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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第29回 市橋浩治さん(ENBUゼミナール代表・プロデューサー)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

舞台が無事終わり、10日に1日働くか働かないかのぐーたらな夏休みに突入しております。

昨年のいまごろは、初めて膝痛に襲われ、年明けにも襲われ、自由に舞台ができなくなってしまう日もいつかくるのだろう…と思ったものですが、なんとか何事もなく幕を閉じることができてほっとしています。

まあしかし、身体というものはどんなにケアしていようとも衰えていくのが当たり前なわけです。
いままでは何も問題がなかったという「当たり前」の概念が変わるだけととらえれば、衰えるという変化も豊かなことではあります。

なんたって、膝が痛い役がきたら、どんな風に歩くか、立つか、座るか、どのくらいの頻度で膝のことを考えるか、想像しなくたってストックができるわけですものね。ありがたいです。立派な膝女優です。
ただ、膝が痛い役とか来る気配がありませんが。

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池谷さん
2002年の出会いから早17年経ちましたが、
芝居ではあらたな一面を拝見しいつも尊敬しております。
そして、いつも優しく晩御飯におつきあいいただき感謝しかございません。

さて、世の中では番組やスポーツ大会などが終ったり、
好きな芸能人が結婚したりすると、
「〇〇〇ロス」なんて言いますが、
私はこんな気持ちになったことがありません。
女性から振られたり、離婚したりした時には、
似たような感情になったような気もしますが、
それもちょっと違う気がします。
そもそも、ロスって失うってことですよね?
みんな福〇雅〇さんを失っているのですかね?
いやいや、あなたの物では無いし。
あ、こんなことを言うとますます女性に嫌われそうで怖いです。
私は執着心というか一途に思う事が出来ない男なのかもしれないですね。
どんだけ薄情やねん!俺(なぜか関西弁の心の声です)
いやいやそんな事では、これからの人生楽しめないかもしれない!
池谷さん、こんな私でも「〇〇ロス」の気持ちにいつかなれるでしょうか?
そして、「今日は〇〇ロスだから会社休みます」なんて言えるのでしょうか?
よろしくお願い申し上げます。

市橋浩治(ENBUゼミナール代表・プロデューサー)

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まずは相談内容よりも何よりも、出会ってから17年も経ってた事実に驚きです。
市橋さんとは、雑誌「演劇ぶっく(現在「えんぶ」)」を発行する演劇ぶっく社さんの運営する演劇スクール「ENBUゼミナール」で、私が事務員として働いている時に、上司と事務員として出会いました。

私は、事務員を辞めて11年くらいになりますが、市橋さんはその後ENBU
ゼミナールの社長となり、最近では「カメラを止めるな!」「あいが、そいで、こい」等、映画のプロデュースなども手掛けています。

私も事務員を辞めて11年くらいになります。
ENBUゼミナールでの事務仕事が好きでしたし、10年近く勤めていましたので、辞めることになった時はそれなりのロスもあったような気がします。

しかしいま思えば、事務やって稽古やって事務やって本番やって事務やって映像やって…どうしてそんなことが出来ていたのか、全くわかりません。自分が2~3人いたとしか思えません。

そんな、稽古や本番や撮影のために、しょっちゅう遅刻やお休みの無茶な相談を受けながらも働かせてくださっていたことに、深く感謝しております。あらためて、ありがとうございました。

と、深く感謝しながらも、なぜだか市橋さんに対しては上司であるにもかかわらず、「市橋さんのここがいけないと思います」的なことを、躊躇なく言えてしまうという、大変失礼な立場だと思っております。
しかしこればっかりは「なぜだか」なので、私にもどうすることもできません。どうかお許しください。

そんなわけで、まずざっくりと回答すると、たぶん市橋さんは、良くも悪くもミーハーなので、がっつりとした執着が芽生えにくいのかもしれませんね。

ロスになるということは、ロスしてしまう以前はそうとうな思い入れが必要なのだと思います。

思い入れを自覚している場合と、自覚していない場合があるとは思いますが、どちらにしろ、そのものが存在していたから自分の一部が成り立っていた…という、一部のアイデンティティが削られる感覚…とでも言うのでしょうか。

ただ、ロスの中にも、恋人との別れ、離婚、解散、引退、死別…いろんなロスの方向や重さがあるので、ロスロス軽々しくいいますが、考えれば考えるほど「ロ」と「ス」だけで表現できることじゃねーわ! という気持ちになってきます。

そこで自分にとってのロスとは何か…自分に当てはめて考えてみると、私もそんなに執着がある方ではありませんが、ミーハーでもありません。
なので、きっとロスになりにくいタイプではあると思うのですが、ロスだな…と思うことは何度かあったと思います。

最大は、宿敵・父親が亡くなった時。しかしこれは、大好きだったものを失うというよりは、闘っていたものを失うというロス。

次は、劇団が解散した時。しかしこれも、一年前から解散に向かって準備していたので、会社を休みたくなるようなロス症状ではありませんでした。

会社を辞める時。大学卒業してすぐ入った村おこし会社のお仕事も好きでしたし、ENBUゼミのお仕事も好きでした。バイトを辞める時とはまた違った喪失感がありますね。

好きだった人と離れていくロス。これも自分の場合、その人と出会った瞬間からお別れの準備をする癖があるので、徐々に失っていく感覚です。

素敵な作品とのお別れ。舞台など長い期間をかけて素敵な作品に出会うと、楽日の翌日から10日~2週間ほど寂しさを感じる時もあります。

カールが関東で売られなくなったロス。これはしばらく寂しかったですが、いまではすっかり諦めもつきました。関西に行った時も、買って帰って来るのを忘れるほどです。

ね、一個人があげてみただけでも、これだけの白黒はっきりできない大小こもごものロスの数々。
結局は、本人にとってどれだけのものを失ったかなんて、本人だって計り知れないですものね。

ですから、福〇雅〇さんがご結婚した時のロス現象も、福〇雅〇さんの「結婚していない」という存在が御自身を強く支えていた方々が、会社を休むほどのロスになってしまうのでしょうね。

市橋さんはどうやら、それくらいのロスを味わってみたい、そんな人生を味わってみたい…と、ご相談内容からお見受けします。

いままでの例を総合すると、まずはある程度思い入れのあるものが、急に終わりを向かえる、という状況がまず必要です。

そのためには、ある程度思い入れのあるものを用意しておく必要があるのですが、たぶん市橋さんはそれを用意するのが難しいということなんですよね。

こればっかりは、「じゃあ用意してください!」といって用意できるものでもないので、例えば、気づいたら思い入れのあったものを探してみるのはいかがでしょうか。

そこで手っ取り早いのが「名前」です。
いまから市橋さんは、「カルロス亀蔵」です。
もう二度と、市橋浩治という名前は名乗れません。

そして、いまから住まいは北極になります。
もう二度と、日本へは帰れません。

まあ、あくまで仮定ですが、これくらいの衝撃がないとロスになれないかもしれないですね。もちろん仮定なので、「それくらいじゃならないよ~」と思ってしまうかもですが。

でもやっぱり、それぞれ大事に思っていたものが突然なくなるなんてことは、一番寂しく辛いことだと思うので、ロスを感じないでいられることはある意味幸せなことですし、またある意味どこかで自分を守ろうという潜在意識的なことも作用しているのかもしれませんね。

自分がロスを感じられなくとも、もし自分がこの世からいなくなった時に、だれかがロスを感じてくれたなら、それはやはり嬉しくありがたいと思います。
でもなぜだか同時に、辛い思いをさせてごめんなさい、とも思います。

ロスを感じにくい体質をどうにかするために時間を使うよりも、誰かにロスを感じてもられる人生を生きていけるように時間をつかうのも、素敵かもしれませんね。

■ラッキー待ち受け

とある温泉郷で出会った看板です。
「スパゲッティー」もしくは、「スパゲティー」からの、「ッ」「ィー」ロスです。
なんなら最近は「パスタ」ですものね。「パ」しか残っていません。
でも、味の想い出は残りますものね。
イイ感じに〆たものの、写真撮っただけで食べられていないのですが…。

■市橋浩治さん今後の予定

9/28より映画『お嬢ちゃん』公開!
http://ojo-chan.com/

ENBUゼミナール
enbuzemi.co.jp/

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【映画】
「アルキメデスの大戦」(監督・脚本・VFX:山崎貴)上映中

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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