【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第98回「エキストラとコロス」
既に八月、東京は梅雨も明けて夏本番! そして我々も本番! 「けむりの軍団」の東京公演中です。今回は「いのうえ歌舞伎《亜》alternative」ということで、いつもとはちょっと違ったカンジでお送りしております。それが良いという人もいればそうでない人もいるようですが、我々は中々楽しくやっておりますよ。
そんな「けむりの軍団」東京公演ですが、なんか人数が多く見えませんか? キャスト総勢37名で演じているのですが、それ以上に多く見えませんか? 確かにみんな着替えて何役もやってはおりますが、それにしても多い。特に合戦のシーンとか。
当日配布されるペラ一枚の簡易パンフレットには、出演者の欄の最後に「エキストラ」として8名が記載されています。そう、実は37名のキャストの他に、8人がエキストラとして出演しているのです。カーテンコールの最後に紹介されるあの8人です。彼らは東京公演だけ、しかも二幕の合戦シーンだけに出演するエキストラなのです。
エキストラとは、映画やドラマの群衆シーンなどで駆り出される臨時雇いの人達のことです。特に演技力は必要ないが大人数が必要なシーンなどで使われます。群衆シーンや通行人などの、背景としての人間ですね。私も若い頃はツテを辿ってエキストラのバイトをしておりました。薄謝ではありましたがちょっとはギャラも頂けて、映画の現場も体験できるという意味でも面白いバイトでした。まあ扱いは酷かったですけどね。
基本的にはエキストラ専門のプロダクションがありまして、要求に応じて様々な年齢・性別・外見のエキストラを準備して送り出します。それが故に映画業界ではエキストラさんのコトを「仕出し」と言ったりもしますが、他にも我々のような小劇場俳優なんかもバイトとして呼ばれたりするんですね。
また、エキストラさんを呼ぶほどではないが、ちょっと人数が足りないな、なんて時はスタッフさんが急遽エキストラになることもあります。コレを「内トラ」と言いまして、助監督や衣裳さんなどがよく使われますが、場合によっては現場にいるが特にやることもないプロデューサーさんや、撮影を見学に来ていたスタッフの家族とかが駆り出されたりするのも面白いトコロ。
演技力は必要ないと書きましたが、実はこれが中々大変でして、邪魔にならずにごく自然に通行人になるとか、ごく自然に逃げ惑うとか、それなりのテクニックは必要でして、それが故にエキストラ専門のプロダクションという存在も必要になるのです。エキストラだってプロなんです。
「仕出し」以外にも、「トラ」とか「ガヤ」とか、様々な呼び方をされるエキストラですが、これが演劇の現場では「コロス」と呼んだりします。コロス。もう何やら字面だけ見ると不穏な感じがしますが、そう言うのだからしょうがない。
元々は古代ギリシャ劇での合唱隊のコトでして、観客に対して説明をする歌をユニゾンで群唱するものだったそうです。それが「コーラス」の語源となったと聞けば「コロス」という用語も不穏さが消えますね。
ココから転じて、演劇に於いて大人数で無個性にユニゾンでセリフを群唱するコトをコロスと言う様になり、そのためだけにコロス隊を雇うことになり、さらにはセリフのない群衆シーンだけに雇われる人々のコトもコロスと言うようになったのです。
基本的にコロスさんたちはほとんど稽古に参加しません。1〜2度合わせるだけで本番を迎えます。とはいえ、コロスの皆さんも俳優さんですから大丈夫なんです。今作のコロスさんたちも二幕の合戦シーンだけの出演ですが、キチンと仕事を全うして下さっています。
新感線としては「吉原御免状」序盤の吉原道行きシーンとか、新感線ではありませんが「天保十二年のシェイクスピア」ラストの竹槍隊などでコロスを使用したことがあります。いずれも数回の稽古でしたが、大群衆が現れるコトによる迫力が大幅に増しておりました。今作でも合戦や戦支度のシーンで圧力を感じさせるものになっております。東京公演だけなのが残念ですが、これも諸事情によるものだとご容赦下さいませ。
「けむりの軍団」も始まったばかり。10月下旬の大阪公演まで無事に終えられますことを願っております。その頃には涼しくなっていればいいなあ。
本文とは関係ありませんが、森永クッキーシリーズのミニサイズがカワイイ。パッケージだけでなく、クッキー自体もそのままミニになっているのよ。そして美味しいのよ。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
【出演情報】
2019年 劇団☆新感線 39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』
作◇倉持 裕
演出◇いのうえひでのり
出演◇古田新太/早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子 粟根まこと/池田成志 ほか
7/15~8/24◎TBS赤坂ACTシアター、9/6~23◎博多座、10/8~21◎フェスティバルホール(大阪)
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ8月号」は全国書店で発売中!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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