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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】クレイグ・ポスピシル『人生は短い/月日はめぐる クレイグ・ポスピシル戯曲集』

植本 今回は、クレイグ・ポスピシルさん。月城典子さん翻訳の『人生は短い/月日はめぐる』。
坂口 1963年生まれ。世代で言ったら、小劇場出身で今バリバリ活躍してる人らへんのね。
植本 ニューヨーク出身のイケメン風な方ですよね。これどうやって見つけたんだろうと思って。全然お名前も知らないし。
坂口 而立書房さんが送ってくださいました。いただいた本ってほとんど読まないんですけども、コレに関してはなんかパラパラってみていたら。
植本 声を大にして言いましたね。いただいた本は読まない。
坂口 (笑)。

植本 これね、全部短編なんですけど2ブロックあって、『人生は短い』の方はそれぞれの関連性はないんですけど、子供から老人に向かっていく話で。『月日はめぐる』の方は12ヶ月の話。多少モチーフが似ている話もありました。
坂口 はい。
植本 この方、作家さんがNY在住でNY大好きな方ってことで。印象としては、うーん、80年代90年代とかによくあった映画のラブコメディに手触りが似てましたね。
坂口 そうですね。
植本 で、ほら、言葉あってるかわからないけど、グランドホテル形式でしょ?
坂口 それが、年代別に何となく分かれていくというか。
植本 『人生は短い』の方はそうですね。ひとつひとつが短いから、ワークショップとかにすごく適してるな、と思いました。
坂口 それぞれの話にドラマがあったりしますしね。
植本 日本では岸田國士の『紙風船』みたいな。
坂口 あー。岸田のような湿り気はないですけどね。
植本 『人生は短い』のほうは、ファンタジー色が強いですよね。
坂口 小劇場風になってるというか。僕はそっちの方がおもしろかったですね。最初の二つをまず読んで、これは植本さんと出来るな、と思って本を送りましたが、どうですか?
植本 おもしろかったです、作品数が多いからその中でも優劣はありますけどね(笑)。登場人物が多いのもあれば、一人っていうのもありましたね。
坂口 とりあえず『人生は短い』の中からいくつかを選んで、登場人物やあらすじを確認しながら、話を進めてみましょう。

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『階級闘争』
【登場人物】
ビリー 6歳、ただし大人によって演じられること。
メーガン・デヴェニー 6歳、こちらも大人によって演じられること。

【場所】教室

【時】学校初日

【ト書き】
教室、小さな子供サイズの座席。ビリー、年齢6歳(ただし、大人によって演じられる)が椅子の一つに座って待っている。しばらくして、メーガン、同じく6歳(こちらも大人によって演じられる)が登場。ビリーは、カジュアルな、いかにも6歳が着ていそうな服装だが、メーガンは、小さな弁護士といった服装。彼女は、革製のブリーフケースのように見えるランチボックスを下げている。彼女はつんとすまして部屋に入る。ビリーは彼女を見守る。

ビリー やあ。
メーガン はじめまして。
ビリー (少しの間)なあに?
メーガン 「はじめまして」と申しましたの。
ビリー ああ。(間)僕の名前はビリー。
メーガン 私はメーガン・デヴェノーです。
ビリー ああ。(間)君、こわい? 僕はちょっとこわいかな。ママがここにいてくれたらいいのにな。ママが言うにはさ、学校の初日なんて何も心配することなんかないって。でも僕はこわいな。
メーガン 自分の恐怖心を人に見せてはいけません。
ビリー ああ。(間)何?
メーガン 常に大胆にふるまい、クソ野郎っていう態度を見せなければ。
ビリー ねえ、そんな言葉づかい人に聞かれないほうがいいよ。
メーガン なんですって、クソ野郎のこと?
ビリー やめてよ! 僕たち困ったことになっちゃうよ。
メーガン なぜ?

坂口 大人が6歳の子どもを演じるっていう設定で。
植本 子どもらしい男の子と、ませた女の子の二人芝居ですね。
坂口 会話がちぐはぐだったり、折り合いが付いたような、そうでもないようなね。全体的にそういうのがこの人は上手な人なのかな。
植本 そうですね。軽いオチ的なものが最後に来る。
坂口 この話でも、女の子が汚い言葉や妙に論理的なことを言ったりして、ただの日常の話ではないユーモアがうまく入ってきます。
植本 短編ながらきちんと山がある。上手ですよね。
坂口 小劇場が面白かったころのお芝居のようで、大人がわざと子どもを演じて、それを含めて作品を楽しむ。みたいなね。

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『崖っぷち』
【登場人物】
ジーン 17歳、高校生、繊細
サミー 17歳、ジーンのクラスメイトの女子高生、「なんでもお見通し」タイプ

【場所】
ニューヨークのアパートの外壁にある窓枠と窓

【時】
初秋

【ト書き】
夜、十七歳男子のジーンは、ビル外壁の出っ張りの上に立っている。そこは空中の十階である。彼はビルの壁に貼り付いており、筋肉ひとつ動かしてはいない。彼はしょちゅう眼下の通りに目を走らせては、また顔を上げる。彼から数フィートのところにぼんやりとした光が開いた窓から漏れている。部屋の中からはロック音楽と会話の切れ端が時々聞こえてくる。しばらく後、十七歳女子のサミーが窓に姿を見せる。彼女は火のついていない煙草をくわえ、紙マッチからマッチを一本引き抜く。何度かマッチを擦ろうとするが、火はつかない。彼女は窓からマッチ棒を放り投げる。そしてジーンに気づく。長い間。彼らは互いを見る。

植本 1話目の6歳から、この2話目は17歳という設定ですね。
坂口 パーティ会場の10階のビルの窓の外に男の子が立っていて、ふと女の子が窓の外を覗くと男の子がいるのに気づいて、二人の会話が始まります。飛び降りようとしている男子は別の女子が好きなんだけど、告白できなくてみたいなね。
植本 女の子が止めるのかな、と思いきやそうでもなくね。「死にたいなら死になさいよ」みたいなスタンスでね。最終的には女の子も窓の外に出て、風に吹かれながら良い感じで終わります。
坂口 友人や親たちのことを話している内に、お互いの距離が縮まってね。可愛らしい話でしたね。

(前略)
二人はしばらく黙る。

ジーン 僕の両親は頭がおかしいけど・・・そんなふうではないな。
サミー いいわね。
ジーン 部屋に戻りたい?
サミー もうちょっとしたらね。ここって楽しいよね。
ジーン 風が吹くと気持ちいいよ。
サミー そう?
ジーン うん、待って・・・ほら来た。

二人はそよ風を感じながらそこに立っている。風が少し強くなり、二人は腕を広げて壁を支えにする。二人の手が触れ、二人は笑い、驚いている。互いの手を取り、次に来る風を待つ。照明溶暗。(幕)

植本 このお芝居は高層階を感じさせなきゃいけないね(笑)。
坂口 観てる方がハラハラする。面白かったです。

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『なんだっていいわ』
【登場人物】
ジェシカ 20代から30代前半
リズ 20代から30代前半

【場所】ジェシカのアパートのリビングルーム

【時】現在

【ト書き】
薄暗いリビングルーム、カウチとコーヒーテーブル、テレビとDVDプレーヤーなどがある。ジェシカが部屋に這ってくる。手にはテニスラケット、すぐにも球を打てるように持っている。彼女は、部屋の一方の暗い隅から別の隅へと鋭く目をやる。部屋の中へ非常に慎重に二、三歩足を踏み入れる。リズが部屋に入ってくる。テニスラケットをなにげなく脇にはさんでいる。彼女は明らかに部屋にはなんの危険もないと考えており、友達に対して少し怒りを感じている。

坂口 20代〜30代前半の女性二人の妄想劇?
植本 一人の女性が部屋に鳩がいるって怖がってますね。
坂口 妄想なんですけどね。で、友達の女の子が入ってきて、なだめるというか諭すというかしていると、好きな男性の話になって、
植本 この女性がストーカー化してるんですね。
坂口 そうそう、元恋人を追いかけてる。そこの会話は面白いよね。

(前略)
ジェシカ 電話じゃないの。あったのよ。
リズ どこで?
ジェシカ 道で。
リズ で、何て言ったの?
ジェシカ 初めに「愛してるわ、デヴィット」ってわたしが言ったの。
リズ まあ、ジェシーたら・・・で、それに対して彼は何て言ったの?
ジェシカ 何も。
リズ やっぱり! ほらね? あなたが「愛してる」って言ってるのに、彼はそれに答えもしない。もう終わったのよ。
ジェシカ 彼にわたしの声が聞こえてたどうかはっきりしないの?
リズ どういう意味? なぜはっきりしないの?
ジェシカ (少しの間)道の反対側にいたから。
リズ いやいやいやいや、どこで会ったか聞いてるの
(中略)
リズ どのくらいの間、彼をつけたの?
ジェシカ ちょっとの間だけよ。
リズ どのくらい?
ジェシカ わからない。二、三時間ぐらい。
リズ 何?!
ジェシカ わかったわよ、六時間。でも同時に用事をこなしていたわ。
リズ ジェシカ! それはストーキングよ! そんなことしたら、すごく困ることになるわよ。
(後略)

植本 最初はジェシカが精神的におかしんだろうなって思わせておいて。二人の話の中で最初はまともそうに見えるリズの方が、だんだんおかしくなっていく。
坂口 妙なユーモアが漂ってる感じがするんですよね〜。最後になると立場が、
植本 逆転する。
坂口 説得してたほうに妄想が見えてきて、
植本 まあその、ちょっとおかしいかなって思われてた女性から、「あんたの彼氏」みたいなプライベートなことを言われて、そこからズレていくんですけど。
坂口 立場が逆転する。
植本 『ティファニーで朝食を』のビデオを観るか、観ないかが何度もでてきますね。
坂口 そこら辺は二人の状況?心境?のヒントになってるんでしょうかね?
植本 かたや一回観て充分って言うまともな女性と、「何言ってんの何べん観たっておもしろいじゃない」って勧めるちょっとおかしい女性。
坂口 意味ありげですね。
植本 女性が二人で演じるのに違いがでていて面白いですね。これテキストとしても良いと思います。

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『ママと呼ばないで』
【登場人物】
トリッシュ 20代〜30代、看護師
ステファニー 30代、裕福で、権利を主張するタイプ
フィリップ 30代、ステファニーの夫、彼女と同様
ウォーデン 30代から40代、有能で率直

【場所】病院の受付のフロントデスク

【時】現代

【ト書き】
病院の受付。ひとりの看護師、トリッシュが中央カウンターの中にいて、書類作業をしている。ステファニーが入ってくる。彼女は高級店の大きな紙袋を持っている。

ステファニー あの、ちょっと。
トリッシュ はい、なにかご用でしょうか。
ステファニー ええ、返品したいものがあるの。
トリッシュ 返品?
ステファニー 二、三週間ほど前にここでいただいたんですけど、私向きではなくて。あまり気に入ってませんの。

ステファニーはカウンターに紙袋を置く。トリッシュはそれを見て困惑。

トリッシュ 奥様、ここは病院ですので。
ステファニー ええ、わかってますわ。私の名前はステファニー・ハケット。三週間ほど前にこちらにおりましたの。そのときこれをいただきましてね。
トリッシュ (彼女は袋の中を見る)奥様、それは・・・なんてことを! これは赤ん坊じゃありませんか。
ステファニー お手数をお掛けして申し訳ないんですけど、私、投資銀行の行員でしてね、おわかりかしら、それをオフィスに持って行ってもいいと思ったのですけどね。かわいい抱っこひもか何かに入れてね。でも私が働いている間、隅っこにただじっとしてめそめそ泣いてばかりいられたんじゃ、仕事に集中できないんです。それに主人も私もしょっちゅう仕事の出張で出かけますの、でね。返品しますので返金していただきたいの。
トリッシュ なんのお話でしょうか?
ステファニー あなたの耳は大丈夫? この赤ん坊を返品したいの。
(後略)

坂口 これは変な話でした。エリートの夫婦が自分達が産んだ赤ん坊を出来が悪いからって病院に返しにいく。
植本 泣いてばっかりだし排泄してばっかりいるから「こんなつもりじゃなかった」って言って病院に返すだけじゃなくて、返金しろって言いますね。
坂口 勿論受付の看護師は呆気にとられて「そんなことはダメだ」って言うんだけど、相手は聞く耳持たない。でも相手が弁護士に相談したら「それはちょっと」。
植本 「裁判に勝てそうにない」と。当たり前なんですけど。
坂口 そこに病院の管理者的な人が出てきますね。病院のミスで別の赤ん坊が亡くなっちゃったって、
植本 その人がふとひらめくんですよね。要らないって言ってる赤ちゃんを・・・取り替えるというよりは・・・
坂口 この人、親切心で言ってるんじゃないんだよね。
植本 賠償とかの問題が起きると困るからとか。
坂口 ミス隠そうっていう意図があって。丁度良いからってその返品の赤ん坊を使おうよって。看護師はすごい抵抗するんだけど、そうなりそうになるんですよね。で、最後は多分その看護師が、連れて逃げる?
植本 予感をさせる「私がママになります」って。
坂口 これは突拍子もないような話だけど、全然ありそうなっていうか。
植本 別役実さんっぽいですよね。
坂口 今あっても不思議はない、みたいに僕は受け取りました。
植本 のっけからおかしいですからね。段々変になるんではなくてね。赤ちゃん返品するって。
坂口 費用も返せって。でもさ、クレームの付け方ってこれに近いような気がするんすよ。
植本 アメリカ人が?
坂口 いや日本。世の中全体が。これはさすがにオーバーなシュチュエーションにしてるけど、展開としては僕はこれが一番リアリティがあったかな。
植本 私がママだよって言う看護師さん。果たしてこの人も善なのかどうか。
坂口 でも流れとしては色んな理不尽な出来事に逆らって、赤ん坊を大切にしたいっていう気持ちをもってる人。じゃないの?
植本 そう思いながらもね。
坂口 なかなか意地悪だね植本クン(笑)。
植本 (笑)。いやいやこの人そんなにいい人かなって思って。ふっふっふ。これ面白いし、やりがいがあります。世界観が大きくなってきてる。

・・・・・・・・

『母の愛』
【登場人物】
メリッサ 30代〜40代

【場所】あいまいにしておく。後に明らかになる。

【時】現在

【ト書き】
メリッサが、古めかしいスーツを着て登場する。観客に向かって暖かく微笑む。

メリッサ 我々の子供たちは保護されなければなりません。そうですよね? そして親というものは子どもを害から守るためにはなんだってしなければなりません。(少し間)ダ・ジ・ヅ・デ・ドラッグはそこらじゅうに存在し、そして私は─あの、すみません。私のおチビさんがこの場にいるので、私は暗号で話さなくてはいけないのです。
(後略)

植本 これね、訳注がついてるんですけど、日本語にする難しさがあって。
坂口 変な言葉っていうか。
植本 ドラッグとかセックスとか色々出てくるじゃない。ガンとかナイフとか。それが向こうの原本だとアルファベットをバラしていう。たとえばDRUGSをD、R、U、G、Sとか。それを日本語に訳すときにダ、ジ、ズ、デ、ドラッグ。翻訳の月島さんすごく苦心されたと思うんですよ。でもこれはね、難しいですね(笑)。
坂口 難しいですね。そこでとまどっちゃうっていうか。一回ドラマが止まっちゃうっていうか。
植本 法則性が、かきくけ、だじづで、とかにしたときに生まれるかっていうとそうでもないのでそこは難しいですね。圧倒的にアルファベットで喋った方が面白いですね。なんのことを話してるかよくわからないでしょうけど(笑)。
坂口 最初は一人芝居で何を主張してるのかわからないっていう設定で始まって行くんですね。で、段々、自分は学校が危険だから娘を学校に行かせたくない。自分の家に置いておいて教育したいと主張したら、夫が反対するんで夫を殺してしまった。
植本 子どものためにね。
坂口 だから自分は無罪だ。って裁判所で訴えている、
植本 発言しているところです。
坂口 っていうのが最後の方でわかる。だから最初は「何言ってんだろうこの人」ってところで始まるんですね。それもちょっと面白い設定だなって思うんですけどね。

・・・・・・・・

『最後の十二月』
【登場人物】
女 年配の女性、優しい
男 彼女の夫、辛辣

【場所】彼らの家の居間

【時】12月の寒い夜

【ト書き】
年配の男女が居間に座っている。外では突風の吹く音が聞こえている。女は新聞を読む。男は、かつてはがっしりとした体型だったがいまは痩せており、テレビのそばの椅子に座ってフットボールの試合を見ている。テレビの音量は大きいが、男は音がよく聞こえるように片手を耳に当てている。電話機と分厚いリングバインダーがそばのサイドテーブルに置いてある。女は男をちらっと見て。それから腕時計を見る。

女 そろそろ出かける時間ですよ。

男は返事をしない。

女 ニック? おとうさん?
男 何だ?!
女 そろそろ時間ですよ。
男 わかってる!

男は動かず、テレビを見続ける。女は新聞を置いて、関節の痛みと闘い
ながら立ち上がる。
(後略)

植本 サンタクロースの話でしたね。
坂口 老後ですね。最初分かんないですよ。
植本 全然わかんない。
坂口 お年寄りの夫婦がくたびれて、でもどっかに出かけなきゃいけない。
植本 もうね(笑)。
坂口 痩せてんだよね、男の方が。奥さんがそれなりに励ましたりする。すごく素敵だと思いますよ。
植本 そうね。
坂口 無理に促さない。「あんた行きなさい」みたいなんじゃなくて。徐々に行ける状況にしていく会話がとっても良いかなって思ったんですよね。
植本 サンタクロースの衣裳がもはや古びていて、歳をとっていったから、サイズが合わなくなってる。昔は恰幅が良かったと思うんですよ。そこら辺は面白かったですね。
坂口 でも出かけるんですね、最後。
植本 はい。「わかった。もう出発しよう」、で終わってます。
坂口 なかなか。12月の話ですよね
植本 これ本当に良いですよ。リストを渡すんだけどもはや老眼で見えないって言って(笑)。

(前略)
男はリストを持ち上げ、めがねを合わせて読もうとする。

男 こんなもの読めやしない。
女 まったくですか。
男 だめだ、何も見えん。(少しの間)お前が来てこれを読むのを手伝ってくれないと無理だな。
女 ・・・あなたと一緒に? ええ、もちろん、お待ちになって。コートを取ってきます。

彼女は急いで部屋から出て行き、少しして冬用のコートを羽織りながら戻っ
てくる。男は彼の大きなポケットの一つに手を入れて、明るく光る包装紙と
カールしたリボンのついた小さな包みを引っ張り出す。男はそれを女の方に
差し出す。

男 これはお前にだ。
女 でもまだ早いですわ。
男 いいや。お前が最初の配達場所さ。
女 まあ、ありがとう。
男 開けないのか?
女 ええ、朝まで待ちます。
男 わかった。もう出発しよう。

女は男の手を取る。

女 メリー・クリスマス。
男 メリー・クリスマス。

坂口 いいですね。可愛らしいお芝居になってます。
植本 おじいちゃんおばあちゃんの役者さんで観たいですね。
坂口 いろんな方の組み合わせでできそうですね。

・・・・・・・・

坂口 ここまでが前半部分の『人生は短い』。これだけ並べてくれれば、1月〜12月までって揃えてくれなくても、なんか・・・
植本 ・・・次の『月日はめぐる』を語る気がないでしょ(笑)。
坂口 ないです(笑)。一応メモはしたんですけどね。
植本 こっちは最初に相関図がありますけど。登場人物たちが色んな話にちょいちょい顔を出すのでね。
坂口 それを追っていくと余計わかりずらくなりません?
植本 役者さんが演じたら分かりやすくはなると思いますけどね。『人生は短い』に比べると『月日はめぐる』の方が話が具体的なんですよね。
坂口 それを繋げてみて、イメージしなきゃいけないって強迫観念があるからね。
植本 書いてる方も、読む方も整合性をとろうとするから。そこが嫌なんでしょ?
坂口 うん。やだっていうか、よくわかんなくなっちゃう(笑)。『人生は短い』の方がダイナミックかな。
植本 『人生は短い』の方が一本一本独立していて関連性はないからね。
坂口 関連性はないけど、最低限、底を流れている“何か”があると受け取りやすいと思うんですよ。相関図までつけて整理していくとかえって面白くなくなっちゃうっていうね。
植本 (笑)。
坂口 言い過ぎですかね?
植本 この作家さんにとっては代表作なんでしょ?『月日はめぐる』の方が
坂口 まあね。代表作が必ずしもっていうことも・・・。受け取る人間の違いもありますけどね。
植本 そうね。1月から2,3,4って12月まで、一本一本独立してるんですけど関連づいてて。最後12月まで観たときに、それで? って思うかもしれないですね(笑)。
坂口 でもこっちもね。それぞれの場面で面白い話が結構ありました。
植本 それと翻訳の月城典子さんが、すっごい愛着をもって、苦労されて、訳してますよね。こういうちゃんとした単行本になるってすごいことでしょ?
坂口 特に外国の戯曲でね。なかなか。だってさ、これさ、大変よ、売れないでしょ?
植本 (笑)。
坂口 何かのきっかけなきゃ買わないから。そういう意味ではね。出版社の気概を感じましたね。
植本 日本の教育の現場とかでは、シーンスタディみたいなことで、こういう作品は求められてるんだと思うんですよ。とても良いと思いますし、プロの方が演じても勿論面白いと思いますしね。

(編注)ト書き、台本部分などは『人生は短い/月日はめぐる クレイグ・ポスピシル戯曲集』(而立書房刊)より引用。

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

 

 

 

【出演情報】

 

 

 

 

 

 

 

 

渡辺源四郎商店第33回公演 Presents うさぎ庵 Vol.14

『コーラないんですけど』
4/28(火)のみ出演
ザ・スズナリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾 『ジョン王』

【埼玉公演】
6/8(月)~28(日)
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

【名古屋公演】
7/3(金)~6(月)
御園座

【大阪公演】
7/10(金)~20(月)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

 

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

 

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