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「十月大歌舞伎」で美しき京人形の精を演じる! 中村七之助 取材会レポート

涼しい風に秋の深まりを感じるこの頃。歌舞伎座では10月2日から「十月大歌舞伎」として、四部制で、第一部は、名工が手がけた傾城の人形に魂が宿る面白い趣向の舞踊『銘作左小刀 京人形』、第二部は、力士同士の達引と上方の芝居情緒が漂う『双蝶々曲輪日記 角力場』、第三部は、知勇兼ね備えた名将・梶原平三の颯爽とした姿を描く『梶原平三誉石切』、第四部が先月に引き続き映像と舞踊のコラボレーション『口上/楊貴妃』と、バラエティに富んだ演目が上演されている。現在の状況を逆手にとり、普段は見られない演出となっている作品もあるので見逃せない。

今回、第一部で京人形の精をつとめる中村七之助の取材会が歌舞伎座で行われた。「八月公演では、正直に言って無事に千穐楽を迎えられるとは思わなかった。それ以来、舞台からもお客様からも(新型コロナウイルス感染者を)一人も出していないのは本当にすごいと思う」と振り返る七之助が、現在の心境や役などについての思いを語った。

「待ってました!」というコメントに涙が出た

──八月の公演再開から二度目の歌舞伎座ですが、違いはありますか?

八月に久々に舞台に立たせていただいた時は、非常に緊張しました。もちろん今月も緊張はありますが、(八月の)『吉野山』と『京人形』では気持ちが違います。今回は本当に楽しくお芝居させていただいています。

──観客を半分にして「大向う」も禁止です。配信の自主公演もされましたが、コロナ禍の中での歌舞伎について率直に思うところは?

生の舞台に飢えてはいらっしゃいますが(コロナが)怖くてまだダメというお客様ももちろんいらっしゃって、配信も頭に入れなければいけない状況が生まれているのかなと思います。僕は生の舞台が好きですが、両立していかないといけないのかなと。

──「大向う」がない代わりに拍手など、やりづらさと同時に新鮮さがあるのでは?

僕は(再開後に)まだ義太夫の時代物などはやっていませんが、「大向う」はすごく力になるし、良いところで掛かるとポテンシャルが引き出されます。歌舞伎は伝統的なもので堅苦しいと思われがちですが、一番お客様との距離が近い演劇だと思います。お客さまが声を掛け、それが作品の一部になるのだから、一番お客さまありきです。「大向う」がないとちょっと寂しいですね。やりづらくはないですが、『吉野山』の最後の引っ込みで杖をポンと突いた時は、自分で心の中で「中村屋~!」と声を掛けていました(笑)。そこで自分を奮い立たせる感じはあります。

──配信をご自身でご覧になって、見せ方、見え方が違う難しさは感じますか?

生の舞台にはない楽しみといいますか、浅草寺の五重塔の前でやった時は、配信ならではのアングルを決めました。

── 一方向でしか見せていなかったものの新しい可能性が見えてくる?

そうですね。見たいところが見られないもどかしさは仕方ないですが、二回目は2画面にしたり、いろいろしました。やる意味はあると思います。最初はどうなのかなと思っていましたが、帰宅してコメントを全部読んでいたら涙が出ました。「待ってました!」とか。やってよかったと思いました。

──これだけ長く休むのは初めてだと思いますが、休んでいたからこそできたことは?

昔の方の映像を観たり、お芝居の稽古をしていましたが、一番考えたのは「(歌舞伎が)できなくなっちゃうんじゃないか」ということ。このままこの状況が続いたら廃業かなと思いました。友達にはYou Tubeでもやれば?と言われましたが、例えば踊るにしても、振付など一人では勝手にはできないし、化粧して、衣裳も鬘もないし、落語家さんと違って女方の台詞を言っても説得力はないし、何もできないという恐ろしさはありましたね。やはり舞台美術、照明、衣裳があって(歌舞伎は)総合芸術なのだと改めて思いました。

木になったり人間になったり自由度の高い『京人形』

──京人形の精を演じるのは二回目です。

本来は時代物があってその後にという、箸休めのような、ほっこりする踊りです。いつもは何が何やらわからないままに京人形が登場しますが、今回は台詞を付け足して、どうして甚五郎が病気になって人形を作ったか、原作通りで、ちょっとわかりやすくなっています。芝翫の叔父と踊るのは久しぶりです。本当にわかりやすいし、最後に面白い立廻りもあるので、歌舞伎初心者の方にもとても面白い演目。登場人物も華やかで、お姫様、奴など色々なジャンルの人物が見れます。

──初演はお兄さん(中村勘九郎)が甚五郎で、今回は芝翫さんです。

昔から芝翫の叔父とは踊りはもちろん、舞台を一緒にやらせていただいています。『京人形』は初めてですが、初めてという感覚はない。やはり同じ血が流れているというか、ここでこうするなとか、こうしたら居心地がいいだろうなとか、何となくわかるんです。やはり大先輩ですし、安心してやっています。

──木彫りの人形の踊りから優雅な傾城の踊りに変わっていきます。どういうところを見てほしいですか?

この踊りは難しいんです。いろんな方のものを見て、いろんなやり方があっていいと思いますし、いろんなやり方を試しています。今日はずっと“木”でやりました(笑)。古典ではやはり目指すものが明確にありますが、京人形の太夫は、掴みどころがない。人形振りでもロボットダンスでもない。人間そのままでやっている方もいて、(尾上)菊五郎のおじさまはあんまり人形らしくないですが、それも素敵なんです。そこが作品の一番の難しさかもしれない。昨日は、甚五郎が楽しく踊っていくうちに、徐々に人間になっていこうと思ってやっていました。毎回試しています。

──毎日違うものが見られますね(笑)。

そうですね。これは自由度が高いというか、振りは決まっていますが、どうやってもいいと思います。木でも人間になっても、やっていて楽しいです。

テンションを一段階上げて生の舞台を楽しんでほしい

──もしコロナが続く場合は、配信ではどういうチャレンジをしたいですか?

配信で一番難しいと思うのは、「やる意味」です。僕がなぜ配信の『連獅子』で仔獅子をやったかというと、当初は僕は女方で何か踊って、休憩の後、兄と(中村)鶴松で『連獅子』をやる予定でした。でも、最近やっているようなものではつまらないし、いつかどこかで観られるものは面白くないので、僕が10年ぶりに仔獅子を踊ったら(観客の心に)ひっかかるかなと思って立候補しました。そういうことを考えないと、ただやるだけでは、配信は難しいのではないかと思います。(配信の自主公演)第三弾はあるかわかりませんが、平成中村座を仮設してVRでやるのも面白いかもしれないですね。(坂東)玉三郎のおじさまは本当は預言者で、こうなることをご存じだったんじゃないかなと思います。映像も見せるためにちゃんと編集されている。「こういう時だけ」という特別感があるじゃないですか。そこが今ふんばりどころなのじゃないかと思います。

──玉三郎さんは、七之助さんにとってどんな存在ですか?

父親(十八代目中村勘三郎)が亡くなってから、なおさら大きい存在です。僕がお芝居でやっているほとんどのことをおじさまが教えてくださって、衣裳もお借りしたり、本当に優しく、厳しく指導してくださる。教祖様のように敬っております。

──女方としての美しさを保つために続けたいことは?

玉三郎のおじさまはもちろん容姿も抜群に美しいですが、それは心から染み出す美しさです。もちろん化粧水をつけたり、自分でのメンテナンスはしていかなければいけませんが、一番は(役の)心。それが姿や立ち居振る舞いの美しさに繋がるので、そこは毎回気をつけて、どういう風にすれば美しく見えるか考えながらやっていきたい。玉三郎のおじさまは、言葉だけでなく、見えていないところでも本当に一生懸命に実践してくださっています。お客様に見せてあげたいような目を、僕たちにしかわからないところでもされる。自分はまだまだです。例えば『ぢいさんばあさん』で、玉三郎のおじさま(るん役)が駕籠から出てきて、昔住んでいた家を見るところがあります。お客様には背中しか見えませんが、僕からはその目が見える。家が昔(の姿)に復元されていくようで、それは凄いですよ。そういうところを見習い、追求していくことが歌舞伎の一番の楽しみだと思います。

──生配信の時、観てくださる方にどんな思いを届けたいかと聞かれて、「ささやかな元気でいいと思う」と答えていました。視聴者の緊張を和ませてくれる言葉で沁みました。「十月大歌舞伎」を観に来られるお客様への気持ちは?

配信は、何をしながら観ていてもいいと思います。でも生の舞台、しかも歌舞伎座に来る時は、僕だったら、良い意味でちょっと緊張してほしいですね。緊張というか、テンションを一段階上げるのが生の舞台の面白さですよね。観劇は一日仕事だと思うんです。朝は水分を少なめにしようとか(笑)、観て面白ければ知り合いと感想を話し合ったり、そういう楽しみ方だと思いますので、歌舞伎座へきて雰囲気を楽しんでいただいて。今、皆さん、開演まで静かに待っていらっしゃいますが、ちょっと緊張しすぎです(笑)。「八月花形歌舞伎」では役者の開演アナウンスがあって、ほっとするという声がありました。できれば若手の公演では、開演アナウンスができたらいいですよね。やはり、今しかやれないことをやらないといけないと思っています。

【公演情報】

「十月大歌舞伎」
●10/2~27◎歌舞伎座

第一部 11:00開演
『銘作左小刀   京人形』
出演
左甚五郎:中村芝翫
女房おとく:市川門之助
娘おみつ実は義照妹井筒姫:坂東新悟
奴照平:中村福之助
栗山大蔵:中村松江
京人形の精:中村七之助

第二部 13:30開演
『双蝶々曲輪日記   角力場』
出演
濡髪長五郎:松本白鸚
藤屋吾妻:市川高麗蔵
茶亭金平:松本錦吾
山崎屋与五郎/放駒長吉:中村勘九郎

第三部 16:20開演
『梶原平三誉石切』
出演
梶原平三景時:片岡仁左衛門
六郎太夫娘梢:片岡孝太郎
俣野五郎景久:市川男女蔵
奴菊平:中村隼人
大名山口十郎:市川男寅
大名川島八平:中村玉太郎
大名岡崎将監:中村歌之助
囚人剣菱吞助:片岡松之助
大庭三郎景親:坂東彌十郎
青貝師六郎太夫:中村歌六

第四部 19:30開演
映像×舞踊 特別公演『口上/楊貴妃』
出演
口上・楊貴妃:坂東玉三郎

〈料金〉1等席8,000円 2等席5,000円 3階席3,000円(全席指定・税込)
※1・2階桟敷席および4階幕見席の販売はありません。
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489 または03-6745-0888(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/687/

 

【文/内河 文 写真提供/松竹】

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