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1970年代と2021年の今をつなぐ鴻上尚史の新作『アカシアの雨が降る時』上演中!

鴻上尚史の新作を、久野綾希子、前田隆太朗、松村武で演じる3人芝居『アカシアの雨が降る時』が、六本木トリコロールシアターで、5月15日からロングラン上演中だ。(6月13日まで)

六本木トリコロールシアターは芋洗坂の途中に3年前に開場した約200席の小劇場。モダンなのにどこか懐かしさを感じる造りで、『アカシアの雨が降る時』はそんな劇場にふさわしい1970年代と2021年の今をつなぐ3世代3人の物語だ。

【物語】
──母が倒れた。病院に駆けつけると、
母は自分のことを20歳の大学生だと思い込んでいた。
母は病気で、その妄想を否定してはいけないと医者は言う。
母を守るため、孫の息子は母の恋人に。
息子の私は母の恋人の父親となり、こんがらがった関係が始まった──

久野綾希子がなんといっても魅力的だ。70歳という姿のまま内面は20歳に戻ってしまった女性のピュアな精神の輝きや、その当時、世界中を揺るがしたベトナム反戦運動への熱い思い、またジェンダーの役割が保守的だった時代に生きる女性ならではの葛藤なども、みずみずしく表現してみせる。

その20歳の祖母に、彼女の夫、つまり祖父と似ていることで恋人と思い込まれてしまった孫を演じているのは前田隆太朗。前田は今の時代の20歳の若者が抱える、自分の未来への漠然とした不信や不安のようなものを自然に表出させ、それが、迷いながらもひたむきに前に進む20歳の祖母への憧憬や温かい眼差しとなり、ある意味ではファンタジーに捉えられそうな2人の関係にリアリティを与えている。

そして久野綾希子の50歳の息子役には松村武。母親にも疎遠になっていた仕事人間で、そのために妻子も出ていってしまったのだが、時代の変化の中で自分が所詮は1つのコマでしかないことに気づいていく。松村は、そんな不器用な中年男の悲哀を滲ませつつ、病気の母親のあるミッションに協力する場面では振り切ったコメディセンスで楽しませてくれる。

50年前の流行語などを取り入れてギャグや笑いで和ませていくのは、鴻上作品ならではの遊び心だが、一方で、1972年当時の市民デモや戦車の映像に、2021年のコロナ禍を重ねて見せるなど、俯瞰した視線で「今」を問いかける姿勢は一貫して変わらない。

また、タイトルでわかるようにこの作品には音楽も大きな役割を果たしていて、家族3人が束の間の団欒を囲む中で歌われるのは、当時の代表的なフォークソングや流行歌。久野綾希子の澄んだ歌声は闘う若者の心情を伝え、前田隆太朗は伸びやかな歌唱で現代の命を新しく吹き込む。そして、タイトルとなった西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」ももちろん登場するのだが、その場面はこの曲にふさわしい、切なく胸迫る演出となっている。

この公演の初日を迎えた鴻上尚史と出演者3人からコメントが届いた。

【コメント】
鴻上尚史
初日が無事に開きました。自分で言うのもなんですが、とても素敵な作品になったと思います。久野綾希子さんのチャーミングさと心に染み入る歌声。松村武さんの哀愁とぶっ飛んだギャグ。前田隆太朗君の誠実さと熱。客席で見ていて、本当に幸福な気持ちになります。祖母と息子と孫の、70歳と50歳と20歳の三人がぶつかり、笑い、泣き、心震わせる物語です。こんな時期ですが、劇場でお会いできれば幸せです。

久野綾希子
皆様、このコロナ禍の中、ドキドキしながらの、1ヶ月のけいこを終え、無事に初日の幕があきました。70才の私はぼう大なセリフにおぼれそうになり、ジェットコースターの様な速い展開に迷い子になりながら、二人の協力な男性に多大な迷惑をかけつつもやっと初日にすべり込めました!!今、気分は完全に20才の悩める女子大生です。是非観に来てください。ぜったいに楽しんで頂けると思います!!お待ちしております♡

前田隆太朗
今回初めて3人芝居に挑戦させていただきます。稽古場から積み上げてきた成果を劇場で皆さんにお届けできるよう誠心誠意努めさせていただきます。家族のお話。素敵な作品です。是非、劇場でご覧ください。お会いできるのを楽しみにしております。

松村武
初日が無事に開くのか不透明な稽古期間、黙々と積み上げたこの舞台がようやくお客様の前に辿り着きました。そうなって初めてあるべき姿に繋がる作品の背骨を実感した初日でした。まさに今見てもらいたい芝居。日々色んな不安がのしかかって萎縮する心を、ゆさゆさと振り、流れるものの巡りを取り戻していく。そんな役割も演劇にはあると思います。きっと見てくれた皆さんそれぞれに深く沁み通る何かがあります。1ヶ月間、こんな状況でも劇場まで来ていただいた方に、とにかく全力でお届けし続けます。

【公演情報】
『アカシアの雨が降る時』
作・演出:鴻上尚史
出演:久野綾希子 前田隆太朗  松村武
●5/15~6/13◎六本木トリコロールシアター
〈料金〉 6,800円 学割チケット3800円[要学生証提示](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉http://www.thirdstage.com/tricolore-theater/acacia2021/

 

【文/榊原和子  舞台撮影/田中亜紀】

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