速水映人主演で華やかな大衆演劇の世界を描く舞台『あぶくの流儀』上演中!
「ふくふくや」の主宰・山野海(作家名:竹田新)を作・演出に迎え、大衆演劇出身で俳優として活躍中の速水映人が主演する、プリエールプロデュース『あぶくの流儀』が、4月5日から中野ザ・ポケットで上演中だ。(10日まで。)
《あらすじ》
物語の舞台となるのは大衆演劇「萬屋万太郎一座」。一座の面々は、座長万太郎(速水映人)と女形の中戸津川小紫(44北川)、2か月前に弟子入りしたばかりの伊丹楠(田中亨)、そしてマネージャーの芳川塔子(阿知波悟美)。人気劇団だったはずの「萬屋万太郎一座」だが、座員が8人も一度にいなくなり、しかも座長の万太郎は客相手にケンカをはじめる始末。そのあげく東京の小屋から追われて、北九州の古い小屋で興行を打つことになるが……。
「ふくふくや」主宰の山野海(作家名:竹田新)は、4歳から子役として活動してきた女優としての長いキャリアに加え、脚本・演出家として、劇作家の祖父と女優の祖母の血を受け継ぎ、幅広い世代の心に届く人情あふれる物語を次々に作り出し、外部プロデュース公演やドラマの脚本、小説執筆などでも活躍中。
今回の主演となる速水映人は、15歳で大衆演劇を観て自分の人生はこれだと決め、18歳で梅沢武生劇団に入り、退団後も凛々しい男役から見目麗しい女形までどんな役でもこなして、全国各地の劇団から引っ張りだこの人気俳優である。
そんな芸能の血が流れる二人の顔合わせにより、人情と笑いと涙、さらに豪華ショーまで付いてくる一大娯楽作が出来上がった。
幕開きは、東京では一流と言われる芝居小屋の楽屋のシーンから始まる。女形でスタッフも兼ねる小紫が、上演中の芝居の様子をうかがいながら衣裳の繕いや片づけをしている。やがて幕が降りて客の送り出しが始まると、なにやら怒鳴り声が。一座の座長で人気スターの萬屋万太郎が客とケンカをはじめたのだ。そんな騒ぎの中、マネージャーの塔子がやってきて、万太郎が小屋主の妻に手を出したことで、小屋から追い出されることになったと告げる。
いきなり波乱含みのプロローグ展開で、観客を一気に引きつける。ケンカっぱやくて身勝手な座長に、クールで大人のマネージャー、昔気質で座長思いの女形、座長に憧れて入ってきた若者。そんな4人のキャラクターや人間関係、さらに大衆演劇と小屋主や客との力関係なども、4人のやりとりの中で観る者にすんなりと届けてくる。こなれた脚本と演出がみごとだ。
東京を追われた一座は北九州の寂れた小屋にたどり着くが、そこでも客演がやってこないという騒動が持ち上がり、この一座を誰かが、あるいはどこかの勢力が潰そうとしているのではないかという疑念が湧き、万太郎とマネージャーの塔子は互いに不信感を抱くことに…。
大筋はこの一座のそれからを巡る顛末なのだが、その裏に隠された万太郎と塔子の過去から続くしがらみや、芸能を金にしようとする闇の力なども絡んで、物語は二転三転、どんでん返しもあり、ドキドキはらはらも織りまぜながらテンポよく進んでいく。
そんな舞台の主役をつとめる速水映人がまず魅力的だ。人気役者ならではの色気に加え適度な無頼ぶりもあり、大衆演劇のスターとしての華を表現。女形への変身のプロセスも、鏡台前での白塗りから衣裳の着付け、そして鬘まで、台詞の掛け合いのなかで流れるような動きで見せてくれて、それだけでも贅沢な見せ場といえる。もちろん最後のショーではスタンダードな芸者姿から現代風にアレンジした着物まで何度も着替えて、その美しさを堪能させてくれる。
万太郎の暴走には慣れっこのマネージャーの塔子を演じるのは阿知波悟美。終始クールで辛口、どこか冷めた距離感で万太郎と対するのは、実は訳があって…。そんな陰影のある女性を、切れのいい台詞と豊かな演技力で演じてみせる。とくに自身の過去へと還っていくシーンでは、女としての思いのたけを全身にまとって切ない。
44北川が演じる小紫は、万太郎への尽くしぶりや新人への優しさも混じったお節介などが笑いを誘い、着物の扱いや楽屋での動き1つにも、女形ならではの仕種を自然に表現、この一座が大衆演劇の一座という部分をその存在感で支える。
口癖が「すみません」の新人・伊丹楠を演じるのは田中 亨。爽やかな容姿と少し寂しげな風情が、みなしごで施設出身というキャラクターとうまくフィット。前半ではどこか影の薄い若者なのだが、後半になって一気に表舞台に出てくる。そのとき見せる顔はこの芝居の要の1つでもある。
「娯楽である演劇」を愛してやまない竹田新=山野海によるこの『あぶくの流儀』は、大衆演劇という世界の華やかさとともにその裏にある悲哀を正面から見つめ、その中で人と人が結び合う絆の深さと強さをしみじみと伝える。同時に、それらをいとも容易く踏みにじるような時代の変化も描いて、2022年の現代日本をみごとに斬ってみせる1作となった。
【公演情報】
プリエールプロデュース
『あぶくの流儀』
脚本:竹田 新
演出:山野 海
出演:速水映人 44北川(ゴツプロ!) 田中 亨(劇団Patch) 阿知波悟美
●4/5~10◎ザ・ポケット(中野区中野3-22-28)
〈料金〉一般/前売5,000円 当日5,300円 22歳以下/前売4,000円 当日4,300円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※22歳以下チケットは入場時身分証提示
※受付・当日券販売開始は開演の45分前、開場は30分前
〈チケット問い合わせ〉カンフェティ、チケットぴあ(Pコード:510-499)
〈お問い合わせ〉プリエール 03-5942-9025(平日11~18時) https://priere.jp
【文/榊原和子 舞台写真/友澤綾乃】
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