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大ヒット映画の世界初演となるミュージカル化!『17 AGAIN』竹内涼真主演で開幕!

自身の生き方にも家族との関係にも行き詰った35歳の主人公が、バスケットボールの花形選手だった17歳に戻り、人生を見つめ直していく様を描いたミュージカル『17 AGAIN』(セブンティーン・アゲイン)が、初舞台、初ミュージカルの竹内涼真を主演に迎え、池袋の東京Brillia HALLでワールドプレミア公演として5月16日開幕した(6月6日まで。のち、6月11日~13日・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール、6月18日~20日・鳥栖市民文化会館 大ホール、6月26日・広島文化学園HBGホール、7月1日~11日・愛知・御園座でも上演)。

ミュージカル『17 AGAIN』は、「ハイスクール・ミュージカル」シリーズのザック・エフロンが主演し、2009年公開され全米初登場1位を記録した映画『セブンティーン・アゲイン』(原題「17 AGAIN」日本では同年5月公開)をもとに製作されたミュージカル。大ヒットを受けて、映画製作会社監修のもとミュージカル化のプログラムが進行。試作試演段階からはじまっていた日本公演の企画が、世界初演のワールドプレミアとして、『福島三部作』等で大きな注目を集める谷賢一の翻訳・演出のもと日本で開幕することになった。

【STORY】
マイク(竹内涼真)はハイスクールバスケットボールのスター選手。有名大学のスカウトが見守る試合で、いつものプレイさえすれば、華々しい未来が待っているはずだった。ところが恋人スカーレット(ソニン)の妊娠を知ったマイクは、すべてを捨てて彼女と人生を共にすることを決意する。

だが時は流れ、35歳になった2人の結婚生活は破綻寸前。仕事もうまくいかず、娘のマギー(桜井日奈子)と息子のアレックス(福澤希空)からは負け犬呼ばわりされる中、スカーレットから離婚を突き付けられたマイクは、家を出て親友ネッド(エハラマサヒロ)の家に転がり込む。

だがある日、摩訶不思議な現象が起き、気が付けば17歳の頃の姿に戻ってしまったマイクは、子供たちと同じハイスクールに通うことに。そこで、マギーの恋人スタン(有澤樟太郎)の存在や、息子がいじめを受けている光景を目の当たりにしたマイクは、父親として子供たちの現状を何も認識していなかったことにショックを受ける。一方マイクの父親を名乗ることになったネッドは、マスターソン校長(水夏希)に一目惚れしてしまう。

果たしてマイクは、人生で一番輝いていた頃の自分を取り戻し、家族を再生することができるのか?


「もしもあの時に別の選択をしていたら?」人生の中で、そんな後悔や葛藤を覚えなかった人はおそらくいないのではないだろうか。人にはどちらかを選ばなくてはならない局面が人生で何度も訪れる。その時、様々な要因で他動的に決めざるを得なかった選択はもちろん、自分自身で決心して選び取った道に進んだとしても、何もかも順風満帆な日々が待っていることなどありしはない。壁にぶつかり、前進できないばかりか、どちらが前なのかさえわからなくなる、むしろ思う通りにならないことの方がずっと多い。そんな時、選んだ道を悔やむ想いに苛まれるのを避けて通るのは難しい。

そんな記憶があるからこそ、このミュージカル『17 AGAIN』のテーマは胸に強く刺さってくる。主人公のマイクは、ハイスクールの花形バスケットボール選手として嘱望されていた将来を手放し、同い年で妊娠した恋人と結婚する道を選ぶ。だが、恋人にも、我が子にも愛情深く誠実にあろうとして出したこの選択が正しかったのかを、35歳になったマイクは折々に振り返ってしまう。MLBで活躍するスーパースターを見れば、あれは自分だったのかも知れないと嘆き、その思いが一女一男に恵まれた現実の家族や、今の仕事を色褪せたものに見せていく。そんなマイクの後悔が、自分に起因していると思うからこそ、妻・スカーレットの心情も複雑にねじれざるを得ない。ギクシャクした夫婦の関係は、子供たちにも影響していく……と、家族それぞれの心の機微がわかり過ぎて切ないほどだ。仮にマイクがそのままバスケットボールの道に進んだとしても、栄光の座が待っていた保障はどこにもない。でも進まなかったらこそ、あまりにも輝いて見える「もしも」が彼の思考を占領してしまうことを誰も責められないだろう。

しかしそうした酷く現実的な葛藤が、一瞬にしてファンタジーに飛翔していくのがこの作品の素晴らしさで、マイクが突然17歳の自分に戻ってしまうあり得ない展開が、思いもかけない感動を呼び覚ましていく。やりなおしたいと思い続けた17歳の身体をもう一度得ても、心は妻子ある35歳の男性のままのマイクが、それまで見えていなかった大切なものに気づいていく様は、観る者の人生への応援歌そのものだ。見つめるべきは過去ではなく未来、過去は変えられないが、これからの未来は自分で作ることができるというメッセージがなんとも眩しく、温かいものに満ちている。特に35歳のマイクが17歳のマイクに舞台上で変身する場に代表される様々な仕掛けが、LIVEの舞台で浮かないばかりか、ここからここにつながるんだ!という、ミュージカルナンバーを巧みに使った、谷賢一の転換や演出が見事で何度も感嘆させられた。これによって舞台には心地良いスピード感が生まれ、よりドラマをダイナミックに、かつハートフルに届けてくれている。

 

そんな作品で、主人公マイクを演じたのが、竹内涼真。映像作品での数々の活躍は言わずもがなだが、この作品が初舞台、初主演、初ミュージカルと「初づくし」が揃って、期待と共に一抹の不安がなかったと言ったら嘘になる。けれども初登場の瞬間からそれが杞憂だったことを示して、舞台で息づいている竹内マイクの自然体に驚かされた。全身をいつどの瞬間、どの角度から見られているかわからない舞台作品に初めて出演しているというのに、竹内の一挙手一投足に不自然さがなく、ただ真っ直ぐにマイク役を生きているのが伝わる。これだけで大変なことだし、何よりも17歳の肉体の中に35歳の男性の思考があるマイク役の、他のティーンエイジャーとはどこか違って見えるという設定に、説得力があったのは豊かな芝居心あってこそ。この作品の為に1年半ほど積んできたというボイストレーニングの効果もあり、もちろん未知数な部分もあるものの、非常に豊かで美しい声が伸びる音域があって、心情が伝わるだけでなく聞いていて心地良いナンバーもあるのに感心した。身体能力の高さも含めて、是非このミュージカルデビューを期に、舞台作品にも積極的に関わっていって欲しい。

その竹内初主演をがっちりと盛り立てて支える共演者のパワーが大きく、ワールドプレミアの新作ミュージカルを支えている。

マイクの妻スカーレットのソニンは、夫の抱える鬱屈の一つひとつを、自分が責められていると感じてしまう女性の複雑な心根を巧みに描き出して惹きつける。パワフルでソウルフルな歌声と持ち味から、革命に身を投じる女性や、才能豊かで自立した女性を演じることが多いが、こうした隣にいそうな女性を演じていても、心の内を丁寧に表現できるのがソニンのもうひとつの魅力。今回は歌唱力と共にその表現力が十全に活かされていて、可憐な冒頭のティーンエイジャー姿も含めて、作品の完成度を高めていた。

マイクの親友ネッドのエハラマサヒロは、お笑いタレントとして活躍している人だが、ミュージカル界でも『ファントム』出演で残した記憶が新しい。今回もファンタジーオタクの大富豪ネッドを、コンプレックスを根底に抱えているからこそ拝金主義者になった男性の哀愁も含み表情豊かに演じていて目が離せない。特にネッドの存在が、『17 AGAIN』という作品の中で起こるファンタジー展開と現実とをつなぐ重要な役割を果たしているだけに、エハラの快演(ある意味では怪演)が貴重。近年お笑いタレントがミュージカル作品で重要な役柄を演じることが続いているが、その重用の理由を示してくれる演じぶりだった。

マイクの娘マギーの桜井日奈子は、自分の存在が父親の後悔と、引いては両親の不仲の要因になっていると感じてしまっている思春期の少女の捻じれた思いを、適度に尖った演技で表し、観ていて心が痛いほど。愛されている実感が持てないと、自分を大切にできないという非常に大切なメッセージを全身で発していて、マイクの変化に対して、つまり作品展開に対して重要なキーポイントになっている。

マイクの息子アレックスの福澤希空(WATWING)にも同じことが言えて、酷いいじめを受けていることを両親に打ち明けられない、両親が必ず自分の味方だと信じることができない少年の心許なさが伝わってくる。だからこそアレックスが自信を取り戻していく過程は、作品のやはり重要な鍵。福澤の柔和な顔立ちと、一度動き出すと非常にシャープなダンス力がその変化をよく表していた。

アレックスをいじめのターゲットにしている上に、マギーの恋人でもあるスタンの有澤樟太郎は、上背もあり整ったビジュアルの中に、短絡的な思考回路を持つスタンを、作品展開には必要に、けれども過度に嫌な奴にしなかったバランス感覚が良い。ここが押さえられていないと、作品のポップさが減衰した可能性が高く、有澤の果たした役割は大きく、スタンにはスタンの悩みや苦しみがあることも感じさせた。

そして、ネッドが一目惚れするケネディハイスクールのマスターソン校長の水夏希が、高い理想と自分の仕事、責任を果たす為に自己を律しているキビキビとした役柄の造形で強烈な印象を残している。特に、後半その信念が揺れていく様が大きな見どころになっていて、仕草のいちいちが的確で大舞台での経験値の高さを如実に感じさせた。ラストに向かってのダンスシーンは、さすがは元宝塚歌劇団男役トップスターを思わせる、他の追随を許さない動きのキレを見せていて圧巻。実はファーストシーンにも登場しているので、是非見逃さないで欲しい。

他にもなんとも魅力的な声が耳目を引くマーフィコーチと用務員の角川裕明。スカーレットの友人役で、パッショネイトな歌も披露するネイオミの安田カナ。場面に説得力を与える作り込みが喝采もののディーンの大原健二をはじめ、様々なバックグランドを持つ実力派キャストがとにかく個性的。美術の土岐研一、照明の原田保などスタッフワークも揃い、何より舞台高見に位置する爽快な生演奏が、多彩なミュージカルナンバーを引き立てる。スピード感で圧倒しながら、心の琴線に触れる優れたエンターテイメント作品、世界初演の鮮やかな開幕を喜びたい。

初日を前に主演の竹内涼真からコメントが届いた。

【竹内涼真コメント】

いよいよ初日を迎えます。無事に開幕できる、劇場でお客さんに会えるという喜びを感じています。稽古というものを初めて経験しましたが、自分の知らない世界が広がっていて、僕の体の中にはない表現方法を取り入れるのが難しく大変な作業でした。でも何回も試行錯誤し最後にひとつの形にするという作業はすごく好きでした。演出の谷さんは役者に寄り添って演出してくださいましたし、共演者の皆さんが役を大事にして稽古に臨んでいる姿に感銘を受けました。全員で作品を面白くしようという気持ちで稽古を積み重ねられることが、すごく素敵だと思いました。この作品の登場人物たちが抱えている問題は日常的にありふれたもので、みんな自分の目的に一生懸命というところが一番の魅力だと思います。この大変な時期に劇場に足を運んでくださる皆様には、心から感謝しています。最高のパフォーマンスをして、楽しい気持ちで劇場を後にしていただけるように全力で頑張りますので楽しみにしていてください。

【公演情報】
ミュージカル『17 AGAIN』
脚本◇マルコ・ぺネット
作曲◇作詞:アラン・ザッカリー&マイケル・ウェイナー
翻訳・演出◇谷賢一
出演◇竹内涼真 ソニン エハラマサヒロ 桜井日奈子 福澤希空(WATWING) 有澤樟太郎 水夏希 他
●5/16~6/6◎東京建物Brillia HALL
〈料金〉S席 12,800円 A席 9,000円 B席 6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 11:00~18:00(平日)/ 定休日(土・日・祝)
※5月30日までの緊急事態宣言中は、東京建物Brillia HALLの50%に収容率に達した時短で新規チケット販売終了。当日券なしにつき要問い合わせ。
〈公式サイト〉https://horipro-stage.jp/stage/17again2021/

【全国公演】
●6/11~13◎兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00-18:00)
https://www.umegei.com/schedule/935/
●6/18~20◎鳥栖市民文化会館 大ホール
〈お問い合わせ〉インプレサリオ
info@impresario-ent.co.jp
●6/26◎広島文化学園HBGホール</a
〈お問い合わせ〉テレビ新広島イベント事務局 082-253-1010(平日10:00-18:00)
https://www.tss-tv.co.jp/event_information/engeki/17again.html
●7/1~11◎愛知・御園座
〈お問い合わせ〉御園座 052-222-8222 (10:00-18:00)
https://www.misonoza.co.jp/lineup/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

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