【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.95「スワイプ」
2歳になって間もない息子が、画面をスワイプをする。
スマホやiPadを器用にスワイプをする。
動画にいたっては、「広告をスキップ」する。YouTubeでは、楽天のCMの米倉涼子さんが登場する度に、おねえちゃんダメ!と言ってスキップを連打する。
まだ2歳になったばかりである。
動画だってなるべく見せないように努めていたつもりだったのに、気がついたらこれである。
私が2歳の頃なんて、テレビはまだ全然ブラウン管で、ハンドル式のチャンネルだった。
ビデオテープを家で観れるようになったのも、小学校にあがるころである。
電話だってまだまだダイヤル式で、ましてや携帯するだなんて、誰一人想像すらしていない時代である。
それから40年、ブラウン管テレビもビデオテープもダイヤル式電話も、完全に大昔の物となり、見かけることはほとんどない。
物心が、画面をスワイプするところからはじまっている息子が40歳になる頃には、一体どんな世の中の中で過ごしているのだろうか。
今ある液晶テレビもスマホも大昔の物となり、一体何で映像を観ているのだろうか。
最新の物がすぐに過去の遺産になる。
息子のおもちゃ箱に、私が以前使っていた携帯電話が紛れている。アンテナがピュッと伸びるタイプで、そんなものもはやどこでも見かけない。しかしそれにしたって、たった数年前のものである。
移り変わりの早さにビビる。
「クラブハウス」なるアプリが巷で流行っている。Twitterのラジオ版とのことで、まだ噂になってから間もない。たまたま招待が来たので、せっかくだからと登録してみた。
流行の最先端にかなり早目に乗ってみたつもりでいたが、既に無数の友人の名前がその世界の中にあった。
みんなの早さにビビるばかり。
横では息子が「ネットフリックみるよ!」と叫んでいる。
「フリック、スね。」と指摘するのがせいぜいである。
【著者プロフィール】
ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された
【今後の予定】
・舞台「ぼくの名前はズッキーニ」
脚本・演出:ノゾエ征爾
2021年2月28日(日)~3月14日(日) @東京・よみうり大手町ホール
3月19日(金)~21(日) @大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
https://www.ktv.jp/zucchini/
▼▼前回の連載はこちら▼▼
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe94/
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