【小野寺ずるの女の平和 WEB】第2回 画家:谷原菜摘子
役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。
画家 谷原菜摘子
フラッと立ち寄ったギャラリーで観た絵に、圧倒された梅雨の日。
火をつけても燃えなそうな絵に、心の準備もないまま囲まれた。
純粋な不穏。危険すぎる純度。一度見たら忘れられないとはこういう物だろうか。
「正気の沙汰ではない」に私の好奇心は止まらない。
生粋の画家・谷原菜摘子さん・・・はじめまして!
(※2021年6月取材/撮影)
彼女の創世記
谷原 子供の頃から絶対に画家になりたいと思ってました。
ずる 絶対に・・・
谷原 はい。小学校の頃は図工の絵を家に持って帰って描いたり、休み時間も描いてて、教師がひいてました。
ずる どういう物から絵を描き始めたんですか?
谷原 最初は女の人の顔でした。私の好きな、描きたいと思える顔をしてる友達の顔とか。
ずる 今日谷原さんとは初めましてなんですが、メールではやりとりをしていて。そこで、谷原さんの「自分自身でも絵を拡めていこう」という姿勢が素晴らしいなと感じました。拝見したインタビュー動画では相手に分かりやすいようにご自身で言葉を整理されていて、どうせ伝わらない、別に知られなくてもいいって皆が諦めてしまいそうなことも諦めず、こちらに向かい合って開いてくれる。絵を見た時は「どんな怖い人なんだ」とビビったけど・・・私ギャラリーの方に「怖い人ですか?」って聞いてしまったくらい。
谷原 (笑)。真の天才だったらそういう宣伝の部分に関わらなくてもいいと思うんです。でも私は自分の絵が大好きだけど、すごく評価してるわけではないので。それでもどうしても美術史に残りたいって気持ちがあります。自分という画家がいたってことは残しておきたいし、色々な美術館で個展もしたい。自分の作品が拡まって欲しい。そのために自分が出来る事ならどんな事でもやりたい。だから今回小野寺さんから演劇誌のお話をいただいて逆にこれは面白いなと。違うところに拡まるかもしれないし、舞台と絵画は根底で繋がってると思うから仲良くなりたい、と。
ずる 嬉しい、怖い人じゃなくて良かった(涙)。美術史に残りたいをご自身で分析するとなんなんでしょう?
谷原 自己顕示欲だと。
ずる 自己顕示欲・・・。
谷原 中学の時いじめに遭っていて、人以下の扱いを受けて蹂躙されたことがどうしても赦せない。見返すという簡単な言葉は使いたくないけど「私は蹂躙されていい人間じゃないんだ」ということはどうしても言いたいんです、だから残りたい。私から絵画をとったら何もないんですよ。すぐ書類無くすし早口だしポンコツ。でも絵だったら優れてる部分があると思うので、それで何かをやりたいんです。自分の人生全部そこに使いたい。一極集中したら何かを残せるかもしれないって。
ずる 嫌な目に遭ったのはどれ位の期間ですか?
谷原 本当に嫌だったのは半年位。殴る蹴るを男性から。
ずる 最悪ですね!
谷原 最悪ですよ。私結構強いんです、柔道黒帯だし女性だったら負けなかった!
ずる 黒帯?すごい!
谷原 あ、その話は忘れてください、ラッキーで黒帯とれただけで、相手が弱って疲れてたから勝てて・・・
ずる なんでそんな目に遭ったんですかね?
谷原 転校生だし暗かったし太ってて見た目が良くなかった。でも私妙に気が強くて「臭ぇキモい」と陰口を言われた時に頭にきて「お前の方が臭い! 」ってガーーッ!と反射的に言い返してしまった。そこから暴力の日々が・・・肋骨にヒビも入ったし、首も絞められたし大変でしたよ。
ずる 学校を休んだりは?
谷原 ちゃんと行ってましたね。
ずる すごい、私なら行けなくなる。
谷原 あの時の思いをどうやったら晴らせるんだろう、と思った時に、単純なんですけど画家になって有名になるしかないと。彼らも多分まだ生きてると思うので、いずれ私を見て、わかってほしい。そして二度とそういう事はしないでほしい。私のこと覚えてるかわからないですけどね。
ずる なんだか今の話を聞いて人魚が強い眼差しでマシーンを操縦している絵が腑に落ちました。
谷原 闘ってますからね、人魚は。
ずる ご本人の意思が現れてるんですね。
恐喝にも対等
ずる 谷原さんの絵はカメラ目線でポージングしてる人が多いですね。「私を見て」って感じが素敵。
谷原 それには理由があります。絵の中で閉じられた空間にしたくないんです。絵の中から外を見ることによってここは閉じられた私的空間ではなく、広く外界に放たれてますよっていうアピールをしたい。あと鑑賞者が人物達と目が合うことによってその人も物語の住人になれるんじゃないかなって。私の絵にはどれも物語がありますから。
ずる 演劇で言うと面を切る、って感じですね? 谷原さんの普段の姿勢が絵にも現れてるんだなぁ。賞を取られて研修でパリに行かれていたんですね。全てが創作のためとおっしゃってましたが、言語も違う国に一年間もいるっていうのはすごい勇気ですね。
谷原 怖いですよ〜英語話せないし、怖い目に遭ったらって。
ずる 恐怖を越えて行動に移すその力はどこからくるんですか?
谷原 絵ですね。常に、できれば死ぬまで、ちょっとずつでもいいから良い絵を描きたい。そのためには、自分を全く知らない場所に連れていくことが私の場合は大事です。フランスにいた一年間は色んな国に行って良い目にも嫌な目にも沢山遭いました。良い目は色んな国に行って街を歩いてるだけで楽しかったり、ルーブル行き放題。悪い目は差別やセクハラを受けたり、広場で少年達に石を投げられたり、あと恐喝されたり・・・。
ずる 恐喝?
谷原 スーパーに食べ物買いに行ったら、大きい外国人の2人組に「俺達は腹が減ってるけど金がない、金をくれ」って言われて断ったら凄まじい暴言を吐かれて。その後もついてこられて怖かった。
ずる ・・・わからない。中学の時もいじめっ子に言い返したって言ってましたね、外国人さんも断って。なんで? 私だったら陰口に言い返せないし、怖くて金品も出しちゃう。
谷原 ・・・ケチなんですよね。ケーキ買いたかったし。嫌だよ、マカロン買いたいって。
ずる 危ないですね、どうして・・・
谷原 どうして・・・ケチ、ケチだから?
ずる なんて断ったんですか?
谷原 「ごめんね、私もリッチじゃなくて」って低姿勢で謝った。
ずる 谷原さんは対等ですね。どこに行っても自分がある、環境に流されない強さがある。怖い人に「私はケーキを買いたい」って自分の意思を優先させて「ごめん」っていけないよ。
谷原 常識では渡すべきなんですよ。友達に「殴られなくて運が良かった」って怒られました。次は渡す。殺されたらかなわん。
ずる 常識を越えて「マカロン食いたい」って自分の思いがあるわけじゃないですか。そんで罵声を浴びせられる・・・面白すぎる。
谷原 (?)なら良かった。
ずる 谷原さんは敏腕ライターや批評家に接する時も、きっと私と接する時と変わらないんだろうなぁ。
谷原 変わらないでしょうね。全員に対して敬意を持って接するようにしてます。自分がされて嫌な事はしないようにしてます。
ずる カッコイイ。絵にお人柄が出てて、谷原さんの絵は本当にユニークです。
谷原 あ、嬉しい。意図的におかしみを入れてるので、伝わって良かった。
ずる この絵も面白いですよね・・・なんですかこの犬は・・・真剣な顔して・・・
谷原 (笑)
ずる 肖像画のシリーズはクールですね。
谷原 これはフランスで描いて、誰にも焦点を当てず偶然出会った人を描いたんです。
ずる この絵も好きです。
谷原 これは怖い絵なんです。皆がこっち見てるのは、見られてる人が海に飛び込むのを期待して待ってるんです。
ずる 描いてる時の頭の中はどうなってるんですか?
谷原 野獣のように本能的に描いてる部分と、死ぬほど計算してる部分。100%純粋に絵のことしか考えてない。自分の後頭部に釘を打たれてキャンバスに接着されてる感じ。あと海の中に潜ってる感じです。酸欠状態。だから終わった後すごい頭が痛くなる。でも絵を描いてる時は楽しいです。
2022年は舞台! ?
ずる 2022年3月、結城座の人形デザインをするとのことですが、どういう流れでオファーが?
谷原 当時の座長さんが『ブレイク前夜』(アーティスト紹介番組)を見てオファーをくださいました。来年の公演がカフカの『変身』で一切の救いのない息苦しい暗い劇をやりたいと思ったらしく、それには私が良いと思ってくださったそうです。「一緒に暗い恐ろしいの作りましょ」と言われて「こちらこそ! 」と嬉しくて。
ずる 想像しただけで良いですね!
谷原 息苦しいでしょ?しかもカフカの『変身』は一回やりたいテーマだったんです。いきなり虫になって、仲良かった家族に汚物を見る目で見られるんでしょう? 自分の身に置き換えただけでキツい。でも描きたい。なんで描きたいんだろうなぁ。だから渡に舟でした。
ずる 今後どうなっていきたいとかありますか?
谷原 具体的には言えないんですけど、一つ言えるのは、自分はただそこに絵を適当に置いて、それだけで完成する位のクオリティの絵が描きたい。その一枚だけで見てる人が別次元に行ける絵が描きたい。
ずる もう描けてますよ(笑)
谷原 描けてますか? (笑)
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谷原菜摘子の平和
全員が自分がされて嫌なことをしなくなる
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谷原菜摘子 (写真右)
○たにはらなつこ○1989年埼玉県生まれ。2021年京都市立芸術大学美術研究科博士課程修了。2015年第7回絹谷幸二賞、2016年VOCA奨励賞、2021年第39回京都府文化賞奨励賞などを受賞。黒や赤のベルベットを支持体に、油彩やアクリルのほかにグリッターやスパンコール、金属粉なども駆使し、「自身の負の記憶と人間の闇を混淆した美」を描く。2017年五島記念文化賞新人賞を受賞後、パリへ1年間の研修滞在をし、今年6月には成果報告として上野の森美術館とMEM(恵比寿)の2会場で個展を開催した。2022年に大原美術館で個展、10月には平塚市美術館にてグループ展に参加を予定。
作品取り扱い画廊:MEM (http://mem-inc.jp)
【人形デザイン】結城座『変身』2022/3/26〜30◎劇「小」劇場
Twitter@n_tanihara
小野寺ずる (写真左)
○おのでらずる○1989年気仙沼生まれのお役者、糞詩人、ド腐れ漫画家。
【舞台出演】『広島ジャンゴ 2022』2022/4/5〜30◎Bunkamuraシアターコクーン、5/6〜16◎森ノ宮ピロティホール
【漫画連載】日刊SPA! 『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
HP:http://zurulabo.oops.jp
Twitter@zuruart
構成・文・撮影◇小野寺ずる 作品図版提供◇谷原菜摘子、MEM
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