歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」開幕!
歌舞伎座で、令和四 年の幕開きを寿ぐ 「壽 初春大歌舞伎(ことぶき はつはるおおかぶき)」が1月2日に開幕した。(27日まで)
「壽 初春大歌舞伎」は華やかな演目が揃う珠玉の舞台で、客席は、各部総入れ替えを行いつつ、1 月からは収容人数の制限を緩和して公演を行っている。
【第一部】
第一部は、「鬼一法眼三略巻」の四段目にあたる、味わい深い義太夫狂言の名作『一條大蔵譚 (いちじょうおおくらものがたり)』 で幕を開ける。
世は平家全盛の時代。かつて源氏の棟梁・源義朝の愛妾であった常盤御前は、今は公家の一條大蔵卿の妻となっている。大蔵卿は、能狂言にうつつを抜かし、人々から阿呆と噂される人物。中村獅童演じる源氏の忠臣・吉岡鬼次郎と、中村七之助演じる妻のお京夫婦は、中村扇雀演じる常盤御前の源氏再興への思いを確かめるため、中村勘九郎演じる大蔵卿の館へ潜り込む。
前半の「檜垣」は、大蔵卿のユーモラスな阿呆ぶりが見どころで、自然と笑顔がこぼれる場面。その姿は噂通りの阿呆そのもので、愛嬌たっぷりの様子が場内を明るく包み込み、笑いにあふれる。続く「奥殿」では、鬼次郎夫婦に対し、常盤御前が本心を明かす。そして大蔵卿が、前半とは打って変わって勇壮な姿で現れると、実は源氏に寄せる心を隠すために愚かなふりをしていたことが明らかになるという、ドラマチックな展開に。祖父十七世勘三郎、父十八世勘三郎の、そして自身の襲名披露狂言でもある本作を、その芸を受け継ぐ勘九郎が、大蔵卿のチャーミングな“作り阿呆”と颯爽とした本性を華麗に演じ分け、観客を魅了した。
続いては、華やかな舞踊『祝春元禄花見踊(いわうはるげんろくはなみおどり)』。
本作にて、先月4歳になったばかりの中村獅童の長男・小川陽喜(おがわはるき)が初お目見得。父・獅童をはじめ、若い頃より獅童と共に多くの舞台を盛り上げてきた中村勘九郎、中村七之助が揃い、めでたい一幕を祝う。
満開の桜が美しく咲き誇る中、真柴久吉が催す花見の宴。若衆たちが賑やかに踊ると、舞台中央がせり上がり、中村勘九郎演じる名古屋山三、中村七之助演じる出雲阿国を従えて、中村獅童演じる真柴久吉と共に、小川陽喜演じる奴 喜蔵(よしぞう)が登場する。
四人が姿を現すと、満席となった客席からは割れんばかりの拍手が沸き起こる。
陽喜は登場するや堂々とした様子で次々と見得をし、元気いっぱいの立廻りを披露。公演に先立って行われた取材会で、隈取、見得、立廻りという陽喜が大好きな要素が詰まった舞台に、「子役では考えられないほどのおいしいところ取り(笑)。うらやましいなと、少し嫉妬してしまいます」と笑顔を見せながら「胸がいっぱい」と感慨深げに語っていた獅童は、舞台狭しと動き回る息子の後方から見守る。
陽喜は曲者たちを追い払いながら花道を飛び六方で引っ込むと、愛らしく懸命な姿が観客の心を鷲掴みに。最後には再び花道に登場し、待ち受ける獅童に抱きかかえられながら舞台中央へ。
出演者が勢揃いして決まると万雷の拍手が送られ、なかなか鳴りやまなかった。
【第二部】
第二部の幕開けは、舞踊二題の『 春の寿 ( はるのことぶき) 』。
古来より災いを鎮め、平安を祈念する儀式舞踊『三番叟( さんばそう) 』から。中村梅玉勤める翁と中村魁春勤める千歳が天下泰平を祈って荘重に舞うと、中村芝翫勤める三番叟が賑やかに鈴を振り五穀豊穣を祈って躍動感溢れる舞いを披露。
続く『 萬歳( まんざい) 』では、春を迎えた往来へ中村又五郎勤める萬歳と中村鴈治郎勤める才造が連れ立ってやって来る。二人は商売繁盛を祈念する中、街の様子や風俗を軽妙に踊り、人々に福を招きます。梅玉は、筋書のインタビューページにて「国家安泰を祈り、健康を願い、コロナ禍で何かと暗い日本をパッと明るくしたいと思います」と述べている。新年に相応しい祝祭的な舞踊に、場内はめでたい雰囲気に包まれた。
続いては、『邯鄲枕物語 艪清の夢(かんたんまくらものがたり ろせいのゆめ)』。
「邯鄲の枕(かんたんのまくら)」という中国の故事は、盧生という若者が邯鄲の都で夢が叶うという枕を授けられ、一休みした夢の中で出世して栄耀栄華を極める五十余年を送るが、目覚めてみるとわずか夕餉の炊ける間のことで人生は夢のように儚いと悟った…というもの。この故事をもとに多くの作品がつくられ、「邯鄲枕物語」もそのひとつ。
松本幸四郎は、「歌舞伎でなければ成立しない展開や演出が面白く、お客様がゆとりをもってご覧になれる、本来歌舞伎が持っている大らかさのある芝居」と筋書のインタビューでその魅力を話している。8 年ぶりに演じる今回は、「新玉の笑いで寿ぐ」とつけられ、より洒落っ気たっぷりの作品となり、歌舞伎座に初登場。『仮名手本忠臣蔵』『廓文章』など名作歌舞伎のパロディも散りばめられた喜劇となっている。
物語は、幸四郎演じる艪屋の清吉と片岡孝太郎演じる女房おちょう夫婦が借金を抱えて上野池の端へ引っ越してきたところから始まります。中村歌六演じる家主六右衛門の勧めで、女房を使って侍から金を巻き上げることを企む清吉夫婦は、さっそく中村錦之助演じる横島伴蔵を騙す。そして、伴蔵が残していった荷物を枕に、清吉がひと眠りすると…。
夢の中では、現実とは打って変わって大金の使い道に困り果てる清吉。その姿をユーモラスに見せ、栄枯盛衰の人生ドラマを明るくほのぼのと描きます。干支にちなみ“虎”が登場する場面、ドリフの髭ダンスやお正月の餅を用いた場面など、現実とあべこべになった夢の世界であたふたと戸惑う清吉は滑稽味に溢れ、場内が度々笑いに包まれた。清吉が探し求める「宝船の一軸」には、初夢に縁起のよい“七福神の宝船”が描かれる。新年の初笑いに相応しい、楽しい一幕となっている。
【第三部】
第三部の幕開けは、『岩戸の景清(いわとのかげきよ)』。数多くの名作を書き下ろした河竹黙阿弥の初期の作品で、44 年ぶりの上演となる今回は、初春の舞台に相応しく、台本を再構成して上演する。若手の登竜門である正月恒例の「新春浅草歌舞伎」が2年続けて開催することができない中、昨年1月に続き、浅草歌舞伎を盛り上げてきた若手が歌舞伎座に集結した。
悪七兵衛景清を勤める尾上松也は、公演に先立って行われた取材会で「歌舞伎のヒーローたちが大集結する豪華な演目」と語り、「皆でアイデアを出しながら、いいものを作っていきたい」と、“チーム浅草”メンバー一丸となってお正月を盛り上げる決意を述べた。
暗闇の中、松也をはじめ、中村歌昇や坂東巳之助ら、花形俳優たちが息を合わせて魅せる「だんまり」は見どころ。
数々の見得、立廻りに花道での六方と見どころ満載の中、清新なエネルギー溢れる舞台に、客席の視線は釘付けに。光と闇の対比が鮮やかで、景清が引き抜く刀によって射し込む光は、まるでコロナ禍の世を照らすという願いが込められているよう。新年に明るい兆しを感じる幕切れとなった。
初春の一日を締めくくるのは、『義経千本桜 川連法眼館(よしつねせんぼんざくら かわつらほうげんやかた) 』。歌舞伎三大名作のひとつ『義経千本桜』の四段目の切にあたり、「四の切」の通称で親しまれる人気作。川連法眼の館へ匿われている市川門之助演じる源義経のもとへ、市川猿之助演じる家臣の佐藤忠信が訪ねてくる。義経は、伏見稲荷で預けた中村雀右衛門演じる静御前の安否を尋ねるが、忠信は覚えがない様子。実は静に同道してきた忠信の正体は…。
三代目市川猿之助(現 猿翁)は本作で江戸期に用いられていた“宙乗り”を復活させ、ケレン味溢れる演出を採り入れるなど上演のたびに工夫を凝らし、「三代猿之助四十八撰」のひとつに。当代猿之助は亀治郎時代の平成 23 年に初めて上演し、平成 24 年から始まる四代目猿之助襲名披露狂言として全国を巡るなど上演を重ねている。今回は四年半ぶりに勤める。
猿之助は、狐の特徴を表現する仕草、「狐詞(きつねことば)」と呼ばれる台詞回しを華麗に駆使し、狐忠信と智勇を兼ね備えた本物の忠信の演じ分けで観客の心を惹きつける。歌舞伎ならではの様々な仕掛けや早替りとともに、狐親子の恩情が描かれるのも本作の魅力。
そして、当月は演出上の制約が緩和され、コロナ禍以降行われていなかった花道上での宙乗りが復活した(2020 年8月の公演再開以降初めて)。猿之助は、筋書のインタビューにて「歌舞伎座の感染防止対策は慎重すぎると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それが信頼につながりこの日を迎えられたのだと思います」と語っている。物語の終盤、義経から鼓を与えられた狐忠信が喜びに打ち震えながら花道へと駆け出し、待望の宙乗りの場面になると、客席からは「待ってました!」とばかりに大きな拍手が送られ、熱気に包まれ、場内の盛り上がりは最高潮となり、美しい桜吹雪が舞う中、躍動感あふれる猿之助の狐忠信は古巣へと帰っていった。
【公演情報】
歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」
●2022年1月2日(日)~27日(木)
【休演】11日(火)、19日(水)
◎第一部 11:00~
一、『一條大蔵譚』
檜垣・奥殿
一條大蔵長成 中村勘九郎
吉岡鬼次郎 中村獅童
鳴瀬 中村歌女之丞
お京 中村七之助
常盤御前 中村扇雀
二、『祝春元禄花見踊』
真柴久吉 中村獅童
山三 中村勘九郎
阿国 中村七之助
若衆雪之丞 中村橋之助
同月之丞 中村福之助
同花之丞 中村虎之介
同松之丞 中村歌之助
奴喜蔵 初お目見得 小川陽喜(獅童長男)
◎第二部 14:30~
一、『春の寿 三番叟・萬歳』
〈三番叟〉
翁 中村梅玉
三番叟 中村芝翫
千歳 中村魁春
〈萬歳〉
萬歳 中村又五郎
才造 中村鴈治郎
三世桜田治助 作
山田庄一 演出
二、『邯鄲枕物語 新玉の笑いで寿ぐ 艪清(ろせい)の夢』
艪屋清吉 松本幸四郎
横島伴蔵/盗賊唯九郎 中村錦之助
清吉女房おちょう/傾城梅ヶ枝 片岡孝太郎
お臼 中村壱太郎
貸物屋六助/杵造 大谷廣太郎
下男太郎七/捨金番福六 中村吉之丞
八百屋女房おみね 澤村宗之助
米屋勘助 中村松江
安藝の内侍 市川高麗蔵
紺屋手代黒八/番頭作左衛門 大谷友右衛門
家主六右衛門/鶴の池善右衛門 中村歌六
◎第三部 18:00~
河竹黙阿弥 作
一、『難有浅草開景清 岩戸の景清』
悪七兵衛景清 尾上松也
北条時政 坂東巳之助
江間義時 中村種之助
和田義盛 中村隼人
千葉介常胤 中村莟玉
衣笠 中村米吉
朝日 坂東新悟
秩父重忠 中村歌昇
二、三代猿之助四十八撰の内『義経千本桜』
川連法眼館の場
市川猿之助宙乗り狐六法相勤め申し候
佐藤忠信/忠信実は源九郎狐 市川猿之助
静御前 中村雀右衛門
駿河次郎 市川猿弥
亀井六郎 市川弘太郎
局千寿 市川寿猿
飛鳥 市川笑也
源義経 市川門之助
川連法眼 中村東蔵
〈料金〉1等席16,000円 2等席12,000円 3階A席5,500円 3階B席3,500円 1階桟敷席17,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京 03-6745-0888 チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/738