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カムカムミニキーナによる演劇の壮大な実験『サナギ』上演中!

カムカムミニキーナの最新作『サナギ』が、座・高円寺 1での東京公演を終えて、8月28日から北海道で上演中だ。(29日まで。9月5日に奈良公演あり)

本作は昨年の『猿女のリレー』に続いて、日本の古代の謎を解きながら現代の闇をそこに探り当てていく松村武ならではの作品で、今回も「古事記」や「日本書紀」を下敷きに、現在の社会と演劇の状況を重ねながら展開していく。

物語は、引退して湖畔のリゾート地に住む高名な女優・日下伏目(八嶋智人)が、土地の巡査・坪井新庄(亀岡孝洋)に、隣の廃屋で不審な物音や異臭がすると訴えたことから始まる。

その廃屋は劇場であり、その中ではキサガイ(田原靖子)という観客兼スポンサーに捧げる演劇が作られている。だがこの劇場の座頭で看板であるヒラフ(大薮丘)は、虚構を作り続けることに嫌気がさして脱出を試みる。そのヒラフの前に異様な風体をした者が現れ、「ここに半透明な境界がある」とヒラフをさえぎる。

一方、この湖畔に毎夜、ボロボロのバスでやってくる浮浪者の一群。彼らはここで姿を消したヒルメ(長谷部洋子)の帰りを待っているのだ。その中にはヒルメの娘であるナギ(未来)もいて、母を追って消えてしまった弟のミミオシ(秋山遊楽)の行方も探している。そんなある日、浮浪者たちの車は有刺鉄線を突き破る事故を起こして──。

劇団の公式ブログにある松村武の解説によると、この作品には「古事記」に出てくる3つの神話がモチーフとして織り込まれている。

イザナギとイザナミの国造りで最初に生まれたものの、故あって亡き者とされた「蛭子(ひるこ)神話」。高天原から降り立ち地上の国を支配する、いわゆる天孫降臨までのアマテラスと息子たちの「国譲りの神話」。そして降臨した一行を境界で待ち受け、にらみ合いに負けて道案内することになった「サルタヒコ神話」。

舞台『サナギ』は、この3つの神話の意味するもの、あるいは神話の裏に隠されたものを、現代のリゾート地と廃屋の中の劇場という、時空の違う2つの空間を行き来しながら浮かび上がらせていく。

それは例えば、なかったことにされるこの社会の出来事や歴史上の事実、あるいは演劇が託されてきた役割やそのめざすもの、そしてコロナ禍という生と死の境界を生きる人間たちやそれを取り巻く状況…つまりそれはそのまま、2021年のカオス日本が抱えている問題でもあるのだ。

とはいっても カムカムミニキーナの舞台である。テーマの重さに足をとられることなく、登場人物もシーンも軽やかに飛躍と逸脱を重ねて、良い意味で観客に深堀りさせる時間さえ与えないまま、想像をはるか超える地点へと物語を運んでいく。

なによりも見事なのは、出演する劇団員も客演陣も、この入り組んだ物語にしっかと立ち、四肢に言葉を息づかせていることで、演劇そのものへの問いかけも含めてある意味実験的で壮大な、この『サナギ』という作品を、全員の力で生き生きと立ち上げている。それはまさに演劇でしか見られない想像力に満ちた空間で、だからこそ観客も主体的に目撃することでしか成立しない、いわば困難を前提の作品作りとも言えるだろう。

だが、それでもあえてこの状況下で、いやこの状況下だからこそ演劇の本質に関する問いを続けていく松村武と、そこに集った演劇人たち。それはあたかも1つ1つ道しるべを打ち込みながら道を拓いていく伝説のサルタヒコのようでもあって、その意味でも今届けられるに相応しい物語だと言えるのだ。

【公演情報】
カムカムミニキーナ vol.71
『サナギ』
作・演出:松村 武
出演:
八嶋智人 藤田記子 亀岡孝洋 長谷部洋子
未来 田原靖子 柳瀬芽美 渡邊礼 福久聡吾
スガ・オロペサ・チヅル 栄治郎
松村武 (以上、劇団員)
大薮丘 秋山遊楽
坂本けこ美 内田靖子 齋藤かなこ 阿部大介
泰山咲美 山下ひとみ 山本ユウ
●8/12~22◎座・高円寺 (終了)
●8/28・29◎北海道公演 道新ホール
〈お問い合わせ〉HTB 広報お客様センター011-233-6600(月曜~金曜 10:00~18:00 祝日は除く)
●9/5◎奈良公演 DMG MORI やまと郡山城ホール
〈お問い合わせ〉山城ホール 0743-54-8000(9:00~20:00 火曜・第3水曜休館)
〈劇団公式サイト〉https://www.3297.jp/

 

【文/榊原和子 写真提供/ カムカムミニキーナ】

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