 かわいい息子たちなので、見惚れないように気を付けながらやっていますが(笑)、こんなふうに思ってくれていたなんて、今日初めて知りましたので、頑張ります! 年齢を意識しないで演じている姿が、日に日に生き生きとしていて、それに私も助けられてお母さん度もアップできる感じがしています。初日を迎えるにあたって、家族感をより見せていけたらと思っています。(稽古場では)こういう時期なのでみなさんマスクをしていて、あまり多くを語ることはできませんでしたが、それでも稽古の合間に全然違う話でコミュニケーションを取ったり、あとはニール・サイモンの作品を通して話したりしていくことで、より一層家族感が深まっていったように思います。

私は20代のころニール・サイモンの舞台に出させていただいて、ちょうどノーラみたいな映画に出たいというお話でした。それがいま、今度はお母さん役でニール・サイモンの作品に出させてもらえる、こういう機会って本当にあるのだなとすごくうれしく思っています。今回の舞台はとてもスピードやテンポがよく、間合いや感情を如何にお伝えできるかを大切にしています。丁寧に小山さんに作っていただいたので、毎回気持ちを込めてできるようにしていきたいです。一回一回、家族のあり方を大事にしたいなというのが一つの挑戦でしょうか。今日から初日を迎えますが、ニール・サイモンを代表する作品でもありますので、ぜひ楽しんで観ていただきたいです。緊張しますが、この緊張を楽しみに変えられるくらい、いい舞台をお届けしたいと思っています。よろしくお願いいたします。

【公演情報】
PARCO PRODUCE『ブライトン・ビーチ回顧録』
作:ニール・サイモン
翻訳:青井陽治
演出:小山ゆうな
出演:佐藤勝利(Sexy Zone)/ 松下由樹 入野自由
須藤理彩 川島海荷 岩田華怜 神保悟志
●9/18~10/3◎東京公演 東京芸術劇場 プレイハウス
〈料金〉10,000円 (全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉東京公演 パルコステージ 03-3477-5858 (時間短縮営業中)
●10/7~13◎京都公演 京都劇場
〈料金〉10,000円 (全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~16:00日曜・祝日は休業)
〈公演サイト〉https://stage.parco.jp/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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