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多彩なラインナップで好評上演中!三月大歌舞伎レポート  

   『傾城反魂香』浮世又平後に土佐又平光起=松本白鸚、女房おとく=市川猿之助

 

三月の歌舞伎座は、多彩なラインナップを多彩な顔ぶれでお届け! 春を目前に、歌舞伎座では、松本白鸚、片岡仁左衛門といったベテランから、松本幸四郎、市川猿之助らの花形、そして中村勘太郎、寺嶋眞秀といったまだ幼い世代まで歌舞伎俳優が顔を揃え、古典のパロディ、義太夫狂言の名作、舞踊、世話物の傑作などバラエティ豊かな演目が並んだ「三月大歌舞伎」が3月3日より好評上演中である(27日まで)。

【昼の部】

『女鳴神』で幕開き。歌舞伎十八番の内『鳴神』を、パロディとして女方で演じる趣向の演目。続いて、大道芸の人形遣いを題材とした風俗舞踊『傀儡師(かいらいし)』。そして、絵師たちの起こす奇跡が物語の鍵となる、近松門左衛門の義太夫狂言の名作『傾城反魂香』。今回はよく上演される「土佐将監閑居の場(通称 吃又)」だけでなく、そこに至るまでの「近江国高嶋館の場」「館外竹藪の場」があわせて歌舞伎座で初上演という珍しい機会である。

【夜の部】

まずは時代物の大作『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』。豊臣対徳川の大坂の陣をモチーフに、敵味方に別れてしまった佐々木盛綱・高綱兄弟を巡る物語で、兄弟の絆、親子の情愛、主君への義理と葛藤など、さまざまな要素が複雑に絡み合う。次に、船頭と気の弱い雷とが繰り広げる洒脱な舞踊『雷船頭』。最後は「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名台詞でお馴染み、河竹黙阿弥の世話物の傑作『弁天娘女男白浪(通称 白浪五人男)』の3演目。

【役替り】

『雷船頭』と『弁天娘女男白浪』は奇数日と偶数日で役替りがあり、同じ演目ながら違った魅力を味わうことができる。

『雷船頭』〈奇数日〉女船頭 市川猿之助/雷 市川弘太郎 〈偶数日〉船頭 松本幸四郎/雷 中村鷹之資

『弁天娘女男白浪』〈奇数日〉弁天小僧菊之助 松本幸四郎/南郷力丸 市川猿弥/鳶頭清次 市川猿之助 〈偶数日〉弁天小僧菊之助 市川猿之助/南郷力丸 松本幸四郎/鳶頭清次 市川猿弥

         『女鳴神』佐久間玄蕃盛政=中村鴈治郎、鳴神尼=片岡孝太郎   

『女鳴神』

鳴神上人が裏切られた恨みを晴らすため、世界中の龍神を封じ込め、民は旱魃に苦しんでいた。そこで宮廷一の美女・雲の絶間姫が山奥の上人のもとへ向かい、色仕掛けで堕とし、見事に龍神を解き放つ…というのが『鳴神』のあらすじ。その基本は踏まえつつ、『女鳴神』の主役は、上人ならぬ亡父の敵討を誓う鳴神尼(実は松永息女泊瀬の前)。絶間姫にあたるのは若侍の雲野絶間之助。『鳴神』で上人の世話をやく弟子の白雲坊・黒雲坊は白雲尼・黒雲尼となり、登場人物の性別がすべて逆転している。

孝太郎の鳴神尼は、紫衣に金色の袈裟をかけ、厚い黒髪に強く結んだ唇と、身持ちの堅そうな尼僧。ストイックに修業に励みつつも、絶間之助が語る恋の話に興味を隠せない様子や、また彼が自分の昔の許婚だったと知って、恋心が再燃して身を投げ出す様などに『女鳴神』ならではの魅力があふれる。鴈治郎の絶間之助は、生き別れた恋人の小袖を優しく抱きしめる仕草などに色気があり、鳴神尼と契りの盃をかわす時は夫としての包容力を感じさせる。終盤に絶間之助の正体と目的がわかり、怒りに狂った鳴神尼が、女方ながら鳴神上人よろしく逆立った鬘に、炎が燃え上がる衣裳になっての柱巻きの見得や立廻りも見どころだ。

          『傀儡師』傀儡師=松本幸四郎

『傀儡師』

この演目を勤めるのは松本幸四郎。清元にのせて、良妻賢母の女性や、タイプの異なる三兄弟、歌舞伎ではお馴染みの八百屋お七とその恋の手助けをする弁長、牛若丸と浄瑠璃姫との恋模様、『船弁慶』の知盛の亡霊などを、次々と踊り分ける。最後は傀儡師に戻り、次の町角を目指して去っていくという構成。小道具は使うが、踊り手の力量がストレートに問われる舞踊。千穐楽までに幸四郎の傀儡師がどこまで進化していくか楽しみだ。

          『傾城反魂香』「近江国高嶋館の場」狩野四郎二郎元信=松本幸四郎

『傾城反魂香』

昼の部の締めくくりは、松本白鸚が30年ぶりに浮世又平(後に土佐又平光起)を演じる。師匠からの免許が下りず悶々と日々を送る又平とその妻おとく(猿之助)の夫婦の情愛が起こした奇跡を描く「吃又」に加え、そこまでの経緯にあたる「高嶋館」「竹藪」がついたことで、「吃又」に至る背景がわかりやすくなっている。

「高嶋館」で描かれるのは、六角家の御家騒動と、お抱え絵師・狩野四郎二郎元信(幸四郎)と銀杏の前(中村米吉)の恋。幸四郎の元信は端正な色男で、掛け軸を手に花道を歩む姿は颯爽としている。武士のように剛腕ではないが、御家乗っ取りを企む家老の不破道犬(市川猿弥)と絵師・雲谷(片岡松之助)一味に囚われ、窮地を脱するため自分の肩先を食いちぎり、その血潮で襖に虎の絵を描くくだりは、元信が起こす奇跡の場面で、その後の、道犬と虎のダイナミックでコミカルな立廻りと共に作品の見どころになっている。米吉の銀杏の前は、愛する人と結婚したい一心で、腰元のふりをして元信にある行為を勧める。正体がばれないよう注意を払うが、折々につい元信への思いをのぞかせる様子が健気で可愛らしい。銀杏の前の守り役・宮内卿の局は市川笑三郎で、局としての立派さ、この人に任せれば大丈夫という安心感がある。

   『盛綱陣屋』佐々木盛綱=片岡仁左衛門、高綱一子小四郎=中村勘太郎、早瀬=片岡孝太郎、微妙=片岡秀太郎

『盛綱陣屋』

どどん…という勇ましい陣太鼓で幕開き。仁左衛門は約6年ぶりの盛綱。情あるがゆえに、弟の高綱が子・小四郎への愛情に迷って武名を汚さぬようにと、残酷な決断を下す。そして高綱戦死の知らせを受け、主の北條時政に命じられて首実検をするくだりは、大きな見どころ。首実検ギリギリまで瞼を閉じ、覚悟を決めカッと見開いた眼。首が弟のものでないと知って安堵し、「あいつ、やりおったな」と言わんばかりの嬉しそうな表情。そして、偽首なのに自害する小四郎の姿から、これが親子の命がけの計略と知り万感迫る様子。ものを言わず表情と所作だけですべてを表現する芝居が素晴らしい。その心情の変化はもちろん、小四郎との緊迫感のあるやり取りを、客席全員が固唾をのんで見守る緊迫した空間は、そうそう生まれるものではない。

小四郎を勤める勘太郎は8歳とは思えない演技力。単なる段取りをこなすのでなく、一役者としてしっかり一角を担っている。秀太郎が義理と愛情の狭間で葛藤する「三婆」と言われる老女方の大役を堂々と勤める。雀右衛門の篝火、孝太郎の早瀬は、立場や性格は違うが、妻として子を持つ母として大きなところで通じ合う女房同士。歌六の北條時政は武将としての底知れぬ老獪さ、残酷さが際立ち、左團次の豪胆で真っ直ぐな和田兵衛と良いコントラスト。寺嶋眞秀の小三郎は、盛綱に呼び出されて「ハーッ」と応え、鮮やかな緋縅の鎧に、自分の頭よりも大きい兜を左手に持って元気に登場。時政と共に陣屋へ戻ってからは、四天王と共に屋体上で身じろぎせず行儀の良い舞台ぶり。

               『雷船頭』船頭=松本幸四郎、雷=中村鷹之資(偶数日)

『雷船頭』

重厚なひと幕から打ってかわって、次は常磐津の舞踊。夏のお江戸の大川端(隅田川の下流沿いあたり)。仕事を終えた船頭が客の忘れ物に気づいて悩んでいると夕立が来て、稲光が光ったと思ったら空から雷様が落ちてきて…という楽しい舞踊。観劇日は偶数日で、幸四郎と鷹之資のコンビ。幸四郎は、猪牙舟の船頭らしい粋でいなせな浴衣姿がまぶしい。鷹之資は、真っ赤な顔にクリクリ頭、ツノ、毛皮の褌(ふんどし)とイメージそのままの雷様。江戸の代表的なモテ男と気弱な雷様のやり取りは、見ていて心がウキウキする。鷹之資はまだ若いが、踊りでは着実な成長があり、舞踊の名手だった亡父(五世中村富十郎)譲りのひと言では片づけられない日頃の精進を感じる。

           『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=市川猿之助、日本駄右衛門=松本白鸚(偶数日)

『弁天娘女男白浪』

偶数日で、猿之助の弁天小僧、幸四郎の南郷、猿弥の鳶頭。弁天小僧の台詞にもあるように音羽屋(尾上菊五郎家)のお家芸で、決まり事がないように見えて緻密な段取りがある。菊五郎劇団のようにほぼ常に同じ座組で芝居に出ているメンバーではない顔ぶれでの上演は、別の角度から作品を見るような新たな感覚がある。

猿之助の弁天小僧は、滅多に演じない役だが名台詞もそつなく聞かせ、流れるリズムの快さより内容の伝達力に長けた「楷書」の台詞回し。幸四郎の南郷は意外と骨太な造形でありながら色気がある。猿弥は人の良さが滲み出ている鳶頭。橘三郎の番頭をはじめとする従業員たち、主人・幸兵衛の友右衛門、倅・宗之助の鷹之資などの面々も新鮮。白鸚の日本駄右衛門には、対峙する邪魔者としての不敵さ、一味の頭領としての貫禄、弁天と南郷に引き際を目くばせする時に漂うユーモアなど、さすがの存在感。亀鶴の忠信利平、笑也の赤星十三郎も加わり、満開の桜が咲き誇るなかでの五人男の「勢揃い」は、一枚の錦絵を見るような華やかさがある。

下は6歳から上は80代まで、幅広い世代がみな現役で活躍し、昼夜あわせて6作品を上演する舞台は、歌舞伎が長い時間をかけて培ってきたレパートリー力、そして、個々の俳優のたゆまぬ研鑽があってこそ。多彩なドラマ、舞踊の味わい、俳優の魅力をたっぷり堪能できる今月の歌舞伎座公演である。

    『雷船頭』女船頭=市川猿之助、雷=市川弘太郎(奇数日)

           『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=松本幸四郎、日本駄右衛門=松本白鸚(奇数日)

〈公演情報〉

「三月大歌舞伎」

[昼の部] 11:00~

『女鳴神』『傀儡師』『傾城反魂香』

[夜の部] 16:30~

『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』『雷船頭』『弁天娘女男白浪』

出演◇松本白鸚 片岡仁左衛門 中村雀右衛門 中村鴈治郎 中村錦之助 片岡孝太郎 松本幸四郎 市川猿之助 坂東彌十郎 大谷友右衛門 中村歌六 片岡秀太郎 市川左團次 ほか

●3/3~27◎歌舞伎座

〈料金〉1等席18,000円 2等席14,000円 3階A席6,000円 3階B席4,000円 1階桟敷席20,000円(全席指定・税込)

〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489または03-6745-0888

 

 https://www.kabuki-bito.jp/sp/news/5216

 

【取材・文/内河 文 写真提供/松竹】

 

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