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万物のつながりを信じる群像劇『Fly By Night~君がいた』上演中!

ストレートプレイを観るような感覚で観劇できるミュージカルスタイルを目指して意欲的な製作が続いているconSept のMusical Drama シリーズ第4弾『Fly By Night~君がいた』が、9月1日シアタートラムで開幕した(13日まで。のち9月19日~22日横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールでも上演)。

『Fly By Night~君がいた』は、1965年11月9日、北アメリカとカナダを中心に実際に起こったニューヨーク大停電に至るまでの、とある人々の姿を描いた物語。2500万人に及ぶ人々が暗闇の中で過ごした12時間に起きた数々のドラマというより、その停電によって動いたものと、動かなかったものを登場人物それぞれの立場から描く群像劇になっている。

【STORY】
1964年11月9日。母の葬儀を終えたハロルド(内藤大希)は、遺品の中にギターを見つけ、母の形見として持ち返り音楽創りをはじめる。一方ハロルドの父・マックラム(福井晶一)は、最愛の妻を亡くした喪失感に耐えきれず、せめてハロルドに思い出を聞いて欲しいと願うが、親子の会話は上手くいかず、次第に妻が大好きだった「椿姫」のレコードを聞きながら毎日を無為に過ごすようになる。

同じ頃、人口1000人ほどの田舎町サウス・ダコタで暮らしていたダフネ(青野紗穂)は、女優を目指してニューヨークに行くことを決意。姉のミリアム(万里紗)に一人では心もとないから一緒に来てくれと泣きつく。星を見ることが大好きで、カフェのウェイトレスとして働いていることをむしろ生きがいにしているミリアムは、ニューヨーク行きをためらうが、妹の懇願に負け、姉妹は共にニューヨークで暮らしはじめる。行動的なダフネは早速洋装店で働きながらオーディションを受ける日々を過ごすうちに、店の近くのサンドイッチ屋で働いていたハロルドと出会って恋に落ち、二人は将来を誓い合うまでになった。

そんなある日、ダフネはオーディション会場で若手劇作家のジョーイ(遠山裕介)に見初められ、新作ミュージカルの主役に抜擢される。有頂天になり稽古に明け暮れるうちにハロルドとすれ違い始めるダフネ。一方、ミリアムは突然現れた占い師(原田優一)に未来を予言され、その恋人の条件に合致するのが妹の婚約者のハロルドだと気づき、田舎へ逃げ帰ってしまう。突然去っていったミリアムが忘れられないハロルドは、ダフネとミリアムに対する自分の気持ちに混乱し、心ここにあらずの失敗続きで、雇い主であるサンドイッチ屋のオーナー・クラブル(内田紳一郎)を悩ませ、父・マックラムからの電話にさえ出ない日々が続く。

次第に孤独を募らせたマックラムがある決心をしたのをはじめ、それぞれが悩み惑いながらも歩き続ける日々の中、 1965年11月9日、ニューヨーク大停電が起きて……。

未だに確かな原因はわかっていないというニューヨーク大停電をモチーフにした物語、と言われてパッと想像するのとは、この作品は実は異質な展開を見せていく。もちろん大停電によって大きく人生が変わっていく、この大停電を何かのはからいと感じさせる登場人物もいるのだが、一方で、定められた「運命」が淡々と避けがたく進んでいく登場人物もいる。停電がもたらした奇跡で大団円という、わかりやすいハッピーエンドには、物語は帰着しない。

でもだからこそ、ここにはどこにでもいる、隣にいても不思議ではない人々の営みが描かれていて、それぞれのドラマにリアリティがある。未来を選びとろうとする若者が挑戦するからこそ傷つく様も、自分の人生の行く末が、ある程度見えている年配者の諦観も、今そこに生きている人々の温もりを持って伝わってくるのが、Musical Drama シリーズならではだ。

その中でも、やはり舞台がアメリカだから文化や宗教、特に死生観の違いに、ちょっとした驚きを感じることもあるが、演出の板垣恭一の、キャスト全員でセットを動かし、場面を展開していく良い意味でアナログな演劇空間作りが、リアルと想像を巧みにブレンドして流麗だ。特に作品のテーマとも言える「人と人とのつながりを見えるものだけに限定しない」という考え方が、「今、そこで起きている物語を共有する」舞台芸術が創り出す空気感にピッタリ合致していて、2020年の今だからこその尊さが感じられた。既にお馴染みの安心感も出てきた音楽監督の桑原まこの仕掛けにも遊び心があり、ミュージカルナンバーが頭に入ってきてから「なるほど!」と気づく楽しみも多い。

そんな作品に息づくキャストは、ハロルドの内藤大希が、もうちょっと空気を読んだら…とついつい思ってしまうような不器用な青年像に、なんとも言えないチャーミングさを与えていて、これは内藤の資質あってこそ。このメンバーの中に入っても、更に響き渡る歌唱力も生きて、まさに当たり役だった。

ダフネの青野紗穂は、スターを夢見る女性の自負と勢いと、裏腹な不安を巧みに表現している。パワフルな歌いっぷりに定評のある人だが、この作品ではずいぶん歌い方の印象が違っていて、女優として更に表現の幅を広げていることが頼もしい。

ミリアムの万里紗は、或いはしっとりと演じることも可能では?と思える役柄を、むしろカリカチュアを交えて演じていて、「運命」に導かれる女性を過度に重く見せなかったことが、作品のカラーに大きく寄与している。ドラマ全体にとってこれは貴重な位置づけになった。

ジョーイの遠山裕介は、苦しんでいるからこそ明るく振る舞う役柄に、華やかな容貌と演技の質がよく合っている。非常に押し出しの良い実力派だが『アナスタシア』での大役を経て、舞台姿に鷹揚さもにじんできていて、ますますの活躍が楽しみだ。

クラブルの内田紳一郎は、この人が常に飄々と舞台に位置していることで、作品全体に与えた安定感が絶大。クラブルの人生で最も輝いていた記憶が大停電によって鮮やかに蘇る。運命の光の部分も担っいて、観劇後の感触を高めてくれる存在だった。

マックラムの福井晶一は、最愛の妻を亡くして徐々に思い詰めていく人物の変化を、ポイントポイントで飛んでいる出番の中で確実に表出していて、なんとか立ち直って欲しいと客席から祈る気持ちにさせられる。素晴らしいソロナンバー以外にも「椿姫」が効果的に使われていて、福井の演技力はもちろん歌唱力も存分に生かされた。

そして物語の全てを司るナレーターの原田優一が、まさに独壇場の活躍。場所だけでなく、時間軸も行きつ戻りつする作品を滑らかに伝えるだけでなく、瞬時にしてダフネとミリアム姉妹の両親や、占い師等々の役柄を演じ分け、今ナレーターとして俯瞰していたドラマの登場人物に、衣装もほぼ変わらないまま一瞬で切り替わる見事さは喝采もの。原田なくしてはこの作品自体の上演がありえなかったのでは?と思うほどの力量で舞台を支えていた。

全体にフライヤーにあるキャッチコピー「運命でも、運命じゃなくても、あなたに巡り会えた」が大きなキーワードとなっている作品で、宇宙から見た万物のつながりに思いを馳せる作品になっている。

【キャスト初日コメント】
内藤大希(ハロルド役)
無事に初日を開けることが出来て、とても嬉しく思っています。
横浜公演まで含めて全公演配信がありますので、自宅にいながら、出掛けた先でも観ていただけます。映像の世界で楽しんでいただくも良し、映像を観て劇場に足を運んでいただくも良し、劇場で観て配信をご覧になるも良し。ぜひFly By Nightの世界を堪能していただけたらと思います。

青野紗穂(ダフネ役)
こういうご時世で開幕出来る事が有難いです。無事に初日が開きましたので、千秋楽に向けて頑張りたいと思います。

万里紗(ミリアム役)
まず何よりもこうして劇場に立てる事、お客様の顔を拝見出来る事が喜びであり、深く感謝します。とてもロマンチックな作品なんですが、この半年間ロマンチックな事を信じる勇気が無くなっていたことを改めて感じています。この作品が持っているメッセージを私たちが一生懸命もがいて演じるので、お客様に届くことを願っています。

遠山裕介(ジョーイ役)
無事初日が開きました。イエイ!こんなハッピーな事はないです。
この作品、あと19回、東京と横浜で公演があります。ライブ配信もありますので、日々変化して行く舞台ならではの楽しさを、劇場で、ライブ配信で楽しんでいただけたらと思います。皆さん、楽しんでください!

内田紳一郎(クラブル役)
このような状況下で、初日を無事迎えられ、お客様にも観ていただけて嬉しいです。本来はお芝居はリラックスしてただ楽しんでいただけたらいいのですが、今は我々もお客様も細心の注意を払って公演を行わざるをえなく、普通に観劇していただく事が夢のような状況です。まだまだお芝居はこの世の中に絶対必要なものなんだ、と感じながらお芝居ができて、この公演は自分にとって特別なものになりました。

福井晶一(マックラム役)
このような状況下で舞台に立てる、初日を迎えられるという事は奇跡だと思いますし、たくさんの方の協力があって今日があると思っているので、幸せを感じています。今回は客席が半分なんですが、配信もございますので「Fly By Night」をぜひ興じていただけたらと思います。暗闇の中から希望を見つけ出すというのが作品のテーマにもあります、みなさんに少しでも元気と勇気をこの作品で与えられたらと思いますので、ぜひご覧になってください。

原田優一(ナレーター役)
conSeptさんとは以前『グーテンバーグ・ザミュージカル』という作品をご一緒しました。福井さんとの二人芝居で、その時も初日はすごく緊張したのですが、今回ある意味それを超えたかなというぐらいの緊張感です。以前は福井さんとの掛け合いで支え合える安心感があったのですが、今回ナレーター役という、誰も周りに支えてくれる人がいなくて、自分が破綻したら、物語が滞るという、まさに重責を感じています。他にもいろいろな役で登場するのですが、お客様にちょっとしたスパイスというか笑いの部分を担っていますので、その部分は楽しんでいただこうと演じさせていただいています。そういった意味では今回の作品は自分にとっては物凄く試練であり、これを乗り越えた時には凄い絶景が待っているのではないかと思っています。

【公演情報】
『Fly By Night~君がいた』
日本語上演台本・訳詞・演出◇板垣恭一
音楽監督◇桑原まこ
原案◇キム・ロゼンストック
脚本◇作詞・作曲:ウィル・コノリー、マイケル・ミットニック、キム・ロゼンストック
翻訳◇工藤紅
出演◇内藤大希 青野紗穂 万里紗 遠山裕介 内田紳一郎 福井晶一 原田優一
●9/1~13◎東京・シアタートラム
●9/19~22◎横浜・赤レンガ倉庫1号館3Fホール
〈料金〉9,000円(全席指定・税込)
〈公式サイト〉https://www.consept-s.com/fbn/

【配信情報】
9/1~22全20全公演リアルタイム生配信 ※終演後4時間まで見直し可能。
〈料金〉5,500円(ただし、東京初日のみ3,000円)
●9月1日~2日、9月8日~22日分の公演
https://eplus.jp/fbn-streaming/
●9月3日~6日分の公演
http://r-t.jp/fbn

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岩田えり】

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