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「すべてはよりよき世界のために」ミュージカル『SPY×FAMILY』上演中!

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

シリーズ累計発行部数2,900万部突破の超人気コミック「SPY×FAMILY」の初ミュージカル化となるミュージカル『SPY×FAMILY』が、東京・帝国劇場で上演中だ(29日まで。のち、4月11日~16日兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール、5月3日~21日福岡・博多座で上演)。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

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「SPY×FAMILY」は遠藤達哉が2019年3月より「少年ジャンプ+」(集英社)で連載中のスパイアクション&ホームコメディ。「スパイ&超能力者&殺し屋が互いの秘密を抱えたまま仮初めの家族になる」というユニークな設定と、スタイリッシュでキュートなキャラクターたち、シリアスとコメディが絶妙にブレンドされた世界観、巧妙なセリフ回しとアクションとギャグを織り交ぜたストーリーテリング等により、連載開始直後から閲覧数・コメント数・発行部数における「少年ジャンプ+」最高記録を次々と更新して、読者の圧倒的な支持を獲得。2022年4月にテレビアニメ化され、2023年Season2&劇場版制作も決定。欧米圏・アジア圏での放送及び配信の世界展開もスタートし、国内外を問わず一大旋風を巻き起こしている。

そんな超人気コミックが、満を持して帝国劇場でミュージカルとして初舞台化。100年余りの歴史を持つ帝国劇場と、いまが旬の大人気コミックの舞台化という、斬新なタッグが新たなパフォーミングアーツの可能性を感じさせている。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

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【STORY】
世界各国が水面下にて、熾烈な情報戦を繰り広げていた東西冷戦時代。隣り合う東国(オスタニア)と西国(ウェスタリス)の間には仮初めの平和が保たれていた。
西国の情報局対東課〈WISE(ワイズ)〉所属の凄腕スパイ・コードネーム〈黄昏〉(たそがれ・森崎ウィン/鈴木拡樹Wキャスト)は、東西平和を脅かす東国の政治家ドノバン・デズモンドと接触するため、一週間以内に偽装家族を作ってデズモンドの息子が通う名門イーデン校に《娘》を入学させる任務、オペレーション〈梟〉(ストリクス)を命じられる。〈黄昏〉は精神科医ロイド・フォージャーを名乗り、養子を探しにいった孤児院で少女アーニャ(池村碧彩/井澤美遥/福地美晴/増田梨沙クワトロキャスト)と出会う。アーニャは心を読むことができる超能力者(エスパー)で、そうとは気づかないままのロイドの心を読み賢いふりをしたため、難関イーデン校に合格できると考えたロイドは彼女を養子にする。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

ところが実はそれほど賢い訳ではないアーニャにロイドは四苦八苦させられるが、なんとか筆記試験に合格。だが次に控える面接試験に必ず「両親」揃って来るようにと指示されたため、ロイドは急いで妻役の女性を探すことに。
その矢先、2人はヨル・ブライア(唯月ふうか/佐々木美玲Wキャスト)という女性に出会う。ヨルは公務員として働く傍ら〈いばら姫〉のコードネームで密かに殺し屋をしていたが、東国では妙齢の女性が独身でいるのは不自然で、通報されるリスクがあり、形式上の恋人を探していた。心を読む能力によってヨルが殺し屋であることを知ったアーニャは、好奇心からヨルが母親になってくれるように仕向ける。恋人役を探していたヨルと、妻役を捜していたロイド、そして心がときめく「わくわく」を求めるアーニャの利害が一致し、3人は互いの利益のために素性を隠しながら、《仮初めの家族》としての生活をスタートさせる。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

だが案の定、言えないことの多い3人の日常は順風満帆には進まず、それぞれの敵や難問に立ち向かうこともしばしば。それでも《普通の家族》を装うために全力を尽くす3人は協力して、名門イーデン校の入学試験に挑んでいくが……。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

一時期、創作の世界の大人気ジャンルだった「スパイもの」は、もう作れなくなるのではないか、という観測がしきりに語られたものだ。けれども、国と国との覇権争い、なにより自分が優位に立ちたいという愚かと言ってしまうことさえ切ない人間の闘争本能は、決して衰えることはなく、2023年のいま世界はむしろ混迷の度を深めている。正直この作品のなかでアーニャが大好きなテレビアニメ「スパイウォーズ(SPYWARS)」の主人公“ボンドマン”が、この泥沼の要因をどうにかしてくれたらいいのに…と夢想してしまうことさえあるほどだ。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

そんな時代に登場したこの「SPY×FAMILY」が、瞬く間に大きな人気を獲得していったのも、だからどこかでは必然だったようにも思える。何しろ主人公の凄腕スパイ・コードネーム〈黄昏〉が、何故スパイとなる道を選んだのかと言えば、戦禍のなかただ泣くことしかできなかった幼い自分の無力を思い「子供が泣かない世界を作りたい」との思いからという、アーニャの台詞を借りれば「ちち、かっこいい」そのものの青年なのだ。更に両親を早くに亡くし弟を養うために過酷な仕事を厭わないヨルをはじめ、主な登場人物たちは等しく誰かの幸せを願い、「すべてはよりよき世界のために」黙々と行動している。ここには非常に大きな変化球の表現だが、それでも確かに理想郷と思える世界が広がっている。何よりもいいのは、そうした実は深いテーマや、祈りにも似た尊い思いが、なんともポップで軽やかなユーモアのなかで展開されていることで、遠藤達哉が目指す「スパイアクション&ホームコメディ」という、一見容易に親和しそうにない世界観が、見事に成り立っていることに感嘆する。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

そんな作品が数々のメディアミックス展開のなかで、初のミュージカル化を迎えること自体は、いずれ立ち上がる企画だろうと想像できたが、それが東宝製作による舞台になるのは正直全く予想外だった。それも100年以上の歴史を持ち、2025年に建て替えのため一時休館することが決まっている現帝国劇場の、謂わばカウントダウンがはじまっているなかで、上演されることになるのは、更に大きな驚きに違いなかった。

だが、公開された作品のプロモーション映像のスタイリッシュな完成度の高さからも如実に表れていた東宝の本気が、このミュージカル『SPY×FAMILY』の舞台から迸ってくる様には、コロナ禍の様々な困難を経てなお衰えることのない、演劇の逞しさが貫かれていた。

何しろ原作が絶賛連載中で、当然ながら物語は終わっていない。そんななかで作られたこのミュージカル版は、コードネーム〈黄昏〉が、作中で決して明らかにされることのない本名の、子供時代にただ立ちすくんで泣くしかなかった瓦解した街からスタートして、ストーリーの帰結を望むのではなく、この世界で生きる人々が胸に抱く理想と、その為に果たす役割りや、生き様そのものにスポットをあてて進行する。心の声が字幕で投影されたり、時系列が交錯する展開を巧みな切り取りで見せるなど、G2が脚本・作詞・演出を一手に引き受けたことで目的が明確になっているし、舞台の盆機構を駆使して回り続ける松生紘子の装置もこの世界観に相応しく、音楽とドラマがつながっていて、ふと気が付くと口ずさんでいるかみむら周平の楽曲と、すべてが、新たなものを生み出すチームとして機能していることが伝わった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

そんななかで、この新作ミュージカルに「攻めている」、感覚を強めたのが、帝国劇場初主演、初出演のメンバーを多く含む、キャスト陣の顔ぶれだ。
凄腕スパイ・コードネーム〈黄昏〉が仮初めの家族「FAMILY」を築いていく、ロイド・フォージャーの森崎ウィンは、あくまでも原作漫画のビジュアルという点から言えば、全体のフォルムのイメージはさほど近い訳ではない。けれども身体能力の高さと、とりわけリズム感に優れる心地よい歌声が、ミュージカルの世界のロイドとしての説得力を瞬く間に獲得していく様が実に小気味よい。ヨルに対して、アーニャに対して、更に周りの人々に対しての立ち居振る舞いに真摯な優しさがあって、「子供が泣かない世界を作りたい」ロイドの根っこをたくまずして感じさせる好演だった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

一方の鈴木拡樹は、原作ビジュアルとの親和性に優れていて、登場した瞬間にロイド・フォージャーだと感じさせる舞台ぶりが堂に入り、全体を通じた存在感がCOOL。ヨルとの待ち合わせに遅刻してきた場面や、アーニャの願いを叶える場面での「ザ・王子様」の表現は、バックに薔薇が飛んでいるような錯覚を覚えるほど。作品の世界観にベストマッチしているだけに、持ちナンバーのキーが時折あわない感覚があるのだけが、Wキャストとは言えオリジナルキャストに対するクリエイターの配慮が欲しい点ではあるものの、持ち声そのものはとても良いことも合わせ今後に期待を抱かせる帝劇初主演になった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

殺し屋という裏の顔を持つヨル・フォージャーの唯月ふうかは、少女性を強く持った本人の個性と、動いてよし歌ってよしのしっかりした俳優としての地力との良い意味のギャップが、ヨルという役柄自身が持つ、殺し屋の鋭さと、大真面目にヌケ感強めなオフのヨルとのギャップにストンとつながって惹きつける。盤石の歌唱も胸に迫った。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

もう1人のヨルの佐々木美玲は、これがミュージカル作品への初挑戦。ここまで大きなプロジェクトでの初ミュージカル、初帝国劇場でセンターに1人立つプレッシャーたるや、想像を絶するものがあっただろうが、「日向坂46」としてのアイドルの記号も持つ本人のファンタジー性と、ひたむきな一生懸命さが役柄を支えていて、自然に応援したくなるヨルに仕上がっていた。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

ヨルの弟で姉を溺愛する秘密警察官のユーリ・ブライアの岡宮来夢は、職務についているときと、ヨルに対する強烈なシスターコンプレックスの表現の振り幅が絶品で、2幕の出番は捧腹絶倒。作品の世界観に没入する能力の高さを改めて示している。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

同じくユーリの瀧澤翼は、常に柔らかい笑顔をたたえているなかで、この人に尋問されるのはさぞ怖いだろうと思わせる怜悧なものを感じさせるのが面白い。そんな彼の拠り所がヨルだけなのだということがストレートに伝わるユーリ像だった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

〈黄昏〉の後輩スパイで、「先輩を熱烈に愛している」フィオナ・フロストの山口乃々華は、出番が相当に遅く、すっかり温まった舞台に登場してくるのは力がいることだと思うが、それだけに空気が変わり、誰もが真実を明かしていない仮初めの家族であるフォージャー家のなかに、確かな絆が生まれていることを提示する役割りをよく果たしている。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

〈黄昏〉に協力する情報屋のフランキー・フランクリンの木内健人は、コミカルな表現も自在に演じて力量を発揮。色々と文句を言っているようで、実はすごく良い人なんだな、と素直に感じられる温かさのあるフランキーだった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

アーニャが入学を目指す名門イーデン校教諭ヘンリー・ヘンダーソンの鈴木壮麻は、おそらく美声という意味ではカンパニー随一の歌声で魅了したのはもちろん、俳優鈴木壮麻が元々持っているジェントルマンな気質が、エレガントを何より尊ぶ役柄に打ってつけ。フィオナ、フランキー、ヘンダーソンが、共に原作漫画から抜け出してきたようなビジュアルに、本人独自のカラーを乗せていることも頼もしい。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

更に、〈黄昏〉が所属する〈WISE(ワイズ)〉の上官シルヴィア・シャーウッドの朝夏まなとが、抜群のスタイルとダンス力で見事に場を引き締め、2幕冒頭はあたかも朝夏オンステージの趣。「こんにちは、あるいはこんばんは」からはじまるのがお決まりの指令も、やや低いトーンの声で見事にキメて、ミュージカル版『SPY×FAMILY』に欠かせない存在になった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

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そして、ミュージカル版『SPY×FAMILY』に欠かせない存在と言えば、この役柄が最たるもののアーニャ・フォージャーは、池村碧彩、井澤美遥、福地美晴、増田梨沙のクワトロキャストで、いずれ劣らぬ愛らしさぶりで作品そのものをさらっていく。まさに「子供と動物には勝てない」を地でいったかっこうだが、アーニャが愛らしければ愛らしいほど、子供が泣かない世界を作りたいというロイドの願いにこちらも深く共鳴できる、作品の屋台骨を支える役柄を、それぞれ立派に務めていることに喝采を贈りたい。できれば全体の上演時間を10分詰めて、ソワレのカーテンコールにも、最後までアーニャをはじめ子供たちが出られるといいなと欲が出るほどだが、できる年齢が限られる役柄だけに、四人のアーニャ役者にとって、この経験と、舞台から見た景色が、これからの成長に貴重なものになるよう願ってやまない。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

また、早替わりに次ぐ早替わりのアンサンブルメンバーの力も揃って高く、ダンスシーンの数々や「イーデン校の狭き門」などクラシカルなミュージカルナンバーのコーラスの厚みも美しく、一人ひとりが舞台をおおいに弾ませてくれていて、前述したように物語としては「to be continued」だけに、続編を期待する気持ちも膨らむ一方で、この舞台のなかで「すべてはよりよき世界のために」黙々と励んでいる人たちが完結せずにずっと生き続けていく気持ちになるのが美しい。

総じて「ちち、ものすごいうそつき でも、かっこいいうそつき」に象徴されたファンタジーが、劇場空間に広がることで3時間の真実になり、観た者の心にその真実が残る。そんな新しい演劇の可能性が、2023年の帝国劇場に刻まれたことをいつまでも覚えていたい舞台だった。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

【公演情報】
ミュージカル『SPY×FAMILY』
原作:遠藤達哉(集英社「少年ジャンプ+」連載)
脚本・作詞・演出:G2
作曲・編曲・音楽監督:かみむら周平
出演:
ロイド・フォージャー 森崎ウィン/鈴木拡樹(Wキャスト)
ヨル・フォージャー 唯月ふうか/佐々木美玲(日向坂46) (Wキャスト)
アーニャ・フォージャー 池村碧彩/井澤美遥/福地美晴/増田梨沙(クワトロキャスト)
ユーリ・ブライア 岡宮来夢/瀧澤翼(円神) (Wキャスト)
フィオナ・フロスト 山口乃々華
フランキー・フランクリン 木内健人
ヘンリー・ヘンダーソン 鈴木壮麻
シルヴィア・シャーウッド 朝夏まなと
ドミニクほか 楢木和也
新井海人、大津裕哉、小倉優佳、鎌田誠樹、栗山絵美、桑原柊、柴田実奈
島田彩、丹宗立峰、堤梨菜、般若愛実、深堀景介、福田えり、藤岡義樹
湊陽奈、宮野怜雄奈、武者真由、元榮菜摘、山野靖博、ユーリック武蔵、LEI’OH
●3/8~29◎帝国劇場
〈料金〉S席15,000円、A席10,000円、B席5,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/spy-family/

【全国ツアー】
●4/11~16◎兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
〈料金〉S席15,000円、A席10,000円、B席5,000円、C席3,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800
●023/5/3~21◎博多座
〈料金〉A席15,000円、B席10,000円、C席5,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉博多座 092-263-5555

 

【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部】

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