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「吉例顔見世大歌舞伎」で初代中村莟玉として名乗り披露! 中村梅丸インタビュー

歌舞伎の未来の一翼を担う若手花形が、新たな名跡で11月歌舞伎座公演に臨む!
昔は「芝居の正月」といわれ、11月からの1年間を飾る顔ぶれを紹介する重要な公演だった「顔見世」。現在も11月の「顔見世大歌舞伎」は、豪華な顔合わせで行われる。

この「吉例顔見世大歌舞伎」の夜の部「菊畑」にて、その端正な容姿と行儀のよい舞台で人気の若手花形・中村梅丸が中村梅玉の養子となり、「初代中村莟玉(かんぎょく)」と名を改め披露することが決まった。「莟玉」の名前の由来は、「莟」は師匠・中村梅玉の養父である名女方・六代目中村歌右衛門が若き日に行った自主公演「莟会(つぼみかい)」からで、「まだ開かない花の芽、前途有望だがまだ一人前になる前の若者」の意味。「玉」はもちろん梅玉の玉で、「宝石のように美しい、天子や他の人の尊ぶ事」の意味。歌舞伎に真摯に取り組み、誠の花を咲かせた六代目歌右衛門に少しでも近づき大輪の花を咲かせてほしいとの願いがこめられた名前だ。

『菊畑』奴虎蔵実は源牛若丸=梅丸改め中村莟玉

披露の役は、梅丸の師・中村梅玉が得意とする虎蔵(実は牛若丸が名前を変えて正体を隠している)。虎蔵が入り込んだ館の主・吉岡鬼一に奉公する奴・智恵内(実は牛若丸の臣下で、幼少の頃に別れた鬼一の弟)役を梅玉が、虎蔵に恋する鬼一の娘・皆鶴姫を、梅玉の弟であり梅丸にとって女方の師匠でもある中村魁春が演じる。通常ではとうてい考えられない大抜擢であり、挑戦的な配役だ。

9月下旬、師匠の当り役で自身もずっと憧れてきた虎蔵役で、新たな名跡を名乗ることになった中村梅丸にインタビュー。改名にあたって感じた驚きや戸惑い、喜びなどの入り混じる胸の内、公演に臨む心境、歌舞伎俳優としての師匠の魅力、一門への思い、今後の目標などについて語ってもらった。

莟玉」への改名は自分が切り換わる良いきっかけ

──「梅丸」という名前もあと1ヶ月ちょっと、寂しさもあるのではありませんか?

かなり寂しいですね。13年間名乗らせていただいた名前とお別れするという実感が全然ないです。今はまだ「中村梅丸です」とサラッと言えてしまいます。

──「莟玉」という新しい名前については、どう思いましたか?

最初に聞いた時はすごくビックリしました。「玉」はわかりますが、「莟」は「どういう字ですか?」と聞いたら「莟会(つぼみかい)」の「莟」。それを「かん」と読むのは初めて知りました。やはり「梅丸」という名前は、皆さんから親しみをもたれやすい、すごく自分に合った名前だと思っていましたが、自分のなかで切り換わる意味では良いきっかけだと思います。

──会見でも「忘れられない光景」と仰っていましたが、最初に梅玉さんからお話があった時は?

その月は僕だけ歌舞伎座に出させていただいて、師匠は別の劇場でしたが、千穐楽にご飯に行こうと誘ってくださいました。ご飯を食べていたら、その前に名題試験を通過していたので、まずは名題披露をというお話になり、当時はまだ大学生なので、大学を出てから披露しようと思っていると。「梅丸」も幼名だからそれも変える。その時点ではまだ「莟玉」とは決まっていませんでしたが、部屋子としてではなく、「(梅玉の)養子ということにして披露しようと思っているんだけどね」という感じで仰って。「はい、そうですか…」というリアクションしかできませんでした。当然ですが名題披露は自分で決められることではありませんし、どのタイミングでということも想像していませんでした。ですから、ついにそれが叶うという喜びのあまり戸惑いもありました。

『菊畑』左より、奴智恵内実は吉岡鬼三太=中村梅玉、奴虎蔵実は源牛若丸=梅丸改め中村莟玉

及ばないとわかった上で挑む虎蔵という役

──ずっと梅玉さんが大事になさっている虎蔵役で披露されることについては?

演目も当然お考えなのだろうとお任せしていました。奥様が「(梅玉は)「菊畑」がいいと言っているんだけどね」と。それは冗談として仰っているんだろうなと私は受け取りました。まさか「菊畑」で披露させていただけるわけがないと。その後、演目について私がちゃんと聞いたのは、8月の一門会(高砂会)の1日目の夜でした。みんなでお食事をして、最後に車を待っている時に師匠とふたりきりになる時間がありました。会見の日にちが決まったタイミングでしたので、支度の話をしていて、肝心な演目のことを知らないままでしたから、伺ったら「菊畑」と。「ええ…!?」と思いつつ、私は今女方も勉強させていただいているので、皆鶴姫の可能性もあると思っていたら、「あなたが虎蔵で、僕が智恵内で」と。あまりに驚きすぎてビックリもできませんでした。

──それだけ期待が大きいのだと思います。

本当にありがたいことですし、自分の力だけでは到底させていただけないお役ということがここまではっきりしていると、逆に気負うとかの次元ではないので、そんなことは考えなくていいというメッセージかなと思っています。させていただくからには、もちろん精一杯勤めるのは当然ですが、今の私では太刀打ちできないという認識はあるので。

──虎蔵は「美男の16歳」というイメージで、梅玉さんの舞台もご覧になっていたと思いますが、どんな風に演じたいですか?

やはり私のなかで、虎蔵もそうですが前髪の二枚目の立役は完全に師匠のイメージですので、そこを追い求めたいというのが第一にあります。若い私が若いお役をやるからぴったり乗っていいね、とはならないのが歌舞伎の難しさだと思います。あらゆる前髪のお役は徹底的に師匠として脳内再生されるので、及ばないということがわかりつつ、どれだけ挑めるか。こういう機会をいただかないとなかなか教わることができないお役ですので、すごく幸せです。

──台本などはまだ?

まだですが、およそ台詞などはわかっています。最初に私が師匠の「菊畑」を観たのが2012(平成24)年12月の国立劇場で、その前から映像では観ていましたが、拵えをして出ていくところを袖からずっと観ていて、そこではっきりやりたいお役になりました。師匠の得意としている若衆のお役に対する憧れはありましたが、具体的に「これは絶対やりたい」と思ったのはこれが最初だったと思います。

──具体的にそう思ったのは、どういう部分ですか?

私が師匠に心惹かれるのは、あの雰囲気、風情、そこにすべてが行き着くのですが、やはり唯一無二だと思います。弟子の私が言うのもおかしいですが、師匠にしか醸すことができないものがあるんです。憧れている分、難しさがよくわかるし、そこにやはり惹かれるんですよね。

──風情や佇まいが大事?

そうです。そこに至るまでの、師匠が積み重ねきたものが当然あるので、それを自分のなかに落とし込むのはさぞかし難しいだろうなと。やはり回数を重ねているうちに作り上げてきたもので、師匠も悩んで悩んで作り上げられた。それが今度は悩ませる側に回られて、まんまと我々は悩んでいるのですが(笑)。師匠の『吉野川』の久我之助(こがのすけ)や『太功記』十段目の十次郎、『鈴ヶ森』の権八などが、私はとても好きで観ていたいんです。観たいし、それだけ観たいと思っていると自分もやりたくなってくるんです。

女方としてもチャンレジの場をいただけたら嬉しい

──今後もそういう二枚目若衆、女方の両方を大切に?

そうですね。こればかりは、憧れているからといって、やってみて「違うね」となってしまったらさせていただけませんから。歌舞伎はニンがすごく大事ですし、どれだけ自分で思い描いても、お客様に観ていただいてどう思っていただけるか次第なんです。でも「やりたい」という意思は持っていないとなかなか漕ぎつけることができないので、それは師匠に伝えておきたいと思いました。欲張りですが、せっかく立役は師匠に、女方は(中村)魁春旦那に教えていただける環境にあるので。そのうえで、お客様がご覧になって受け入れてくださるなら、師匠のお役は、立役も他のお役もいろいろ勉強したいものはありますから、それをできるようになっていけたらという夢はあります。

──立役と女方は、それぞれ演じていてどういうところが楽しいですか?

立役は、小さい子のヒーローイメージみたいなもので、ただ憧れているという部分だと思います。私は根っからの男で、女方さんにはどこか細やかさがあるのですが、師匠から「お前にはそういうものがまったくない」と。女方さんのそういう気配りがまったくできない、立役脳だと(笑)。確かに自分でも自覚するところがあります。こういう見た目なのでやれるお役は限られますが、いろいろな立役ができたら楽しいだろうなと思います。

──会見で「自分の体に入れたい役」として虎蔵や『白浪五人男』の赤星十三郎(会見後の「研の會」で初役を勤めた)などを挙げましたが、女方では?

例えば、女方の大役の揚巻(『助六』)や八ツ橋(『籠釣瓶』)、八重垣姫(『本朝廿四孝』)などの三姫を映像などで観ていても、意外と二番手的な役に惹かれます。

──『助六』だと白玉ですか?

「白玉って良いな…」と思うタイプなんですよね(笑)。『籠釣瓶』だと九重、『廿四孝』だと濡衣とか、なんとなくそう思います。やらせていただけるなら、当然大きいお役もさせていただきたいですが、私はこういうキャラクターなので娘役。あとは、私は踊りが好きなので、女方の踊りができるというのが、自分のなかで女方をする意義としてあります。

一門のパワーとして貢献することが精一杯の恩返し

──歌舞伎の家ではないご出身で、小さい時からずっと憧れてやってきた。そこにブレはなかったですか?

そういうことで迷わなくていいように、自分が楽しいと思う気持ちを大事にさせていただける環境を、師匠が一門の方たちと作ってくださったと思います。やはり今の一門の人たちのお人柄があったから披露をさせていただける。私としてはこの要素のほうが大事で、自分が居させていただいた環境が良かっただけのことで、自分でしたことはほとんどないです。

──部屋子になって以来、いろいろなお稽古などで枠を広げてきたのは、自分の意思もあったのでは?

お稽古事は全部師匠が決めてくださったのですが、やらせていただくとすごく楽しくて。舞台がない月でもお稽古はできる。そういうことで楽しいと思える時間を、師匠が継続的に作ってくださった。子役から大人の役になる上で、1年に1ヶ月くらいしか舞台に出られない時期が必ずありますが、その時期もすごく楽しく過ごさせてもらいました。

──梅玉さんからいろいろな教えがあると思いますが、そのなかで一番大事にしていることは?

師匠は「こうしなきゃだめだよ」などとは仰らず、ただ「役者は舞台が行儀よく勤められないとダメなんだよ。だから普段から気をつけなさい」と。あとは「歌舞伎座の舞台のサイズに合った役者を目指しなさい」、上手く器用に縮こまるのでなく、下手でも出てきた時に舞台一杯に広がる、大きさのある役者になってほしいと。それは大旦那(六代目中村歌右衛門)からの教えとして常々仰いますし、そのためにはのびのび楽しんで勤めなさいと仰ってくださいます。

──初舞台から15年ですが、昔の歌舞伎座も新しい歌舞伎座も知っている。この世界に入ったタイミングも良かったのでは?

そうですね。大旦那にお会いすることができなかったのは、自分のなかではすごく心残りですが、このタイミングだったから今こうさせていただけている、それは間違いありません。同世代の先輩方が可愛がってくださり、仲良くしてくださっているというのも、自分から作り出せることではなく、たまたまそういう風に受け入れてくださる方が揃った状況で、この世界に入ることができた。それだけですね。そういう全てが今回のことに繋がったと思っています。

──「菊畑」の幕切れは、梅玉さんと魁春さんに挟まれますね。

もう徹底的な布陣ですよね(笑)。それは一度体験しておりまして、『日本振袖始』の時も、最後は三人で、一応七体の(蛇の)頭もありますが、役としては三人でした。自分がこの一門の一員としての力をこの先どれだけ発揮できるのかということを、よくよく感じながら楽しんで勤めたいと思います。やはり、一門に自分のパワーが活かせるようになることが僕のできる精一杯の恩返しだと思います。でも環境に対する恩返しはすごく難しい。おひとりおひとりにお返しできることは、時間も限られています。師匠が120歳まで生きてくださったら嬉しいし、そういう長生きの薬があったらこっそり入れておきたいですが(笑)。自分がお返しできるものは、一門にどれだけ自分が貢献できるかだと思うので、「菊畑」はそれを覚悟する幕切れだと思います。

──古典だけでなく、『NARUTO─ナルト─』や孫悟空(『続・新説西遊記』)などにも挑戦しています。そういう新作にはこれからも?

そこは師匠のすごくフレキシブルな考え方をもっている部分で、ご自身も新作に対して関わることにすごく能動的です。『NARUTO』にも出ちゃうんだ!という感じでしたが(笑)、実はすごく楽しんでお勤めになる。もちろん古典をきちんとやるのは当然。私もそういう立場ですが、新作に対してもまず理解がありますし、これから先も私がそういうお話をいただいた時、きっと「これをやることで勉強になる」と思ってくださったら、新作にも出させていただく機会はあるかなと思っています。


なかむらうめまる○1996年生まれ。2005年1月国立劇場『御ひいき勧進帳』の富樫の小姓で森正琢磨の名で初舞台。2006年4月、中村梅玉の部屋子となり歌舞伎座『沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)』の小姓神矢新吾、『関八州繋馬』の里の子竹吉で中村梅丸を名乗る。2019年11月歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」にて初代中村莟玉(かんぎょく)を名乗り披露する。

【公演情報】
「吉例顔見世大歌舞伎」
[昼の部] 11:00~  『研辰の討たれ』『関三奴』『梅雨小袖昔八丈 髪結新三』
[夜の部] 16:30~  『鬼一法眼三略巻 菊畑』『連獅子』『江戸女草紙 市松小僧の女』
出演◇尾上菊五郎 中村梅玉 市川左團次 片岡秀太郎 中村魁春 中村時蔵 中村鴈治郎 中村芝翫 松本幸四郎 尾上松緑 ほか
●11/1~25◎歌舞伎座
〈料金〉1等席18,000円 2等席14,000円 3階A席6,000円 3階B席4,000円 1階桟敷席20,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489または03-6745-0888
https://www.kabuki-bito.jp/sp/

 

【取材・文/内河 文 写真提供/松竹】

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